1月例会 気候変動ぜい弱性研究会報告書について

1月例会


日 時:2024年1月20日(土)10:00〜12:00
話 題:気候変動ぜい弱性研究会報告書「原発は気候変動に堪えられるか」
    (2023年10月)の要約紹介とコメント
報告者: 岡本良治氏  発表資料

<報告>

声明「アルプス処理汚染水の海洋投棄を中止し,地下水流入阻止を!」

声明「アルプス処理汚染水の海洋投棄を中止し,地下水流入阻止を!」



声明文のpdfファイル

アルプス処理汚染水の海洋投棄を中止し,地下水流入阻止を!

2023年12月28日


(声明の骨子)

アルプス処理汚染水の海洋投棄は,福島県漁連が政府・東京電力と交わした約束に違反している.また,海洋汚染をもたらす廃棄物などの海洋投棄を規制するロンドン条約に違反すると考えられる.さらに,日本政府と東京電力が根拠としたIAEA包括報告書は,処理汚染水の海洋投棄を正当化したわけではない.様々な学術団体から提案されている海洋投棄以外の対策には冷静に考慮すべき点が含まれている.これらの対策の実施を真剣に考えると共に地下水の流入を阻止することが肝要である.

(本文)

11月2日から11月20にかけてアルプス処理汚染水の第3回目の海洋投棄が行われ,さらに第4回目も今年度中に予定されている.東京電力が提出した実施計画に係わるシミュレーションでは,この海洋投棄は2041年から2051年までの間で完了するとしている.なんとこれから20数年も続けるというのである.もっとも海洋投棄が計画通りに完了するとは限らない.いまだに汚染水は増え続けているだけでなく,デブリの取り出し計画も順調に進むとは考えにくい.

(1)海洋投棄は,福島県漁連が政府・東京電力と交わした約束「関係者の理解なしには,いかなる処分も行わず,多核種除去装置(アルプス)で処理した水は発電所敷地内に貯留いたします」(2015年8月)に違反する.政府は一定の理解を得たとして8月24日からの「処理汚染水」の海洋放出を開始したが,同漁連は「漁業者・国民の理解を得られない海洋放出に反対であることはいささかも変わるものではない」(2023年8月24日)と表明している.約束違反は明確である.

(2)処理汚染水の海洋投棄が,汚染源となる廃棄物などの海洋投棄を規制するロンドン条約(注1)に違反する疑いがある.東京電力は,同条約の対象は「投棄」に限定され,「投棄」は「海洋において廃棄物等を船舶等から故意に処分すること」などとして,「陸上からの排出」である今回の排出は条約違反ではないとしている(注2).確かに条約にはかかる記述がある(第3条1(b)).しかしこれは「通常の運用」に伴い生ずる廃棄物に関しての場合であり,2011年3月の福島第一原発事故の結果生じた汚染水の海洋投棄には,本規定は適用されないとするのが妥当であろう.
(3)IAEA包括報告書(注3)のp.19には以下の記述がある.「IAEAがレビュー(検証)を依頼されたのは日本政府が海洋放出を決めた後だったので,IAEAの検証の範囲には日本政府が行った(海洋投棄の)正当化プロセスの詳細についての評価は含まれない」.これは,海洋投棄の正当化の説明責任は日本政府にあり,IAEAはそのことに責任を負わないことを明言しているのである.したがって,包括報告書には海洋投棄以外の他の方法についての評価が含まれず,海洋投棄の利益が放出による損害を上回ることも示していない.また,地元の漁業関係者や周辺住民等の利害関係者の意見についての評価もない.IAEA包括報告書は海洋放出の被害をICRP(国際放射線防護委員会)基準で論じているにすぎない.海洋放出で問題となるのは内部被ばくであるが,ICRP基準は内部被ばくの健康被害を過小評価している点で問題がある(注4).

(4)様々な学術団体から,海洋投棄より安全な代替案が提出されている.しかし政府と東京電力は海洋投棄に固執しているようにみえる.例えば,モルタル固化という方法は,汚染水をセメントと砂を混ぜてモルタル化して半永久的に固めてしまう方法で,海への流出リスクがなく環境への影響も少ない.米国のサバンナリバーの核施設などでの汚染水処理で用いられた方法である.また,大型タンク保管という方法も提出されている.現在の1000トン級タンクの100倍の10万トン級の大型タンクを作り,123年保管すればトリチウムの放射能はほぼ1/1000に減衰するので,いまのように海洋投棄を急がずにすむ.この大型タンクは石油備蓄などにも使われており多くの実績がある.政府と東京電力は,これらの方法をオープンな場で真剣に検討すべきであろう.

(5)鳴り物入りで導入された凍土壁は機能していない.事故炉内部の核燃料デブリのサイトへ侵入する地下水の流れは阻止されていないので,結果として放射性物質を含む汚染水は日々増加している.地学団体研究会から,凍土壁より広くて深い広域遮水壁を設置して山側からの地下水流入を防ぐ対策が提案されている(注5).費用は凍土壁の半分以下で済むという.新たな汚染水を出さないこのような対策を実施した上で,海洋投棄をしないで済む対策を考えるべきである.

以上        福岡核問題研究会

(注1)「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(通称:ロンドン条約)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/page23_002532.html
(注2)東京電力 処理水ポータルサイト Q&A
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/faq/
(注3)”IAEA Comprehensive Report on the Safety Review of the ALPS-Treated Water at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station”,
https://www.iaea.org/sites/default/files/iaea_comprehensive_alps_report.pdf
(注4)ICRP国内メンバー(丹羽太貫他7名)「放射性物質による内部被ばくについて」
https://www.jrias.or.jp/disaster/pdf/20110909-103902.pdf
(注5)地団研ブックレットシリーズ16『福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか―地質・地下水からみた汚染水の発生と削減対策―』(2022年7月).

12月例会 処理汚染水海洋投棄についての声明文

12月例会


日 時:2023年12月23日(土)13:00〜15:00
話 題:(1)処理汚染水海洋投棄についての声明文の検討
    (2)今後の研究会の定例化について

<声明案のたたき台>

声明「アルプス処理汚染水の海洋放出を止めよう(案)」

2023年12月24日

アルプス処理汚染水の第3回目の海洋放出が11月2日から11月20にかけて行われ,さらに第4回目の海洋放出も今年度中に予定されている.東京電力が提出した実施計画に係わるシミュレーションでは,この海洋放出は2041年から2051年までの間で完了するとしている.なんとこれから海洋放出は20数年も続けるというのである.

海洋放出の第1の問題点は,福島県漁連が政府・東京電力と交わした約束「関係者の理解なしには,いかなる処分も行わず,多核種除去装置(アルプス)で処理した水は発電所敷地内に貯留いたします」(2015年8月)に違反する点である.政府は一定の理解を得たとして8月24日からの「処理汚染水」の海洋放出を開始したが,福島県漁連はこの決定に「漁業者・国民の理解を得られない海洋放出に反対であることはいささかも変わるものではない」(2023年8月24日)と表明している.約束違反は明確である.

第2の問題点は,処理汚染水の海洋放出が,海洋汚染をもたらす廃棄物などの海洋投棄を規制するロンドン条約違反であることである.東京電力は,ロンドン条約の対象は「投棄」に限定し,「投棄」は「海洋において廃棄物等を船舶等から故意に処分すること」などとして,「陸上からの排出」である今回の排出はロンドン条約違反ではないと強弁している.「海洋からの投棄」と「陸上からの排出」とで海洋汚染という点からみて,どのような差異があるのかということの説明が出来ない点がいかにも無様である.

第3の問題点は,IAEA包括報告書の内容である.この報告書のp.19には以下のような記述がある.「IAEAがレビュー(検証)を依頼されたのは日本政府が海洋放出を決めた後だったので,IAEAの検証の範囲には日本政府が行った(海洋放出の)正当化プロセスの詳細についての評価は含まれない」.これは,海洋放出の正当化の説明責任は日本政府にあるということであり,IAEAはそのことに責任を持たないということを明言しているのである.したがって,包括報告書には海洋放出以外の他の方法について評価が含まれておらず,海洋放出の利益が放出による損害を上回ることも示していない.また,元の漁業関係者や周辺住民等の利害関係者の意見についての評価もない.IAEA包括報告書は海洋放出の被害をICRP基準で論じているだけである.海洋放出で問題となるのは内部被ばくであるが,ICRPは内部被ばくの健康被害を過小評価している点で問題がある.

第4の問題点は,様々な学術団体から,より安全な代替案が提出されているにも係わらず,海洋放出にのみ固執していることである.例えば,モルタル固化という方法は,汚染水をセメントと砂を混ぜてモルタル化して半永久的に固めてしまう方法で,海への流出リスクがなく環境への影響も少なく,米国などでの実績をもつ.また,大型タンク保管という方法も提出されている.現在の1000トン級タンクの100倍の10万トン級の大型タンクを作り,123年保管すればトリチウムの放射能はほぼ1/1000に減衰するので,いまのように海洋放出を急いでしないですむ.

事故炉の核燃料デブリのサイトへ侵入する地下水の流れは止められていない.地学団体研究会から,凍土壁より広くて深い広域遮水壁を設置して山側からの地下水の流入を防ぐ対策が提案されている.費用は凍土壁の半分以下で済むという.新たな汚染水を出さないこの対策をした上で,海洋放出をしないで済む対策を考えるべきである.

福岡核問題研究会

<報告>
(1)声明案については
様々な意見がだされ,メールで議論されることとなり,その結果,最終的には
2023年12月28日付けの声明文となった.

(2)研究会の定例化には
基本的に毎月第3土曜日の午前10時から12時ではという意見が出され,それに関してとくに異議は出されなかった.


原発シンポジウム 深層防護と川内原発の経年劣化問題

原発問題オンライン・シンポジウム


日 時:2023年8月26日(土)10:00〜12:00
テーマ:原子力規制における深層防護と川内原発の経年劣化問題
講演1: 岡本良治氏(九州工業大学名誉教授)
   発表資料
    「原子力規制における深層防護〜その深掘りと拡張〜」
講演2:中西正之氏(元燃焼炉設計技術者)    
発表資料
    「川内原発の運転期間延長にかかわる経年劣化問題」
主 催:福岡核問題研究会

ZOOM情報:ミーティングID: 815 151 6469  パスワード: 3KsYt4
URL情報:
https://us05web.zoom.us/j/3232431862?pwd=aHQ5TFNCN2FIY2ZuTklubHkweWVDQT09

<報告>

7月例会 原子力規制における深層防護〜その深掘りと拡張〜

7月例会


日 時:2023年7月29日(土)10:00〜12:00
話 題:原子力規制における深層防護〜その深掘りと拡張〜
報告者: 岡本良治氏  
発表資料

<報告>

 7月例会では,岡本良治氏に「原子力規制における深層防護〜その深掘りと拡張〜」というテーマで話していただいた.岡本氏は,はじめに話の要約を1枚のスライドで5点にわたって示された.

・原発反対運動の強化/発展のための方策は原発の問題点を指摘することだけではなく,何らかの理由で「必要悪」として原発を認める人々や原発の潜在的な危険性を認めた上でその安全性の確保/リスクの最小化に真摯な関心をもつ原子力関係者,あるいは原発訴訟を担当する裁判官などに対して代替的な判断材料を提供することも有意義である.
・深層防護の思想/哲学は元来軍事的な概念のひとつであるが,すでに社会の多くの場面に採用されているだけではなく,国際的な原子力規制において歴史的に中心的な役割を果たしてきた.
・しかし深層防護,特に設計想定外の事故(過酷事故)の影響緩和の必要不可欠性とその根拠についての深掘りが十分ではなく,事故の過酷度と頻度の関係は正規分布的ではなく,べき乗則的であることが示唆される.
・また施設外への影響が不可避の場合,避難だけでは不十分であり,移住も考慮すべきである.
・国際的な安全保障環境が悪化していると見なす場合,原発への軍事的攻撃への対処は極めて不十分である.

 背景として,地球温暖化は最近「炎暑化」あるいは「沸騰化」と言われるまでに激化している.原発反対運動の一部に地球温暖化人為起源に対する懐疑的な態度を取る人々がいる一方で,原発推進勢力は原発を「再エネ」と並ぶ脱炭素電源として位置づけ,原発再稼働や運転期間延長を推し進めようとしている.そのような中で,原発再稼働に対して反対よりも容認が上回る世論調査の結果が出て来ている.原子力規制における深層防護の批判的吟味が相対的に重要になっているとされた.

 深層防護を議論することは,原発の再稼働を容認することだという意見もある.しかし,科学的・技術的な安全論争は主として1,2,3層までの議論であり,4,5層は含まれない.4層では当該施設の過酷状態の制御と過酷事故の結果の緩和を,5層では放射性物質の施設街への放出の緩和を図る.当該施設の安全性が十分に高いことを論証することも困難であるが,危険性がいつどのように顕在化するかを具体的に示すことも同様に困難である.安全論争に決着を付けることは一般にはなかなか難しいということである.

 深層防護において第4層,第5層を設定する意義は,滅多に出くわさないような設計想定外の事故への対処の必要性であるという.原発は複雑技術システムであり,このようなシステムには構成要素間の無数の相互作用があり,事故前には顕在化していなくても,事故の際に強い相互作用が顕在化することがある.このような複雑システムにおける低頻度高影響事象の発生時期と影響の規模についての科学的な予測はほぼ不可能であるという.

 深層防護は,機器や人間の振る舞いにおける不確実さを考慮するための有効な手段であったし,今後もそうあり続け,特に「未知の」あるいは「想定外の」損傷メカニズムや現象が起き得ることを考慮するためには有効であるという.それらの場合には確率論的安全評価(PRA)その他の工学的分析や解析では表現できない.日本の新規制基準の問題点は,水蒸気爆発対策がないことであるという.

 深層防護の拡張ということについて話が及んだ.原発の安全概念としてより広い安全の概念が現実に求められているという.人と環境を護るという原子力安全本来の目標にてらせば,深層防護とは,復旧・復興まで含んだ幅広い概念であるべきである.保険による補償も必要であろう.また,第5層の避難が出来たとしてもその後の社会インフラや生活の補償措置は必要不可欠である.

 フランスでは原発の過酷事故に対する「突撃部隊」が設置されているが,このような部隊が日本でも必要かどうかは議論となる.サイバー攻撃に対する深層防護や戦時の正規軍による攻撃に対する深層防護も問題として提起された.

報告後の討論の中で北岡氏より以下のような発言があった.
「福島原発事故後の既設炉への深層防護で過酷事故対策しているが,過酷事故対策する前より必ずしも被害を軽減させるとは限らない.例えば,溶融炉心を貯水したキャビティーで受け止める対策などは水素爆発は防げるかもしれないが,水蒸気爆発が起きる恐れがある.他にも,水素爆発対策で水素の燃焼装置が設置されたが,それはむしろ水素やCO爆発の着火源になる恐れがあると指摘されている.すなわち,安易で不適切な過酷事故対策で深層防護を強化すれば何もしないより,事故の規模と影響を拡大して深刻化させてしまうこともありうる.だからといって深層防護の思想が駄目だと言っている訳ではなく,より安全な状態にするのは簡単な事ではなく検証が必要ということだ」
「とにかく,中西氏が6月例会で言われたように既設炉の設計は非常に古く,事故の想定は範囲が狭く甘いし原因は基本天災に限定されている.人為的な破壊行為等,古い設計の既設炉への深層防護の適応は非常に限定的になるし実際により安全になったかは未検証である」

6月例会 川内原発の運転期間延長にかかわる経年劣化問題

6月例会


日 時:2023年7月1日(土)10:00〜12:00
話 題:川内原子力発電所の運転期間延長の検証における設計の経年劣化問題
報告者: 中西正之氏  
発表資料

<報告>

 6月例会は日程が合わず7月に入って開催された.鹿児島県の川内原発について「運転期間延長の検証に関する分科会」が2022年1月から12回にわたって開かれた.6月例会では,その内容について中西正之氏(元燃焼炉設計技術者)から詳細な報告を受けた.分科会の目的は,運転期間延長に関する検証を集中的かつ効果的に行うことにあるという.分科会の委員は,釜江克宏(京大特任教授),佐藤暁(原子力コンサルタント),守田幸路(九大教授),大畑充(阪大教授),橘高義典(都立大教授),後藤政志(元原発設計技術者),渡邉英雄(九大准教授)の7名である.

 「設計の経年劣化問題」,すなわち設計の古さという問題について委員から質問を受けた九州電力は,ATENA(原子力エネルギー協議会)の「設計の経年化評価ガイドライン」(2020年9月)に沿った対応をするとしているが,そこでは米国AP-1000や欧州EPRなどで導入されている新型のメルトダウン対策炉は比較の対象とはせず,非常用炉心冷却系(ECCS)の設計変更など小規模のものに限られているという.九州電力はIAEA(国際原子力機関)の深層防護第4層を軽視していると言わざるを得ない.

 なお,後藤委員の水蒸気爆発についての質問に対する九州電力の回答「欧州,中国の一部のプラントでは,溶融燃料の冷却手段の一つとしてコアキャッチャーを採用しているが,国内外の既設プラントの多くは当社と同じ,原子炉下部キャビティに水を張り溶融燃料を受け止める手段を採用しており,新規制基準の適合性審査の中で原子力規制委員会に確認をいただいている.なお,コアキャッチャーは一度溶融燃料をドライ環境で受け止めた後に,水を張り,溶融燃料を冷却する手段であり,溶融燃料を水で冷却するという点は同様である.どちらの対策も原子炉格納容器の下部に落下した溶融燃料の冷却において有効な手段であり,問題となるものではないと考えている」(第9回分科会,資料3-3,p.6,7)は,このような人の集団が原発を動かしているのかと思うと空恐ろしくなる.コアキャッチャーと九州電力が採用している水を張った下部キャビティに溶融燃料を受けとめる方法の差を理解していない.

 第12回分科会で釜江座長(第1回分科会で選出)が中心になって作成された「分科会報告(案)」(2023年4月)について,橘高委員,大畑委員,守田委員は,全面的に賛成の意見を表明されたが,後藤委員からは,運転期間延長に関する問題点は殆ど切り捨てて,九州電力の説明のみを詳しくまとめてあり,一方的な報告書になっており,とても承認できるものではないとの意見が表明された.しかし,分科会の役割は,九州電力の報告内容が法律的に問題ないかどうかを検討することにあるとして,後藤委員の意見は無視されたようである.

束ね法案は廃案にせよ〜原発復権は日本衰退の道〜

声明「束ね法案は廃案にせよ〜原発復権は日本衰退の道〜」



声明文のpdfファイル

束ね法案は廃案にせよ〜原発復権は日本衰退の道〜

 現在,参議院で「電気事業法等の一部を改正する束ね法案」(以下,「束ね法案」と略)が審議されている.この「束ね法案」は,原子力基本法,原子炉等規制法,電気事業法,再処理法,再エネ特措法の5つの法律を改定して,原発の最大限利用を目指したものである.これまで,日本の政府は「原発依存度を可能な限り低減する」という方針を維持してきたが,それを180度転換して国が原発復権を後押しすることになる.既設原発の活用にとどまらず,新規建設を含めて将来にわたり原発利用を固定化・永続化することになる.この道は日本を衰退の方向に導くものであり,決して進んではならない道であると,われわれは考える.以下に問題点を列挙し,「束ね法案」を廃案にすべきであると表明する.

 第一に,5つの法律を束ねて一度に改定するというのは,いかにも乱暴である.時間をかけて,一つ一つの法律を国民にも論点が明確になるように国会での議論が望まれる.とくに,原子力基本法は原子力行政の基本に係わる法律であり,今回のように他の法律との抱き合わせで改定することは馴染まないものである.

 第二に,原子力基本法に「国の責務」が「原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用すること」としていることである.国を挙げて原発を支援するというのは適切なエネルギー政策であるのか,疑問である.すでに原発の発電コストは,福島事故後高価なものになっている一方で,太陽光や風力の再エネの発電コストは大きく下がっている.核燃料サイクルはすでに破綻している.さらに,核廃棄物の最終処分については見通しが立っていない.このような原発に国の資金を投入するのは持続可能なエネルギー政策とはいえない.

 第三に,原発の運転期間を「原則40年,最長60年」に制限する規定が原子炉等規制法から削除され,推進側の経済産業省が所管する電気事業法に移されていることである.この運転期間制限の規定は,リスクを低減するために福島第一原発事故後に導入されたものであるが,「束ね法案」が成立すれば40年を超える運転は,電力安定供給等の観点から経済産業相が認可することになる.しかも,原子力規制委員会の審査などで止まっていた期間は運転期間にされないので,多くの原発が70年を超えて運転可能になる.今回のような安全性についての審査をなおざりにした,老朽原発の運転期間の延長は大変危険であるといわなければならない.

 第四に,今回の原発の最大限活用が再エネの導入を阻害するということである.日本では電源構成のうち20%が再エネの割合であるが,ドイツはすべての原発を停止して今年は50%を再エネで発電するという.また,1985年に原発の永久追放を国会で決議したデンマークでは昨年は80%,来年は100%を再エネで賄う見通しという.これらの国は1990年代には再エネの割合は日本よりも低く3〜4%であったが,再エネに移行するエネルギー政策を強化することで,大きな再エネ比率を達成している.日本でも,原発の最大限活用に投入する多額の資金を省エネ・再エネの導入促進に投入することで,気候危機にも対応できる持続可能なエネルギー政策をとることができるものとわれわれは考える.原発の最大限活用は,このために必要な資金を奪うことになる.本気の「再生可能エネルギーの主力電源化」を望む.再び原発や再処理工場などで大災害が起きれば,程度やタイミングによっては,「日本破滅」が現実となることが危惧される.

2023年5月30日
福岡核問題研究会

5月例会 GX脱炭素電源法案について

5月例会


日 時:2023年5月27日(土)10:00〜12:00
話 題:「電気事業法等の一部を改正する束ね法案」について
報告者: 中西正之氏  
発表資料

<報告>

 5月例会では,参議院で審議中の「電気事業法等の一部を改正する束ね法案」(以下,「束ね法案」と略)について中西正之氏に詳細な報告をしていただいた.岸田政権は,2023年2月に日にこの束ね法案を閣議決定した.この束ね法案は,「原発を最大限活用する」ために電気事業法や原子炉等規制法,原子力基本法など5つの法律の改正案を束ねたものであるが,一般国民にはその内容が分かりにくいように作成されているという.

 まず原子炉等規制法から現行の「運転の期間」の項目が削除されており,その代わりに電気事業法に「発電用原子炉の運転期間」の項目が入ってきている.これは,原発の運転期間を原子力規制庁や原子力規制委員会による規制の対象から,原発推進側の経済産業省の管轄に移すということである.40年を超えての運転については,規制委員会の安全審査はないと言うことになり,電力安定供給等の観点から経済産業相が認可することになる.また現在,沸騰水型は福島原発事故以来,運転停止中であるが,この運転停止期間は40年を超えての延長には含まれないという.

 再処理法の改定では,「使用済燃料再処理機構」が今後は「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」と機能拡張され,機能強化されることが規定されている.これから原発の大量廃炉時代に入り,原発の廃炉も単独の電気会社には大きな荷重になり,国の機構が援助することで原発推進を容易にすることがもくていであるという.

 原子力基本法では,福島原発事故の反省から原発依存度を可能な限り低減するという方針を180度転換して原発の利用を拡大していくことを明記している.「国の責務」が「原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用すること」と明記しているのである.そして,原発関連の人材の育成や原発に関する研究・開発に取り組む事業者などへの援助など5件の施策が新設されている.

