公開質問書に対する九電からの回答

九州電力からの公開質問書に対する回答



九州電力との交渉の報告8(2018.8.28)

九州電力からやっと回答が,8月23日にありました.回答は文書ではなく,いつものことではありますが,口頭でなされました.そのために録音したデジタルデータから「文字起こし」をするのに若干の時間がかかりました.以下に,九州電力の回答(A1〜A!0)をこちらからの質問(Q1〜Q!0)とそれぞれペアで掲載します.なお,九州電力から回答に対する質疑応答については,さらに「文字起こし」をして,公開いたします.(EM)

九州電力との交渉の報告9(2018.8.31)
「文字起こし」において不明部分を九州電力に問い合わせを行い,九州電力からの回答がありましたので,疑問符を付けて表示していた部分を回答いただいた文言に変更しました.(EM)


(Q1) 原発の審査基準について
原子力規制委員会設置法と電気事業法の目的は「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資すること」と「公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ること」である.そのために,福島原発事故の様な原子力災害を確実に防止することが政府と九州電力に求められている.
福島原発事故の教訓の最も大切な点は,滅多に起きないが影響の大きい,いわゆる「低頻度・高影響」の事象への対策を無視したことである.原子力規制委員会(以下,規制委)は,国際原子力機関(IAEA)の深層防護における第4層の過酷事故対策の実践を「(事故の可能性が小さければ)実質的に不要」とする「新規制基準の考え方」[1]で審査を行い,水蒸気爆発や航空機激突等の対策を要求していない.この「可能性が小さければ対策しない」という審査基準は,福島で「大地震・大津波対策」を怠り未曾有の公害・人災を招いた考え方と同一である.そもそも,過酷事故のシーケンスの発生確率を精確に見積もることは,容易なことではない.「可能性が小さければ対策しない」との考え方だけでなく,「可能性の小ささ」を単純に信用してしまう態度も大いに問題である.
このように,過酷事故対策は「(事故の可能性が小さければ)実質的に不要」であるという規制委の極めて楽観的な審査基準について九州電力はどう考えているか?

(A1)
当社、福島第一事故を受けまして、核原料物質、核燃料物質および原子炉等規制に関する法律が改正されまして、事故の教訓や最新の技術的知見、海外の規制動向等を踏まえた、原子力発電施設にかかる、新たな規制基準が策定され、その中で新たにシビアアクシデント対策と、-- これがIAEAで言う第四層の過酷事故対策と言うものと考えております。-- それが新設され、その項目として、意図的な航空機衝突への対応、格納容器破損対策、炉心損傷防止、こういったことが重大事故等対策として明記されていると。それと、あと当社の原子力発電所としては、原子力規制委員会より深層防護を基本とした新規制規準に適合しているとの判断を受けていると言うことと考えております。

(Q2) 過酷事故時の住民避難等の対策について
 規制委の任務として,設置法では「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全」(第3条)が掲げられている.しかし,過酷事故時の住民避難等の対策(原子力防災)は規制委の審査の対象になっていないため,再稼働の審査は規制委の目的・任務からして重大な欠陥があるといわざるを得ない.原子力施設周辺における放射線影響緩和は,IAEAの深層防護の第5層としても求められており,国際的な観点から見ても原発の稼働にとって不可欠の条件であるが,原発周辺自治体に「丸投げ」され,その有効性についていかなる公的な第三者機関による検証もなされていない.以上の点は,規制委の無責任性を物語るのもではあるが,そのような中で,ひとたび原発の過酷事故が発生すれば,その被害に対する全責任を取るべきは九州電力である.この点について九州電力はどのように考えているか?

