2月例会 歌川学氏の講演

2月例会


日 時:2021年2月27日(土)10:00〜12:00
講 演:「日本の2050年CO2排出ゼロ対策について」 
講演者:歌川 学 氏(産業技術総合研究所)   
発表資料
要 旨:
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5度特別報告書」で,気候変動の悪影響を小さく抑える気温上昇1.5度抑制のために世界の2050年CO2排出を実質ゼロにする排出経路が示された.日本でこれに従った排出許容量を紹介する.また,2050年排出ゼロにする対策シナリオについて,今の技術で行う範囲,新技術で行う範囲に分け,今の技術でできる範囲が大きいことを報告する.

なお,歌川氏には,講演の内容に関連した以下の論文や書籍があります.
① 「IPCC 1.5℃特別報告と,産業革命前比気温上昇1.5℃未満制御のための日本のCO2排出削減」『日本の科学者』2020年9月号,p28-33.
②『スマート省エネー低炭素エネルギー社会への転換』(東洋書店,2015年).

研究会の動画(約2時間)



<報告>

2月例会では,筑波の産業技術総合研究所(産総研)で再生可能エネルギー政策やエネルギー・環境領域についての研究をされている歌川学氏に「日本の2050年CO2排出ゼロ対策について」と題した講演をしていただいた.これまでであれば,福岡で講演していただくためには少なくとも数万円の交通費を工面しなければならないところであったが,オンライン会議が常態化した今では,その心配もなく依頼し,即座にオンライン講演会を快諾いただいた.

歌川氏は,まず最近,日本でも多発している異常気象に言及された後,「2030年から2050年の間に平均気温の上昇は1.5℃に至る可能性が高い」との国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5℃特別報告書」(2018年)を紹介され,これからの5〜10年の対策が重要であることを強調された.同報告書によれば,産業革命前に比べて1.5℃上昇に抑えるためには2050年でのCO2排出ゼロが必要という.

「2050年CO2排出実質ゼロ宣言」は世界120カ国におよび,昨年10月には日本でも遅ればせながら菅首相が表明した.日本において「2050年CO2排出実質ゼロ」声明をしたのは東京都や福岡市をはじめ277自治体におよび,その人口は1億にせまるという.しかし,2050年に向けた技術的対策の具体的な道筋を明らかにしている自治体は長野県や東京都など多くはないとのことである.長野県の2050年に向けたロードマップでは,最終エネルギー消費量を現状から7割削減し,再生可能エネルギー生産量を3倍にすることでゼロカーボンの達成が可能という.

日本のCO2排出ゼロシナリオについて,歌川氏の独自の分析を紹介いただいた.省エネ対策として,2030年までは,産業・業務・家庭では省エネ設備を更新するとともにビルや住宅の更新時に断熱建築を普及させ,運輸については燃費の良いものに転換し一部電気自動車化を想定する.2050年までは,産業では低温熱(100℃)利用の一部と中温熱(100℃〜200℃)利用の電化し,業務・家庭ではゼロエミッションビル・住宅を普及して,運輸では全て電気自動車化を想定している.原発やCO2回収・貯蔵および利用,気候工学(climate geoengineering)などは使わず,森林によるCO2吸収も計算に入れていない.

以上の想定のもとで既存の対策技術のみを使い,経済の活動量中位ケースでは,エネルギー期限のCO2排出量は2030年には2010年比で60%以上削減でき,2050年には96%削減できる.経済をいまの大量生産のまま継続する場合でも2050年には90%削減できるという.残りの4%〜10%を今後新たに開発される技術を使って削減すれば,2050年にCO2排出ゼロができるという.いま商業化されている有料技術によりCO2排出量のほとんどが削減できるというのは,大いに希望の持てる結論であった.

1時間の講演のあとにたくさんの質問が出されたが,歌川氏はそれらの一つひとつに丁寧に答えられていた.上の「研究会の動画」に講演とともにこれらの質疑応答も含めた動画(約2時間)があるので参照されたい.

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