 この束ね法案に対する研究会としての態度表明を,意見の一致する範囲で出したほうが良いのではということで,メールを通して意見をまとめ,
声明「『束ね法案』は廃案にせよ〜原発復権は日本衰退の道〜」を5月30日の日付で発出した.

4月例会 今の多重危機の時代に原発を活用すべきか

4月例会


日 時:2023年4月22日(土)10:00〜12:00
話 題:気候・生態系・エネルギー・国際安全保障の多重危機の時代に原発を
    活用すべきか
報告者: 岡本良治氏  
発表資料

<報告>

 4月例会では,岡本良治氏が今の多重危機の時代に原発を活用すべきなのかということをテーマに講演をされた.現在の危機は,気候,生態系,エネルギー,さらには国際安全保障の分野で深刻化している.気候危機は,人類にとってだけでなく,生態系にとっても危機であり,これらの危機に同時に対処するには「自然を活用した解決策」(NbS, Nature-based Solutions)が重要であるという.ただし,人類によるCO2排出の大幅削減なしに,NbSに依拠するだけでは,気候変動の進行を止めることはできないという.
 欧州会議は,昨年7月に天然ガス発電や原子力発電を気候変動の抑制に寄与する投資対象とする欧州連合(EU)の規則案を拒否する動議を反対多数で否決した.天然ガスは「グリーン」とは程遠く,原子力も持続可能とはいえないとの諮問機関の見解があるなかで,原発への依存度が高いフランスや石炭の使用料が多いポーランドが規則案を支持したという.また,「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第6次評価報告書の第3次WG報告には原発活用を示唆する多くの記述がある.
 日本では昨年12月に,岸田政権は脱炭素を議論するGX実行委員会で「原発を最大限活用する」との基本方針を決めた(核問題研究会は即刻これに対して批判する声明を発表した).
 岡本氏は,「脱炭素電源として再エネとともに原発も使うべきか」との問に対して,以下の理由(①〜)から原発は使うべきでないと結論された.①原発を大規模に導入した国はCO2排出が削減されなかった.②再エネによる発電量が増えるとCO2排出量が減る.③原発と再エネの普及には負の相関がある.④原発は,ライフサイクルで見た場合にはCO2排出はゼロではない.⑤有限のエネルギー関連予算の中で原発と再エネは競合する.
 原発なしで気候危機にどう対処すべきかという問に対して,エネルギー源の脱炭素化とともに,大切なのは省エネであり,これにはエネルギー需要の削減とエネルギー効率の2つの点で取り組むことが大事であるとされた.

3月例会 NHK番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」

3月例会


日 時:2023年3月18日(土)10:00〜12:00
話 題:NHK番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」の鑑賞と意見交換

<報告>

 3月例会は,3月10日に九州・沖縄エリアで放映されたNHKの番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」(約30分)を観て,意見交換を行った.同番組は,吉岡斉氏が残したメモや記録,日記,電子メールなど10万点におよぶ未公開資料(「吉岡文書」)が九州大学の大学文書館で見つかり,それらの資料は,日本の原子力政策は合理的かを問いかけるものであり,将来を見通す有意義なものであるという.

 1995年に高速増殖炉「もんじゅ」はナトリウム漏れ事故を起こし,これを継続するかどうかが問われていた.1997年2月に内閣府の原子力委員会の下に高速増殖炉懇談会が組織され,吉岡氏はその構成員となった.懇談会では,吉岡氏等により継続することの合理的根拠が問われた.しかし,リスクや経済的な見通しもないままに1997年11月に「研究開発を続けることは必要」との報告が出されることになった.1998年2月から始まる国会での動燃改革案の審議において動燃を何らかの形で生き残らせるためには「研究開発は必要」との報告が必要であったという.

 番組の終わりの方で,鈴木達治郎氏(長崎大学)は「吉岡氏は一産業界のためとか一政府のためではなく,国民のために科学技術を使うということを強調していた」と語っていた.また,大島堅一氏(龍谷大)は「ちゃんと議論する必要がある時に,そこをすっ飛ばすことで明らかな問題を放置して,かえって傷を深めることにつながる.考えないで進むことの危険性は今も続いている」と警告した.

 番組を見終わって,吉岡氏との個人的な思い出について,岡本氏は10年程前に福岡県の「反核医師の会」の連続講演会の楽屋で,「自分の専門は原子核物理学で研究と社会的活動については『二足の草鞋を履く』ような形であるが,その点,吉岡さんは専門の研究と社会的活動が一体になっており,うらやましい」というようなことを話したことがあると発言された.また,豊島氏は,「経済産業省が2008年に四国の伊方町での原発への『プルサーマル』導入をめぐる討論会でパネリストとして同席したときに,吉岡さんのレジュメの項目の一つに「政府の約束を信用してはいけない」とあり,しかもスピーチで彼はこの項目を堂々と読み上げられ,歯に衣を着せぬもの言いに少々度肝を抜かれたのを記憶している」と言われた.

 それらの発言のあと,この番組を作成した人たちが,どこかに飛ばされるのではないかという心配を表明した人もいた.気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年の「1.5℃特別報告」の頃から原発をCO2の低排出源の一つとして挙げている点が指摘された.また,官僚の個人が責任を取らなくてよい体制のもとで働いている日本の中で,『科学技術者の倫理』という点が大切ではないかという意見も出された.30年間,大企業で働いた研究会の新人が,大企業でも合理的論考ではなく,やっている感を出せればよいというような無責任な風潮に嫌気がさして退職した発言された.

 日本の市民運動も「非暴力」の運動を戦略・戦術に取り入れる必要があるのではないかという発言もあり,参考文献として,(100分de名著)ジーン・シャープ著『独裁体制から民主主義へ』(NHKテキスト,2023年)やエリカ・チェノウェス著『市民的抵抗:非暴力が社会を変える』(白水社,2022年)が紹介された.

2月例会 革新炉ワーキンググループについて

2月例会


日 時:2023年2月18日(土)10:00〜12:00
話 題:「革新炉ワーキンググループについて」
報告者: 中西正之氏  
発表資料

<報告>

 政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,原子力を含めたあらゆる選択肢を追究するとして,原子力小委員会の下に「革新炉ワーキンググループ」を設置し,原子力発電の新たな社会的価値を再定義して炉型開発に係わる道筋を示そうとしている.2月例会では,「革新炉ワーキンググループ」(以下WG)でどのような議論がなされているかを中西正之氏に報告していただいた.

 2022年4月に行われた第1回WGでは,日本原子力研究開発機構(JAEA)から高温ガス炉と高速炉の説明がなされたという.高温ガス炉(冷却材にヘリウムガスを用いた原子炉)はまだ開発途上の新技術であり,高速炉は暗礁に乗り上げている「もんじゅ」である.革新炉といってもすぐに実用化できるような炉ではないようだ.その後,軽水炉原発の製造・保守を担ってきた3大メーカー(三菱重工,日立,東芝)が「次世代軽水炉」や「小型軽水炉」の説明を行った.岸田首相が原発の新増設も視野に入れていることから,これらの革新炉に力を入れ始めたという.

 5月に行われた第2回WGでは,JAEAと高速炉についての技術提携した米国のテラパワー社のナトリウム冷却高速炉「Natrium」についての説明があった.このNatrium炉は,1次冷却にはナトリウムを使い2次冷却には溶融塩を使うので,ナトリウムと水の直接の熱交換がないぶん「もんじゅ」などより安全性は高いのかも知れないが,この熱交換機は開発中で完成された技術とはなっていないという.また,NuScale社の小型モジュール炉の説明があった.

 7月に行われた第3回WGでは,日本原子力産業協会から国内の原子力サプライチェーンの動向が報告された.福島原発事故以降,原発の長期停止が継続しているが,2020年度の関係売上高は1.9兆円と原子力産業界全体では2010年度の売上高を維持しているという.しかし,海外向けの原子力関係売上高については,2020年度の売上高は2010年度の6分の1と急激に減少しており,今後,革新炉の新増設によるサプライチェーンの補強が必要としている.

 10月に行われた第5回WGでは,三菱重工から同社が開発した革新軽水炉“SRZ-1200”についての説明がなされた.S, R, ZはそれぞれSupreme Safety, Sustainability, Resilient light water Reactor, Zero carbonの意味を込め,1200は電気出力1200 MWを意味という.福島原発事故以後,日本国内の原発新増設が凍結されたので,海外向けの受注活動を続けていたが,それにも失敗した三菱重工は,政府の原発新増設への大転換で“SRZ-1200”の国内での強力な売り込みを始めているという.

 11月に行われた第6回WGでは,原子力に関連した人材の育成が議論になったようである.

 福島原発事故以後,日本国内では原発の新増設は行わないとの基本方針が進められてきたが,海外への原発の輸出がことごとく失敗したあとで,国内の原発の新増設の新しい政策なしでは日本の原子力産業界は衰退へ向かうことが明らかになってきた中で,岸田内閣は国内での原発の新増設への大転換を決断して「革新炉ワーキンググループ」(WG)でその具体的検討を始めたように思われる.

1月例会 原発推進政策に関するパブコメについて

1月例会


日 時:2023年1月14日(土)10:00〜12:00
話 題:原発推進政策に関連するパブコメについての情報共有と意見交流

<報告>

 1月例会では,1月21日〜23日に受付締切を控えている,原子力政策に関連した4つのパブリックコメントが募集されているなかで,これらについての意見交流を行った.

・高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の概要(案)に対する科学的・技術的意見の募集
 (所管省庁:原子力規制委員会)
・「GX実現に向けた基本方針」に対する意見募集(所管省庁:経済産業省)
・今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)に対する意見公募(所管省庁:資源エネルギー庁)
・「原子力利用に関する基本的考え方」改定に向けた意見の募集(所管省庁:内閣府)

 パブリックコメントについては,7年前にも玄海原発の再稼働問題に関連して,核問題研究会で問題点を整理して,研究会のメンバーがそれに基づいたり,または独自の視点から,総計で30を超える意見を応募したことがあった.それらの大部分(28のパブリックコメント)については佐賀県の県庁記者クラブで記者会見を行ったこともあった.これらをやってきて分かったことは,パブリックコメントは「労多くして益少なし」ということであった.
 しかし,明らかに問題のある原発政策に対して黙っているのも腹立たしい.締め切りまで一週間程度しかない中で,応募するかどうかは,各自の判断で行うことにした.本研究会は昨年の12月に岸田政権の「」方針に反対する声明を発出したところであるが,いずれにしろ,現政権の原発回帰路線を批判する論考や活動は研究会の主要なテーマであり,これらの活動を続けていくことを確認した.

「岸田政権の原発最大限活用方針に反対する」声明文

「岸田政権の原発最大限活用方針に反対する」声明文



声明文のpdfファイルは
ここにあります

岸田政権の「原発最大限活用」方針に反対する
——今も続く福島第一原発の大惨事を忘れたのか——

 岸田首相は12月8日,原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとする原発政策を発表した.それによると,政府は原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとしている.これは本年8月24日の第2回GX実行会議(GXはグリーン・トランスフォーメーション)での首相指示を受けて検討が進められ,総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の11月28日の原案に沿うものとされる.12月開催予定のGX実行会議を経て,この方向が今後10年間のロードマップの一環となるものと見込まれる.
 気候危機とロシアによるウクライナ侵攻などによるエネルギー危機と脱炭素化という長期の達成目標へあらゆる方法を動員すべきとの口実で,原発推進へ政策転換を図るものである.しかしこの転換には,次のように幾つもの重大な問題や矛盾がある.

1 拙速で民主主義に反する
 2011年の福島第一原発事故以後,政府は原発依存の低減化を目指すとしていた.国民の大半が脱原発を指向しているなか,先の参議院選挙の公約にも掲げず,短期間に原発最大限活用方針に政策転換を図ろうというのは,拙速で民主主義に反する.

2 再稼働は事故発生のリスクを高める
 40年以上前の設計に基づいて建設され,10年以上運転休止していた既設原子炉の再稼働は事故発生のリスクがより高くなることは否定できない.既設原子炉の40年以上の運転期間延長は,個別の原子炉により事情は異なる可能性があるにしても,ほとんどの技術システムはその老朽化の進行により事故発生確率が高くなることは明らかである.例えば,核燃料という膨大な放射能を閉じ込める圧力容器の,いわゆる脆性破壊の危険は,主にその危惧から廃炉とされた玄海1,2号基を全国にいくつも生き延びさせることになろう.また,日本の原発メーカは2009年には,海外向けには改良された次世代型軽水炉の売り込みを行いながら,今日まで日本国内の規制基準にはそれらを取り入れず,原発の古い設計基準を継続し続けてきたことは,悪質なダブルスタンダードと言わざるをえない.

3 原発の推進は再生可能エネルギーの導入を妨害する
 気候危機に対応できるための時間は多くを残されていないが,次世代革新炉の開発・建設には長時間を要し,2030年まで間に合わないであろう.また有意な発電量を確保するには莫大な費用と技術者の動員を要する.さらに,ウランの資源量は天然ガスの6割ほどでしかないにも関わらず,使用済み燃料の保管・管理には数万年以上を要する.温暖化対策にあらゆる可能な対策を急いで取らなければならない時に,余計な問題に関わっている余裕はないはずだ.

4 「敵基地攻撃能力」など大規模な軍拡は原発のリスクを格段に高める
 岸田政権が11月22日に発表した,「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」による「報告書」は,国産ミサイルの長射程化など敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えて公然と書き込むなど,質的にも規模的にも軍事力の拡大を打ち出した.しかしすでに日本列島を構成する4島全域には,極めて脆弱で危険性の高い福島の被災原発や青森の再処理工場等がある.
 昨今のウクライナ情勢は,原発がドローンなどによる戦略的に極めて重要な攻撃目標であることを露呈している.したがって,敵基地攻撃能力を保有し,核燃料サイクル開発を維持しつつ原発増設を進めるという政策は,ひとたび戦争ともなれば,破壊されると壊滅的な被害を容易に生じうる施設を維持しかつ増やすことになる.それは,上記軍拡と併せて,国土と国民の安全・生命・財産を損なう恐れを危機的に高める,愚かな国家規模の自滅的行為であり,許されるものではない.

 以上,政策決定プロセス,安全工学的側面,気候危機対策,また国土の危機管理等のあらゆる面で,今回の政府の決定は不当であり,私たちはこれに強く反対する.


2022年12月19日
日本科学者会議・福岡核問題研究会

12月例会 「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」の検討

12月例会


日 時:2022年12月17日(土)10:00〜12:00
話 題:「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」の検討
原案提起:岡本良治氏

<報告>

「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」を発出することを討論した.はじめに,岡本良治氏に声明文の原案を提起してもらい,それを基にさらに追加すべき論点などを出し合い,大枠が決まった段階で例会が終了した.あとはメールで細かい点を修正して12月19日付で以下の声明文を発出し,福岡県庁の記者クラブにリリースした.

声明文は以下の通り.(PDFファイルは
ここ

岸田政権の「原発最大限活用」方針に反対する

—今も続く福島第一原発の大惨事を忘れたのか—


 岸田首相は12月8日,原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとする原発政策を発表した.それによると,政府は原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとしている.これは本年8月24日の第2回GX実行会議(GXはグリーン・トランスフォーメーション)での首相指示を受けて検討が進められ,総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の11月28日の原案に沿うものとされる.12月開催予定のGX実行会議を経て,この方向が今後10年間のロードマップの一環となるものと見込まれる.
 気候危機とロシアによるウクライナ侵攻などによるエネルギー危機と脱炭素化という長期の達成目標へあらゆる方法を動員すべきとの口実で,原発推進へ政策転換を図るものである.しかしこの転換には,次のように幾つもの重大な問題や矛盾がある.

1 拙速で民主主義に反する
 2011年の福島第一原発事故以後,政府は原発依存の低減化を目指すとしていた.国民の大半が脱原発を指向しているなか,先の参議院選挙の公約にも掲げず,短期間に原発最大限活用方針に政策転換を図ろうというのは,拙速で民主主義に反する.

2 再稼働は事故発生のリスクを高める
 40年以上前の設計に基づいて建設され,10年以上運転休止していた既設原子炉の再稼働は事故発生のリスクがより高くなることは否定できない.既設原子炉の40年以上の運転期間延長は,個別の原子炉により事情は異なる可能性があるにしても,ほとんどの技術システムはその老朽化の進行により事故発生確率が高くなることは明らかである.例えば,核燃料という膨大な放射能を閉じ込める圧力容器の,いわゆる脆性破壊の危険は,主にその危惧から廃炉とされた玄海1,2号基を全国にいくつも生き延びさせることになろう.また,日本の原発メーカは2009年には,海外向けには改良された次世代型軽水炉の売り込みを行いながら,今日まで日本国内の規制基準にはそれらを取り入れず,原発の古い設計基準を継続し続けてきたことは,悪質なダブルスタンダードと言わざるをえない.

3 原発の推進は再生可能エネルギーの導入を妨害する
 気候危機に対応できるための時間は多くを残されていないが,次世代革新炉の開発・建設には長時間を要し,2030年まで間に合わないであろう.また有意な発電量を確保するには莫大な費用と技術者の動員を要する.さらに,ウランの資源量は天然ガスの6割ほどでしかないにも関わらず,使用済み燃料の保管・管理には数万年以上を要する.温暖化対策にあらゆる可能な対策を急いで取らなければならない時に,余計な問題に関わっている余裕はないはずだ.

4 「敵基地攻撃能力」など大規模な軍拡は原発のリスクを格段に高める
 岸田政権が11月22日に発表した,「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」による「報告書」は,国産ミサイルの長射程化など敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えて公然と書き込むなど,質的にも規模的にも軍事力の拡大を打ち出した.しかしすでに日本列島を構成する4島全域には,極めて脆弱で危険性の高い福島の被災原発や青森の再処理工場等がある.
 昨今のウクライナ情勢は,原発がドローンなどによる戦略的に極めて重要な攻撃目標であることを露呈している.したがって,敵基地攻撃能力を保有し,核燃料サイクル開発を維持しつつ原発増設を進めるという政策は,ひとたび戦争ともなれば,破壊されると壊滅的な被害を容易に生じうる施設を維持しかつ増やすことになる.それは,上記軍拡と併せて,国土と国民の安全・生命・財産を損なう恐れを危機的に高める,愚かな国家規模の自滅的行為であり,許されるものではない.

 以上,政策決定プロセス,安全工学的側面,気候危機対策,また国土の危機管理等のあらゆる面で,今回の政府の決定は不当であり,私たちはこれに強く反対する.

2022年12月19日
日本科学者会議・福岡核問題研究会

11月例会 原子力エネルギー協議会&原子力規制の新たな課題

11月例会


日 時:2022年11月19日(土)10:00〜12:00
話 題:(1)原子力エネルギー協議会(ATENA)と米国原子力エネルギー協会(NEI)
       中西正之氏   
発表資料
    (2)原子力規制,深層防護の第4,5層,それらの新たな課題
       岡本良治氏   
発表資料


<報 告>

前半には,中西正之氏が米国の原子力エネルギー協会(NEI: Nuclear Energy Institute)をモデルにした日本の原子力エネルギー協議会(ATENA: ATomic ENergy Association)設立と2つの組織の関連について説明を行った.
 1994年に設立されたNEIは,米国の原子力規制委員会(NRC: Nuclear Regulatory Commission)よりも先行して過酷事故検討することで,NRCの厳しい規制強化による原発の安全対策費の暴騰をなんとか阻止してきた.そしてスリーマイル島原発のメルトダウン事故後約30年が過ぎ,米国内にも原発の新増設の気運が高まり,新増設計画が急激に進んでいた2011年3月に福島原発にメルトダウン事故が発生し,その結果振り出しに戻ったという.
 ATENAは,2018年7月に「原子力産業界の知見を活用し,規制当局等とも対話を行いながら安全対策を立案し,原子力産業界による,規制の枠に留まらない自律的かつ継続的な安全性向上の取り組みを定着させる」ことを目的に設立された.原子力産業界として原子力の安全に関連して取り組むべき課題の特定や安全対策等の決定,原子力事業者の安全対策の実施状況の評価・公開などが主な事業内容という.
 ATENAは,2020年3, 4月に2回にわたって原子力規制庁の間で原発の経年劣化管理に係わる実務レベルの技術的意見交換会を行い,日本国内の原発再稼働や運転期間延長について強力な働きかけを行ってきた.このことは,運転期間延長が原発推進側の最重要課題であることを伺わせる.
 ATENAはその設立以来4年を過ぎてきているが,その積極的な行動により,日本国内では原発回帰のへの動きが急速に進み始めたようで,原発稼働を憂慮する我々としては注目しなければならないことであるとされた.

 後半には,岡本良治氏が原子力規制における深層防護(defense in depth)の4層,5層の今日的な意味についての問題提起があった.深層防護4層とは,設計想定外の要因によるシビアアクシデント(過酷事故)の影響緩和を含む過酷な状態の制御対策であり,深層防護5層とは,放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和対策である.深層防護の1層〜3層を含めて各層は独立して機能することが肝要であるという.
 「深層防護を議論することは原発の再稼働を容認することを意味する」と主張する論者もいるが,科学的・技術的な安全論争は主として深層防護の1層〜3層の議論であり,4,5層は含まれない.当該設備の安全性が十分に高いことを論証することも困難である.また,危険性が何時どの程度に顕在化するかを具体的に明示することも困難である.一方,「原発は確率的安全に頼った設計であり,多重防護や深層防護をどんなに強化しても大規模な事故の発生可能性は残ることになる」(原子力市民委員会編,特別レポート5『原発の安全基準は以下にあるべきか』p.140)との深層防護無益論もあるが,これは恐らく深層防護の考えを思い違いしているのであろう.確かに深層防護の1〜3層をどんなに強化しても過酷事故の発生の可能性をゼロにできない.だからこそ過酷事故が発生した場合,4層の影響緩和や5層の放射性物質の施設外への拡散から住民避難が必要になるのである.
 原発は,原子炉,格納容器,タービン建屋,使用済核燃料プール,各種の安全装置などの主要設備以外にも多数の配管,バルブ,モーター,外部電源,非常用電源など多数の施設と部品から構成されている複雑技術システムであり,そのようなシステムには構成要素間の無数の相互作用があり,事故前には顕在化していなくても,事故の際に強い相互作用が顕在化することがありうる.原発の過酷事故は,めったに起きない出来事であり,その発生時期と影響の規模についての科学的な予測はほぼ不可能である.
 原子力規制委員会は2016年6月に「実用発電用原子炉に係わる新規制基準の考え方について」(原発裁判における裁判官への指南文書か?!)を策定し改訂を重ねたが,そこでは国際的な標準用語severe accidentに対して重大事故またはシビアアクシデントという言葉を使い,過酷事故という表現はしていない.日本の新規制基準には水蒸気爆発対策がないことが特記される.
 現在の世界情勢の中で,深層防護の4層に関連して次の深層防護が必要ではないかとの提起があった.①フランスの原発過酷事故に対する「突撃部隊」に相当する措置の必要性,②サイバー攻撃に対する深層防護,③保険による補償という深層防護,④戦時における正規軍による攻撃に対する深層防護.