(A2)
IAEAによる第五の壁、放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和については、その前段階である第四の壁、事故の進展防止およびシビアアクシデントの影響緩和、過酷なプラント状態の制御の対策として、放射性物質の放出防止対策として、格納容器破損防止対策として、格納容器の冷却、減圧対策、溶融炉心冷却対策、水素爆発防止対策を講じております。また、万が一放射性物質が放出されるような事象が発生した場合に備え、格納容器の漏洩箇所へ放水することにより、放射性物質の周辺環境への放出を極力抑える対策、あるいは放出された放射性物質を含む水が海水に流れても、外洋への拡散を抑制するシルトフェンス等を設置することとしております。第五の壁については、内閣府にて法体系上整理されておりまして、ご指摘の通り、自治体主導となっております。自治体が作成する原子力防災にかかる地域防災計画、避難計画等について、原子力発電所が所在する地域ごとに、課題解決のためのワーキングチームとして設置された、地域原子力防災協議会がその具体化、充実化を支援しております。協議会では要支援者、避難先への移動手段の確保、国の実働組織の支援、原子力事業者に協力を要請する内容等の具体策について、協議、連絡、調整を行なっております。当社は協議会に積極的に参加するとともに、協議会からの支援要請に誠意を持って対応して行くこととしております。また、協議会においては、避難計画を含む、原子力防災対策の実効性を向上させて行くため、防災訓練の反省点等を関係機関で共有して、改善を図ることとしており、当社においても、住民避難支援にかかる教育を継続的に実施するとともに、原子力防災訓練の結果等も踏まえ、取り組み内容の継続的改善に努めております。

(Q3) 過酷事故時の水蒸気爆発リスク対策について
IAEAの深層防護の第4層にあたる安全規則では,必ず想定すべき格納容器破損モードとして水素燃焼や溶融炉心・コンクリート相互作用とともに原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用(Molten Fuel Coolant Interaction, FCI)が含まれている.九州電力は,実機において想定される溶融物(UO2,ZrO2)を用いた「大規模実験」として,COTELS,FARO,KROTOS及びTROIを例に挙げながら,原子炉容器外のFCIのうち,水蒸気爆発は,実機において発生する可能性は極めて低いと申請書に結論して,これを規制委の「審査書」では,無批判に認めている.
しかしFCIは,いわゆる「複雑系」に関わる現象であり,条件のほんの微小な変化により結果が大きく変わることが分かっている[2, 3].KROTOSなど幾つかの「大規模実験」の結果で,FCIの全容が分かるわけではない.KROTOSなどの「大規模実験」とは比較にならないほど大規模な実機でメルトダウンを伴う過酷事故が起きたときには,何が起きるのかは分からないのが現状である.
軽水炉の安全性についての研究において世界的な権威であるB.R. Sehgal教授の編集による最新の報告書[3]や経済開発協力機構(OECD)のSERENAプロジェクト(FCIに関する研究)に参加する研究者達[4]の了解事項は,FCIを伴うメルトダウンの実際の場面(「実機条件」)では,「水蒸気爆発は必ず起きると考えよう」である.
何故に,九州電力はこのような最新の知見を無視して,「実機において発生する可能性は極めて低い」とする結論を強引に下すのか? 規制委の審査書では,溶融した炉心を水で張った格納容器に受けて冷却するという事故対策を容認している.しかし,この事故対策は,明らかに「液-液直接接触が生じるような外乱を与え水蒸気爆発を誘発する」ことにほかならず,水蒸気爆発が起こることを覚悟しなければならない.過酷事故をさらに酷くする水蒸気爆発を誘発する恐れがある事故対策をあえて実施する理由は何か?

(A3)
国内の実験では、水プール底から圧縮ガスを供給し、強制的に外乱を与えた実験の結果、一部のケースにおいて水蒸気爆発の発生が観測されており、外乱となりうる要素として圧縮ガスの供給が考えられる。実機の原子力発電所においては、原子炉下部キャビティにおいては圧縮ガスの供給源となるものはなく、また、炉心損傷時には、格納容器下部キャビティによる冷却水の流れ込みで、蒸気膜を壊すような外乱となりうる要因が考えにくいことから、水蒸気爆発が発生する可能性は低い、極めて低いと考えております。また、細粒化した燃料どうしが水中で接触したとしても、溶けた燃料を覆う蒸気膜は安定した状態にあることから、水蒸気爆発に至ることはないと考えております。
水蒸気爆発に関する大規模実験として、COTELS、FARO、およびKROTOSを参照に大規模実験と実機条件を比較した上で、実機においては水蒸気爆発の発生の可能性が極めて低いということを確認しております。加えて、JASMINEコードを用いた水蒸気爆発の評価に置ける条件と、実機の条件との相違を踏まえると、実機においては、水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いことを確認しております。これから、原子炉圧力容器外の溶融燃料・一次冷却材相互作用で想定される物理現象のうち、水蒸気爆発は除外可能であるということを確認しており、規制委員会のパブコメでも回答しております。なお、当社は今後も法令、規格、基準への適合はもとより、新たな知見等があれば積極的に取り入れ、原子力発電所の自主的かつ継続的な安全性向上に取り組んで行きたいというふうに考えております。

