3月例会 NHK番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」

3月例会


日 時:2023年3月18日(土)10:00〜12:00
話 題:NHK番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」の鑑賞と意見交換

<報告>

 3月例会は,3月10日に九州・沖縄エリアで放映されたNHKの番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」(約30分)を観て,意見交換を行った.同番組は,吉岡斉氏が残したメモや記録,日記,電子メールなど10万点におよぶ未公開資料(「吉岡文書」)が九州大学の大学文書館で見つかり,それらの資料は,日本の原子力政策は合理的かを問いかけるものであり,将来を見通す有意義なものであるという.

 1995年に高速増殖炉「もんじゅ」はナトリウム漏れ事故を起こし,これを継続するかどうかが問われていた.1997年2月に内閣府の原子力委員会の下に高速増殖炉懇談会が組織され,吉岡氏はその構成員となった.懇談会では,吉岡氏等により継続することの合理的根拠が問われた.しかし,リスクや経済的な見通しもないままに1997年11月に「研究開発を続けることは必要」との報告が出されることになった.1998年2月から始まる国会での動燃改革案の審議において動燃を何らかの形で生き残らせるためには「研究開発は必要」との報告が必要であったという.

 番組の終わりの方で,鈴木達治郎氏(長崎大学)は「吉岡氏は一産業界のためとか一政府のためではなく,国民のために科学技術を使うということを強調していた」と語っていた.また,大島堅一氏(龍谷大)は「ちゃんと議論する必要がある時に,そこをすっ飛ばすことで明らかな問題を放置して,かえって傷を深めることにつながる.考えないで進むことの危険性は今も続いている」と警告した.

 番組を見終わって,吉岡氏との個人的な思い出について,岡本氏は10年程前に福岡県の「反核医師の会」の連続講演会の楽屋で,「自分の専門は原子核物理学で研究と社会的活動については『二足の草鞋を履く』ような形であるが,その点,吉岡さんは専門の研究と社会的活動が一体になっており,うらやましい」というようなことを話したことがあると発言された.また,豊島氏は,「経済産業省が2008年に四国の伊方町での原発への『プルサーマル』導入をめぐる討論会でパネリストとして同席したときに,吉岡さんのレジュメの項目の一つに「政府の約束を信用してはいけない」とあり,しかもスピーチで彼はこの項目を堂々と読み上げられ,歯に衣を着せぬもの言いに少々度肝を抜かれたのを記憶している」と言われた.

 それらの発言のあと,この番組を作成した人たちが,どこかに飛ばされるのではないかという心配を表明した人もいた.気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年の「1.5℃特別報告」の頃から原発をCO2の低排出源の一つとして挙げている点が指摘された.また,官僚の個人が責任を取らなくてよい体制のもとで働いている日本の中で,『科学技術者の倫理』という点が大切ではないかという意見も出された.30年間,大企業で働いた研究会の新人が,大企業でも合理的論考ではなく,やっている感を出せればよいというような無責任な風潮に嫌気がさして退職した発言された.

 日本の市民運動も「非暴力」の運動を戦略・戦術に取り入れる必要があるのではないかという発言もあり,参考文献として,(100分de名著)ジーン・シャープ著『独裁体制から民主主義へ』(NHKテキスト,2023年)やエリカ・チェノウェス著『市民的抵抗:非暴力が社会を変える』(白水社,2022年)が紹介された.

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