7.24第2回原発シンポジウム

第2回原発シンポジウム(7.27)


福島第一原発事故の警鐘と玄海原発



2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に端を発した福島第一原発事故は,4ヵ月を過ぎた現在でも収束の見通しが立っておりません.この事故は,いったん原発事故が起きると,それがいとも簡単に制御不能となり破局へと突き進むことをわれわれに明確に教えてくれました.

今の時点で,玄海原発に隣接した地域に住む私たちにとって,福島第一原発事故の意味は何であったのか,私たちはこの事故から何を学ぶべきなのかを考えることは重要であると考えます.

そこで,4月の緊急シンポジウムに引き続く第2回目のシンポジウムとして,今回は,福島第一原発事故の警鐘をどう受け止めるのか,放射線被ばくの危険性と食品問題をどう考えるか,さらに,九州電力・玄海原発は大丈夫なのか,について下記シンポジウムを開きます.

これらの問題に関心をお持ちの多数の方の参加を期待しています.また,9月以降に第3回目として代替エネルギーに焦点をあてたシンポジウムを予定しています.

            記

日 時:2011年7月24日(日曜日)午後2時〜4時半
場 所:九州大学 筑紫キャンパス
    総合研究棟C-CUBE1階大講堂(JR大野城駅下車徒歩5分)
内 容:(1)「食品の放射線汚染から家族をどう守るか」
      長山淳哉(九州大学医学部)   
レジュメ
      
当日発表のpptファイル(だたし,一部を著作権の関連で省いています)
    (2)「老朽化した玄海原発一号機は大丈夫か」
      豊島耕一(佐賀大学理工学部)  
レジュメ
      
当日発表のpptファイル
    (3)「福島第一原発は地震では壊れなかったのか?」
      岡本良治(九州工業大学名誉教授)
レジュメ
      
当日発表のpptファイル(一部修正)
参加費:500円
主 催:日本科学者会議福岡支部
    核問題研究委員会
    福岡環境研究会
連絡先:日本科学者会議福岡支部事務局長
    小早川義尚 九州大学大学院理学研究院
    電話:092-642-3901
    E-mail: kbykwrcb@kyushu-u.org

<シンポジウムの報告>


RKB, TNCおよび地元ケーブルTVの取材もあり,100名あまりの参加がありました.当日発表に使われたパワーポイントファイルは順次うえに張り付けていきますのでご参照下さい.

福島原発事故に関連して4月に開催した緊急シンポジウムは,福岡市の中心街の会場で行ったこともあり,予想外の多数の参加者がありました.しかし,会場の狭さから後からの数十名にはレジュメだけをお渡しして,お帰りいただいた.この反省から今回は大きな会場を確保しました.会場が市の中心から離れたこともあり,どれだけの方が参加してくれるか心配したが,100名を超える参加があり,ひとまず成功したと考えています.一方では4月の緊急シンポジウムに来られた多くの方が今回は不参加であったのは会場のせいかもしれません.しかし,このことは今回の参加者の多くが新しい層であったことを意味し,全体としてみればよいことであったのかとも思います.

今回のシンポジウムでは,はじめにカネミ油症問題で有名な長山淳哉氏(九大医)が「食品の放射能汚染から家族をどう守るか」という講演をされました.講演では,被曝した動物にミネラルの豊富な海藻や貝類の摂取が有効だとする実験的研究を紹介され,内部被曝に際してミネラル分の摂取の重要性を指摘されました.次に豊島耕一氏(佐賀大理工)が「老朽化した玄海原発1号機は大丈夫か」というタイトルの講演で,玄海原発1号機の炉心材料の脆性遷移温度が98℃であり,玄海原発1号機は日本で一番危ない原発であるという話しをされました.最後に岡本良治氏(九工大)は「福島第一原発は地震では壊れなかったのか?」という講演で,津波が来る前に地震動により配管が損傷した可能性が高いという話しをされました.そうであるなら地震列島である日本のどこでも今回のような過酷事故が起きる危険性があることを意味します.

アンケートの結果によれば,参加者の多くはこの危険性の意味を強く感じたようです.「メディアでは聞けない話を学べた.次回もぜひ参加したい」(男性20代)の感想がありました.

<アンケートの結果>


アンケートの回収率は約6割でした.