(Q4) 再臨界の可能性について
過酷事故時においては,炉心から熔融し,炉心外に貫通(メルトスルー)した燃料デブリが格納容器のコンクリート床に落下する.このため溶融炉心コンクリート相互作用(MCCI)生成物の臨界特性が問題となる.ケイ素を主成分とするコンクリートは中性子吸収が少なく,水には劣るが中性子減速効果も持つ.減速された中性子(熱中性子)はウラン235に吸収されやすく核分裂反応を促進する.このように,MCCI生成物がごく少量の水分と共存することで再臨界の可能性を高めることが報告されている[5].
メルトスルーした燃料デブリを水で張った格納容器で受け取るという今回の事故対策では,そのことで水蒸気爆発が起きなかったとしても,この点についての検討が十分になされているとはいい難い.燃料デブリがコンクリート床に次々に落下し,核分裂物質を含む燃料デブリの量が増加し,ケイ素や水の中性子減速効果により核分裂反応が促進され,再臨界の可能性が高まることがありうると考えられる.さらにこの新たな再臨界によって新たな水蒸気爆発が発生することもあるかもしれない.このような危険性に対して,九州電力はどのような対策を考えているのかを教えて欲しい.

(A4)
コア・コンクリート 反応については、万が一大口径配管等の破断により原子炉の冷却水が喪失し、さらに全ての交流動力電源の喪失に伴い、非常用炉心冷却装置や格納容器スプレイ設備が動作しなような過酷事故が発生した場合でも、新たに設置した大容量空冷式発電機や、常設電動注入ポンプによる格納容器スプレイを用いて、原子炉の真下にある原子炉下部キャビティに水を張ることで、落下した溶融燃料を冷却することとしています。従って、炉心溶融、コンクリート相互作用による原子炉格納容器の健全性が失われることはないと考えています。
臨界性については、冠水している残存した溶融炉心については、冠水させている水はホウ酸水と海水の混合水であり、ホウ素濃度が十分確保出来ている状態では、臨界に至る可能性は低いと考えています。なお、海水にホウ素濃度換算で200ppm程度の中性子吸収効果が見込まれると考えております。露出している残存した溶融炉心については、減速材不足のため臨界に至る可能性は低いと。仮に、溶融燃料中に冷却材が侵入し、中性子の最適減速条件が形成されることを想定した場合には、臨界に至ることは考えられますが、炉心形状の崩壊などの要因も考慮すると、その可能性は低いものと考えられます。
以上のように、溶融炉心が臨界になる可能性は低いものの、溶融の形態が特定できないことから、溶融炉心が無制限な臨界状態に至る可能性もできる限り少なくするため、注水に当たっては可能な限りホウ酸水を用いることとしております。
なお炉心の臨界状態はモニタリングポスト、CV内サンプリングによる核分裂性希ガス濃度の測定等により行うこととしております。

(Q5) 通常運転時の健康被害について
玄海原発の再稼働によって,過酷事故がありうることは明確であるといわざるをえない.しかし,もしその危険性を無視できるほど小さなものと仮定できるとしても,玄海3,4号機が稼働を再開すれば,通常運転においても原発周辺では健康被害が生じる恐れが大きいことが明らかになっている.玄海原発周辺では,同原発の稼働によって住民の白血病死亡率が高くなったとの報告があり[6],通常運転時に原発から環境に放出されるトリチウムが原因として疑われている.実際,玄海原発は過去の稼働時の 2002年から 2012年に 826テラベクレルと,わが国の原発では最も多量のトリチウムを放出している.これは福島原発事故で発生した汚染水中のトリチウムの量とほぼ等しい.
トリチウムの危険性については,ベータ線のエネルギーが小さいためベクレル当たりの吸収線量は小さい.しかし,トリチウムは生化学的に重要な元素としての水素の同位元素として,生体に容易に取り込まれるため,特別な内部被ばくのリスクがあることを,欧州放射線リスク委員会(ECRR)は2010年勧告[7]で指摘している.このトリチウムの危険性は,まだ科学的に確定されたことではないが,トリチウムの周辺住民への健康影響の危険性が完全に払拭されない限り,玄海原発の再稼働はするべきではないと考えるが,九州電力はこの点をどうのように考えているのか? また,九州電力は玄海原発周辺市町村における白血病の死亡率のデータを調査しているのか?