10月例会 旧統一教会と日韓トンネル問題

10月例会


日 時:2022年10月15日(土)10:00〜12:00
話 題:旧統一教会と日韓トンネル問題
    平田文男氏(分子科学研究所名誉教授)  
発表資料

<報 告>

今回は,いわゆる「核問題」とは大きく異なるが,今は社会問題・政治問題として重大問題となっている「旧統一教会と日韓トンネル問題」について平田文男氏(分子科学研究所名誉教授)から話題提供を受けた.日韓トンネルは,旧統一教会の「国際ハイウェイ財団」が推進しているもので,唐津から壱岐・対馬を経由して釜山あるいは巨済島へ至る総延長200 km余の海底トンネルと陸上部分を合わせたものであり,予定される工事費は10兆円という.統一教会の信者への献金要請のキャッチコピーは「1mmあたり5万円」とされている.

 「国際ハイウェイ財団」は,唐津市,壱岐,対馬にそれぞれ敷地を購入しており,唐津ではトンネル「斜坑」の試掘を行っており,540 mまで掘り進んでいる(壱岐,対馬ではいまだにトンネルの試掘は行われてはいない).
 平田氏は,この日韓トンネル構想の問題点を5点ほど挙げられた.第一に,日韓トンネルの実現にはあまり現実性がなく,「お金集め」の口実に使っているのなら,これは詐欺そのものである.第二に,残土の処理や地下水脈への影響,地盤沈下など,唐津の「斜坑」試掘が国土開発や環境保全に関する法律に違反する可能性がある.第三に,同時にこの地域の歴史遺産の保全に関わる法律に違反することも考えられる.第四に,もしこの構想が日本の国会を通ることになれば,1兆円規模の調査費が認められることになる可能性がある.最後に,もしトンネルの実現を真に目指しているのであれば,日本の国家安全保障に関わる犯罪になるとされた.「日韓トンネル」を最初に提唱したのは,旧統一教会創始者・文鮮明であり,旧統一教会はその文鮮明を絶対君主とする世界統一国家の実現を目指しており,その実現の軍事的・経済的要請として「日韓トンネル」が位置づけられている.
 平田氏は,佐賀県に対して「日韓トンネル」の試掘に関連してこれらの問題点について質問を投げかけているが,佐賀県からの回答は今のところ(すでに3週間ほど経っているが)ないという.
 桜井義秀氏(北海道大学教授)によると,文鮮明の教義の本質は,創世記や堕落論,キリストの誕生・復活などのキリスト教の教義と霊魂の結婚,「先祖解怨」(注1)などの朝鮮の土着信仰であるという.そして教義のポイントは,以下の5点である.①エバがサタンと姦通したことにより人間は原罪を負った.②その原罪をなくすためにはメシアにより血を洗い清める必要がある.③文鮮明こそがそのメシアである.④日本はエバ国家として永遠にアダム国家である韓国に服従しなければならない.⑤文鮮明を「王の王」とする統一国家によってのみ真の世界平和が実現できる.
 テレビ西日本の『闇のトンネル ~「統一教会」と政治~』(9月27日放送)によると,日韓トンネルを推進する団体は急速に創られついに2018年には47都道府県に設立された.九州では各県が共同して日韓トンネル実現九州連絡協議会を立ち上げている.その中には政治家だけでなく,元九州大学総長の梶山千里氏(協議会の会長)などのように多くの大学関係者が参加しており,あまりにも実現性のとぼしい旧統一教会の日韓トンネル構想にお墨付きを与えることになっている.インタビューに答えて「統一教会と日韓トンネルの関係は知っていた.統一教会と日韓トンネルは僕らとしては別.それを統一教会がごちゃまぜに使っているとしても,それは知ったことではない」との梶山氏の発言はあまりにも無責任な発言と言わざるを得ない.
(注1)先祖の呪いを解くことあるいはその儀式.
(注2)https://www.youtube.com/watch?v=aGrX1wzN7p0

9月例会 川内原子力発電所の運転期間延長の検証について

9月例会


日 時:2022年9月3日(土)10:00〜12:00
話 題:川内原子力発電所の運転期間延長の検証について
      報告:中西正之氏  
発表資料

<報 告>

 中西正之氏から「川内原子力発電所の運転期間延長の検証について」の話題提供をいただいた.川内原発の1号機,2号機は間もなく40年の運転期限を迎えることになる.現在の原子炉等規制法では,運転開始から40年を経た原発は1回に限り最長20年の運転延長が可能となっている.鹿児島県は「川内原子力発電所の運転期間延長の検証に関する分科会」を設置し,これまで4回にわたって分科会が開かれた.その内容を説明していただいた.
 第一回分科会は,2022年1月20日に一部リモートで開催された.分科会の委員は,大畑 充(阪大教授),釜江克宏(京大特任教授),橘高義典(都立大教授),後藤政志(星槎大非常勤講師),守田幸路(九大教授),渡邉英雄(九大准教授)の6名.互選により釜江氏が座長となった.
 その後,原子力規制庁から運転期間延長認可制度についての説明があり,原子炉の延長認可を申請する場合は,運転期間満了日から1年前の日までに申請しなければならないとして,川内原発の1号機については満了日が2024年7月であるので,2023年7月までに申請しなければならないと説明.特別点検では,炉心領域における原子炉容器の母材と溶接部については超音波探傷試験で傷があるかどうかを100%確認しなければならないとか,コンクリートについてはサンプルを抜き出して強度試験を行う必要があるなどの説明があった.
 この原子力規制庁からの説明に対して,渡邉委員から「特別点検をするというのは非常に結構なんですけども,それがあまり新しさを感じない」という発言あり,原子力規制庁から特別な点検をする意義は「これは節目でありますので,しっかりと網羅的な点検をいただいて,規制側もそれをきっちり確認する」ことだという回答があった.また守田委員からは,原発の運転が長期間中断されていた期間については,40年間の期間カウントから除外してもよいのではないかとの意見が出されたが,規制庁からは40年は国会において総合的判断で決められたものなのでとの説明があり,後藤委員からは守田発言に対して専門的に厳しい見解が表明された.
 次に,九州電力から川内原子力発電所1,2号機の概要について,運転開始以降に実施した主要機器更新状況などの説明があった.さらに,運転期間延長認可申請に必要な特別点検についての簡単な説明があった.具体的な内容の検討は,次回に回すことになった.
 第二回分科会は,3月29日に川内原子力発電所において開催された.今回より佐藤暁氏(原子力コンサルタント)がこの分科会に親委員会から新しく参加されることになった.最初に知事の挨拶があり,そのあとで九州電力から2号機の特別点検の実施状況の視察について説明が行われた.現場視察のあと,質疑応答が行われた.これらの質問と前回の分科会で出た質問に対する九州電力の回答は以下の第三回分科会のサイトの資料4-1にまとめられている.
https://www.pref.kagoshima.jp/aj02/0404bunkakai.html
第二回分科会後に提出された佐藤委員と後藤委員の質問に対する九州電力の回答も同じサイトの,それぞれ,資料4-2と資料4-3にある.
 第三回分科会は,4月25日に一部リモートで開催された.この会議では九州電力から,劣化状況評価(高経年化技術評価)に係る制度についての説明と,前の規制法のもとで行われた30年目高経年化技術評価結果についての説明が行われた.各委員からたくさんの意見や質問が提出された.
 第四回分科会は,8月2日に一部リモートで開催された.ここで,川内原発一号炉の原子炉容器についての九州電力が行った特別点検結果についての報告が行われた.第三回分科会で出された質問への九州電力の回答がサイトの資料4でまとめられている.
 この分科会の議事録は(本研究会の開催時には)公開されていなく,今後の分科会はまだまだ続くことになるが,玄海原発3,4号機の適合性審査が行われていた時期の佐賀県の原子力安全専門部会のように原発再稼働推進側委員が過半数を占め,原発再稼働反対側委員が1人もいないようなひどい専門部会に比べると,後藤委員のような原発の運用に慎重な委員が分科会にいることから,今後の分科会の審議内容が大いに期待されると中西氏は結ばれた.

8月例会 トリチウムによるDNA損傷&CCSの概況

8月例会


日 時:2022年8月6日(土)10:00〜12:00
話 題:(1)論文「トリチウムによるDNA損傷のメカニズム」の紹介
      報告:三好永作   
発表資料
    (2)「世界と日本のCCSの概況」
      報告:中西正之氏  
発表資料

<報 告>

はじめに三好がトリチウムのDNA損傷についての,藤原・波多野・中村による論文(『日本物理学会誌』2022年1月号,pp.35-41)の紹介をした.三好は2021年の7月例会で「トリチウム水から生体有機分子へのトリチウムの転移について」という話をしている.そこでの結論は,エチルアルコールや酢酸などの水酸基(OH基)の水素(H)はトリチウム水のトリチウム(T)と常温で容易に交換するというものであった.

 今回の論文は,トリチウムのβ壊変によるDNA損傷(2本鎖切断)のメカニズムを蛍光顕微鏡観察と分子動力学(MD)シミュレーションから解説したものである.まず,0 Bq/cm3, 1.3 kBq/cm3, 5.2 MBq/cm3のトリチウム水に浸したサンプルDNA(T4 GT7 DNA)の長さを蛍光顕微鏡で一週間ごとに数回測った結果,0 Bq/cm3と1.3 kBq/cm3のトリチウム水に浸したものについては,ほぼ同様にDNAの平均の長さはゆっくり減少していた.トリチウムのない水でも熱運動や溶存酸素との反応などで切断される.5.2 MBq/cm3のトリチウム水に浸したものは,平均の長さ(Lave)から次式で与えられる切断回数Nは14日間で3.1となる.
 N = L
0 / Lave – 1 (L0は初期の長さ)
一方,0 Bq/cm
3のトリチウム水の浸した場合の14日間の切断回数は0.6と観測されたので,β線によるDNA2本鎖切断は3.1 – 0.6 = 2.5回となる.5.2 MBq/cm3のトリチウム水の14日間のβ線照射量は5.7 Gyなので切断速度は1 Gyあたり0.4 DSB(double-strand break)となった.
 MDシミュレーションでは,タンパク質—DNA複合体構造からタンパク質を取り除いたテロメア二重らせんDNAの3次元構造をモデルとして採用.17個の塩基配列からなるテロメアNDA(1078原子),71,000個の水分子,121個のNa
+イオン,89個のCl-イオンで系を構成し,CHARMM力場を使用して,系の圧力は1気圧,温度は310 Kになるように調整した.グアニンのアミノ基(NH2)の2つの水素がトリチウムに置換しそれがβ壊変したもの(Γ)を考えてシミュレーションを行った.Γの個数がゼロの場合は,長い間シミュレーションを行っても二重らせんDNAの構造は変化しないが,Γの個数が増えていくと時間が経つにつれ二重らせんの間に隙間が広がり二重らせん構造が壊れる様子がみられた.

 次に中西氏が「世界と日本のCCSの概況」について話された.CCSはCarbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素CO
2の回収・貯留)のことである.CO2は石炭や石油,天然ガス,バイオマスなどの燃焼からだけでなく,天然ガス採掘時にも発生する.回収するためには,CO2を他の気体から分離することが必要である.CO2の分離技術は,石炭からの水素製造時に水素からあるいは天然ガスの採掘時にメタンガスから分離する方法として発展してきた.そして石炭や石油,天然ガス,バイオマスなどの火力発電の燃焼排ガスからの窒素とCO2の分離技術も開発が進んできているという.貯留には,一般に地中貯留が使われる.
 経済産業省の資源エネルギー庁のもとに「CCS長期ロードマップ検討会」が今年の1月から月1回の割合で開催され,5月27日に「中間とりまとめ」を発表している.それによるとCO
2の地下貯蔵に関して,カーボンニュートラルを目指す2050年時点で想定されるCCSの年間貯蔵量として「年間1.2億トン〜2.4億トン」(注1)が目安.2030年にCCSを導入するとして,2050年までの20年間で毎年12本〜24本ずつのCO2圧入井(貯蔵可能量年間50万トン)を増やす必要があるという.CO2圧入井の試掘費用は,それが海域であれば1本あたり約80億円というので,圧入井を海域に掘れば毎年12本としても約2兆円かかることになる.しかも試掘したものが貯蔵に適しているかどうかは掘ってみなければわからない.
 「中間とりまとめ」では,政府が2030年までのCCS事業開始に向けた事業環境整備を目標として掲げ,2022年内にCCS国内法整備の論点を整理し,早期にCCSに関する国内法を整備するよう提案している.
 中西氏は,CCS技術を評価する形で紹介されたが,「貯留したCO
2が徐々に抜けないか」,「低コストでモニタリングできるか」,「貯留のコストは?」,「環境破壊にならないか」などの質問があった.
(注1) この数値は,国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook 2021のなかで2050年時点において世界全体でCO
2を回収しなければならない量として示されている38億トン〜76億トンに日本のCO2排出割合3.3%を掛けたもの.

6月例会 新型コロナウイルスワクチンの評価

6月例会


日 時:2022年6月26日(土)10:00〜12:00
講 演:「日本における新型コロナウイルスワクチンの評価と問題提起
    ——公的機関発表資料から——」   
発表資料
講演者:二宮 清 氏(公益社団法人福岡医療団 千鳥橋病院 医師)

<報 告>

 今回は,新型コロナウイルスワクチンの評価と問題点について二宮清氏(公益社団法人福岡医療団 千鳥橋病院 医師)に講演をして頂いた.二宮氏は始めに,2021年2月から医療従事者への新型コロナウイルスワクチンの先行接種が開始された後,構成員5700人のある医療団における,ファイザー社ワクチン接種後の死亡例を3例紹介された.1つは,70代の医師がワクチン2回目接種の当日夜に嘔吐を繰り返し,救急車で搬送中に心肺停止.もう一つの例は,50代看護師がワクチン2回目接種10日後に突然脳血栓症による脳梗塞を発症し,血栓回収術を受けて一旦小康状態になるも,脳出血で接種30日以内に死亡.最後の例は,50代事務職員がワクチン2回目接種後,勤務中の病院内で突然脳出血により数日後に死亡というものであった.
 これらのワクチン接種後の死亡は,直接的な因果関係を証明できる訳ではないが,ワクチン接種の副作用の1つと推察するのが自然であるという.二宮氏は,ワクチン接種は受けずに,換気確保や目・鼻・口の食塩水による粘膜洗浄などを追加して個人的感染防御レベルを上げた感染対応をしているという.
 厚労省の新型コロナワクチン感染症対策アドバイザリーボードは,2021年9月1日,年齢区分別のワクチン効果のデータを発表しているが,それ以降は開示していないという.それによると,65歳以上のコロナ陽性者のうち,死亡した人の割合(致死率)は,未接種者,1回接種者,2回接種者で2.83%,2.35%,1.22%とワクチン接種の割合が若干減少しておりワクチンの効果がみられるが,全年齢でみると,未接種者,1回接種者,2回接種者の致死率は0.12%,0.41%,0.58%となっており,ワクチン接種を重ねるほど致死率が増加している.これは一体どういうことなのか? いずれにしろ年齢別にワクチンの有効性を考える必要があろう.
 ファイザー社のワクチン有効率は95%といわれているが,それは以下のような内容であるという(注1).ワクチンおよびプラセボ(生理食塩水)を,それぞれ,無作為に選んだ21,720人および21,728人に投与し,接種後7日以上経過してから発症したコロナ感染症例はワクチン投与群では8例,プラセボ投与群では162例であったので,ワクチン接種により162-8 = 154の感染症例の減少が得られた.すなわち,154/162 = 0.95(95%)のワクチン有効性があったと算定される.しかしこの有効率の算定には,ワクチン投与群とプラセボ投与群の母集団が約2万人であったという情報がどこにもない.21,720人のワクチン投与群のなかで154の感染症例の減少があったので,ワクチンの有効率は154/21720 = 0.007(0.7%)という見方もできる.これだと,感染者を一人減らすのに141人のワクチン接種が必要となる.そう考えれば,ワクチンの有効性はそれほど大きいものではないのかもしれない.
 ワクチン接種を受けるか受けないかは,ワクチン接種後の死亡を含む様々な副作用など負の効果とワクチン接種による重症化予防効果・致死率の低下など正の効果の両方を比較して,国民一人ひとりが判断すべき問題であろう.そのために二宮氏は,厚労省の新型コロナ感染症対策アドバイザリーボードは,昨年9月の年齢区分別のワクチン効果のデータを早急にアップデートすべきであるとされた.
(注1)F. P. Polack et al., N. Engl. J. Med. 383, 2603 (2020).

 なお,『日本の科学者』10月号の「科学者つうしん」欄への執筆依頼(22字×31行の字数制限)があり,以上の文章を要約して以下のようなものを送っておいた.

【今回は「核問題」ではなく新型コロナウイルス感染症の問題を二宮清氏(医師)に講演頂いた.
 はじめに,医療従事者への新型コロナウイルスワクチンの先行接種が開始された後,ある医療団における,ファイザー社ワクチン接種後の死亡例を3例紹介された.これらの死は,ワクチン接種後の副反応の1つとするのが自然であろう.二宮氏はワクチン接種を受けずに,換気確保や目・鼻・口の食塩水による粘膜洗浄など感染防御レベルを上げた,個人的な感染対策をしているという.
 厚労省の新型コロナワクチン感染症対策アドバイザリーボード(昨年9月1日)での年齢区分別のワクチン効果のデータでは,65歳以上のコロナ陽性者の致死率は,ワクチン接種回数の増加で若干減少(未接種2.8%,2回接種1.2%)しているが,全年齢では逆に致死率が増加している.
 ファイザー社のワクチン有効率95%は以下のように算出された.ワクチンとプラセボ(生理食塩水)を,それぞれ,無作為に選んだ約2万人に投与したあと7日以上経過して発症したコロナ感染症例は,プラセボ投与群では162例に対してワクチン投与群で8例であった.ワクチン接種により162-8=154の感染症例の減少が得られたので,ワクチン有効率は154/162=0.95(95%).しかし,この有効率の算定には母集団の情報がどこにもない.2万人の母集団の中で,ほんの154だけの感染発症の減少が起きたのであるから,ワクチンの有効率はそれほど大きくはないとも言える.
 ワクチン接種を受けるか受けないかは,その正負の効果を比較して,国民一人ひとりが判断すべき問題であろう.そのためには,最新の年齢区分別のワクチン効果のデータが必要と述べられた.     (三好永作・福岡支部)】

3月例会 渡辺,遠藤,山田著「放射線被曝の争点」の紹介

3月例会


日 時:2022年3月26日(土)10:00〜12:00
話 題:渡辺悦司,遠藤順子,山田耕作著
   『放射線被曝の争点—福島原発事故の健康被害は無いのか』の紹介
紹介者:豊島耕一,三好永作,岡本良治  
発表資料1発表資料2発表資料3

<報告>

 3月例会では,前回の研究会で同意されたように『放射線被曝の争点—福島原発事故の健康被害は無いのか』(緑風出版,2016年)の紹介を豊島,三好,岡本の3名で行った.同書の内容は,
 第1章 事故により放出された放射性微粒子の危険
 第2章 トリチウムの危険性
 第3章 福島原発事故の健康被害とその否定論
となっている.

 福島事故で放出された放射性微粒子は,爆発により形成されたガラス状の粒子や大気中のエアロゾルに放射性物質が吸着した粒子,微粉化した核燃料あるいは炉心溶融物が噴出した放射性微粉塵など様々なものが確認されている.これらは,様々な粒径をもち,水に対する溶解性も様々である.これらの微粒子は人体内に侵入する過程において異なる経路をたどることになる.これらの放射性微粒子の危険性は深刻であり,決して無視したり軽視したりできるものではないという.

 国際放射線防護委員会(ICRP)では体内での放射性微粒子による被ばくの不均一性を無視することで,不均一な体内被ばくの危険性を過小評価している.1969年の日本原子力委員会(当時)の報告書では,微粒子による内部被ばくの検討し,その危険性を報告している.比較的大きな放射性微粒子が大量に鼻腔に付着した場合には,局所的に毛細血管細胞を破壊し鼻血を引き起こす原因となる.放射性微粒子が肺の奥深くまで到達しそこに長く止まり,放射線を出し続ければ,肺がんだけでなく肺疾患を引き起こす.小さな微粒子の場合,肺から侵入して血管とリンパ液を介して体内のあらゆる臓器,組織に侵入していくことになる.

 これまで,トリチウムが出すβ線のエネルギーが低く飛程距離も1μmと短いので,トリチウムの人体への影響は過小評価されてきた.ICRPのモデルではトリチウム水の生物学的半減期は10日で有機結合型トリチウムでも40日とされている.しかし,有機結合型トリチウムの生物学的半減期は様々な研究結果から200〜550日と報告されている.また,飛程距離が短いということは限られた領域に集中的に損傷を与えるということである.

 1978〜1985年のカナダのある原発からのトリチウム放出量とその周辺地域のそれ以降の先天欠損症による死産数および新生児死亡数との間には相関関係が見られた.また,カナダの原子力労働者の被ばく関連がんの発生率は,同一線量を被ばくした他の諸国の原発労働者より高い.これはカナダの原発(CANDU炉)では重水を冷却に使っているため,トリチウム放出量が他国よりも大きいことが関係している.これら以外にも,トリチウムによる健康被害はたくさん報告されている.

 玄海原発のある玄海町の白血病による死亡者数は全国平均の6倍以上であるが,森永徹氏の分析によれば,「玄海町における白血病死亡率の上昇は,高齢化やHTLV-1の影響だけでは説明できない」,「原発から放出されたトリチウムの関与が強く示唆される」と結論されている.

 政府は環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」の「中間とりまとめ」(2014年12月22日)で公式に福島原発事故による健康被害は一切でないと宣言した.福島県における小児甲状腺がんの多発はすでにはっきりと現れているが,健康被害は調査する前から「ない」と断定されたのである.児玉・清水・野口3氏の『放射線被曝の理科・社会』(かもがわ出版,2014年)(以下,『理科・社会』と略)では,この政府の見解とほぼ同じことが論じられている.

 放医研編『虎の巻 低線量放射線と健康影響 先生,放射線を浴びても大丈夫か?と聞かれたら』(医療科学者,2012)(以下,『虎の巻』)の見解を参考にしながら『理科・社会』の見解を見ていく.『虎の巻』はいくつかの欠点はあるが,低線量被ばく健康影響に関して最新の国際的研究成果を包括的に記述している.

 『理科・社会』では,「LNT(直線しきい値なし)仮説は真実というより公衆衛生上の慎重な判断である」として事実ではないとしているが,『虎の巻』は,「LNTという考え方は,もはや仮説ではなく実際の疫学的結果によって裏付けられた科学的事実である」と紹介している.また,極低線量(10mSv以下)の被ばくのリスクの程度について疫学的研究が国際的に数多く積み上げられており数値的評価も固まりつつある.

 『理科・社会』では,米ロッキーフラッツ施設での火災でプルトニウム微粒子を吸入した25名の調査を基にして放射性微粒子による被ばくと発がんの因果関係を否定しているが,カール・ジョンソン氏による同施設周辺住民60万人の疫学調査を無視している.この調査では,施設から0〜21 km,21〜29 km,29〜39 kmと離れるにしたがって過剰ながんの発生率が減少する調査結果が得られている.

 『虎の巻』では,DNA損傷が数nm以内に複数個生じた場合には修復が困難になる「クラスター損傷」ということが紹介されている.エネルギーの低いほどクラスター損傷の割合が多くなる.『理科・社会』はこの問題に触れない.

 『理科・社会』は,スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の役割を強調し,SODはヒドロキシルラジカルによる損傷を防いでいると書いているが,SODには実際ヒドロキシルラジカルを分解したり,分解を促す作用は確認されていない.

