9月例会 最近の気候変動に関する動向

9月例会


日時:2020年9月26日(土)10:00〜12:00
話題:最近の気候変動に関する動向
   (話題提供:三好永作)  
発表資料

<報告>

会誌『日本の科学者』9月号の「待ったなし,気候危機を回避するために」の特集論文4報と関連論文・資料の紹介を中心に報告した.

これまで国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は5回にわたって出されてきた.1次報告書(1990 年)では「人為起源の温室効果ガスは気候変化を生じさせる恐れがある」といくらか曖昧な表現であったが,3次報告書(2001 年)では「可能性が高い(66%以上)」,4次報告書(2007 年)では「可能性が非常に高い(90%以上)」,5次報告書(2013 年)では「可能性が極めて高い(95%以上)」と最近の気温上昇が人為起源であると,科学的根拠が次第に高められていった.2015 年の「パリ協定」では,気温上昇を2℃以内にするという「2℃目標」が示され,「1.5℃目標」はできれば追求するべしという程度であった.それが,第48 回IPCC 総会で承認された「1.5℃特別報告書」では,2℃上昇と比較して1.5℃上昇の場合は熱波や豪雨の極端現象が少なくなり,穀類の生産量減少の割合が少なくなるなど大きな違いがあることが明らかにされている.

現在の地球表面の気温は産業革命以前より約1℃上昇しており,現在の速度で温暖化が進めば2030 年から2052 年の間に気温上昇は1.5℃に達する可能性が高い.気温上昇を1.5℃に抑えるためには,CO2 排出量を2030 年までに45%削減し,2050 年頃までにはほぼ「正味ゼロ」にする必要があり,これまでにないスケールでの排出量の削減や様々な技術の採用が必要となる(大気中からCO2 を除去することを始める必要もあろう).

気温上昇を1.5℃に抑えるためには,これまでの各国の約束だけでは不十分で,CO2 排出削減を図る今後10 年の対策が重要である.2019 年9 月の国連気候行動サミット(ニューヨーク)で119ヵ国とEU が2050 年までにCO2 排出実質ゼロを宣言し,100 ヵ国以上が目標引き上げを宣言したが,CO2 排出量の57%をしめる5 ヵ国(中国,米国,インド,ロシア,日本)は目標の再提示もしなかった.日本の温室効果ガス削減目標は,2013 年比で2030 年に26%減(パリ協定で基準にされている1990 年比では18%減),2050 年に80%減(同55%減)であり,今も変わらない.歌川論文における日本の排出削減シナリオの試算では,2050 年にCO2 排出量は1990 年比で90〜96%の削減が技術的に可能であるという.

たった一人で党派を超えて取り組んだ出口幹郎著「明石市の気候非常事態宣言」(p.19-25),ケンジ・ステファン・スズキ著「デンマークの気候法」(p.26-27)および編集部によるアンケートに対する「気候危機回避のための各政党政策」(p.48-56)も簡単に報告した.

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