(A5)
玄海原子力発電所から放出されるトリチウム濃度は国が定める基準値を十分満足している。また年間のトリチウム放出量をもとに発電所周辺の人が受ける放射線量を国が示す指針に従って算出した結果、1年間で0.001ミリシーベルト未満と評価され、自然放射線の1000分の1以下となっております。このため、玄海原子力発電所から放出されるトリチウムは周辺住民の健康に影響を与えるレベルにないと考えています。
これらの調査結果については、定期的に開催される自治体主催の会議において、学識経験者からの指導と助言をいただきながら、検討・評価を行っており、これまで問題がないことを確認しています。
原子力発電所から放出されるトリチウムは、原子炉の型式や原子炉基数などによりトリチウムの放出量が異なっております。このため、玄海原子力発電所と同型を導入している発電所で同数の原子炉を設置している高浜発電所、大飯発電所と放出量を比較したところ、同程度であり、玄海原子力発電所が突出して大きい訳ではないと考えています。

(Q6) 破壊行為から原発等を守る対策について
玄海原発において,① 使用済み核燃料を水冷保管していることや② 格納容器を空気で充填していること,そして③ 見て分かる航空機対策をしていないことは,疑いようなく周知されている事実である.
海外では取り組みが進んでいる使用済み核燃料の乾式貯蔵は,安全性を格段に高める.玄海原発等の加圧水型原発の格納容器には,沸騰水型に比較して容量が大きいことを理由に窒素充填していない.しかし,加圧水型原発の格納容器に窒素充填することは,格納容器内での水素爆発を抑止するなど安全性を高めることに有効である.航空機の対策については,規制委は「確率」による計算と判断から審査対象から外した.わが国の航空機の対策は,欧米各国の対策・考え方から大きく遅れている.米国での9•11事件や飛行機の墜落を深刻にとらえた欧米各国は,現実的な検討をして具体的で公開された,大型航空機の衝突に耐える2重構造の格納容器などを備える原発を建設されている[8].こうした頑強な構造を持つ原発は従来の原発より安全性は高く,天災等による事故の被害拡大や破壊行為への抵抗性も高いと考えられる.
これらの乾式貯蔵や格納容器への窒素充填,2重構造の格納容器などは,破壊行為から守るためにもこれらの対策が有効である.(使用済み)燃料プールが無ければそれを破壊して冷却を阻害できないし,格納容器に窒素充填していれば内部に侵入するにも酸素ボンベがいるし,窒素を排除するにも時間がかかる.2重構造の格納容器は飛行機で破壊することは困難であろう.このように,原発の安全性を高めることが,破壊行為の抑止にも確実に有効な手段となる.このような高い安全性を持たない玄海原発は,破壊工作によって容易に破壊される危険性が高いと考えられるが,この点について九州電力はどのように考えているか?

