8月例会 原子力規制委員会「新規制基準の考え方」

8月例会



原子力規制委員会は,行政訴訟に対応するため原発の新規制基準に関して内容や
根拠となる考え方について解説した資料「実用発電用原子炉に係る新規制基準の
考え方について」を作成し,さる6月29日に発表しました.
以下の核問題研究会においてこの「新規制基準の考え方」の内容を紹介するとと
もに,批判的に検討したいと思います.興味のある方はご出席ください.


日時:2016年8月27日(土)14:00〜16:30
場所:九州大学筑紫キャンパス総合研究棟5階511室
内容:原子力規制委員会「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」
   なお,原子力規制委員会のその文章は以下からなっています.

第一部(pp.1-49)
発表資料(岡本
○原子力規制委員会の専門技術的裁量と安全性に対する考え方(1項目)
○設置許可基準規則等の策定経緯(1項目)
○国際原子力機関の安全基準と我が国の規制基準の関係(1項目)
○深層防護の考え方(1項目)
○深層防護の考え方 避難計画(2項目)
○共通要因に起因する設備の故障を防止する考え方(4項目)
第二部(pp.50-85)
発表資料(北岡)
○重大事故等対処施設(8項目)
第三部(pp.86-111)
発表資料(三好)
○電源確保対策(3項目)
○使用済燃料の貯蔵施設(4項目)

<報告>
 原子力規制委員会が行政訴訟に対応するため原発の新規制基準に関して内容や根拠となる考え方について解説した「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」(2016.6.29)の内容を紹介するとともに,批判的に検討した.この文章は,以下の項目について規制委の見解を述べている.第一部を岡本氏が,第二部を北岡氏が,第三部を三好が報告した.

 まず,規制委の専門技術的能力の自己評価は主観的であって具体的内容の呈示はなく,「『絶対的な安全性』というものは、達成することも要求することもできない」として,一般の技術システムとは異なる原発システムの異質性(①莫大な放射能を内蔵するという巨大な潜在的危険性,②過酷事故が起きたら時間的、空間的に限定することが不可能であることなど)をまったく無視している.また,「IAEA安全基準が既存の施設に適用されるか否かも個々の加盟国の決定事項であるとされている」として,日本の既存の原発にはIAEAの安全基準を適用しないと弁解している.深層防護の第4の防護レベル(過酷事故の影響緩和など)に関して,「早期の放射性物質の放出又は大量の放射性物質の放出を引き起こす事故シーケンスの発生の可能性を十分に低くすることによって実質的に排除できることを要求するものである」としている.この文章は明確には表現していないが,「実質的に排除できる」ものは第4の防護レベルであろう.第1から第3の防護レベルをしっかりすることで,第4の防護レベルを十分にしないでもよいということを意味している.このことは,我が国の原子力規制法の第1条(目的)には事故発生防止は記されているが,重大事故(過酷事故)が発生した場合の影響緩和が明記されていないことと符合する.

 重大事故対処設備の要求事項として,炉心の損傷に際して,格納容器の急激な温度・圧力の上昇や溶融炉心・コンクリート反応(MCCI),水素爆発等については記述されているが,水蒸気爆発や一酸化炭素(CO)爆発につては(これらの危険性については,今の段階では未解明であり,特別な配慮が必要であるにもかかわらず),軽視ないし無視されている.また,「想定する事故シーケンスグループの重畳を検討する必要はあるか」との問いに対して,「重畳する様な事故の発生頻度は低いと考えられ,仮に重畳したとしても,それぞれの防止対策を柔軟に活用することができる」と極めて単純で楽観的な見通しである.

 外部電源系を,異常発生防止系(PS)として安全重要度の最も低いPS-3クラスに分類し,さらに耐震設計上の重要度おいても最も低いCクラスに分類しているのを,「事故発生時は,外部電源系による電力供給は期待すべきではない」ので合理的であると居直っているが,外部電源の喪失が福島原発事故の一要因であったことを考えれば,疑問が残る「考え方」ではないだろうか.また,使用済燃料の貯蔵施設に関して,「使用済燃料が冠水さえしていれば,(中略)その崩壊熱は十分除去される」,そして「放射性物質が放出されるような事態は考えられない」ので,貯蔵施設の閉じ込め機能を要求しなくてよいとしている.これについても,福島原発事故で最も恐れられたのは燃料プールからの放射性物質の放出であったことを考えれば,あまりにも楽観的な「考え方」といえる.より安全な空冷式の「乾式貯蔵」についての記述はまったくない.

 結論的にいえば,新規制基準は3.11以前の基準に比較すれば原発の潜在的危険性を直視している面もあるが,過酷事故や破壊行為による影響を緩和できず、大量の放射能を環境中に放出する危険性を容認する甘い基準と言えるのではないか.

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