7月例会 海底地滑り&2000ワット社会

7月例会


日時:2018年7月14日(土)10:00〜12:30
話題:(1)「地震が起きなくとも津波は発生する-海底地すべり津波について」
     (話題提供:森永徹氏) 
報告資料
   (2)「スイス2000ワット社会について-意義と解説-」
     (話題提供:岡本良治氏) 
報告資料

<報告>

 まず,森永氏が,海底地滑りによる津波という珍しい話題を報告した.津波の原因のほとんどは海底地震である.しかし,まれにではあるが海底地滑りによって津波が生じるという.1790年から1990年の間に生じた津波のうちで地滑りによるものは3.3%であった.海底地滑りは小さな地震などがきっかけで発生する可能性もある.1026年,島根県益田地方を集中的に襲った「万寿の大津波」は,地震被害の報告がなく,日本海の海底斜面の崩壊(地滑り)による可能性が高く,崩壊したと指摘される島根県沖の崩壊面が益田に向けて凹状になっていることからフォーカシング効果で益田地方に津波被害が集中したと考えられるという(竹本京大名誉教授,JSA京都支部ニュースNo.408).地上での地滑りでは,崩落土塊の体積は大きいものでも数十km3程度であるのに対して,海底地滑りでは数千〜数万km3に及ぶものもあるという.駿河湾や徳島県沖でも海底地滑りの痕跡が発見されている.また,1586年の天正地震で若狭湾に津波の被害があったとの古文書がある.天正地震の震央は内陸であるという見方があり,そのことから津波を否定する説もあるが,それだけで古文書にある津波被害を消すことには無理がある.地震が引き金となり,若狭湾沖で海底地滑りが起き津波が発生したというシナリオを否定できないからである.実際,若狭湾沖の日本海は海底斜面崩壊が多発する海域の一つという.若狭湾沿岸では,これとは別に600〜800年前にも津波があったという調査がある.日本の近海では,海底地滑りによる津波の危険性にも着目する必要があるということである.

 次に,岡本氏はスイスで先進的に進められている「2000ワット社会」についてその解説と意義を報告された.エネルギーの80%を輸入しているスイスでは,増え続ける一次エネルギー消費の問題に取り組むために,1998年にスイス連邦工科大学(ETHZ)の科学者たちが「2000ワット社会」という総合的政策を考案し,2016年2月時点で,スイス連邦エネルギー庁が奨励する「2000ワットエリア」の認証を受けている住宅地はスイスにおいて9地区もあるという.「2000ワット社会」とは,1次エネルギー消費率(単位時間あたりの1次エネルギー消費量)を一人あたり2000ワットに抑える社会ということである.この社会のコンセプトは,生活の質を低下させることなく,地球の全領域において持続的かつ公平なエネルギー供給を可能とし,地球の気温上昇を産業革命以前に比べて1.5〜2℃に留めるということである.この一人あたり2000ワットという消費率は,一人あたり年間CO2排出量を1トン未満に抑えることに対応している.現在のスイスの一人あたり1次エネルギー消費率は,5000ワットを超えており(内訳:居住とオフィス空間30%,食料・消費財22%,公共インフラ18%,電力12%,自動車10%),それらを半減以下にする必要がある.そのためには,省エネとエネルギーの高効率化を基本としつつ再生可能エネルギーの普及が必要である.エネルギー効率を向上させる新技術を実用化し,一連の対策を実行すれば,今の快適な暮らしを手放すことなくこの目標の達成が可能であるという.スイスの環境相M.ロイエンベルガーはこのビジョンを実現するために問題なのは技術面ではなく政治的意志であると述べている.日本のエネルギー消費率もスイスとほぼ同様であり,スイスの「2000ワット社会」に学ぶ必要があろう.

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