2月例会 沖縄県におけるCOVID-19感染拡大の主要因は駐留米軍にある

2月例会


日 時:2022年2月26日(土)10:00〜12:00
話 題:「沖縄県におけるCOVID-19感染拡大の主要因は駐留米軍にある」
報告者:森永徹氏   
発表資料

<報告>

 2月例会では,森永氏に沖縄における新型コロナ感染症(COVID-19)の問題を中心にお話いただいた.はじめに,森永氏は米国が世界有数のCOVID-19感染大国であるとデータを示して指摘された.日本の感染率が3.6%であるのに対して,米国の感染率は24%である.これはフランス,英国に続いて世界第3位の感染率の高さである(世界平均は5.5%).沖縄における米軍基地の面積は,本土の2.5倍あり,米兵の数もほぼ2.5倍という.

 沖縄にいる米軍兵士数は約26,000であり,もし感染率が米本土と同じとすれば在沖米軍兵士の感染者数は6,200となる.林外相は,1月20日の国会で沖縄米軍基地内の感染者が4141に上ることを明らかにした.在日米軍施設やその周辺で感染者が急増したことから,在日米軍は外出制限を実施していたが,その外出制限を1月31日で終了すると米軍から連絡があったと,外務省は28日に発表したという.

 次に森永氏は,「米国でCOVID-19感染者が多いのはBCGを摂種していないため」ではないかという点をいくつかのデータを示しながら論じられた.米国はBCG摂種を一切行っていないが,欧州でもBCG摂種を中断している国が多い.L. E. Escobar等(注1)は,欧州の国々についてCOVID-19パンデミック最初の月の致死率とBCG接種率との関連を見たところ負の相関があった.また,東西ドイツでのBCG接種時期(西ドイツでは現在の20数歳〜60歳のみ接種,東ドイツでは現在の40数歳〜80数歳に接種)とCOVID-19致死率の関連を見たところ,高齢者の接種率の高い東ドイツの死亡率が明らかに低かった.BCG接種は免疫効果を高めるという報告もあるという.

 「米軍は日本入国前の感染検査をしていなかった」ことを,2021年9月に日本政府に伝えていたことを在日米軍司令部が認めたとの「赤旗日曜版」のスクープがあり,在日米軍が感染症の検査をしていなかった時期に,日本から米国への出国の際には感染検査をしていたという.沖縄ではオミクロン株の感染拡大は米軍基地由来とみられている.ここでも不平等な日米地位協定の実態が浮き彫りになった形である.

 講演の後の議論の後半に,沖縄からの参加者から,今回のようなコロナ感染を防止する点では,日米地位協定の問題は国の問題なので政府の消極的な動きしかない状況ではなかなか難しいが,地方自治体での取り組みで有効な方法があるのではないかとあれこれ模索しているとの発言があった.

 研究会の最後に,次回の研究会では,渡辺悦司,遠藤順子,山田耕作著『放射線被曝の争点—福島原発事故の健康被害は無いのか』(緑風出版,2016年)の紹介をしてみてはどうかという提案がなされ,何人かで分担して同書の紹介をすることになった.
(注1)L. E. Escobar et al., PNAS, 117, 17720-17726 (July 9, 2020).

1月例会 福島第一原発の地質・地下水問題

1月例会


日 時:2022年1月22日(土)10:00〜12:00
話 題:「福島第一原子力発電所の地質・地下水問題 -原発事故後 10年の現状と課題-」
報告者:中西正之氏   
発表資料

<報告>

 1月例会では,中西氏により論文集「福島第一原子力発電所の地質・地下水問題-原発事故後10年の現状と課題-」(*)の紹介があった.この論文集は,地学団体研究会(地団研)の有志が集まり発足した福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ(原発団研)が福島第一原発の汚染水問題について6年間に及ぶ詳細な学術的研究をまとめたものであり,汚染水が減少しない原因を分析して,今後の汚染水対策についての提言なども行っている.この論文集は9章からなり,以下のようになっている.

 第1章 福島第一原発事故の経緯と原発団研の活動
 第2章 福島第一原発の汚染水問題とこれまでの対策
 第3章 浜通り地域と福島第一原発周辺の地形と地質
 第4章 福島第一原発の地下地質
 第5章 福島第一原発の水文地質
 第6章 福島第一原発の地下水流動
 第7章 福島第一原発の汚染水対策の評価と課題
 第8章 福島第一原発の地盤問題
 第9章 福島第一原発廃炉の課題-地質・地下水の視点から-

 事故から10年が経過しても溶け落ちた核燃料の取り出しは始まってさえおらず,放射性物質による汚染水問題も解決していない.国や東電が汚染水対策のために使っている地下の地質の様子を表す地質断面図は非常に単純なもので,実際の地下水の流れは国や東電の図よりも複雑になっていることが明らかとなり,このような単純化された地質断面図では効果的な汚染水対策の立案や地下水の管理を十分に行うことは出来ないという.

 本論文集が,今後の安全で確実な汚染水対策や廃炉作業の計画と実施の一助となり,原発の危険性や問題点を地質や地下水の観点から指摘した専門書として広く活用されることを期待したい.

(*) chidanken@tokyo.email.ne.jpに連絡すれば1冊1,000円+送料180円で送って貰える.

以上

12月例会 気候変動と民主主義

12月例会


日 時:2021年12月18日(土)10:00〜12:00
報 告:気候変動と民主主義
    報告者:伊藤久徳氏(気象学)   
発表資料

<報告>

 12月例会では,伊藤氏に「気候変動と民主主義」と題した講演をしていただいた.この講演は,去る12月11日にJSA九州沖縄シンポジウムにおいて話されたものと同じであったが,同シンポジウムの講演時間(20分)よりたっぷりと長い1時間余のお話をお願いした.

 伊藤氏は,2021年8月にIPCC第1作業部会が第6次評価報告書で「人間の影響が大気,海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」としたことは,人間が本当に気候危機をつくりだし地球全体に悪影響を及ぼしていることだ、とされた.そして,気候危機は真に「新しい問題」で,100年というスパンで地球全体を考える必要があると言われた.「新しい問題」に対処するには当然「新しい仕組み」が必要となるが,気候危機に関係してこれまで創られてきた「新しい仕組み」を説明されるとともに,地球の未来のために考えるべき民主主義の「新しい仕組み」を提案された.

 これまで創られてきた「新しい仕組み」として,IPCC,COPおよび気候市民会議が説明された.IPCCの統治しているのは政府代表の集まりであるが,実質的には科学者の関与が大きいという.理由は,その目的が気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることなので,科学者が必要とされるためである.IPCCでは定期的に評価報告書(AR)を作成し気候変動に関する最新の科学的評価を提供している.ARの内容自体は科学者でなければ書けないものであり,科学者が実質的な部分を担っている.気候変動に関する政策はARから逸脱することはできず,必然的に科学に基づいた政策となっている.

 最近,選挙型の代議制民主主義に代替するものとして抽選制が注目を集めている.抽選制は,年齢や学歴などで大きく階層を代表する形で抽選をもとに代表者を選出し,抽選された代表者が政策課題に対応する制度である.この抽選制は気候変動問題にも適応され,選出された会議は一般に気候市民会議と呼ばれている.フランスやイギリスでは国レベルで適用され,市民感覚に基づいた提言を反映した法案が作成されている.自治体レベルでは,日本でも札幌市や川崎市で実施され,気候変動問題に対して提言をしている.

 地球の未来のために考えるべき民主主義の「新しい仕組み」について,①地球の未来に対処する(「対処する」とは「考える,決める,措置する」の総称)ための構成員には,人間以外の地球の構成員や100年先の未来の人類も含めることが大切である.②「人間以外の構成員」や「未来の人類」については対処する会議などにおいて,それらの代弁・擁護者が参加することが大切である.③「弱者」を主語にすることが大切である.そのことで問題の本質が明確になりやすい.④未来も含めた地球の構成員による民主主義を実践することで,「現在人間中心主義」から脱却でき,現在の人間の問題点ができるとされた.

 最後に,気候変動問題に伴って,市民団体の国際政治交渉への関与や気候市民会議など民主主義の新しい芽が育ちつつあり,地球の未来のための新しい民主主義の仕組みをつくっていかなければならない,とまとめられた.

以上

11月例会 気候危機ー各政党の政策&エネルギー革命

11月例会


日 時:2021年11月9日(土)10:00〜12:00
報 告:(1)「各政党の気候変動エネルギー政策の評価」
    報告者:岡本良治   
発表資料
   :(2)「エネルギー革命とエネルギー移行戦略」
    報告者:岡本良治   
発表資料

<報告>

 11月例会では始めに岡本氏が「各政党の気候変動エネルギー政策の評価」について報告された.JSA会誌『日本の科学者』2020年9月号に掲載された各政党へのアンケート(2030年までの温室効果ガス排出量削減目標,石炭火力,自然エネルギー,原発の存続など)の結果をもとに,以下のようにまとめられた.集中豪雨による洪水の増加などを見ても,現状は待ったなしの気候危機の中にあり,温室効果ガス削減はこの10年間が決め手である.各政党の中では立憲,共産,社民の政策は温室効果削減につながると評価できる.しかし,より高い目標を掲げることを期待したい.自民,公明,維新の政策は問題をはらんでいる.国民は原発ゼロを2030年代に先送りしている.科学的な知見に基づいた国民世論の形成が最も重要である.

 その上でアンケートについて以下のようなコメントをされた.「気候変動問題」から「気候危機問題」への格上げは適切である.アンケート項目に明示されていない省エネ・エネルギー有効利用について論評したことはよかった.「現状は待ったなしの気候危機の中にある」という情勢判断をするのであれば,各政党の政策の中の設定目標の高さだけではなく,その目標をできるだけ確実に達成するための移行戦略の評価も行うべきである.再生可能エネルギーが自然エネルギーと同じであることをことわってはいるが,科学者集団の研究委員会が自然エネルギーという用語を使用することは適切とは言いがたいとした.

 次に,NGO気候ネットワークによる各政党政策の分析の要点を示され,概ねJSA会誌の編集委員会の評価と一致していると紹介された.その中で,2021年9月に発表された「気候危機の打開する日本共産党の2030戦略」は,省エネと再エネで2030年度までに温室効果ガス排出を50~60%削減するという移行戦略の提案として高く評価されるとした.

 政府・与党には,経済界主流(大企業群)とさまざまな官僚組織が支援し,関係するシンクタンクもあるが,立憲野党には官僚組織もなく関係するシンクタンクもない.したがって,立憲野党を支持する科学者,技術者の人数は決して多くはないので集団的な運動をより効果的に行い,市民運動・労働者運動との適宜な連携も含めて,「科学的な知見に基づいた国民世論の形成」に向けて,理論政策的な貢献が必要とされた.

 「エネルギー革命とエネルギー移行戦略」の第2の話題では,岡本氏は気候危機の影響緩和のためにいま進めようとしているエネルギー転換は「エネルギー革命」であるという話をされた.第1次エネルギー革命は人類が火の使用を始めたことであり,第2次エネルギー革命は石炭による蒸気機関であり,第3次エネルギー革命は石油や電気を組み合わせて利用するようになったことをいう.脱炭素社会に向けて現在進行中のエネルギー転換は,社会システムや生活のあり方がかなり変化するので,「エネルギー革命」と呼ぶのがよく,歴史から第4次エネルギー革命であるという.この「エネルギー革命」は脱炭素社会,再エネ100%社会を目指すという意味で再エネ革命と呼んでもよいかもしれない.

 岡本氏は,第4次エネルギー革命におけるエネルギー移行戦略として以下の4本柱を提案された.①エネルギー需要の低減,②効率の改善,③エネルギー転換,④電化の促進.①については,日本を含む先進諸国は大量生産・大量消費・大量廃棄のエネルギー高依存社会になっていることを考えれば,生活レベルを低下させずにエネルギー需要を低減することは可能という.パッシブシステムへの設計変更により,世界のエネルギー消費の73%が節約できるという試算もある.省エネという点でも日本は欧米から大きく遅れており,省エネを進める余地は十分にあるという.スイスの「2000ワット社会」は大いに参考になる考えである.②については,技術のみでなく,それを普及させる社会システムやエネルギー消費に関わるライフスタイルなどにも関わる.例えば,技術では建物の断熱化やLED照明があり,社会システムでは建築物の断熱基準や環境税など,ライフスタイルでは小型自動車やカーシェアリング,またクールビズの定着などがある.③については,自動車ではEV化や燃料電池化,航空機燃料では温室効果ガスを排出しない代替燃料への転換も必要となろう.④については,温室効果ガスを大量に排出している生産工程は可及的に電化すべきであるとされた.

10月例会 気候危機打開の「レポート2030」

10月例会


日 時:2021年10月9日(土)10:00〜12:00
報 告:気候危機打開の「レポート2030」について
    報告者:三好永作   
発表資料

<報告>

 10月例会では2021年2月に明日香壽川氏(東北大)らの「未来のためのエネルギー転換研究グループ」が発表した「レポート2030」の内容を三好が紹介した.「レポート2030」には「グリーン・リカバリーと2050年カーボン・ニュートラルを実現する2030年までのロードマップ」という副題がついている.グリーン・リカバリー(GR)は,グリーン・ニューディールと同じ意味であるという.政府は2020年12月25日に政府が発表した「2050年カーボン・ニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では,目標や政策に大きな変更は見られず,「2050年カーボン・ニュートラル」は単なるスローガンに終わってしまう可能性が高く,政府の基本計画の代替案として「レポート2030」を作ったという.


 2030年までに日本において省エネルギー(以下,省エネ)と再生可能エネルギー(以下,再エネ)を進めることで,温暖化ガスの大幅削減が可能になるだけでなく,国全体と地域経済の発展を実現するシナリオを描いている.再エネ利用が進んでいる米国では,2010年には25セントであった太陽光の発電コストは,2020年には4セントになっており,原発の5分の1,石炭火力の3分の1となっている.日本においても際エネの利用が進めば,再エネの発電コストは米国並みになることは間違いない.

 グリーン・リカバリー(GR)戦略では,2030年までに2010年比で40%減の省エネを行い,一次エネルギーで化石燃料を60%減少させ,原発はゼロにする.そして電力では,電力消費量を30%減らし,化石燃料ではガス火力のみを残して再エネの電力割合を44%という数値目標を掲げている.

 GR戦略では,電力,産業,業務,家庭,運輸のさまざまな分野に2030年までに202兆円の投資を行い,年間254万人の雇用が生まれ,国内総生産(GDP)は205兆円上積みされる経済効果をもたらし,CO2排出量が1990年比で55%減(2013年比では61%減)が得られるという.202兆円の投資のうち,民間からは151兆円,公的資金からは51兆円を見込んでいる.民間投資に対する国からの補助金は,化石燃料などのエネルギー支出の削減額が2030年までに358兆円も見込まれるので,基本的に不要であるという.

 これから2030年までの10年間は,「人類の未来を決定づける10年」ともよばれるようになっている.IPCCの第6次報告は地球温暖化が温暖化ガス(主にCO2)によることを事実と認めた.この10年の間にCO2排出量の1990年比で50%以上削減することができなければ,地球の未来は暗い.

8月例会 エネルギー基本計画(素案)について

8月例会


日 時:2021年8月28日(土)10:00〜12:00
報 告:「エネルギー基本計画(素案)について」
    報告者:中西正之氏   
発表資料

<報告>

 8月例会では中西氏が日本のエネルギー基本計画(素案)について紹介された.
 日本政府は,遅ればせながら2020年10月26日に「2050年カーボン・ニュートラル」を宣言した.2020年10月13日に開催された第32回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会から第6次エネルギー基本計画の検討が始まり,次の第33回の基本政策分科会(11月17日)で「2050年カーボン・ニュートラルの実現に向けた検討」がなされている.第34回の基本政策分科会(12月18日)では,国立環境研究所,自然エネルギー財団,日本エネルギー経済研究所などの日本のエネルギー問題を研究している団体からのヒアリングが行われた.

 第37回の基本政策分科会(2021年2月24日)では,2030年に向けたエネルギー政策目標について産業界(経団連),中小企業(日商会),労働団体(連合),消費者団体からのヒアリングが行われ,次の第38回の基本政策分科会(2021年3月11日)からは当面の2030年に向けたエネルギー政策のあり方の検討が始まった.第39回の基本政策分科会(3月24日)には,エネルギー供給事業者の電気事業連合会,日本ガス協会,石油連盟や太陽光発電協会,日本風力発電協会などからのヒアリングが行われた.

 第40回と第41回の基本政策分科会では引き続き「2030年に向けたエネルギー政策の在り方」が議論されたが,2030年CO2削減数値は2013年比で26%減とまだ低いものであった.しかし,バイデン米大統領の主催の「気候変動サミット」が4月22, 23日に開催されることになり,その直前に菅首相による地球温暖化対策推進本部の会議が短時間開かれ,環境省のこれまでの調査・検討をベースに,2030年度のCO2削減目標を2013年比で46%減を決めて,4月22日に発表したが,その6日後の4月28日の第42回の基本政策分科会の資料には,このCO2削減目標に整合するデータはないという.そのことは,事務局から説明が行われ,各委員からもCO2削減目標46%はあまりにも大きく,これまでの延長では困難な目標と思われるが,世界に約束した以上,整合性のあるエネルギーミックス数値にする改定が必要ありとの意見が出たという.

 第46回〜第48回の基本政策分科会で「エネルギー基本計画(素案)」が議論され,採択されたが,委員から今回の2030年エネルギーミックス案は2030年温室効果ガス46%減の方針に合わせるための帳尻合わせではないかとの意見も出ているという.実質的な炭素税の採用も見送られている.電源構成で再エネが36〜38%と引き上げられているものの,原子力は20〜22%と変化なく,そして,石炭火力も19%としている.また,石油・天然ガス等の自主開発のさらなる推進が述べられている.

7月例会 トリチウムの転移&玄海乾式貯蔵の問題点

7月例会


日 時:2021年7月31日(土)10:00〜12:00
報 告:①「トリチウム水から生体有機分子へのトリチウムの転移について」
    報告者:三好永作   
発表資料
    ②「玄海原発で計画されている乾式貯蔵の問題点」
    報告者:豊島耕一氏  
発表資料1  発表資料2

<報告>

 はじめに三好は,簡単な有機分子とトリチウム水分子(HTO)の間のH-T交換反応のメカニズムを量子化学計算により調査した以下の論文の内容を報告した.
T. Udagawa and M. Tachikawa, ”Reaction mechanism of hydrogen-tritium exchange reactions between several organic and HTO molecules”, RSC Adv. 8, 3878 (2018).

 一般に化学反応は,反応経路に沿って遷移状態を超えて進行する.遷移状態とは,反応経路に沿ったエネルギーの極大点,すなわち“峠”である(この“峠”は反応経路に沿って複数あることもある).この遷移状態は出発点(反応系)よりエネルギー的に高く,“峠”を超えて化学反応は進行する.出発点からの“峠”の高さを活性化エネルギーといい,これが高いと反応はなかなか進まないが,低ければ反応進みやすい.

 活性化エネルギーが20 kcal/mol以下であれば常温でも反応が起きると言われている.上の論文では,メタン(CH4),エタン(C2H6),エチレン(C2H4),アセトン(CH3COCH3),アセトアルデヒド(CH3CHO),エチルアルコール(C2H5OH),酢酸(CH3COOH)などの簡単な有機分子とトリチウム水分子(HTO)の以下のような化学反応の活性化エネルギーを調べた.

 R-H + HTO → R-T + H2O あるいは R-H + 2HTO → R-T + HTO + H2O

計算された活性化エネルギーは,メタン,エタン,エチレンで51,52,46 kcal/mol,アセトン,アセトアルデヒドで33,33 kcal/mol,エチルアルコールで5 kcal/mol,酢酸で1 kcal/molとなり,メタン,エタン,エチレン,アセトン,アセトアルデヒドは常温ではH-T交換反応が起きることはないが,アルコール性のOH基やカルボキシル基COOHは常温でOTやCOOTに容易に置き換わることが示された.もっとも,その逆反応も同程度に容易に起きることは当然である.

 生体内ではタンパク質のアミノ酸への分解などのように酵素による加水分解反応が頻繁に起こっている.この加水分解反応にトリチウム水分子(HTO)が関われば,本論文とは別の過程でトリチウムが生体内分子に取り込まれることになる.


 次に豊島氏は,九州電力が玄海原発で計画している使用済み燃料の乾式貯蔵についての問題点を報告された.原子力規制委員会は,去る4月28に玄海原発の使用済み燃料の乾式貯蔵施設の敷地内設置を許可し,佐賀県も近々事前了解する可能性が大きいという.

 一般に,乾式貯蔵はプール貯蔵よりも安全とされるが,次のような問題点があるという.① キャスクと呼ばれる保管容器の性能,寿命,安全性などの詳細な検討が必要である.② プールに余裕ができることで野放図に使用済み燃料を増やすことにならないか.③ いったんこの施設が完成すれば玄海原発の敷地に永久保管ということにならないか.

 乾式貯蔵の進んでいる米国では,鉄筋コンクリート製の乾式キャスク(外径3.6 m,高さ5.5 m,重さ180トン)の露天管理が主流となっている.日本では,原子力施設が沿岸立地であるため露天管理は不可能であり,その結果,屋内管理となる.さらに,貯蔵・輸送兼用の金属キャスク(外径2.6 m,重さ120トン)の採用が予定されている(遮蔽材としてエポキシ樹脂が使用されるが,この材料は中性子照射で劣化する).キャスクの価格は米国などに比較して5〜10倍で,寿命は半分程度になるという.これらの計画は全体として「核燃料サイクル」を建前としており,稼働の見通しの立たない六ヶ所村再処理工場への輸送ができないまま,遮蔽能力の欠如したキャスクを抱えて右往左往することになりはしないか.

 なお当初,申請者(九州電力)は「断層は存在しない」としていたが,原子力規制委員会は,「兼用キャスクを設置する地盤に確認される断層は『将来活動する可能性のある断層等』に該当しない」ことを確認したとしている(地層図には使用済燃料乾式貯蔵建屋の直下に断層と思われるものが示されている).しかし,その確認についての明快な説明はない.

6月例会 自民党政府のCOVID-19対策の問題点

6月例会


日 時:2021年7月3日(土)10:00〜12:00
報 告:「自民党政府のCOVID-19(新型コロナ感染症)対策の問題点」
    報告者:森永 徹 氏   
発表資料

<報告>

 森永氏は本題に入る前に,ワクチン摂取後の副反応などのデータの詳細を述べた上で,ワクチン摂取により様々な副反応はあるが,「高齢者や基礎疾患のある人はワクチン接種を受けるべきであろう」と述べられた.その上で,自民党政府のCOVID-19対策の問題点として,①PCR検査の不拡充,②ワクチン調達の遅れ,③水際対策の不備,④危機管理能力の欠如,の4点をあげそれらについて説明された.

 ①については,検査体制の拡充で感染者を早期発見し感染を防ぐことが大切であるが,「PCR検査が受けられない」との訴えがマスコミで報道され感染が拡大していた5月に,厚生労働省はPCR検査拡大に否定的な内部資料を作成し政府中枢に説明していたという(毎日新聞2020.10.11).その背景には,歴代政権下で国立感染症研究所の人員や研究費の減少傾向が,外部有識者が10年前から今回のような感染症流行時に支障を来すとして増員・増額を要望していたにも関わらず,続いていたことと,全国の保健所が半減されたことがあるという.1992年に852カ所あった保健所は2020年4月には469カ所まで減らされた.