参加比率は女性46%,男性54%.
シンポジウムについての情報源は,友人・親族から36%,新聞から29%,ウェブサイトから10%, メール15%などでした.
シンポジウムについての感想は,大変有用61%, まあまあ20%, 無回答19%でした.
代替エネルギーとして関心のあるもの(複数回答可)
太陽光発電(61%),風力発電(53%),地熱発電(46%),
小水力発電(37%),太陽熱発電(31%),潮流発電(44%),その他(5%)

その他,<自由記述>の欄に多くの意見が寄せられました.これらの内容が豊富であり,かつ,主催者側からの回答を要するものもありましたので,個人名などのある部分は割愛するなどの配慮をしたうえで以下に掲載させてもらいます.

・「原子炉容器が長い間大量の中性子照射を受けて,硬く脆くなる」ということを知り,一層「原発」を止めるべきだと感じた.いろいろな資料を読んだり,TVを見たり,新聞に記載されている「原発」に関するものを読んだりしているけれど,事実はどうなのかとわからなくなってしまう.でも命を守るためには代替エネルギーを真剣に考えていく必要が大いにあると考えています.(女性,70代以上)
・玄海1号機のデータを公表しない九電,それを許している原子力安全・保安院に怒りを感じた.私自身が何をすべきかを問われました.非常に有意義な時間でした.ありがとうございました.(男性,60代)
・原発の危険性について出来るだけダイレクトに人に伝えられるにはと近場の講演会に足を運んでいます.これからも続けていきたいと思います.今日は有り難う御座いました.(女性,40代)
・原発は海温上昇装置でもある.(男性,60代)
・新エネルギー研究をしています.石炭,石油のように次の代替エネルギーにこれというものはないと考えています.しかし太陽光・風力・地熱・小水力・太陽熱・潮流などの発電をうまくMIXして使えば代替石油エネルギーになり得る可能性はあると考えます.ただし,国民全体が節電・節エネルギーをすることが前提です.(女性,40代)
・原発のあとに残る高放射能物質の処理について今のところほとんど解決策がないまま原発(の運転)が行われているわけですが,このことについてどのように考えておられますか?(女性,60代)
【主催者からの回答】日本は脱原発の路線で行くべきと,私たちは考えています.理由の一つは,今回のような過酷事故の危険性を排除できないこと,もう一つは,高濃度放射性廃棄物の最終処分が決まっておらず,未来に地球上で生活していくわれわれの子孫にとんでもない「負の遺産」を残すことになるからです.これ以上,その「負の遺産」を増やすことは止めなければならないと考えています.
・原発がなくても暮らせる社会をめざしたいと思っています.(女性,60代)
・テレビでは津波のためと原発事故をとらえているのですが,地震のために事故が起こっているのではと思っていたので,今日は勉強になりました.地震列島である日本には原発はそぐわないと思いました.(女性,60代)
・福島の原発事故が起きるまえにみんなで「原発の恐さ」について勉強すべきだったと思います.(女性,60代)
・科学者としてぜひ活発に動いて下さい.(女性,60代)
・初めてこういうシンポジウムに参加しました.すごく為になりました.(女性,30代)
・現在の日本の状況の危険をもう少しゆっくり詳しく素人にもわかるように話してほしい.解りにくいところもあったけれどかなり理解でき有意義でした.次回を期待します.(女性,60代)
・代替エネルギー論議が盛んであるが,それよりか,現在の消費エネルギー社会をまず問うべきではないか.代替エネルギー論に関しては,全面的に賛成したい.ただ,新たな利権が生まれる可能性も?(女性,60代)
・一般市民(特に原発問題にあまり興味のない人たちでも)が参加しやすいシンポジウムをもっと開催してもらえたら有り難いです.アクセスに便利な場所で開催してもらえて有り難かったです.(女性,30代)
・科学者が進めてきた原子力技術を転換させていくために日本科学者会議が果たす役割は大きいと思います.ぜひこれから日本や世界に向けて発信して頂きたいと思います.(女性,50代)
・みなさん,がんばっておられますね.おかげで元気をもらった気がします.熊本から来た甲斐がありました.熊本に戻って私もがんばります.(女性,40代)
・今まで学ぶ機会も関心もなかったので,代替エネルギー(太陽光・風力・地熱・小水力・太陽熱・潮流などによる発電)が,こんなにもあったことすら知りませんでした.(女性,50代)
・大変有意義でした.ウィットに富み(時に)親しみやすくレクチャーして下さいました.今回,PCで先生方の活動やお仕事ぶりを検索し,さらに興味を持ちました.ますますのご活躍をお祈りいたします.正しいことを常に発信し続けて下さい.(女性,50代)
・反原発の運動を大きなうねりにできればと思います.(男性,60代)
