1月例会 気候変動ぜい弱性研究会報告書について

1月例会


日 時:2024年1月20日(土)10:00〜12:00
話 題:気候変動ぜい弱性研究会報告書「原発は気候変動に堪えられるか」
    (2023年10月)の要約紹介とコメント
報告者: 岡本良治氏  
発表資料

<報告>

 1月例会では岡本氏が,原発の気候変動ぜい弱性研究会(メンバー:鮎川ゆかり,大島堅一,蓮井誠一郎,川井康郎,松久保肇)が2023年10月に発表した報告書「原発は気候危機に耐えられるか」を紹介し,さらにそれに対するコメントをされた.本報告の主題は,気候変動(気候危機)に対する原発のぜい弱性についての批判的分析であるという.

 気候変動対策に取りうる選択肢複数存在し,原発もその一つであるが,時間が限られ,即効性が高く費用対効果の高いものから効率的に行うべきである.原発は,計画から稼働までの期間が長く,コストが高く,気候変動対策としては他電源に比べて劣るという. 

 報告書は,福島原発事故を契機として,気候変動による極端な気象事象に原発は耐えうるのか,という研究があらゆる分野で行われているが,それに比べて日本は,気候変動への危機意識があまりにも低いのではないかと警告を発している.その他にも,海面上昇,水温上昇,冬の豪雪について,原発の安全性との関連で論じている.日本の原発の安全規制は2011年の福島原発事故の影響を考慮せず,安全性を保つ適応策を取っていないと断じている.

 原発に係わる新規制基準には,将来の気候変動への対策を義務付けるような規定はないが,地震,津波,その他の外部からの衝撃(洪水,台風,竜巻など)を考慮すべきとしている.温暖化や異常気象による将来的なリスクとしては,想定を超える強風,遡上津波の高さ,地盤沈下による海面上昇,海面温度上昇による発電効率の低下,などが考えられる.

 2005年頃から「気候安全保障」という表現が国際政治のさまざまな場面で用いられるようになったという.これは,軍事的な国家安全保障よりも広い含意をもつものであり,重要なのは気候変動が安全保障上の脅威の要素である「人為性」「能力」「意図」について,その要件が揃ってきたことであるという.「人為性」については,IPCC第6次評価報告書で「人間の影響が大気,海洋,及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」として気候変動における人為性を強く認めている.「能力」についてもIPCCの第2作業部会の評価報告書(WG II)が加害能力を詳細に描き出している.「意図」については「未必の故意」が成立することで認められる(「未必の故意」とは,その発生の蓋然性を認識しながら原因となる行為をおこなうこと).温室効果ガスの排出は気候変動につながることは世界的に明らかになっており,温室効果ガス排出による気候変動は,軍事的侵略と同様に安全保障上の脅威としての要件が備わったことになる.

 コストが高く時間がかかる原発には多くのリスクが存在しており,巨額の資金と時間を投じて原発を推進することは温暖化対策として合理的ではない.本報告書は,他に相対的に安価かつ短期間で導入できる脱炭素電源がある中で原発を推進することは,他の対策を遅らせることにもつながり,カーボンニュートラルの実現を困難にすると結論している.

 岡本氏は最後に,原発推進派は,脱炭素電源として「原発+再エネ」を主張し,「原発を利活用せずに再エネだけで気候危機に対処できるのか?」と批判してくることは間違いない.それに対して「脱原発+省エネ+再エネ+産業構造の脱炭素化」という路線が説得力のある主張になるのではないかと言われ,2024年1月のダボス会議で2030年までに既存技術の導入だけの省エネにより年間2兆ドル(296兆円)のコスト削減につながるとの調査報告書を世界経済フォーラムなどの研究グループが発表したというニュースを紹介された.

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