 ②については,2020年12月8日に世界で初めてイギリスでファイザーのワクチン摂取が始まり,米国でも同14日に摂取が始まった.日本では欧米に比べて2カ月遅れのスタートとなった.2021年6月29現在で,ワクチン摂取完了状況はイギリス48%,米国46%に比べて日本は10%となっている.③については,現在,成田羽田関西などの国際空港で行われているのは短時間で結果が出る抗原検査だけである.この検査には偽陰性の問題があり,イギリスから帰国した50代の女性が検疫をすり抜けた後に陽性が判明した.日本の「水際対策」の限界が明らかになっている(時事通信2020.12.28).

 ④の危機管理の基本は,起こりうる可能性のあるあらゆる危機に対し,最悪の事態を想定してその対策を構築していくことである.しかし残念ながら,日本では楽観論が支配的であり,この基本が守られていない.いま,日本では感染者数,重傷者数,死亡者数ともにかつてない領域に達しようとしている.政府には,最悪の事態を想定した対応が求められる.


5月例会 アンジー・ゼルター&気候変動とエネルギー

5月例会


日 時:2021年5月29日(土)10:00〜12:00
話 題:①アンジー・ゼルターの新しい本“Activism for Life”の紹介
     —法と説明責任に基づく非暴力直接行動で世論を動かす 
    話題提供:豊島耕一 氏   
発表資料
    ②『世界』6月号の特集「気候変動とエネルギー」の紹介
    話題提供:三好永作 氏   
発表資料

<報告>

 はじめに豊島氏は,アンジー・ゼルター(Angie Zelter)さんの新しい本 “Activism for Life” (Luath Press, 2021)の内容紹介をされた.アンジーさんは「もう一つのノーベル賞」ともいわれるライト・ライブリフッド賞(Right Livlihood Award)[注1]を2001年に受賞している活動家である.英国生まれの彼女は,英国内だけでなくアフリカやアジアを含む世界中で反軍事・反核の平和運動を非暴力直接行動による展開した.“Activism for Life” は,それらの運動を紹介している.

 アンジーさんは大学卒業後,カメルーンでボランティア活動を行い,先進国による支配・収奪を現地で経験し問題は先進国の側にあることを知る.1980年代のロンドンの西80kmにあるグリーナム・コモン空軍基地での反核運動で多くの女性とともに最初の逮捕をされる.ノリッジの北西40kmにある米軍基地のフェンス金網の1本を切って逮捕されることを待つという「スノウボール」キャンペーンでは,50名の地元市民が法廷に溢れ,地元紙はなぜ多数の市民が牢屋に行くことになったのかと核兵器の問題を大きく取り上げた.アンジーさんは2度目の逮捕で1週間拘留された.1991には(カリマンタン島の)サラワクにおける,資本による森林破壊・木材収奪への抗議行動で3ヶ月の拘留を受けた.

 1996年にはインドネシアに輸出される直前のジェット戦闘機の非武器化,すなわち戦闘機の破壊工作を実施した.この戦闘機は東チモールの住民の虐殺に使われることが明白であった.実行の前に1年がかりで計画を練り20分の説明ビデオを作り,関係者に手紙を書き,航空機会社の株主や幹部にも訴えた.これらの準備が功を奏し,6ヶ月後に無罪評決が出された.詳細が岩波『世界』にある[注2].1996年7月の国際司法裁判所の「核兵器は一般的に違法」の決定を契機にトライデント原潜を非武器化する「トライデント・プラウシェアズ」立ち上げる.1999年6月には,アンジーを含む3名の女性がゴイル湖の原潜試験施設「メイタイム」を破壊したが,10月には無罪評決が下された.

 紹介されたのは,原著の前半部分であったが,この本の翻訳を行う予定だという.一年後には,日本語で通読できるのを楽しみに待つことにしよう.

[注1] 環境保護,人権問題,持続可能な開発,健康,平和などの分野にて活躍した人物や団体に授与されることが多いという.
[注2] アンジー・ゼルター「地球市民の責任 東チモールとプラウシェアの平和運動」,『世界』1999 年11月号,pp.120~128.
http://ad9.org/pegasus/peace/sekai9911.html

 次に三好氏は,『世界』6月号の特集「気候変動とエネルギー」の以下の4つ論文を紹介した.
・高村ゆかり「カーボンニュートラルへ日本の課題」
・伊代田昌慶「革新的技術は気候を救うか」
・山家公雄「どうして海外は再エネが普及しているのか」
・飯田哲也「すぐそこにある再エネ社会—誰がこの転換を妨げるのか?」

 高村論文では,2015年以降,世界的に再エネへのエネルギー転換が進行しており,その原因は再エネのコスト低下にあるという.再エネの導入により,エネルギーコストの低減,途上国のエネルギー需要への対応,大気汚染の改善,雇用創出,産業振興などの効果が出てきている.さらに,自治体や企業が脱炭素社会に向かう取り組みを先導している.気候変動問題は,企業にとって「社会貢献」ではなく,企業経営の本業の問題になっているという.気候変動対策の選択肢としての原発は追加的安全対策費などでコスト競争力を失っており,火力発電所の炭素回収・利用・貯蔵技術(CCUS)や,アンモニアや水素を利用した発電などは,コストの見通しはまだ明らかではなく,省エネを進め,再エネの導入を強力に促進し,いま手もとにある技術の普及によりエネルギーシステムの脱炭素化を加速するのが,日本の取るべき戦略であると結論している.

 伊代田論文は,炭素回収・貯留(CCS),炭素回収・利用(CCU),CO2直接回収(DAC),アンモニア発電などの新技術について論じている.CCSについては,今後,その開発が進んだとしても,再エネとの競争に負けて実際には活用されない可能性が高いという.国際的研究者グループ「Climate Action Tracker」のレポートでは「日本の温暖化対策をパリ協定の1.5℃目標と整合させるには、国内の温室効果ガス排出を2030年までに2013年比で60%以上削減する必要がある」としている.求められる「革新的技術」の条件は,経済合理性や環境十全性のほかに安定的運用の見通しがあること,「1.5℃未満」実現に求められるスピードに間に合うことなどがある.しかし,政府が列挙している「革新的技術」には,2030年に実用化や普及が間に合わないものが多い.2030年までの対策強化では,「革新的技術」はあてにせず,対策を着実に進めなければならない.最重要な対策は,省エネと再エネの普及であるという.

 山家論文では,EU諸国で再エネ普及に成功した理由は固定価格買取制度(FIT)の導入だけでなく,再エネに関して「優先接続」「優先給電」「送配電事業者の系統増強義務」を設定して,再エネの新規参入が容易になるようにしたことにあるという.さらに電力自由化,取引市場整備を積極的に進めたことが,再エネ普及に大きな役割を果たしたという.変動する再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy, VRE)である風力や太陽光は天候次第の出力であるため,出力調整が容易な別の電源が重要になる.現状では火力発電や揚水を含む水力発電に依存している.ドイツでは,日市場において短時間商品の投入など,変動する再生可能エネルギー(VRE)の需給調整を支援する仕組みを整えたという.ドイツの再エネ普及には,FITだけでなく系統運用や卸市場革新が大きな役割を果たしている.バイオマス発電や蓄電池を利用し調整力を提供する仮想発電事業(Virtual Power Plant, VPP)が登場している.変動性のためVRE比率の拡大には限界があるとされてきたが,急激に再エネ比率が上がるドイツでは,短時間では100%近い数字も出ている.「EUの北海道」とも呼ばれるアイルランドでは,2030年の再エネ電力比率を年間70%,リアルタイム95%超を宣言している.日本でも同様の目標を設定できるはずという.

 飯田論文では,多くの国際機関では,将来の電力も一次エネルギー源も太陽光発電と風力発電がその中心を担うと予測しはじめているが,日本はこのような流れから取り残されたという.その原因の1つは,太陽光発電などからの買取価格を,国が計画を認定した時点で決まるようなFIT制度にしたことであり(もともとFIT制度は,建設時点で投資回収が可能な固定買取価格を長期間保証し,再エネ普及を促しコストダウンを狙う制度である),もう一つは,電力会社の送電線問題である.初期のFIT法では,再エネ事業への送電線接続を優先する「優先接続」が規定されていたが,2015年の電気事業法改正時に「優先接続」を削除された.その結果,休止原発や将来の石炭火力の接続が優先され,再エネ事業者が後回しにされることになった.若者を含む国民全員が参加して日本の環境エネルギーの選択を行うべきであるとしている.

4月例会 原発事故後10年&脱炭素社会へ

4月例会


日 時:2021年4月24日(土)18:00〜20:00
話 題:①「福島第一原発事故後10年-教訓と課題-」 
    話題提供:岡本良治 氏 発表資料
    ②「2050年カーボンニュートラルにむけてのエネルギー転換とその技術的
     展望」
    話題提供:中西正之 氏 発表資料

<報告>

本例会の内容は,5月9日(日)のJSA福岡支部講演会で講演されたものとほぼ同じものですので,
その報告をご参照ください.



3月例会 原発処理汚染水の海洋放出&原発事故後10年

3月例会


日 時:2021年3月20日(土)10:00〜12:00
話 題:①「福島原発処理汚染水の海洋放出の危険性」 
    話題提供:森永 徹 氏 
発表資料
    ②「福島第一原発事故後10年の節目についての,種々の団体・個人による
     論考・声明についての情報紹介」
    話題提供:岡本良治 氏 
発表資料

<報告>

3月例会については,『日本の科学者』6月号の「科学者つうしん」欄への投稿依頼があったので以下のような原稿を送った.
——————————————
3月20日,福岡核問題研究会では,はじめに森永徹氏から「福島原発処理水海洋放出の危険性」と題して話題提供を頂いた.お話の中心は処理水の中に含まれるトリチウムの健康影響と海洋放出の問題点を明確にすることであった.

トリチウムの健康被害は1970年代から研究され,トリチウムが水として体内に取り込まれればすぐに放出されるが,有機物経由でDNAに取り込まれた場合には放出速度は遅く生体内に溜まり続け,生体濃縮されるという研究が多数ある.

カナダにおいて原発からの距離と植物・食品中のトリチウム濃度が反比例しているという研究もある.さらに,原発から5キロ以内の白血病の有症率がそれ以遠での有症率より増加しているという統計的に有意な結果を示す(ドイツ,英国,スイス,フランスの個別例を総合した)研究があるという.フランスや英国の研究では再処理工場に近づくにしたがい白血病発症の危険度が上昇するという.青森県六ケ所再処理工場では2007年のトリチウム大量放出後に白血病死亡数が増加傾向にある.また,玄海原発を抱える玄海町では,原発稼動後に白血病死亡者が統計学的に有意に増加しているという.

トリチウムは60年間保管すれば,濃度は3.4%にまで減少する.タンクが境界のすぐ外側に設置されれば,スペースの不足を緩和することができるという指摘もあり,問題点の多い海洋放出でない方策をとるべき,と結論された.
残りの時間に,岡本良治氏から原発事故10年の節目における原発に関する種々の論考についての情報紹介があった.        (三好永作・福岡支部)
——————————————

依頼原稿の字数制限のため,岡本報告の内容については何も触れることができなかったので,ここでは簡単に補足する.同氏は13の論考・声明を紹介された.NHKの水野解説委員による時論公論「原発事故10年 原子力政策抜本見直しを」(注1)やNature社説の” Nuclear technology’s role in the world’s energy supply is shrinking”(注2)は原発の現状に対する冷静な判断をしている.また,Bulletin of the Atomic Scientists誌,3月号に掲載されたM. Budjeryn, J. Tateno, W. Tobeyによる3つの論文(注3)も注目に値する.

(注1)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/444643.html
(注2)
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00615-w
(注3)
https://thebulletin.org/2021-03/ から著者名をサーチすれば論文にたどりつく.



2月例会 歌川学氏の講演

2月例会


日 時:2021年2月27日(土)10:00〜12:00
講 演:「日本の2050年CO2排出ゼロ対策について」 
講演者:歌川 学 氏(産業技術総合研究所)   
発表資料
要 旨:
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5度特別報告書」で,気候変動の悪影響を小さく抑える気温上昇1.5度抑制のために世界の2050年CO2排出を実質ゼロにする排出経路が示された.日本でこれに従った排出許容量を紹介する.また,2050年排出ゼロにする対策シナリオについて,今の技術で行う範囲,新技術で行う範囲に分け,今の技術でできる範囲が大きいことを報告する.

なお,歌川氏には,講演の内容に関連した以下の論文や書籍があります.
① 「IPCC 1.5℃特別報告と,産業革命前比気温上昇1.5℃未満制御のための日本のCO2排出削減」『日本の科学者』2020年9月号,p28-33.
②『スマート省エネー低炭素エネルギー社会への転換』(東洋書店,2015年).

研究会の動画(約2時間)



<報告>

2月例会では,筑波の産業技術総合研究所(産総研)で再生可能エネルギー政策やエネルギー・環境領域についての研究をされている歌川学氏に「日本の2050年CO2排出ゼロ対策について」と題した講演をしていただいた.これまでであれば,福岡で講演していただくためには少なくとも数万円の交通費を工面しなければならないところであったが,オンライン会議が常態化した今では,その心配もなく依頼し,即座にオンライン講演会を快諾いただいた.

歌川氏は,まず最近,日本でも多発している異常気象に言及された後,「2030年から2050年の間に平均気温の上昇は1.5℃に至る可能性が高い」との国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5℃特別報告書」(2018年)を紹介され,これからの5〜10年の対策が重要であることを強調された.同報告書によれば,産業革命前に比べて1.5℃上昇に抑えるためには2050年でのCO2排出ゼロが必要という.

「2050年CO2排出実質ゼロ宣言」は世界120カ国におよび,昨年10月には日本でも遅ればせながら菅首相が表明した.日本において「2050年CO2排出実質ゼロ」声明をしたのは東京都や福岡市をはじめ277自治体におよび,その人口は1億にせまるという.しかし,2050年に向けた技術的対策の具体的な道筋を明らかにしている自治体は長野県や東京都など多くはないとのことである.長野県の2050年に向けたロードマップでは,最終エネルギー消費量を現状から7割削減し,再生可能エネルギー生産量を3倍にすることでゼロカーボンの達成が可能という.

日本のCO2排出ゼロシナリオについて,歌川氏の独自の分析を紹介いただいた.省エネ対策として,2030年までは,産業・業務・家庭では省エネ設備を更新するとともにビルや住宅の更新時に断熱建築を普及させ,運輸については燃費の良いものに転換し一部電気自動車化を想定する.2050年までは,産業では低温熱(100℃)利用の一部と中温熱(100℃〜200℃)利用の電化し,業務・家庭ではゼロエミッションビル・住宅を普及して,運輸では全て電気自動車化を想定している.原発やCO2回収・貯蔵および利用,気候工学(climate geoengineering)などは使わず,森林によるCO2吸収も計算に入れていない.

以上の想定のもとで既存の対策技術のみを使い,経済の活動量中位ケースでは,エネルギー期限のCO2排出量は2030年には2010年比で60%以上削減でき,2050年には96%削減できる.経済をいまの大量生産のまま継続する場合でも2050年には90%削減できるという.残りの4%〜10%を今後新たに開発される技術を使って削減すれば,2050年にCO2排出ゼロができるという.いま商業化されている有料技術によりCO2排出量のほとんどが削減できるというのは,大いに希望の持てる結論であった.

1時間の講演のあとにたくさんの質問が出されたが,歌川氏はそれらの一つひとつに丁寧に答えられていた.上の「研究会の動画」に講演とともにこれらの質疑応答も含めた動画(約2時間)があるので参照されたい.

1月例会 カーボンニュートラルにおけるアンモニアと水素

1月例会


日時:2021年1月30日(土)10:00〜12:00
話題:「カーボンニュートラルにおけるアンモニアと水素」 
   話題提供:中西正之 氏   
発表資料

<報告>

 1月例会では,中西氏に2050年カーボンニュートラルのためのエネルギー源として水素とアンモニアについての技術的な問題についての報告をいただいた.

 2020年6月にドイツは「水素戦略」を発表し,世界の気候目標を達成するために水素を未来のエネルギー源とする技術の分野で先駆的な役割を果たすとした.ここでは,再生可能エネルギー由来「グリーン水素」の利活用に力点が置かれ,再生可能エネルギーの貯蔵やエネルギー集約型産業での利用,産業用原料としての利用拡大も取り組まれているという.

 日本においても,2020年12月に開催された第6回成長戦略会議では,2050年カーボンニュートラルにともなうグリーン成長戦略が発表された.そこには,2050年に2000万トン程度の水素をエネルギー源として目指すと説明されている.これは100万kW原発67基分の一年間の発電量に相当するという.

 しかし,液体水素(水素の沸点は-253℃)の運搬や貯蔵のインフラは日本では十分ではないことから,水素(H2)と空気中の窒素(N2)からハーバー・ボッシュ法などで比較的簡単に生成されるアンモニア(NH3)が注目されている.アンモニアは液化しやすく(20℃で約8.5気圧に加圧すると液化する),古くから化学肥料などの原料として生産されているので流通などのインフラは日本でも整備されている.これまでもアンモニアは水素貯蔵の一つとして研究されてきた.アンモニアは400℃近くまで加熱して適当な触媒を使えば次の吸熱反応で水素を生成する.
   2NH3 → 3H2 + N2

 水素やアンモニアをエネルギー源とした発電に対する課題として,①発電技術の開発(水素のみで燃焼させるときは,逆火を防ぐとともに高い発電効率を達成するために,安定的な燃焼性を確保する燃焼器を開発する必要があり,アンモニア発電においてもNOxの発生制御や安定的な燃焼を確保する技術開発が必要)とともに,②安価で大規模な水素やアンモニアの調達(年間2000万トンの水素確保が必要.安価で大量の水素を国内で調達できない場合,海外からの輸入)が必要という.

12月例会 脱炭素社会の実現に原発は必要か

12月例会


日時:2020年12月26日(土)16:00〜18:00
話題:「脱炭素社会の実現に原発を使うべきか,必要か」 
   話題提供:岡本良治 氏   
発表資料


<報告>

 12月例会では,岡本氏に脱炭素社会の実現に向けての原発は必要であるのかまたは必要でないのかという問題に焦点を当てた報告をいただいた.

 最近,欧米を中心に,地球温暖化の段階は「気候変動(climate change)」から「気候危機(climate crisis)」に移行しつつあるという認識が科学者集団や先進的メディア,政界,地方自治体にも広がっている.そのようなかで日本では,経産省・資源エネルギー庁主導で「原発ゼロエミッション」論が新たな装いで再登場している.一方では,原発反対勢力の一部は気候変動人為起源説に依然として懐疑的である.

 菅首相は2020年10月に遅ればせながら「2050年カーボンニュートラル,脱炭素社会の実現を目指すこと」を臨時国会で宣言した.朝日新聞によると,非電力では動力源を水素や合成燃料に変えるとともにエネルギー源を電気にしたり,電力では再生可能エネルギーを5〜6割,水素,アンモニアで1割,残りは原発とCO2を回収・貯蔵・再利用する火力発電でまかなうことを検討しているという.

 岡本氏は,気候危機を克服するための時間的余裕はそれほどないとの認識のもとに,4つの戦略(①エネルギー消費の削減,②エネルギー供給と消費の高効率化,③再生可能エネルギーの主力電源化,④不足分を補完するエネルギー源)を提起され,「脱炭素社会の実現に原発は必要か?」との問いに「脱炭素社会の実現に原発を使うべきではない」と結論された.しかし,「2020年12月現時点では,気候ティッピング・エレメントとティッピング・ポイントの始まりなど,危機的気候発生の頻度,強度,規模により,価格を度外視しても緊急に原発が必要となる事態がないとは断言できない」と慎重な言い回しをされた.議論の中では,原発は補完電源としても考えなくてもよいのではとの意見が出された.

 なお,例会の終了後,各自お好みの飲み物とツマミをパソコンの前に持ち寄り,コロナ感染の恐れのない状況で,自分の飲み物を愛でながら,オンライン飲み会に花が咲いた.

11月例会 不妊治療問題&トリチウム汚染水問題

11月例会


日時:2020年11月28日(土)10:00〜12:00
話題:(1)「不妊治療の保険適用が抱える課題について」 
      話題提供:伊佐智子 氏   
発表資料
   (2)「トリチウム汚染水放出問題について」
      話題提供:豊島耕一 氏   
発表資料

<報告>

 11月例会では,はじめに核問題研究会としては大変珍しい,不妊治療に関わる話題を伊佐智子氏に報告いただいた.日本における現在の少子化は,男女ともに未婚率の増加や晩婚化とともに婚姻件数の減少,第一子出産年齢の上昇,夫婦の持つ子ども数の減少などに付随して生じている.2015年には夫婦の持つ子ども数は平均2人を下回り,1.94人となっている.夫婦が望む子ども数
を持たない理由として,「子育てや教育にお金がかかりすぎる」(60%),「高年齢で産むのは嫌だから」(35%)などとともに「欲しいけれどもできないから」(19%)などがあげられており,不妊問題は少子化問題の一つの要因となっているという.
 不妊治療では排卵誘発剤が使われるが,不妊の原因によっては体外受精や顕微授精が行われることになる.これらを特定不妊治療と呼び,高額な治療費となるため特定不妊治療助成事業がある.2018年に体外受精や顕微授精で出生した数は約5万7千人と約4千人であったが,高年女性の不妊治療の増加によりハイリスク妊娠・出産が増えているという.
 また不妊治療では,患者側に情報提供も十分でなく,治療によって死亡した女性の実態も不明であるという.不妊治療で有名な,北九州市のある産婦人科医院において,卵管に空気を送り込む「通気検査」受けている間に容体が急変し死亡したという.2020年4月に福岡県警が院長ら3人を書類送検するまで公表されていなかった.略式起訴され簡易裁判所において業務上過失で有罪になり罰金刑が課せられたという.

 次に,核問題研究会の通常の話題である,東電の福島第一原発に関連したトリチウム汚染水の放出問題を豊島耕一氏に報告いただいた.福島第一原発では汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む水が増え続け,敷地内のタンクにはおよそ123万トンがたまり,その扱いが課題となっている.これについて専門家でつくる小委員会では基準を下回る濃度に薄めて海か大気中に放出するのが現実的であるとする報告書をまとめている.これに対する書面による意見募集が行われたが,安全性への懸念や合意プロセスへの懸念が多数出されているという.
 豊島氏は,トリチウム汚染水を海や大気中に放出するべきでないと以下の理由を挙げて述べられた.第一には,トリチウムの生体への影響が十分に解明されているとはいえない.トリチウムは化学的には水素原子と同じ性質をもち,それが生体内の重要分子に取り込まれた場合,放出されるベータ線が低エネルギーであるため,その分子の近傍の狭い範囲に多量のイオン対を生成させる.同時に核転移効果が起きて「2ヒット効果」(注1)による被害の可能性がある.トリチウムの放出する放射線はエネルギーが低いので軽視されているがそうとも言えないことがあるのだという.第二に,放出しないですむ合理的方法があるので,国際放射線防護委員会(ICRP)のALARAの原則(注2)に違反するということである.第三に,法規制の基準値は,これほど大量の放射性物質の放出を想定して作られたものではないという.第四に,トリチウムを大量に放出している原発のサイトで,白血病などの健康被害が疑われる事例が日本を含め世界中であるという.

(注1)この場合,放射線被害のある場所で同時にトリチウムがヘリウムに変化することで化学結合の変化が起きることをさす.
(注2)放射線の被ばく被害は,「合理的に達成可能な限り低く」を意味する英語(As Low As Reasonably Achievable)の頭文字で放射線防護の原則である.