(A6)
乾式貯蔵については,プール方式と併用することにより,保管方法が多様化するなど,発電所のさらなる安全向上をはかれることから,国内外の事例の事情収集や貯蔵方法等についての技術的な検討を行っております.格納容器への窒素充填については,水素爆発等について格納容器内の雰囲気が窒素雰囲気であれば,水素・酸素反応による爆発の可能性に比べ著しくその可能性が低くなることは理解できます.ただ,一方,現在のPWRプラントにおいて,燃料被覆管全てが溶融して,それにともない発生する水素量と格納容器内の容量から導き出される酸素量を考慮した結果,水素爆発の濃度に達しないことは,評価されておりまして,原子力規制委員会によっても了承されています.また,原子炉格納容器内での作業に関しても窒素雰囲気である場合,ボンベ等を用いての作業となり作業性が悪くなるという面もございます.また,原子力発電所に航空機が衝突した場合,被害の有無・程度について一概に言及することはできません.ただし,当社の原子力発電所は耐震性や遮蔽の観点から十分な強度と厚さを持った堅固な構造物となっており,外部からの衝撃に対しても相当の耐力を持っていると考えています.また,異常を検知した場合,原子炉は直ちに自動停止するように設計されています.また,破壊工作については当社は,国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)に基づいて指定公共機関として国民の保護に関する業務計画を定めており,その計画の中で原子力関連の運転停止について次のように想定しております.武力攻撃等について,発電所所在地域が警報の発令地域となった場合または地域を定めずに警報が発令された場合には,当社は直ちに原子炉の運転停止に向けて必要な措置を実施しする.原子力規制委員会からの運転停止命令が発表された時には,運転を停止します.突発的な武力攻撃が発生した場合等,特に緊急を要する時には警報の発令や運転停止命令の発動を待たずに自らの判断により運転を停止することになります.あと,航空機衝突における攻撃については,米国の非営利の連合研究体である電力研究所が,2002年に米国内の原子力施設の代表的なタイプをモデルに,米国同時多発テロ事件のように大型旅客機衝突による影響をコンピュータ解析によりまとめています.これ解析の結果,原子炉格納容器等の施設に多少の損傷を受けたとしても貫通することなく,放射性物質の外部へ放出する危険性は小さいと結論しています.

(Q7) 基準地震動の設定値について
基準地震動についても問題としたい.基準地震動とは原発の耐震設計において基準とする地震動(地面や地中の揺れ)のことで,玄海原発の基準地震動は620ガルと低く設定されている.地震は,すでに見つかっている活断層で起きる場合と,活断層が未発見の場所で起きる場合があるが,2016年10月21日の鳥取県中部地震(M6.6)はこれまで知られていない断層が動いたものとの見解を政府の地震調査委員会が発表した.この地震では震源近くで震度6弱を記録し,倉吉市では1494ガルの地震動を観測している.
玄海原発の付近は地震が比較的少ない地域であるが,このような未発見の断層による地震で起きる危険度は小さいとは言いきれない.玄海原発直下で鳥取県中部地震を超える規模の地震が起きる可能性は否定できない.また,九州電力や規制委による活断層を特定した基準地震動の評価法では,過小評価になっているとの多数の地震学者の警告がある[9].これらを考えれば,今回の玄海原発再稼働審査によって原子炉格納容器を含めた原発の耐震性が確かめられたとは到底言えない.このような基準地震動について過小評価になっているとの多数の地震学者の警告を九州電力はどのように考えているか?

(A7)
玄海原子力発電所の基準地震動は,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動としてSs-1(540ガル),Ss-2(268ガル),Ss-3(524ガル),震源を特定せずに策定する地震動としてSs-4(620ガル),Ss-5(531ガル)を設定しています.当社は敷地ごとに震源を特定して策定する地震動において徹底した調査により,活断層をもれなく把握しており,直下に活断層がないことも確認しています.また,震源を特定して策定する地震動における地震動評価は,詳細な調査に基づき地下の断層の断層の形状を策定し,放出されるエネルギー,断層の動く方向を決定し,具体的な地震動の計算を行うという一連の流れで実施します.この一連の評価におきましては,まず,実際の地震による原子力発電所敷地で揺れの観測記録と計算による揺れを比較し地震動の計算手法の精度を確認します.その上で,調査結果よりも断層の長さをなおす,あるいは断層を傾斜させることによって面積を大きくする,アスペリティーと呼ばれる地震の際に特に強いエネルギーが放出される領域を断層の中で敷地に最も近い位置に,地下の断層が揺れ動く向きを放出されるエネルギーが敷地に向かう方向にする,など地震動が過小評価にならないよう配慮を行っています.このため当社の地震動評価は十分安全側の評価と考えています.しかしながら,震源を特定する(ママ)策定する地震動は過去に震源断層の全てが地表に現れなかった地震において震源近傍の観測記録が得られていることを踏まえ,その観測記録も耐震設計に極力活用していくという観点で行動が必要なものです.新規制基準では震源を特定せず策定する地震動の策定にあたり観測記録を用いることが求められており,当社は2004年北海道留萌支庁南部地震および2000年鳥取県西部地震の観測記録を反映させSs-4およびSs-5を追加しています.当社は平成30年4月に川内・玄海原子力周辺における地震観測強化の取り組みとして川内原子力発電所周辺において12箇所の地震観測点の増設,合計31箇所で観測し観測結果について観測した地震の数・規模・位置,過去からの変化などを平成31年度から年一回の頻度で公開します.また,玄海原子力発電所周辺については23箇所で平成30年4月から地震観測点の設置を開始し平成31年から地震観測を開始予定としております.当社は,今後とも法令・規格・基準の適合はもとより新たな知見を積極的に取り入れ原子力発電所の自主的・継続的安全性向上に取り組んでまいりたいと考えています.

