6月例会 日米原子力協定&脱炭素社会

6月例会


日時:2018年6月2日(土)10:00〜12:30
話題:(1)「日米原子力協定の自動延長について」(話題提供:伊佐智子氏)
      
報告資料 1988年協定
   (2)「原発ゼロと脱炭素の社会を目指して」(話題提供:中西正之氏)
      
報告資料

<報告>

まず,伊佐氏は,本年7月以降に自動延長される予定である日米原子力協定を取り上げた.現在の日米原子力協定は1988年協定である.その前の1968年協定から,第8条を「非軍事的目的に限る」を「平和的目的に限る」と文言が変えられた.この変更により現協定では「軍事的目的」を含めうると解釈できるという.日米間に限らず米国が締結する原子力協定は,核不拡散の観点から米国が規制をかけるものであるが,現協定では,米国が日本に対して使用済み燃料の再処理を柱とする核燃料サイクルを事実上自由に行うことを認める内容となっている.日本は現在,国の内外に約47トンのプルトニウムを保有しており,六ヶ所村の再処理工場が稼働すれば新たなプルトニウムが追加されることになる.日本にこのようなプルトニウム保有を認めることは,悪い先例となるだけでなく核セキュリティー上も問題であり,協定の自動延長時ににも何らかの是正措置あるいは代償措置を求めてくる可能性もあるという.現協定の第16条の3で「いかなる理由によるこの協定又はその下での協力の停止又は終了の後においても,第1条,第2条4,第3条から第9条まで,第11条,第12条及び第14条の規定は,適用可能な限り引き続き効力を有する」とある.あまり気にする必要はないのかもしれないが,協定を廃棄しても,その内容が生き残るようなこの条文は不気味である.

次に,中西氏は「原発ゼロと脱炭素の社会を目指して」と題して話された.まず問題とすべきは,排出CO2の総量の削減をいかになすかということであると強調された.現在,日本が輸入している化石燃料は,大雑把に原油2億トン,液化天然ガス(LNG)1億トン,石炭(一般炭と原料炭)2億トンであるという.これらの使用によりCO2が排出されるので,これらの使用をいかに減らすかが大切であろう.パリ協定での先進国の目標は,2050年に温室効果ガス排出量を80%削減するというものであり,脱炭素化の方針が明確に策定された.日本の1990年における温室効果ガス排出量は,12.6億トンであり,これを基準にすると80%削減による2050年の温室効果ガス排出量は2.5億トンとなるが,政府は基準年を2013年(CO2排出量:14.1億トン)とすることで2050年の温室効果ガス排出量は2.8億トンとしている.あまり大した差ではないが,中間の2030年目標をCO2排出量10.4億トンとすると,1990年基準では17%削減となり,2013年基準では26%削減となる.2030年の中間年削減目標が17%削減ではあまりにもみっともないので基準年を2013年にしたのであろう.経産省のもとで行われたエネルギー情勢懇談会の議論が紹介された.日本においても,2000年には火力・原子力に対する投資と再生可能エネルギーに対する投資と拮抗していたが,2016年には後者への投資が前者への投資の2倍以上となり,脱炭素化の動きが始まっているとしている.また,現状では電力の調整機能を,CO2排出を伴う火力発電に頼っているが,将来はCO2フリーの様々な蓄電池や揚水発電を含めた水力発電などを使うことを考えるべきとの指摘があった.後半に「クリーンエネルギーを活用した水素社会」の紹介と,石炭のガス化炉で水素を製造し発生したCO2を分離して海底下の油層に圧入する稼働中のプロジェクトの紹介があった.その有効性について若干の議論があった.

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