10月例会 第6次エネルギー基本計画について

10月例会


日時:2020年10月31日(土)17:00〜19:00
話題:第6次エネルギー基本計画について
   (話題提供:中西正之氏)  
発表資料

<報告>

 2021年夏に策定予定の第6次エネルギー基本計画(以下,「基本計画」)についての本格的議論が始まっており,中西正之氏がこの基本計画について経産省などの動きを詳細に報告された.
 本年10月13日に,経産省の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で「基本計画」についての議論が始まった.会合では,再生エネルギーの活用のみならず,水素やカーボンリサイクルの技術の活用のほかにも,「原子力の活用を明確にするべき」として国民の信頼を深めて,原発の稼働基数を増やさなければならないとの意見が多いという.
 10月14日には,経産省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の主催で「水素閣僚会議特別イベント」が開催され,水素社会構築に向けた世界の気運の維持拡大に向けて,水素製造や利活用に向けた取組を共有し,脱炭素化における水素の役割や技術開発などが議論されたという.その中でJERA(東京電力と中部電力の関連事業の統合会社)が2050年にCO2排出量実質ゼロ目標を発表し,主力の火力電力の燃料をCO2フリーのアンモニアに転換していくという報告があったという.この技術の実現可能性は,企業の発表であるので未知数であるが,窒素酸化物の除去を含めた安全な技術が開発されれば,有望なものになるのかもしれない.
 そのような中で,10月26日に所信表明演説において,菅首相は遅きに失したとはいえ,国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した.しかし,この方針にはしっかりした技術的な対策が具体的に存在している訳ではないようである.いずれにせよ,日本が取るべき気候危機対策のためには,2021年夏に策定される「基本計画」の検討が重要であることは間違いない.
 9月例会でもあったように,第48回IPCC総会で承認された「1.5℃特別報告書」では,2℃上昇と比較して1.5℃上昇の場合は熱波や豪雨の極端現象が少なくなり,穀類の生産量減少の割合が少なくなるなど大きな違いがあることが明らかにされている.気温上昇を1.5℃に抑えるためには,2050年までに「実質ゼロ」とするだけでなく,これからの10年の対策により2030年までにCO2排出量を劇的に減らすことが大切であろう.

9月例会 最近の気候変動に関する動向

9月例会


日時:2020年9月26日(土)10:00〜12:00
話題:最近の気候変動に関する動向
   (話題提供:三好永作)  
発表資料

<報告>

会誌『日本の科学者』9月号の「待ったなし,気候危機を回避するために」の特集論文4報と関連論文・資料の紹介を中心に報告した.

これまで国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は5回にわたって出されてきた.1次報告書(1990 年)では「人為起源の温室効果ガスは気候変化を生じさせる恐れがある」といくらか曖昧な表現であったが,3次報告書(2001 年)では「可能性が高い(66%以上)」,4次報告書(2007 年)では「可能性が非常に高い(90%以上)」,5次報告書(2013 年)では「可能性が極めて高い(95%以上)」と最近の気温上昇が人為起源であると,科学的根拠が次第に高められていった.2015 年の「パリ協定」では,気温上昇を2℃以内にするという「2℃目標」が示され,「1.5℃目標」はできれば追求するべしという程度であった.それが,第48 回IPCC 総会で承認された「1.5℃特別報告書」では,2℃上昇と比較して1.5℃上昇の場合は熱波や豪雨の極端現象が少なくなり,穀類の生産量減少の割合が少なくなるなど大きな違いがあることが明らかにされている.

現在の地球表面の気温は産業革命以前より約1℃上昇しており,現在の速度で温暖化が進めば2030 年から2052 年の間に気温上昇は1.5℃に達する可能性が高い.気温上昇を1.5℃に抑えるためには,CO2 排出量を2030 年までに45%削減し,2050 年頃までにはほぼ「正味ゼロ」にする必要があり,これまでにないスケールでの排出量の削減や様々な技術の採用が必要となる(大気中からCO2 を除去することを始める必要もあろう).

気温上昇を1.5℃に抑えるためには,これまでの各国の約束だけでは不十分で,CO2 排出削減を図る今後10 年の対策が重要である.2019 年9 月の国連気候行動サミット(ニューヨーク)で119ヵ国とEU が2050 年までにCO2 排出実質ゼロを宣言し,100 ヵ国以上が目標引き上げを宣言したが,CO2 排出量の57%をしめる5 ヵ国(中国,米国,インド,ロシア,日本)は目標の再提示もしなかった.日本の温室効果ガス削減目標は,2013 年比で2030 年に26%減(パリ協定で基準にされている1990 年比では18%減),2050 年に80%減(同55%減)であり,今も変わらない.歌川論文における日本の排出削減シナリオの試算では,2050 年にCO2 排出量は1990 年比で90〜96%の削減が技術的に可能であるという.

たった一人で党派を超えて取り組んだ出口幹郎著「明石市の気候非常事態宣言」(p.19-25),ケンジ・ステファン・スズキ著「デンマークの気候法」(p.26-27)および編集部によるアンケートに対する「気候危機回避のための各政党政策」(p.48-56)も簡単に報告した.

8月例会 新型コロナ感染症に関する最新情報

8月例会


日時:2020年8月29日(土)10:00〜12:00
話題:新型コロナ感染症 COVID-19 に関する最新情報
   (話題提供:森永 徹氏)  
発表資料

<報告>

本例会については,会誌『日本の科学者』12 月号の「科学者つうしん」欄への寄稿を要請され以下の原稿(22 字×31 行)を作成したので,それを例会報告とする.

福岡核問題研究会は,8 月29 日,オンライン研究会を開催し,森永徹氏に標題の話題提供をしていただいた.ホットな話題であったこともあり,いつもより多めの11 名の参加者があった.COVID-19 に関連する論文数は指数関数的に増加しており,2020 年の7 月分だけで2 万本を超えたと言われているという.それらの最新の論文をもとにして,森永氏はCOVID-19 の感染者数と致死率,症状,後遺症,感染経路,潜伏期間,感染可能期間,検査法,未知の要因(ファクター
X),感染防止などについて詳細に報告された.

COVID-19 患者の80 数%は発熱し,約半数は味覚を変化させる.COVID-19 の死亡率はSARS(約11%)やMERS(約35%)に比較して低く約2%であるが急速に蔓延した.後遺症として,睡眠障害の他に不安感や恐怖感などの心理的機能障害を起こす例が60%前後あった.唾液検体による検査は,検体採取が簡単で医療従事者への感染防止となるだけでなく,検出感度も高く優れている,などさまざまな事例が報告された.また,免疫能は加齢とともに低下し,易感染性や発癌
の原因となるが,適度な運動をすることで免疫力をあげることができると紹介があった.具体的に名前を挙げ紹介された原著論文は50 報にわたった.

最後に,マスクの粒子捕集効果についての奥田知明教授(慶應大)の実験結果(ネット上に動画あり)を紹介された.サージカルマスクに比べて,アベノマスクはそのままで使うと20 数%しか捕集できないが,キッチンペーパーを4重にはさんで使用するとサージカルマスクと同等の粒子捕集効果があるという.
                         (福岡支部,三好永作)

7月例会 ドイツの「国家水素戦略」

7月例会


日時:2020年7月18日(土)10:00〜12:00
話題:ドイツの「国家水素戦略」
   (話題提供:中西正之氏)  
発表資料a  発表資料b

<報告>

 中西氏は,2020年6月に発表されたドイツの「国家水素戦略」(Nationale Wasserstoffstrategie)(ドイツ語で29ページの文書)の概略について報告された.ドイツの連邦経済エネルギー省のアルトマイヤー大臣は「水素戦略により,ドイツが水素技術で世界一になるための道筋が示された.水素はエネルギー転換を成功させるための重要な原料であり,未来のエネルギー源として,世界中の気候目標の達成に重要な貢献をする.ドイツはこの分野で先駆的な役割を果たすことになる」と語ったという.ドイツは経済の非炭素化を進めるために,水素エネルギー関連技術の先進国になるという目標を打ち出したことになる.CO2を大量に発生する石炭火力発電を太陽光発電や風力発電で置き換えるのは比較的容易であるが,電力生産以外のプロセスから発生するCO2を大幅に削減することはそれほど簡単ではない.水素H2は様々な化学プロセスや工業プロセスに不可欠で,例えばアンモニアの製造に必要であるが,その水素はほとんどが化石燃料から製造され,その時に大幅のCO2を大気中に放出することになる(この製法による水素を「グレイ水素」という).ドイツは,再生可能エネルギーの余剰電力を利用して水の電気分解により,CO2を放出することなしに水素を作ることを考えている.このような水素を「グリーン水素」と呼ぶ.この「グリーン水素」をアンモニア製造だけでなく,製鉄所などにも使い,また,トラック,船舶,飛行機などのエネルギー源として使用することを計画している.「グリーン水素」を余剰CO2と反応させ液体燃料(合成石油)を作る計画も進んでいるという.余剰CO2は空気中から供給できるので,この合成石油はバイオマスと同様にカーボンニュートラルということができる.
 ドイツの「国家水素戦略」は2050年までのパリ協定の目標を達成するための1つの意欲的なプランであるように思うが,エネルギー効率や経済性,また「グリーン水素」の製造がドイツ国内だけでは足りず輸入に頼ることを想定するなど不透明な部分もあり,はっきりしない面もある.しかし,超々臨界圧発電方式の石炭火力の増設をも考えている日本とは大きな差がある.日本が2050年のパリ協定の目標を実現するための政策を考える上でも「国家水素戦略」は重要な資料であるかもしれない.

6月例会b 米軍基地から流出した有機フッ素化合物

6月例会b


日時:2020年6月20日(土)18:00〜20:00
話題:米軍基地から流失したと思われる有機フッ素化合物
   (話題提供:森永徹氏)  
発表資料

3月に予定していた例会をコロナ禍の中で中止・延期していたが,オンラインで研究会を開催した.

<報告>

今年の1月,米軍の横田基地周辺の井戸から高濃度の有機フッ素化合物(PFOS, PFOA)が検出された.横田基地は立川市や武蔵村山市などに隣接する.PFOSと PFOAは,人の健康や環境への悪影響を及ぼす残留性有機汚染物質として国際的に認知されている.横田基地では長年にわたり泡消火剤が消火訓練に使われてきており,これらの有機フッ素化合物は泡消火剤に含まれた基地由来のものではないかと疑われている.一方,「琉球新報」によれば沖縄の米軍嘉手納基地周辺での水質調査でも高濃度の有機フッ素化合物が検出されている(2019年4月).これについても基地由来のものとの考えられている.PFOSと PFOAは,それぞれ,2009年,2019年に製造および使用の禁止が決議されている.これらの有機フッ素化合物に高濃度に暴露されることにより,発がんの増加傾向があり,小児の健康にも悪影響があることがさまざまに報告されている.「米軍基地内も日本側が調査できるような体制を取り,国民の健康を守ることが必要」とまとめられた.

なお,話題終了後,「オンライン飲み会」を行った.各自,飲み物と好みのつまみをパソコンの前に置いて,近況を語り合った.費用的には極めて安い「飲み会」であったが,議論はそれなりに盛り上がった.

6月例会a 原子炉級プルトニウムと核兵器

6月例会a


日時:2020年6月6日(土)10:00〜12:30
話題:原子炉級プルトニウムと核兵器
   (話題提供:岡本良治氏)  
発表資料

3月に予定していた例会をコロナ禍の中で中止・延期していたが,6月6日(土)にオンラインでZoomを使って福岡核問題研究会を開いた.

<報告>

岡本氏はA4版44ページにわたるノート「原子炉級プルトニウムと核兵器」を書き上げておられる.そのノートに基づいたお話をなされた.2019年現在,原子炉の使用済み核燃料から抽出されたプルトニウム(原子炉級プルトニウム)で日本が保有する量は45.7トンであり,長崎原爆で使用された量8 kgでわると,約6000発相当になるという.「原子炉級プルトニウムで核兵器ができるかどうか」という問題に関して科学的・技術的に詳細に報告された.日本原子力研究開発機構が運営する原子力百科事典では「原子炉級プルトニウムは原子炉の燃料としては使用できるが,原子爆弾の原料には適していない」とある.原子炉級プルトニウムで核兵器を作る上での問題点は,自発核分裂が起こり易いプルトニウム240が多く含まれるため,意図しない核分裂連鎖反応による事前爆発(過早爆発)が起こることである.これを避けるため,マンハッタン計画では爆縮型の原爆(長崎原爆)を作った.岡本氏によれば,長崎原爆は旧式のものであり,長崎原爆の爆縮型の構造をそのまま踏襲した核兵器は現在の核兵器国ではないという.①爆縮時間の短縮や②ブースター効果(重水素と三重水素の核融合を利用することで核分裂の高速化・高効率化を図る仕組み)を使うことで,原子炉級プルトニウムでも兵器級プルトニウムと変わらない程度に過早爆発の確率を低く抑えることが可能であるとのことであった.

なお,岡本氏はA4版44ページにわたるノート「原子炉級プルトニウムと核兵器(加筆修正版)」を以下のサイトに公開されている.
http://rokamoto.sakura.ne.jp/fukushima/reactor-grade-Pu-and-nuclear-weapon-note.pdf

玄海原発の設置変更許可処分の再考を求める意見書

玄海原発の設置変更許可処分の再考(取消し)を求める意見書


2020年3月25日,福岡核問題研究会メンバーが原子力規制庁において玄海原発3・4号機再稼働許可に対する意見書を原子力規制庁に提出しました.

玄海原発の設置変更許可処分の再考を求める意見書」のpdfファイル


玄海原発の設置変更許可処分の再考(取消し)を求める意見書


2020年(令和2年)3月25日
審査請求人 総代 三好 永作
豊島 耕一
北岡 逸人

1.口頭意見陳述会について
 2月7日に原子力規制庁で口頭意見陳述会が開催されました.審査請求人は審査庁(原子力規制委員会の審理担当者等)の窓口担当者と何度も協議を重ねて準備して口頭意見陳述会に参加しました.
 しかし,1月24日にメールで窓口担当者が変わると前任者から連絡があり,口頭意見陳述会の準備を進めている最中で,急に担当者が変わりました.
 そもそも,約3年前の2017年4月17日付けで審査請求が受理されて以来,これで4度目の窓口担当者の変更でした.人事異動があるのは当然としても,あまりに多い頻度の変更で,その度に引継不足の尻拭いで大変でした.
 これほど担当者が変わるのが,行政不服審査法に基づく審査請求を軽視した結果ではなく,原子力発電所等の設置変更許可等の申請に関する審査でも同様なら,原子力規制委員会がまともに審査出来ているのか懸念されます.
 例えば,口頭意見陳述会でプロジェクターが使用出来ず,配布資料を準備していませんでした.引継の問題でそれらの準備の必要性が失念されていました.
 また,陳述人がプロジェクターを使えない事が分かった後に,配布資料も印刷されていない問題を危惧して担当者に連絡しました.担当者が不在だったため,他の複数の職員に伝言を頼みましたが,結局担当者に伝わりませんでした.
 それで,会場に着いてから配布資料が無い事が判明し,事情を担当者に話し,急遽印刷して頂き開始時間を少し遅らせて口頭意見陳述会が始まりました.
 陳述人はプロジェクターを前提に準備したので,配布資料だけでは効果的な説明が出来ませんでした(ポイントを指しての説明や動きのある絵の使用等).
 上記の様な原子力規制庁のドタバタや事務手続の問題を何度も体験すると,原子力規制という重大な使命を担う能力に関わる,事業者等との事務的連絡に重大な問題が生じている事が懸念されます.
 審査等は非常に長期間に及ぶものであり,その間に担当者が何度も変われば,重大な問題・課題についても引継の問題で,うやむやになった恐れがあります(その事に気付いた事業者が,正直に引継不足を指摘してくれたでしょうか?).
 勿論,審査請求の担当者だけが何度も変更しているならば,それも大問題で,原子力規制委員会は事業者以外の声を聞く気がない事の表れだと思われます.
批判的な意見を避けていれば,原子力安全・保安院の二の舞で次なる大事故を招きます.審査等の問題・欠陥に関する意見・疑問を良く確認・再考・説明し,原子力規制委員会の判断・対応を組織的・積極的に省みる事が必要だからです.

2.弁明書などの問題について
 原子力規制委員会は行政不服審査法の関連条文を引用して審査書を弁明書に代用する事を正当化しています.それは,行政不服審査法を所管する総務省の見解と異なるもので,総務省担当者の想定外の事態で,総務省が作成した審査マニュアルの無視です.
救済制度としての審査請求の趣旨を理解しないか無視して,形だけの対応で原子力規制委員会にとって得難い機会を無駄にしていないでしょうか?
 それというのも,原子力規制は主に原子力利用で利益を上げている事業者や,その擁護者等と接する必要がある職務だからです.事業者が積極的に問題点を説明するより,隠ぺいしたり誤魔化したりした事例・事件が多くあるためです.
よって,原子力規制の健全性・中立性・専門性を高水準で維持するためには,組織的・積極的に批判的な意見も良く聞いて活用する事が不可欠と思われます.
 そのために,審査請求書で審査請求人が指摘した審査書の問題等に,弁明書で具体的に反論・弁明する事が重要でした.原子力規制委員会が審査書案に対する意見募集で示した考え方の様に,弁明書に記載すれば良かったと思われます.
 そこで,弁明書に審査請求人の指摘に対する考え方を示せば,それに対して(上記の意見募集の時と違い)審査請求人が反論書を出す事が予想されます.そうした,処分庁と審査請求人との応酬により,論点が明確になり問題の有無・程度も判明する事が期待できます.それこそが,行政不服審査法を改正した目的の1つで,弁明書と反論書という手続を追加した意義です.更に,口頭意見陳述会で質問の機会を設けたのも,同様の理由で審査請求の審理を充実させる意義があります.
 しかし,(原子力規制委員会が異議申立ての口頭意見陳述会で確保した3時間以上の時間を前提に)質問の時間も余計にいるためそれに応じた時間の開催時間を求める陳述人の要望に反して,口頭意見陳述会は1時間半と非常に短いものでした.
実際,1時間半で審査請求の多種多様な理由を具体的に十分に説明する事は,全ての疑問について質問する事は出来ませんでした.そのため,後日,事故対応要員の人数・内訳等や,ウイルス感染症対策について審査したのか確認しても,「更なる質問の必要性を認めません」とメールで連絡があっただけでした.
 他にも,(口頭意見陳述会の時に担当者に聞いて知った),原子力規制委員会にはセキュリティ上の制限で閲覧出来ないインターネットのページがあり,資料をダウンロード出来ない場合もある事が知らされていなかった問題もあります.
 審査請求書等に資料元の多数のリンクを掲載しているのに,それが閲覧不可でも審査請求人に知らせない事は,誠実で積極的な対応ではないと思われます.
 審査請求後に手続開始の連絡が来るまで2年以上も要した事も,法律改正で求められた迅速な対応とは言い難く,既に玄海原発は稼働してしまいました.
 以上,原子力規制委員会は審査請求の対応を改め,弁明書や口頭意見陳述会等に積極的に臨み,審査請求人の疑問等に十分答えるなどの改善が必要だと思われます.

3.原子力防災の有効性が全く検証されていない問題について
 審査書で住民に対する原子力防災の有効性が全く検証されていない問題を指摘し,口頭意見陳述会においてもさらにこれを問いましたが,「審査書(案)に対する御意見への考え方」の回答においても(注1),また今回の意見陳述会においても,「許可処分の対象外」との原子力規制委員会の回答でした.また前者「御意見への考え方」の回答では「原子力防災については,原子力災害対策特別措置法に基づき,対策が講じられます」と付け加えられています.
 なるほど今回の審査書が対象とすべきものを規定する「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」四十三条の三の六に,原子力防災の有効性は含まれていません.では,対策が講じられるとされる「原子力災害対策特別措置法」ではどうかといえば,不完全な原子力防災体制では原発稼働を止めさせるということを可能にする条項があるわけではありません.
意見陳述会を受けての回答でも,この問題への原子力規制委員会の関与は,事務的手続きや省庁間の調整に止まるようです.つまり,住民避難の体制が不十分な場合でも,原発の停止などの措置は想定されていません.
 しかし,防災体制の有効性を相当程度のレベルで確認しないまま(もちろん「万全」は不可能),原発の稼働が正当化されないのは自明です.つまり,形式上この状態を許容してしまうことになる,これらの2つの法律は,実務面を規定する条文だけでは不完全であることになります.そうであれば,原子力規制委員会はその設置目的−なんども繰り返しますが設置法3条の「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全」−に立ち返って,またこれを根拠に,必要な規制をすべきで,適合性審査にも反映されるべきです.もし原子力規制委員会が単なる機械的な条文適用のロボット,あるいはAIでないのならばそうあるべきです.
(注1)審査書案 別紙1の1ページ

4.通常運転時の健康被害について全く検討していない問題について
 通常運転時の原発から環境に放出される放射能による健康被害の問題については,審査書でも「御意見への考え方」への回答でも触れられていません.また,口頭意見陳述会における請求人(豊島)の意見に対しても,許可処分の対象外との回答でした.
しかし,該当する条文である第四十三条の三の六の第一項四号には,「核燃料物質によって汚染された物」が「原子力規制委員会規則で定める基準に適合する」ことを求めていると考えられます(ちなみにこの条文は解読が極めて困難).
 また,原子炉設置の当初に求められる条件には,第四十三条の三の五の第二項九号において,「発電用原子炉施設における放射線の管理に関する事項」が挙げられています(ここで「放射線」には放射性物質も当然含まれると解釈すべきです).
 これらのことは,通常運転時の原発から環境に放出される放射能の影響に関する問題が今回の審査書の対象外ではあり得ないことを示すものです.しかもこれは設置法3条が規定する原子力規制委員会の目的「国民の生命,健康」の保全に直接に関わるものです.
よってこの問題を無視した審査書は不当です.

5.模擬弾の落下について
 原子力規制委員会(処分庁)は口頭意見陳述会で「玄海3,4号の審査において,模擬弾の落下については審査していません.飛来物として,航空機落下については,「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率の評価について(平成14・07・29原院第4号)」等に基づき,最新の航路,飛行実績等の情報を踏まえて航空機落下確率を評価した結果,防護設計の要否判断の基準である10-7回/炉・年を超えないため,設計上考慮する必要はないとしていることは合理性があると判断しています.」と回答しました.
 しかし,この回答には明確で重大な論理矛盾があります.上記で「落下確率の評価」結果を基に考慮することは合理的と判断していますが,これは完全に間違いです.その評価は航空機の落下は想定していても,審査請求人が問題とする模擬弾の落下は全くの想定外だからです.模擬弾の落下は実際に青森県で起きた事です.しかも,六カ所村の使用済み核燃料の再処理工場に近い場所で起きた重大な問題です.
 航空機が落下しても構造的に機体がつぶれて衝撃を吸収するため,建屋等の破壊が緩和される可能性がありえますが,コンクリート塊の模擬弾なら別です.重量も数百キロある様なので,建屋等に激突すれば貫通する可能性があります.
 よって,米軍と自衛隊の戦闘機等の模擬弾について確認し,模擬弾を含む落下確率を再評価して審査するのでなければ,とても合理性があるとは言えません.
 実際に模擬弾が落ちているのに,(その事を考慮すれば航空機等の落下確率は増加して,10-7回/炉・年を超過する恐れがあるのに)その事を考慮せずに評価した結果で審査した許可処分は,不合理な判断に基づいており不当です.
加えて,危険な落下物(模擬弾)について審査しない許可処分は,事故防止に最善・最大の努力をしている判断とは言えません.よって「原子力利用における事故の発生を常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力」を求める,原子力規制委員会設置法に違反しています.