(Q8) 玄海原発の「立地の適・不適」について
規制委の審査内規である「火山影響評価ガイド」では,160 km火山を検討対象として,火山の噴火にともなう火砕流が原発に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合には,原発の立地は不適であるとしている.その噴火の規模が推定できない場合には,過去最大の噴火を想定するとしている.そして,去る12月13日の広島高裁判決では,伊方原発から130km離れている阿蘇カルデラの約9万年前の噴火で「火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできない」として,「伊方原発の立地は不適」と判断し,四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを命じる決定を出した.この広島高裁の決定を基準に考えれば,玄海原発も川内原発も阿蘇カルデラからの距離が伊方原発の場合と同程度であることから,九州電力の「2つの原発の立地は不適」と判断されることになる.この点を九州電力はどのように考えているのか?

(A8)
当社は,九州のカルデラ火山について,噴火履歴の特徴やマグマ溜まり状況などを検討し,いづれのカルデラ火山も運用期間中に破局的に噴火が発生する可能性は極めて低いと評価しており原子力発電所の安全性に問題はないと考えています.さらに自然現象の仕方を踏まえた,万が一の備えということで,カルデラ火山の活動状況に変化がないことを継続的に確認するためのモニタリングを行い,火山専門家との助言を受けながら行っています.なお,5つのカルデラ,阿蘇カルデラ,加久藤カルデラ,小林カルデラ,姶良カルデラ,阿多カルデラ,鬼界カルデラについては,原子炉施設保安規定に基づき平成28年度については6月9日,平成29年度は30年の6月15日に活動状況に変化がないと評価し結果を公表しています.

(Q9) 世代間倫理に反する行為について
原発の再稼働には世代間倫理についての問題もあると考える.原発の稼働により発生する使用済み核燃料などの高レベル放射性廃棄物は,一私企業(九州電力)の利益のために作り出されるものであるが,この管理保管には10万年余を要する.これ以上の高レベル放射性廃棄物を「負の遺産」として,未来の世代に残すことは世代間倫理に反する.この大地は私たちの「子孫からの借りもの」であり,再稼働により「負の遺産」を増やすことは子孫への犯罪的な行為で許されない.この点を九州電力はどのように考えているのか?

(A9)
高レベル放射性廃棄物は地層処分を行う方針としております.この地層処分とは,しかし日本では法律で300メートルより深い地層に高レベル放射性廃棄物を人工バリアを施したうえで処分し人間の生活環境に影響を及ぼさないように,長期にわたり安全確実に閉じ込め処分する処分方法です.人間による長期管理の継続は困難であることから,最終的には人間による管理がなくなったとしても安全に処分できる方法として選択されたものが地層処分です.地層処分は深い地層の岩盤が本来持っている物質を閉じ込めるという性質を利用して高レベル放射性廃棄物を生活環境から離れた地下深部に隔離して,その管理を最終的に自然に委ねる方法です.恒久的な人間による管理が必要ないということで,将来世代に管理の負担を負わせることはないと考えています.当社としては,原子力発電所については安全性の確保を大前提にエネルギーセキュリティー面や地球温暖化対策面等から,その重要性は変わらないと考えており,原子力発電所のさらなる安全性・信頼性向上に取り組んでいくとしています.