・大変有意義でした. (男性,40代)
・メディアでは聞けない話などを学べてとても役立つ情報が聴けました.また,次回もぜひ参加させていただきたいと思います.(男性,20代)
・原発は海を暖める話しを詳しく聞きたい.(男性,40代)
【主催者からの回答】原発は,沸騰水型でも加圧水型でもタービンを回した水蒸気は復水器に送られ,そこで海水によって冷やされ水に戻り,再び原子炉(加圧水型では蒸気発生器)に送られます.復水器では海水は冷却材として働いていますが,海水自身は水蒸気によって温められることになります.海水は,復水器を通る間に約7℃上がるといわれています.この温められた海水を温排水と呼び,海水中の生物に影響を与えることが懸念されています.
・保安院など規制機関を確立する必要が緊急にあると思っています.(男性,50代)
・原発については好むと好まざるに関わらず時代の流れとして暗黙の了解をしてきたはずである.今回の原発事故があったからといって原発過敏症的になるのは,それを政策として行ってきたことを他人の責任ととらえることはおかしいと思う.(男性,60代)
・4月のアクロス福岡でも聞きましたが,いまは「学術的」な話しより,市民がどう感じているかをもっと考慮する必要があるのでは?(男性,60代)
・3講師の先生は,いずれも勉強になりました.そして,玄海原発の危険性に対して不安と恐怖が募りました.(男性,60代)
・次回開催場所はどこか知らないが,会場への矢印等表示してもらいたい.(男性,70代以上)
【主催者からの回答】道案内の掲示は出していたのですが,文字や矢印が小さくてお役に立てなかったようです.次回からその点にもついて気を付けて準備します.
・代替エネルギーに切り替えまでをどのような時間と手法によって進めるか,むずかしい問題ですね.それまでは「忍」の問題ですか.(男性,70代以上)
・科学者会議として力強いメッセージを発して下さい.(男性,50代)
・客観性もそこそこあって面白く聞きました.(男性,60代)
【主催者からの回答】客観性を「そこそこ」評価いただき有り難う御座います.
・効率的に利用可能なエネルギーを取り出すには原発しかない.原発が本当に,または原理的に使い物にならないのか考えてほしい.原発を他の自然エネルギー並に安全にする技術は確立できると思われる.原発がダメというなら,誰か原発は将来的にも危険で使用に耐えない,こういうことを証明すべき.(男性,70代以上)
【主催者からの回答】残念ながら現在の地球人の到達技術では核分裂によって生成される「死の灰」をコントロール出来いるところまでには至っていません.しかし,このことは将来においてコントロールする技術を地球人が獲得する可能性を否定するものではありません.なので,その時までウランを無駄に使用することを控えた方がよいというのが私たちの考えです.
・第2回の開催というものでしたが,その開催趣旨をもっと明確にすべきだったと感じます.もっと他者論説によらず,もっと自分に誇りを持った説明を期待していた.反対だとか圧力団体とかも必要でしょうが,善良な市民が本当に安心して生活できるものにしたいものです.日本人は有史以来素晴らしい面を備えていますがなんといってもまだ西洋ものに潜在的なコンプレックスDNAとして持っている.海外先進国のものが素晴らしいということはない筈だ.自然を押さえ込むことやコントロールすることは無理であることを改めて思い直し実行することだ.日本の自然を活用したエネルギーを緊急に開発すべきだ.(男性,60代)
【主催者からの回答】確かに,今回のシンポジウムの話題は焦点が定まっていなかったかも知れません.はじめにシンポジウムのタイトルと「福島第一原発事故の警鐘と玄海原発」したように,この点を中心に据える予定でした.しかし,食物の放射能汚染の問題が大きな問題としてクローズアップされるようになり,食物の放射能汚染から家族をどう守るかという話しを入れることにしました.2つの話しを一緒にしたので,シンポジウムの趣旨が明確にならなかったものとおもいますが,どちらの話しも多くの方が興味を持っていただくものと考え準備しました.
「もっと他者論説によらず,もっと自分に誇りを持った説明を」という点について一言いわせてもらいます.現在では学問は細分化され,自分の専門分野においては,それぞれオリジナルな考えを展開することが可能です.しかし,それらの考えをもう少し広い分野の中で位置づけて他者の論理との切り結びの中でより一般的な議論を展開していくことが,いま大切になってきています.今回のシンポジウムにおける3名の講演者には,それぞれ講演者の専門を越えてもう一つ広い分野における講演をお願いしました.お気づきだと思いますが,狭い専門分野の中の議論でやってきた結果が今回の福島原発事故です.安全な社会を維持していくためには,個々ばらばらな専門分野の成果のみに依存した体制ではなく,それらを一定の理念のもとに統合して安全性を高めていくことが必要です.