6.水蒸気爆発について
6.1 水蒸気爆発による格納容器への影響評価について
 口頭意見陳述会で水蒸気爆発について質問したところ,「水蒸気爆発に関しては,格納容器の破損防止対策として考慮する必要があるかどうかという観点で我々は審査をしています.従いまして,格納容器破損,要は,格納容器に影響を与え得る様な水蒸気爆発の発生があるかないかということを判断し,審査をしたということでございます.」との回答を頂いています.
 しかし,原子力規制委員会は水蒸気爆発による格納容器への影響を確認していません.「格納容器に影響を与える様な水蒸気爆発の発生があるかないか」は,様々な条件での実物模型で実験するか,信頼できる完全無欠のシミュレーションでもしなければ,誰にも分かりません.それなのに,審査では何らの影響評価もせずに,格納容器に影響を与える様な水蒸気爆発の発生はないとの判断で許可処分になりました.いずれにしろ,実機に比較して小規模な数少ない「大規模実験」の結果やわずかなシミュレーションの結果から,実機において水蒸気爆発の発生はないとの判断は明らかに間違いです.
 水蒸気爆発の影響で格納容器に影響が与えられる,すなわち,格納容器が破損して放射能の封じ込め機能が損なわれた場合,外に放射性物質が放出されます.溶融炉心によって水蒸気爆発が発生すると,溶融炉心は粉々になって飛び散り,非常に細かい微粒子が大量に発生する事が,関連の実験から予想されます.
 それらプルトニウム等の毒性が強い放射性物質を含む粉塵が大気中に拡散し,知らずに肺の奥深くに吸い込んで沈着して,内部被曝させる恐れがあります.
 すなわち,格納容器に影響を与える様な水蒸気爆発が起きた場合,その影響は重大で深刻な健康被害等が発生する可能性も否定出来ないため大問題です.
 こうした,起きる可能性が小さくても結果が重大かつ深刻な事は,安易に無視してはなりません.その様な間違った判断の積み重ねで今も深刻な問題・被害が続く,歴史的な大惨事に至った身近で顕著な事例が福島原発事故だからです.
 原子力規制委員会は福島原発事故の教訓で,大地震・大津波・水素爆発などは,原発が稼働中に発生する可能性が低いにもかかわらず,対策を行っています.
 そのため,重大な結果が予想されるのに,実験や具体的な影響評価もせずに「格納容器(の健全性)に影響を与える様な水蒸気爆発の発生はない」との判断による許可処分は,合理性が無いだけでなく極めて不当な処分です.
 前記した様に,事故防止に「最善かつ最大の努力」を求める原子力規制委員会設置法にも違反します.理由は,「水蒸気爆発による格納容器への影響評価」は沸騰水型原子炉の審査で確認されている事だからです.シミュレーション評価の信頼性は不十分ですが,何も無いよりは参考程度にはなるものです.
 実際,玄海原発の審査でも水素爆発についてはシミュレーション結果を確認しています(ただしこのシミュレーションの信頼性は問題があると思われます).
 よって,水蒸気爆発による格納容器への影響評価を確認しない審査は,「最善かつ最大の努力」を怠っており,原子力規制委員会設置法に違反しています.

6.2 格納容器の健全性を損なう水蒸気爆発の発生確率と判断基準について
 また,口頭意見陳述会では「格納容器破損につながるような水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いと審査書に書かせていただきました.」とあります.
 しかし,「極めて低い可能性」が,具体的にどの程度か確認されていません.10回爆発すれば1回は格納容器が破損する程度なのか,1万回爆発しても1回も壊れない程度なのか?そもそも,どの程度低い可能性なら考慮しなくて良いのかの基準がありません(そもそも,水蒸気爆発は何度も発生する可能性があり,爆発の影響が蓄積して壊れるかもしれません).
前記した落下物の評価では「10-7回/炉・年」との具体的判断基準があります.落下確率も(計算根拠に問題があり正しく無いと思われますが)具体的に計算して示されています.
 もっとも,信頼性のある確率計算が水蒸気爆発に関して出来るのか疑問です.それでも,水蒸気爆発ついての判断基準が格納容器破損に至る爆発の発生頻度なら,確かな根拠に基づく判断基準と発生確率を具体的に示すべきです.よって,曖昧な根拠で許可した処分は不当で,「最善かつ最大の努力」を怠っており,原子力規制委員会設置法に違反しています.

6.3 複数箇所からの炉心溶融物の落下について
 他に口頭意見陳述会では次のように処分庁の考え方が示されました.
「圧力容器の下部には,計装用の案内管等の貫通部が複数ございます.したがって,原子炉圧力容器破損時には複数の箇所から溶融炉心が落下すると,そのように考えられます.このことによりまして,冷却中におきましては,一様な安定した混合状態,いわゆる粗混合にはならないと考えられますので,大規模な水蒸気爆発の発生の可能性というのはさらに低くなるものと考えられます」「別の場所で水中に落下して,複数落ちている状態のものに対して,水蒸気爆発がそれの連鎖で起きないのかみたいな御質問かなと思っているんですけれども,水蒸気爆発自体は,静的な水の中に一気にジェットの形で落ちてきて,それが粗混合という状態になって,それが何らかの形でトリガーがあって,液-液接触が起きてというようなことが起きないと水蒸気爆発は起きないというふうに言われています.今おっしゃったような複数の場所から落ちていきますと,それぞれで粗混合が一定した安定の状態にはならない.要は,こちらから落ちた影響で,こちら側の粗混合の一定の粗混合状態が阻害されてしまうということになり得ますので,そういった意味で,水蒸気爆発の,要は格納容器破損に至るような,水蒸気爆発というような可能性はないだろうというふうに判断をしたというものでございます」
 しかし,水蒸気爆発の専門家に確認したところ,上記の様な事故を想定した,複数箇所の溶融物を落下させた場合の水蒸気爆発の発生に関する実験は,実施されていないと思われるとの回答でした.
 一体,原子力規制委員会は何を根拠に,上記の考え方を妥当と判断したのか疑問です.そもそも,複数箇所から溶融炉心が落下する場合,多種多様な落下の仕方がありうると思われます.当然,一番大規模な水蒸気爆発が発生する場合も想定すべきです.例えば,一カ所から大量の溶融物が落下している状況で,比較的離れた場所から二カ所目の溶融物の落下が始まった直後はどうでしょうか?
 二カ所目からの落下物で一カ所目の落下物による粗混合状態が乱される前に,二カ所目の落下物ですぐに圧力スパイクが発生した場合,一カ所目の落下物の粗混合状態が乱れていない状態で圧力スパイクによる圧力波の影響を受けます.
その影響が一カ所目の落下物による水蒸気爆発の引き金となる可能性があり,その場合,大規模な水蒸気爆発が発生する恐れがあるのではないでしょうか?
 他にも,複数箇所から落下する場合,非常に多くの状況・組み合わせがあり,大規模実験に基づく信頼性のあるシミュレーション結果等もありません.よって,合理性のある根拠に基づく判断で,「大規模な水蒸気爆発の発生の可能性というのはさらに低くなるものと考えられます」とは誰も言えないはずです.
 誰も実際に実験等で検証していない,よく分からない現象の程度について,裏付けの何も無い曖昧な個人的判断で,審査に関わる判断をしてはなりません.それは不当な審査です.
なぜなら,原子力規制委員会が認める様に,複数箇所から溶融物が落下する可能性は高く,その場合,大規模な水蒸気爆発が発生すれば大問題だからです.
 本来であれば,炉心溶融後の事故対策は玄海原発の設計基準外の事故対策で,炉心溶融が防げない玄海原発の運転を認めるべきではありません.
 福島原発事故で溶融炉心の取り出しが出来るかどうかも分からない状況で,溶融炉心が生じる事故の発生を許容する事自体も不当で間違っています.

6.4 ホウ酸水と溶融炉心の水蒸気爆発について
加えて,口頭意見陳述会では,「玄海原発の3,4号炉におきましては,原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用の初期の対策といたしまして,常用電動注入ポンプにより代替格納容器スプレイを実施することになります.その第一水源につきましては,燃料取替用水タンクでございますけれども,その燃料取替用水タンクに貯蔵されている水は,ホウ酸水ということになります.」との回答もありました.
 すなわち,溶融燃料と冷却剤の相互作用による水蒸気爆発を考えるという事は,水ではなく「ホウ酸水」と溶融燃料などの落下物との水蒸気爆発を考える事です.
 しかし,(これも水蒸気爆発の専門家に確認したところ)ホウ酸水に溶融物を落下させた実験は無いのではないかとの事でした.もっとも,玄海原発に限らず他の加圧水型原子炉や沸騰水型原子炉の審査で,申請者が参考にあげた実験にホウ酸水を使ったものは無いと記憶します.よって,原子力規制委員会はホウ酸水を考慮すべきなのに,水を使った実験で水蒸気爆発の問題を考えているだけだと思われます.
 水蒸気爆発の専門家に確認したところ,ホウ酸水の場合の水蒸気爆発は,水の場合より激しくなる可能性があるのではないかとの事でした.
 原子力関係以外での水蒸気爆発に関する研究では,水に電解質や特定の物質が溶けると水蒸気爆発が起き易くなる事が報告されています.アモルファス物質を効率良く作る目的で,水蒸気爆発を効率よく確実に発生させるための研究もあり,電解質や特定の物質が溶けると水蒸気爆発が起き易くなるのは間違い無いと思われます.
 もし,ホウ酸水は水より水蒸気爆発が発生し易いし爆発が激しい場合,水蒸気爆発に関する審査の大前提が崩れます.判断の根拠とすべき実験が無いからです.
 この様な重大な問題である可能性が否定出来ない,ホウ酸水を前提とする水蒸気爆発の影響を全く評価していない審査,許可処分は不当であり違法です.

7.再臨界について
 次に,口頭意見陳述会での再臨界についての規制庁の回答は次のようなものでした.
「再臨界のところで,再臨界が起こったときのエネルギー評価というのをきちんと評価をしたのかという質問でございます.こちらにつきましては,そもそも臨界は形状や組成,質量,周囲の減速材または反射材というのが適切に配置された条件で臨界を起こしているというものになります.今回のこのデブリは,制御材を含めて落ちたものということで,形状が壊れているという状況になっています.したがいまして,まず,一般論的に考えれば,再臨界というのは極めて起きにくい状況になっていると考えています.また,さらに起きたとしても,臨界が起きると,デブリの発熱,もしくは周囲の水の沸騰,こういったものというのは,臨界をとめようとする方向に働くので,臨界を維持するというのもかなり難しい.ほぼ困難であると考えています.こういったことを総合的に判断して,仮に起きたとしても十分小さいということを御回答させていただいたというものでございます」「崩壊熱に比べて再臨界が起きたときのエネルギーはどうだという質問について定量的な評価をしたのかという質問につきましては,先ほど申し上げたように,定性的な評価であり,定量的な評価はしてございません」
 要は,「定性的に考えて再臨界は起き難いので,定量的な評価は不要」とうい考え方と思われます.しかし,(審査請求書等で説明した様に)素人ではなく,著名な核物理の専門家や福島原発の廃炉に必要な研究をしている専門機関が,再臨界の危険性について真剣に検討して,起きうる現象と判断しています.そうした,専門性が高く,実験施設も使って研究している専門機関の認識は,無視すべきではありません(他に,国内の原発メーカーが事故後の再臨界防止対策に関する特許を出している事も説明しました).
 この事に関連して,「本当に専門のある方が判断したのか」質問したところ,「これは,原子力規制庁,原子力規制委員会もそうですけれども,我々としては様々な専門家を入れて議論して,判断をしたというものでございます.」との回答でした.様々な専門家を入れて議論している事は当然で公知の事実なので,問題はどの様な専門家がいて,臨界に関する専門家もいるのか,という事です(臨界に関する専門家がいても,専門家によって見解の相違がある事は特別ではないので,原子力規制庁にいる専門家の見解の妥当性も重要になります).
 口頭意見陳述会での回答は具体性に欠けるため,臨界に関する専門家も議論して判断したか自体も疑わしいと思われます.原子力規制委員会は火山対策で,火山学者が困惑する間違った見解・判断を公に示した事もあり,具体的な説明が無ければ判断出来ません.例えば「臨界に関する〇〇の研究や〇〇の論文がある研究者が何人います」などの説明ですが,そうした専門性の高い職員がいるのでしょうか?もし,大学で臨界について学びました程度なら,原発事故で再臨界が起きるかどうかを判断するのは非常に危険な行為だと思われます.
 臨界は核分裂連鎖反応を制御し利用する原子力発電ならではの特殊な現象で,一般的ではありません.それでも,核分裂性物質が一定量集まって存在すれば,再臨界の可能性は否定出来ない問題のはずです(実際,世界中で想定外の臨界事故が何度も発生しています).
 なにしろ,少量でも条件が揃えば臨界に至る核分裂性物質が,溶融燃料には大量に存在します.しかも,溶融炉心が落ちる先のキャビティの床は狭く,厚く堆積する事が予想されています.実際,るつぼ型のコアキャッチャーでは,再臨界を抑制するための物質を,あらかじめ入れておいて,溶融燃料に溶かし込む対策を準備しているそうです.
 以上,ある程度は具体的に評価が可能な再臨界による発生エネルギー等,定量的な評価を確認していない事は不当だと思われます.加えて,再臨界での変化が水蒸気爆発のきっかけにならないか検討しないことも不当だと思われます.よって,再臨界についての審査は「最善かつ最大の努力」を怠っており,原子力規制委員会設置法に違反しています.

8.ウイルス感染症対策について
 現在世界中でコロナウイルス感染症の拡大が大問題になっています.
もし,ウイルス感染症が国内で爆発的に広がっている状態で,玄海原発の事故対応に必要な要員にも広がった状態で,原発事故が発生した場合,対応に支障が出たり不可能になったりする事が予想されます.そのため,口頭意見陳述会の後に審査請求の窓口担当者に,事故対応に必要な要員の詳細や原発等での感染症対策について確認しましたが,何一つ回答して頂けませんでした(原子力規制委員会の感染症対策についても回答無しでした).
 それでも,審査書等から伺う限り,感染症対策を審査した形跡はないため,(実は審査したかもしれませんが)審査していない前提で以下の意見を述べます.
 感染症(疫病)の爆発的拡大は歴史的・世界的に一般的で被害も多い現象です.それなのに,玄海原発の審査で九州電力の感染症対策の妥当性が未確認なのは,重大な審査の欠陥であり不当であり違法だと思われます.
 例えば,事故対策では狭い空間で長時間寝起きして事故対応に従事しなければなりません.その状況で職員等に感染者がいた場合,深刻な問題になります.勿論,事故が起きる前に感染者が増えて事故対応に必要な要員が欠員した場合,原発を停止すべきです(川内原発の審査書252頁「対策本部の設置及び要員の招集」に「重大事故等対策要員の補充の見込みが立たない場合は,原子炉停止等の措置を実施」との記載があり,玄海原発も同様にすべきです).
 それでも,原発の過酷(重大)事故はいつ起きるか分からないため,感染者が急激に増えている状況で事故が起きてしまった場合,深刻な問題になるのです(事故対応を支援する自治体・政府機関の責任者等が感染する場合もあります).
 そのため,事故対応に不都合な時に感染者が増える場合を想定・対策していなければ,その対策の妥当性がなければ不当で違法なので,設置変更許可は取り消されるべきです.

9.MOX燃料の利用(プルサーマル)について
 口頭意見陳述会でプルサーマルについて審査したか確認したところ,「MOX燃料が変更許可以前から使う前提になっておりますので,有効性評価等の重大事故が発生した場合につきましては,MOX燃料が装荷されている前提で審査をしてございます.」との事でした.
 しかし,プルサーマルが(福島原発事故前に)認可された時は,溶融炉心が溶け落ちる様な過酷事故は想定外でした.前記した様に溶融炉心で発生した水蒸気爆発が格納容器を破壊して,微細化した溶融炉心が外部に放出される可能性があります(その場合,MOX燃料はプルトニウムの量がウラン燃料より多いため,被曝の影響がより深刻になると思われます).
 なにしろ,審査で参考にした水蒸気爆発の実験は,主にウラン燃料を模擬した溶融物での実験で,プルトニウムを含む溶融物を使った実験はありません.MOX燃料はウラン燃料と融点などの物性が異なります.溶融物の物性の違いは水蒸気爆発の発生頻度や爆発力の程度に影響します.よって,原子力規制委員会はMOX燃料が溶けた事故で,格納容器を破壊する程の水蒸気爆発が発生しないと,確かな根拠を持って言うことは出来ないはずです.
 よって,ウラン燃料より深刻な事故になる恐れがあるMOX燃料について,特に評価しない九州電力の申請を認めた許可処分に合理性は無く不当です.それは,プルトニウム等の放射性物質を大量にまき散らす危険性を放置する事であり,「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全」に資する事を目的とする,原子力規制委員会設置法に違反しています.
 なお,プルサーマルの危険性等について審査されてから長期間経過したため,どのような問題点が指摘されたか知らないか忘れた原子力規制委員会の職員等もいると思われるため,以下に主要な問題的とプルサーマルの背景等について参考まで簡単に記載しておきます.
 MOX燃料とウラン燃料は特性がいろいろ違い,制御棒の効きが悪くなる,燃料が溶け易くなる等,原子炉の制御や事故時の余裕が減る方向での問題点が多くあります.臨界事故や被曝の危険性と核兵器に転用される恐れも高く,発熱量や放射線量の多いMOX燃料は,製造・輸送が危険・困難で,盗難や破壊行為の恐れから重火器武装の警護も必要です.実際,海外のMOX燃料工場からの遠距離の海上輸送では,燃料強奪や沈没事故での海洋汚染等を懸念する関係諸国等の非難・反対もありました.MOX燃料の製造・検査の困難性を背景に,品質管理データをねつ造・改ざんし,異物を燃料棒の中に混入する事件まで起きました.
 MOX燃料はウラン燃料より使用前から使用後も,強い放射線と発熱を長時間放出します.水冷保管に必要な期間は300年以上との試算もあり,核燃料棒の劣化・腐食で放射性ガスが漏出します.冷却水を長時間失えば大事故になる恐れもありますが,保管計画はありません.
 そもそも,プルサーマルは高速増殖炉が出来るまでの経過措置で,使用済み核燃料の再処理工場を含む核燃料サイクルが確立していれば不要でした.高速増殖炉開発がもんじゅ事故で頓挫して,本来高速増殖炉で使うプルトニウムを取り出す,再処理工場の存在意義が根底から揺らぎました.しかし,各地の原発サイトの使用済み核燃料は保管限界に近づいており,運び出せないと運転が続けられなくなります.青森県も核のゴミ捨て場になるなら,再処理工場を認めないので,プルトニウムの計画的な利用が求められました.米国等も,大量の余剰プルトニウムを抱える事を危惧してプルトニウムの軽水炉利用を勧めました.実際は,六カ所の再処理工場が動けばプルサーマルで消費するより多くの分離プルトニウムが生じる矛盾があっても,ウラン燃料より高価でも進められています.とにかく,原子力の平和利用と核燃料サイクル実現の夢で正当化する,巨大な利権構造の維持と利益が原動力の様です.
 しかし,主に地域振興のメリットで原発を受け入れた立地地域にとって,プルサーマルは危険性と問題が増える発電方法でしかありません.そのため,原発で働く人が多い立地地域でも,各地でプルサーマルの是非を問う住民投票が求められ,新潟県刈羽村で実現し反対多数でプルサーマルは止まりました.その刈羽村での住民投票実施前にプルサーマル公開討論会が開かれ,原子力規制のトップも一丸となって,原発の過酷事故は起きないとの前提で,全体的メリットの大きさと危険性の少なさが説かれました(注2).
 それから,福島原発事故が起き,もんじゅが廃炉になり,再処理工場の稼働が延期続きで,プルサーマルの必要性と安全性を説いた人達の前提は,いろいろ根本的に崩れています.
 福島原発事故でもプルサーマル炉が爆発しており,MOX燃料の影響も否定出来ません.原子力規制委員会は,MOX燃料の特性が過酷事故の進展と健康被害等にどう影響するかは勿論,多角的な視点から包括的・全体的にプルサーマルを考える必要があると思われます.
 二度と(上記の公開討論会の様に),推進側の一員として活動・支援・擁護する事なく,政権の意向や事業者の利害に囚われずに中立的立場を維持しなければなりません.その事が原子力災害を防ぎ,起きても被害を軽減し,負の遺産を減らす事に繋がると思われます.
(注2)下記の柏崎日報記事等参照 
    http://www.kisnet.or.jp/nippo/nippo-2001-05-19-1.html

以上


玄海原発の審査請求意見陳述会

異議申立による玄海原発許可への「審査請求」の意見陳述会


2020年2月7日,福岡核問題研究会メンバーが原子力規制庁において玄海原発3・4号機再稼働許可に対する「審査」に異議申立による意見陳述を行ました.以下,その内容を報告します.

<要約>
 福岡核問題研究会(もと大学教員ら)の有志を主なメンバーとする6名は,九州電力玄海原発3・4号機が新規制基準に適合すると認めた原子力規制委員会の許可は不当だとして2017年4月に審査請求(異議申し立て)をしていました.そのプロセスの一つである意見陳述会が2月7日,東京の原子力規制委員会で開かれました.請求者側から3名,規制庁側は,処分庁(玄海原発に関する許可処分の担当者:質問回答者)2名,審査庁(審査請求の担当者)3 名,法規部門(法的事項に関する質問回答者)1名,速記者の計7名が出席,1時間半にわたって意見陳述と回答のやり取りが行われました.席上,私たち請求者は,かつてNHK 福岡も取り上げた水蒸気爆発の危険性と,事故時の住民避難や通常運転時の健康被害が審査の対象外となっていることの問題を取り上げました.
 規制委員会側は,水蒸気爆発の危険性を否定する明確な根拠を挙げず,また後二者については単に「審査の対象外」を繰り返すのみで,これに関して法律や国会決議が求める規制委員会の任務との関連には触れずじまいでした.私たちは炉心溶融事故時の再臨界の可能性も問題にしていましたが,「起こらない」とする審査書の断定はまともな検討もなしになされていることが明らかになりました.ただし,事故時の住民避難と通常運転時の健康被害問題を審査の対象外としたことについては,審査庁側で審理官である司会が規制委員会に再回答を指示しました.今回のやり取りで,規制委員会の玄海原発審査「合格」の不当性が一層明らかになりました.

<詳細>
陳述人(審査請求側.以下敬称略)審査請求人・総代,計3名
三好永作(九州大学名誉教授,理論化学,福岡核問題研究会・代表)
豊島耕一(佐賀大学名誉教授,原子核物理学,「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
北岡逸人(代表.元柏崎市市会議員,福岡市在住,52歳)
傍聴者(審査請求人)1名:木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
規制庁(6名)
処分庁(許可処分の担当者:質問回答者):止野友博,中川淳
審査庁(審査請求の審理担当者:審理官):川﨑憲二(司会者),桐原大輔
審査庁(審査請求の窓口担当者):田中基成
法規部門(行政不服審査法に関する質問回答者):松岡賢
速記者:規制庁の委託業者1名

<陳述内容の概略>
1)炉心溶融を水で受け止める九電の対策を可としているが,その根拠が明確でない.むしろ専門家の国際的合意に反し,危険である.
2)原子力防災の有効性が全く検証されていない.通常運転での液体トリチウム大量放出が玄海町など周辺住民の高い白血病死亡率の原因である疑いがある.トリチウム内部被曝では細胞が二重にダメージを受ける「2ヒット効果」が重要である.
3)炉心溶融事故の時の水蒸気爆発や再臨界の可能性の検討が不十分である.
4)韓国と近いなどの地理的条件,偏西風や対馬海流などの気象条件から,玄海原発における重大事故の及ぼす人的・経済的被害は福島原発事故よりも過酷であることが予想される.