(Q10) 原発再稼働の民主的手続きについて
最後に,民主主義の問題もある.朝日新聞社が2017年2月18, 19日に実施した全国世論調査では,原子力発電所の運転再開の賛否について,「反対」は57%で「賛成」29%の2倍となっている.他の世論調査でもほぼ似たような結果である.いくら国(規制委)が認めたとしても,このような世論のもとで,しかも,安全性についての十分な保証もない中で,多くの国民の納得が得られない,玄海原発3,4号機の再稼働は,民主主義の問題としても許されないと考える.この点を九州電力はどのように考えているのか?

(A10)
福島原子力発電所の事故を踏まえますと,地域の皆様が原子力発電所に対して不安を抱かれていることは当然のことと受け止めています.原子力発電所の拡張にあたりましては自主的・継続的な安全対策を積み重ね,絶えず安全性向上に取り組んでいくとともに,地域の皆様に安全対策等についてご理解いただき安心していただくことが何より重要と考えている.今後もface to faceのコミュニケーション活動を継続してまいりたいと考えています.原子力発電所については経営の最重要課題として規制基準への適合性はもとより,安全性・信頼性のさらなる向上のために自主的・継続的な取り組みを進めていきたいと考えています.

8月例会 吉岡斉氏が残したもの

8月例会


日時:2018年8月25日(土)10:00〜12:30
話題:「吉岡斉氏が残したもの」
   (話題提供:三好永作) 
報告資料

<報告>

 まず,7月1日にKKR ホテル博多で行われた「吉岡斉先生を偲ぶ会」において使ったパワーポイント・ファイルで吉岡氏の足跡を紹介した.吉岡氏は1953年に富山市で生まれ,1976年に東京大学物理学科を卒業されている.同大学大学院に進学されたが,和歌山大学を経て1988年10月に九州大学教養部に赴任された.その後,同大学では総長補佐や副学長などの要職に就かれ活躍されたが,2018年1月に逝去された.大学における要職だけでなく,原子力市民委員会の座長を長い間務められた.

 彼の本来の専門は,科学技術論である.この関連には,『科学文明の暴走過程』,『通史日本の科学技術 1945-1995』などの著書があり,後者は1995年の第49回毎日出版文化賞特別賞を受賞している.時間の経過とともに,原子力政策や原発問題に関する論文や著書が増えていく.特に,福島原発事故を境に論文数が激増する.2009年3報,2010年4報であった論文が2011年には21報になっている(続いて2012年9報,2013年12報).

 吉岡氏の最後の単著による著書は『脱原子力国家への道』(岩波書店,2012年)であり,また,最後の単著論文は,「日本の包括的軍縮へ向けて」(『学術の動向』22巻7号, p.25-31)である.例会では,これらの文献の内容を「吉岡斉氏が残したもの」として紹介した.ここでは,後者の論文の内容を紹介する.

 まず,吉岡氏は標準的な軍学共同反対論として池内了氏の論点を4点にまとめ(①日本は国際紛争を非軍事手段で解決すべき,②軍事研究は人道に反し,③科学の発展に悪影響をもたらす.④軍事研究への非協力を表明した日本学術会議の知恵に学ぶべき),ここには,現実的な安全保障政策論への関与がなく,アカデミア関係者のみに訴える内向きのメッセージとなっていると批判している.

 日本の現実の安全保障状況を分析した上で,具体的・現実的な安全保障政策を論ずる必要がある.また,軍縮競争のスパイラルを断ち切る有力な方法は,軍事的優位にある側からの軍縮交渉提案である.「米軍プラス自衛隊」という観点から見て,現在の日本の軍事力は明らかに過大であるとして,軍縮の方向へ舵をとるのが理にかなっているとする.したがって,日本は科学,技術,装備,運用のすべての点において「包括的軍縮」を進めることが必要である.

 日本の現在の軍事力の中核は米軍であり,その軍縮を進めるのが重要で,それなしでアジア・太平洋地域の軍事的緊張の緩和は期待できないとも断言している.一方,防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度の目的は,日本の「安全保障に関わる技術の優位性を維持・向上していくこと」であり,明確な技術軍拡路線であるので,「包括的軍縮」を進めるという観点からみても,この制度は廃止すべきである.

 この廃止を目指さないで,相当数の大学の申請の自粛や規制だけでは,軍学共同反対の効果は限定的なものになり,また,日本の包括的軍縮にもほとんど役立たないと警告している.

inserted by FC2 system