これまでの「他者」の学問的成果や技術を,「国民の生活やいのちをどう守っていくか」という観点からまとめて展開いただいたのが今回の3講演です.これは,思ったほど簡単なことではありません.「他者」の学問的成果や技術を継ぎ接ぎして出来るものではないのです.学問の世界ではある専門分野に関して関連する周辺分野も含めたレビュー論文を書く場合がありますが,そのような論文は優れた研究者が書くのが一般です.優れた研究者でなければ,面白いストーリーを書くことが出来ません.幅広い分野についての造詣とともに確固たる哲学がなければ,このような論文や講演は陳腐なものになってしまいます.今回の3講演はどれもそんな陳腐なものではなかったと自負しています.
・生きていくうえで大切な食物,何を食べていいのか不安が主婦には一大関心事.今回のいわゆる「汚染牛」の件,まさに「原発汚染牛」だと思う.牛が悪いのではない.生産者が悪いのではない.そもそもの原因は原発.一日も早く止めること.生産者だけを悪者にしてはいけない.御用学者は「1度2度食べても大丈夫」という.でも「小さい子にとってどうなのか」,「空気も吸う,水も飲む」このことを言っていない.マスコミや学者(今日の方は別)の言うことは信用できない.「安全なものしか出回っていないはず」というのは間違いでは? わらの上だけにセシウムが降っているはずはない.(女性,60代)
【主催者からの回答】疑問は確かにその通りです.放射性セシウムは,わらの上だけに降っているわけではないでしょう.その意味で,放射能汚染が心配される地域の放射線量の測定や食品の放射線測定の実行体制を政府や地方自治体にきちんと取らせることが必要と考えます.いまの行政組織はアップアップで頼りにならない面もありますが,国民の健康と安全を守るためには,「安全なものしか出回っていない」状態を行政組織にすぐにでも取らせないといけないと思います.いまの行政の放射線防護における最大の問題点は,内部被曝に対する防護を軽くみているということです.この点は,すぐには改善される見通しはないと思われますので,私たち一人ひとりが,自分で判断していかなれればならないと思います.
・三池炭坑関連の研究をしているものです.50年代後半に始まったエネルギー革命は,あれほど労働者の貧困をつくりだし,また産炭地の疲弊をつくりあげたことと釣り合うものであったのか疑問です.石炭資源は国内で算出可能な唯一といってよいほどのエネルギー資源と思いますが,あっけなく手放してしまい(北海道では再開発しています),クリーンエネルギーといわれる原子力を導入しましたが,それが今回の結果です.自国のエネルギー資源を手放すことがどういうことなのか,再びとりあげる必要があると思います.(イギリスでも国内炭坑すべてを閉山するようなことはしていません).また,原発労働者の問題についても考える機会があればと思います.三池の労働者(三川鉱炭じん爆発事故という戦後最悪の労災被災者となった人々)を調査して思うことですが,たとえ彼らがガンなど発症しても労災として取り扱われることはほとんどないでしょう.原発事故が早期に収束することは私たちの願いではありますが,現場で労働者が無理な労働に従事させられているのではないかと危惧しています.もしも研究者がこの問題に着目せず,現状をやむなしとするのであれば,私たちもまた長きにわたって彼らを殺しているのだと思います.放射能から自分たちを守るのはもちろんですが,もっと広く政府の無策や企業の利潤追求のあと始末をさせられている労働者と彼らの家族にも気持ちを向けていく必要がありましょう.私たちの学問は,人々の生活やいのちを害するために存在しているのではないと思います.そう考えて学位授与を受けてすぐ科学者会議に入会しました.先生方に学びながら自分の役割を果たしていきたいと思います.今後ともよろしくお願いします.(女性,30代)
【主催者からの回答】日本科学者会議の会則2条4項では,「科学の反社会的利用に反対し、科学を人類の進歩に役立たせるよう努力する」ことを会の重要な目的と定めています.この点で努力することが私たちの喜びでもあります.ともに学びながら研究や活動を楽しみましょう.

なお,アンケートとは別にメールを通して,今回のシンポジウムが「社会に対して何の具体的な働きかけにもなっておらずナンセンス」であるという批判的な意見をいただきました.

地震列島である日本のどこでも今回の福島原発事故ような過酷事故が起きる危険性があることを参加者に伝えることが出来れば,今回のシンポジウムの意義があると考えていたこれまでの私たちにはない新しい観点かと思います.この批判的意見についても咀嚼して今後の活動に活かしたいと思います.

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