<回答の概略>
 規制委員会の回答は事前提出した質問への文書回答と、当日の質問への回答でした(後日回答予定あり).例えば,水蒸気爆発や再臨界に関する検討を定量的な解析無しに大丈夫と判断.模擬弾の落下は審査していないが再評価不要と判断.原子力防災は審査対象外として回答しない処分庁に対して,司会の審理官(川﨑氏)は避難の問題など部分的だが再回答を促しました(司会は全般的に,公平な議事運営に努められたことを評価します).なお,これまでの審査請求に関する審理手続きを通じて,以下のような制度上,運営上の問題点が明らかになりました.

<運営上の問題点>
1)司会も含め今回の審査役,つまり裁判に例えれば裁判官役が,審査の対象である同じ規制庁の職員(玄海原発等加圧水型原発の審査はしてないが沸騰水型原発の審査担当者)であることは,審査者の「第三者性」を欠くものであり,制度的な欠陥である.
2)この意見陳述会は非公開で,審査請求人以外の傍聴は認められず「透明性」が確保されていない(陳述会の録音のみ可能で録画・中継・写真撮影の申し出は断られた).
3)審査請求の最初のプロセスで,審査書に関する私たちの問題点指摘に対する規制委員会の「弁明書(以下の参考資料3 に掲載)」が,問題点指摘に1つも答えず「審査書を見よ」というような1枚の文書で,事実上「弁明」の制度・プロセスを無視するものであった.
4)再三にわたって催促したにも関わらず,意見陳述会が開かれたのが玄海再稼働の後で,しかも申し立てから3年近くも経過した.

<川田龍平・参議院行政監視委員会委員長との面談>
 このような審査制度と審査のあり方に大いに疑問を感じた私たちは,意見陳述会の終了後,参議院行政監視委員会委員長の川田龍平氏と議員会館で面談しました.これには山崎久隆氏(たんぽぽ舎)も同席しました.川田議員におかれては,私たちの問題意識を十分に共有してもらえたと思います.

<処分庁の回答>
https://1drv.ms/b/s!Al6bSW40ynU5mzdT29NtmHOGCWKG?e=lOJWbj

<参考資料>
1)陳述者の当日の資料
三好 スライド  陳述原稿
豊島 スライド  陳述原稿防災  陳述原稿白血病
北岡 スライド&陳述原稿
(「行政機関の原子力規制委員会に望まれていること」と題する文書を含む)
2)当日の追加提出資料
岡本良治ほか「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発,CO爆発の可能性」,科学(岩波書店),2014 年3 月号,pp.355-361.
3)審査請求の関係書類一式
審査請求書(2017.4.17) 
弁明書(2019.9.18) 反論書(2019.10.11) 事前質問(2020.1.17)

(以上,文責:豊島耕一)


1月例会 玄海原発設置許可についての意見陳述

1月例会


日時:2020年1月25日(土)10:00〜12:30
内容:
玄海原子力発電所設置許可処分についての口頭意見陳述@原子力規制庁
   
--その経過と意見陳述の論点整理
   報告:北岡逸人,豊島耕一,三好永作

   【経過の概略】
   北岡,豊島,岡本,中西,三好の福岡核問題研究会の会員5名は去る
   2017年4月17日に「玄海原発の設置変更許可処分に対する審査請求」
   を原子力規制委員会に対して行い審査手続き中に再稼働が行われない
   ように,許可効力の執行停止も求めたが,その請求に対する原子力規
   制委員会からの弁明書が昨年9月18日に届いた.
   弁明書には記載すべき事項が記載されていないため反論書を提出する
   とともに,交渉の結果2020年2月7日の午後2時から原子力規制庁に
   おいて意見陳述と質問を行うことになった.それに関連して事前質問
   書も提出している.

   関連資料/サイト:
「玄海原発の設置変更許可処分に対する審査請求」
            
弁明書(2019.9.18)
            
反論書(2019.10.11)
            
事前質問書(2020.1.17)

<報告>

 本例会では,2月7日に原子力規制庁において意見陳述が行われることになった経緯とその意見陳述の論点整理が行われた.福岡核問題研究会の会員数名が去る2017年4月17日に「玄海原発の設置変更許可処分に対する審査請求」を原子力規制委員会に対して行い審査手続き中に再稼働が行わないように,許可効力の執行停止も求めたが,その請求に対する原子力規制委員会からの弁明書が2019年9月18日に届いた.弁明書には記載すべき事項が記載されていないため反論書を提出するとともに,交渉の結果,2020年2月7日の午後2時から原子力規制庁において意見陳述と質問を行うことになった.それに関連して事前質問書も提出している.2月7日の意見陳述の概要については,「異議申立による玄海原発許可への審査請求の意見陳述会」の項目を参照ください.

12月例会 福島原発処理汚染水&女川原発パブコメ

12月例会


日時:2019年12月21日(土)16:00〜18:00
内容:(1)
福島原発処理汚染水海洋放出の危険性
      話題提供:森永 徹氏 
発表資料
   (2)
女川原発のパブリックコメントの提出
      話題提供:
中西正之氏 発表資料

<報告>

 本例会では,はじめに森永氏が「福島原発処理汚染水海洋放出の危険性」について報告された.福島第一原発の敷地内タンクにたまる汚染水の海洋放出などが議論となっている.昨年9月10日には原田環境相兼原子力防災担当相(当時)は「思い切って(海に)放出して希釈する以外に,ほかにあまり選択肢がない」と発言したという.汚染水には,多核種除去設備(ALPS)で処理できないトリチウムが大量に含まれている.
 資源エネルギー庁は,「トリチウムでは外部被ばくはほとんどしない」,「トリチウムは体内に蓄積されない」,「トリチウムは生物濃縮しない」,「有機結合型トリチウムでも多くは40日程度で体外に排出される」などとトリチウムの「安全性」を宣伝している.しかし,一方では,トリチウムの危険性を示す多くの実験的研究がある.メダカでの研究では,トリチウムはDNAに取り込まれその排出は極めて緩慢であるという.トリチウムは濃度依存的にユスリカ幼生の染色体異常を誘発し,マウスの白血病を誘発する傾向がある.
 冷戦時代に核兵器の原料であるプルトニウムを製造してきた原子炉5機のあるサバンナ川流域では,トリチウムによる内部被曝を含む累積の放射線量が白血病死に大きく関係しており,カナダ原子力委員会がまとめた報告書では,ピカリング原発周辺の小児の白血病死亡率は高いことが報告されている.大量のトリチウムが放出される核燃料再処理施設の周辺では,地元産の魚介類の摂取や浜遊びの頻度が高いほど白血病を発症しやすいとの報告(フランス),また距離が離れるにしたがって白血病発症の危険度が低下するとの報告(英国)があり,日本でも六ヶ所再処理工場からのトリチウム大量放出後に白血病死亡数が増加傾向にあることが分かっている.さらに,加圧水型の玄海原発はトリチウムを大量に放出しており,森永氏自身の研究()からも玄海原発稼働後に玄海町での白血病死が統計的に有意に増加している.
 同氏は最後に「トリチウムの生物濃縮を否定する研究者もいるが,実験結果や原発周辺の環境調査ではトリチウムの生物濃縮が確認されている.したがって,福島原発処理汚染水は海洋放出するのではなく,タンカーによる長期保管等の他の対策をとるべきである」と結論された.

 次に,東北電力女川原発2号炉の設置変更許可申請書に関する審査書(案)についてのパブリックコメントが2019年11月28日から12月27日までの間公募されていたが,中西氏は,それに対して7件のパブリックコメントを提出し,その内容について報告された.内容は,①女川原発資料のTROI実験温度は偽装されている,②水蒸気爆発によるソースタムに関する影響の検討が審議されていない,③水蒸気爆発対策問題の偽装は実験溶融物を二酸化ウラン・ジルコニアに限定したことから始まっている,④適合性審査案はTROI実験の水蒸気爆発生時デブリサイズ資料を無視している,⑤適合性審査案は水蒸気爆発生時のペデスタル強度検討を無視している,⑥適合性審査案の実炉トリガーなし水蒸気爆発不可能論は問題である,⑦東北電力のMCCI対策検討におけるMAAPのDECOMPの使用は大問題がある,など科学的・技術的問題について多岐にわたっている.その詳細は,福岡核問題研究会ホームページの12月例会における「発表資料」からダウンロードにより見ることが出来る.

 例会は午後6時に終了し,博多駅筑紫口まで出向いて年忘れの忘年会を行い,例会における議論とはまたひと味異なる議論に花が咲いた.

11月例会 東電刑事裁判判決&核戦争の被害推定

11月例会


日時:2019年11月30日(土)10:00〜12:30
内容:(1)
東電福島原発刑事裁判地裁判決の問題点
      話題提供:森永 徹氏 
発表資料
   (2)
印パ核戦争と米ロ核戦争による被害推定と関連する分析
      話題提供:岡本良治氏 発表資料

<報告>

 11月例会では,まず,森永氏が東京電力の3被告に対する刑事裁判の地裁判決についての問題点を報告された.3被告は東電旧経営陣の勝俣恒久元会長(79),武黒一郎元副社長(73),武藤栄元副社長(69)であり,彼らは,巨大津波が発生し原発事故が起きる恐れがあるとの報告を受けながら,対策する義務を怠り,結果として事故を招き,大熊町・双葉病院の入院患者ら44人を避難に伴う体調悪化で死亡させたとして,検察官役の指定弁護士は3人に「禁錮5年」を求刑していた.2019年9月19日,東京地裁は3人に対して無罪の判決を言い渡した.大切な点は,2008年に東電が受け取った,政府機関・地震本部の長期評価を基に15.7 mの津波が起こる可能性に触れた試算の取り扱いである.日本原子力発電の東海第二発電はほぼ同様の試算を受け取り,これに基づき津波対策を講じることでかろうじて大事故を免れることが出来た.しかし東電はこの試算結果を把握していたにもかかわらず,試算に基づく防波堤建設などの津波対策案を無視して福島原発事故が起きた.多くの地震学の研究成果を取り入れ,地震学の専門家集団が作成した地震本部の長期評価を,判決では,「客観的に信頼性,具体性のあったものと認めるには合理的な疑いが残る」として,3被告の津波対策無視を擁護している.「原発に極めて高度の安全性は求められていない」,「本件事故を回避するためには、本件発電所の運転停止措置を講じるほかなかった」などの判決文も大いに問題である.

 次に,岡本氏が核戦争による被害推定について中間的な報告をされた.いま,9ヵ国が約1万5000発の核兵器を保有しており,それらの核兵器は意図的な政策や意図的ではない事故により発射可能な状態にあり,核のホロコーストを引き起こしかねない状況にあるという.『原子力科学者会報』(Bulletin of the Atomic Scientists)の世界の終末(午前零時)を象徴的に示唆する「世界終末時計」の針は,2分前となっており冷戦終結以来もっとも午前零時に近づいている.米露二核超大国は依然として多数の核弾頭を保有し,そのうち2000発以上は15分以内に発射可能なミサイルに搭載され,他国の都市を30分破壊することができる.米露の2国がこの巨大な核戦力を保有し続ける限り,意図的である偶発的であれ,それらが使用される現実の危機が存在する.1979年以来,少なくとも5回,自らが攻撃の危機にさらされているという誤認に基づいて超大国の片方が他方に対して核攻撃の開始を準備するという事態があったという.核兵器禁止条約が2017年に122ヵ国の賛成で採択されその批准も進んでいるが,いったん核兵器が使用されると,核兵器の応酬へ,さらに全面核戦争へと拡大するリスクが小さいわけではない.全面核戦争に到らなくとも限定的な数の核爆発とその結果としての火災などにより莫大なチリや煤の発生で,急激な温度低下が起こる可能性がある(「核の冬」など).核戦争防止国際医師会議が2013年に発表した研究によると,インド−パキスタン間の限られた範囲での核攻撃でさえ,10億人が飢餓に陥り,さらに13億人が寒冷化による深刻な食糧不安の危機に晒される危険性があるという.以下のサイトには,米露核戦争についての最新研究によるシミュレーション動画がある.
シミュレーション動画サイト:
https://youtu.be/2jy3JU-ORpo

10月例会 マンハッタン計画と科学者&バスク州のワインツーリズム

10月例会


日時:2019年10月26日(土)10:00〜12:30
内容:(1)マンハッタン計画と科学者たち −−その政治的及び軍事的役割
      話題提供:伊佐智子氏(久留米大学) 
発表資料
   (2)スペイン・バスク州におけるワインツーリズムの調査
      話題提供:畠中昌教氏(久留米大学) 発表資料

<報告>

 10月例会では,まずはじめに文系研究者である伊佐氏から「マンハッタン計画と科学者たち」とのテーマで科学者が政治的および軍事的に果たした役割を中心とする話があった.原子爆弾を開発したマンハッタン計画は米国で1942年8月から開始されるが,その発端は,英国に亡命していたフリッシュとパイエルスの覚書において,純度の高いウラン235により絶大な破壊力をもつ小型の爆弾が可能であり,必要な量はわずかで済むとの見積もりにある.英国は1940年4月にウラン原爆の実現可能性を検討するためにMOUD委員会を組織した.同委員会には,委員長としてG・P・トムソンを充て,メンバーとしてフリッシュ,パイエルスの他にチャドウィックなどがいた.この委員会の検討結果が米国に伝えられることになる.ニューヨークのマンハッタン・ブロードウェイ270で始まったマンハッタン計画は米国のみならず英国,カナダも参加し,60万人が関与したという.多くの科学者の参加の下に原爆が作られた.1945年6月にシカゴ大学の7名からなる科学者委員会(フランクやシラードなど)が日本に対する原爆の無警告使用反対や戦後の核管理体制実現の重要性などを内容とする報告書(フランク報告)を大統領の諮問委員会に提出したが拒絶された.原爆を作り出した科学者は,原爆投下や核兵器の管理に対する政治的・軍事的な影響力はほとんどなかった.

 次に,畠中氏に専門として最近研究されているスペインのバスク州のワイン・ツーリズムについて報告頂いた.同氏は,人文地理学会や日本都市学会,福岡地理学会のみならずスペイン地理学者協会,九州地区スペイン研究友の会,スペイン・ツーリズム学専門家協会などさまざまな学術団体などに所属されている.2013年にスペインを訪れた観光客数は6000万人を超え,米国,中国に次いで世界第三位になっている.その後も観光客は増加傾向にあり,限度を超えた観光客集中の弊害もあり,反ツーリスト運動も起きているというが,バスク州は外国人ツーリスト数で見る限りその主要対象地ではないという.スペインの南東にありフランスに近いバスク州は山がちで起伏に富み平野部は少なく,大西洋気候で夏は涼しく雨が多く,かつては農業と重化学工業中心であった産業は20世紀後半からサービス業やハイテク産業が中心となっており,「緑のスペイン」と呼ばれる景観をもち緑が豊かであるという.2019年2月27日〜3月10日にこの地方を探索的に調査した内容が報告された.「バスク祖国と自由」(ETA)のテロ終結(2010年9月)によりバスク州の雰囲気は安全になっているという.バスク州・サンセバスチャンなどのレストランは結構クオリティが高く美味であるという.その美味しそうな食事や風景のスライドを見せられて,報告子の次のヨーロッパ旅行の候補地にはスペイン・バスク州が大きな位置を占めることとなった.

9月例会 21世紀の全技術&原爆投下と日本敗戦

9月例会


日時:2019年9月21日(土)10:00〜12:30
話題:(1)現代技術史研究会編『徹底検証 21世紀の全技術』について
     (話題提供:中西正之氏)  
発表資料
   (2)原爆投下は日本の降伏をもたらしたのか
     (話題提供:三好永作氏)  
発表資料  
      
資料「原爆投下・ソ連の対日参戦とポツダム宣言受諾」

<報告>

 本例会では,はじめに中西正之氏が現代技術史研究会編による『徹底検証 21世紀の全技術』(藤原書店,2010年)の内容を紹介された.この本は,福島第一原発事故の起きる前年の10月に出版されたものである.第1部「“生活圏”の技術」,第2部「変わりゆく産業社会の技術」,第3部「技術がもたらす自然と社会の崩壊」からなり,第1部では住居・食・水・家電・クルマ・医療など,第2部では材料・エネルギー・輸送・コンピュータ・大量生産システム・軍事などについて論じられている.第3部では,さまざまな分野で著しい発展をとげた現代技術がもたらした地球全体の環境破壊の問題が取り上げられている.その中の「頻発し巨大化する事故の恐怖」という章の中で,2005年5月のJR西日本の福知山線脱線事故が,日本社会の歪みが悪い形で現れた典型的な事故として詳しく論じられている.さらに「原発事故の恐怖」として,日本の原発にはスリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故と同じような過酷事故の発生を予想させるような不気味な事故が多発しており,福知山線脱線事故以上に大惨事となりうると警告されていた.この本が出版された数ヶ月後に福島第一原発事故が起きたことは残念というほかない.われわれの子供や孫の世代が大きな危機に苛まれることなく生きて行けるような人間社会と技術との関わりのためには,これまでとは違った方向への転換が必要であるように思われる.

 次に,三好永作氏が,ポツダム宣言受諾と原爆投下およびソ連の対日参戦の関係について報告した.三好氏は,数年前に『日本の科学者』誌上に「原爆投下・ソ連の対日参戦とポツダム宣言受諾」なる小論(『日本の科学者』Vol.46, No.11, 55-57, 2011)を発表して,歴史学の上では既に確定している「原爆投下が日本の敗戦(ポツダム宣言受諾)をもたらしたのではなく,ソ連の対日参戦が日本の敗戦をもたらした」という一般には知られていない事実を,誰にでも分かるような言葉で紹介する読み物(「まんが」でも可)を書くよう歴史家に呼びかけたが,そうのような書物はまだ現れていないという.自分でそのような書物を書く以外にはないと思い至ったようで,その整理資料の一部が例会に紹介された.もし「「原爆投下が日本の敗戦をもたらしたのではない」ということが事実であるなら「原爆投下により(戦争継続による戦死者の)100万の命が救われた」との原爆投下を正当化する米政府高官の公言は,被爆者をはじめとする日本国民を二重にも三重にも陵辱するものである.

8月例会 深海魚出現と地震&原水禁運動の歴史

8月例会


日時:2019年8月24日(土)10:00〜12:30
話題:(1)深海魚の出現は地震の前兆か? −米国地震学会誌 織原論文について
     (話題提供:森永徹氏) 発表資料
   (2)原水禁運動の歴史を調べる −政党との関係性を中心に
     (話題提供:豊島耕一氏) 
発表資料

<報告>

 本例会では,はじめに森永徹氏が,最近,米国地震学会誌(Bulletin of the Seismological Society of America)に掲載された「深海魚の出現は地震の前兆か?」(Is Japanese Folklore Concerning Deep-Sea Fish Appearance a Real Precursor of Earthquakes?)とのY. Orihara(織原義明)らの論文の内容を紹介された.日本では,リュウグウノツカイなどの深海魚が漁の網にかかったり,浜に打ち上げられたりすると地震が起こるという言い伝えあるという.織原らは,リュウグウノツカイなど地震の前兆とされる8魚種の出現について,文献や地方紙の記事などで1928年11月から2011年3月までに確認された336件を調査した.発見場所から半径100キロ以内が震源となったマグニチュード6以上の地震が発見の30日後までに起きたということは,1件の例外を除きなかったという.地震直前に海底から出てくるガスや電磁波のようなものを嫌がり海面近くに逃れてくるというような最もらしい説もあったというが,深海魚の出現が地震の予知に役立つことはなさそうである.

 次に,豊島耕一氏が,現在も別々に原水爆禁止大会を開いている原水協と原水禁の運動の歴史について報告された.今年の7月28日に行われた科学者集会in福岡の報告を原水協の世界大会に報告するだけでなく,原水禁の世界大会にも報告することを試みるということが科学者集会の実行委員会において決められ,同氏がその任に当たったことから分裂の歴史を調べることになったようである(原水禁の世界大会において科学者集会in福岡の報告をするのに,結構な苦労があったようである).同氏の問題意識は,「原水協と原水禁,そしてそれらとそれぞれ関係の深い共産党と社民党との間では,核兵器禁止をめぐって,あるいはその方法論をめぐって,現在は深刻な対立はないと思われるにも関わらず,何故統一した運動ができないのか」ということにあるようだ.同氏は,1960年代の「あらゆる国の核実験に反対」問題(第一次分裂)や1980年代の第二次分裂における共産党(系)の主張には,寛容さに欠ける態度があり,政党と平和団体との関係でも共産党の側があまりにも介入的であったと判断せざるを得ないとする.現在,もちろん共産党は「あらゆる核実験に反対」している筈で,1960年代の姿勢とは明らかに異なる.その辺の総括をきちんとすべきであろう.同氏は,原水協の方に肩入れしている日本科学者会議としては,その肩入れしている組織に意見する役割があると締めくくられた.

6月例会 脱炭素化のプロジェクトについて

6月例会


日時:2018年6月22日(土)10:00〜12:30
話題:「国の資金による脱炭素化の4件のプロジェクト」について
   (話題提供:中西正之氏)  報告資料

<報告>

 本例会では,中西氏に脱炭素化に関わる国の資金によるいくつかのプロジェクトを紹介いただいた.エネルギー問題を考える際には,電力のみでなく一次エネルギー全体で考えることが大切であろう.2017 年度の日本の一次エネルギー実績は,ジュール換算で化石燃料88%,水力3.4%,水力を除く再生可能エネルギー7.6%となっている.日本がパリ協定の目標を達成するためには,再生可能エネルギーを10倍化するとともに化石燃料の一次エネルギー消費を10分の1にして脱炭素化することが必要であろうという.はじめに,国の資金による脱炭素化のプロジェクトを紹介していただいた.まず,鉄鋼業から排出されるCO2 は日本のCO2 総排出量の14%を占めるため,その削減がNEDO の資金のもとでコークスの代わりに一部を水素で代替することで検証実験が行われている.CO2 の排出が30%削減できるという.さらに,大きな熱エネルギーを必要とし高温熱処理や金属製造などに使用される「工業炉」には,日本のエネルギー消費量の18%が消費されており,その省エネ化と環境負荷を小さくした「高性能工業炉」の開発がNEDO で行われ,交互に熱回収する技術などを使うことで30%以上の省エネとCO2 削減効果および50%以上のNOx低減を可能とするものが開発されたという.また,建物の建設などで使用するセメント製品に由来するCO2 排出も決して無視できるものではなく(総排出量の3%),これを減少させることも大切であるという.NEDO プロジェクトにより,東京工業大学や竹中工務店などの共同で,高炉スラグを混入して,CO2 排出を6割以上も削減できる「ECM セメント」が開発されているという.最近,海洋投棄されたプラスチック問題がマスコミなどでも取り上げられているが,最後に,廃プラスチックを原料にしたEUP 式ガス化炉の技術が紹介され,このガス化炉により廃プラスチックから比較的簡単に水素や一酸化炭素などからなる生成ガスを得ることができるという.

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