声明「玄海原発 3, 4号機の再稼働は許されない」

玄海原発3, 4号機の再稼働は許されない

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2017年3月1日
福岡核問題研究会


1.はじめに


 原子力規制委員会は,さる1月18日,九州電力の玄海原発3,4号機が新規制基準を満たすと認める審査書を正式決定した.九州電力は,認められた対策工事を年度内にも終えて,この夏ごろには再稼働をする予定という.私たちは,2014年の夏,川内原発の再稼働に反対する声明を発表したが,原発をめぐる状況は当時と変わらない.
 福島原発事故により「決して起きない」と言われてきた過酷事故は容易く起きることが明らかになり,「安いから使う」と言われてきた原発が決して安くないことが明らかになった.福島原発事故の処理費用が21.5兆円にもなることが発表され,この額がさらに増加することが確実視されている.原発は,意図的破壊行為も想定しなければならず,安全性からも経済性からも他の発電設備に比較して格段に劣るものと言わざるを得ない.福島原発事故の真相究明がなされていない現状では,原発の再稼働が許されないのは当然である.玄海原発3,4号機の再稼働をめぐる問題点を指摘しておきたい.

2.いま必要なのは原発受け入れの根本的見直し


 まず第一に,玄海原発を含めて日本に現存する原発は,事故が起きても周辺の公衆に「著しい放射線被ばくのリスクを与えない」との前提で設計され,「過酷事故は起きない」,念のため計画するが「住民避難は必要ない」との説明で建設されてきた.福島原発事故のように炉心が損傷して冷却が難しくなれば,設計条件を超える温度,圧力および放射線レベルになるので,本来なら全面的・根本的・総合的に設計を見直す必要がある.「過酷事故は起きる」「大量の放射能がまき散らされる」「避難も必要」と分かった訳であるが,これらは電気のための余りにも過大な代償であり,原発受入れ拒否の理由とさえなるものである.

3.新規制基準は「世界最高水準の安全基準」ではない


 第二に,再稼働の審査に使った新規制基準が決して「世界最高水準の安全基準」ではなく,大変甘い基準である点は見逃せない.例えば,新規制基準では,使用済燃料の貯蔵施設に関して,「使用済燃料が冠水さえしていれば,(中略)その崩壊熱は十分除去される」,そして,「放射性物質が放出されるような事態は考えられない」ので,貯蔵施設の閉じ込め機能を要求しなくてよいとしている.これについても,福島原発事故で最も恐れられたのは燃料プールからの放射性物質の放出であったことを考えれば,あまりにも楽観的である.相対的に安全な空冷式の「乾式貯蔵」についての記述がまったくない.このことは,この「新規制基準」が原発の安全性よりもその再稼働を優先するためのものであることを物語っている.新規制基準が原発の安全を保証するものにはなっていない.

4.水蒸気爆発,ずさんな過酷事故対策


 第三に,過酷事故対策がずさんであることも重大である.一例だけを挙げれば,溶融した炉心を水張りした格納容器に受けて冷却するという「過酷事故対策」がある.この「対策」は水蒸気爆発を誘発する恐れがある.水蒸気爆発が起きれば,福島原発事故をはるかに超える放射性物質が環境に放出される恐れがある.過酷事故対策は,国際原子力機関 (IAEA) の深層防護のうち「重大事故の影響緩和を目的」とした第4層に属する対策の1つであるが,これでは「影響緩和」ではなく,「影響拡大」または「影響の深刻化」をもたらす.「過酷事故現象学」という分野の世界的権威B.R. Sehgal教授の編集による国際会議報告集(*)における合意は,「過酷事故のなかで溶融炉心と冷却材(水) が接触すれば,水蒸気爆発が必ず起きると考えよう」ということである.文字通り,溶融炉心だけを受止め,水から隔離する「コアキャッチャー」という装置のアイデアは,このような認識から出発したものである.

5.原発の耐震性の問題


 第四に,基準地震動についての問題も重大である.基準地震動とは原発の耐震設計において基準とする地震動(地面や地中の揺れ)のことで,玄海原発では 620 ガルである.地震は,すでに見つかっている活断層で起きる場合と,活断層が未発見の場所で起きる場合がある.2016年10月21日の鳥取県中部地震(M6.6)はこれまで知られていない断層が動いたものとの見解を政府の地震調査委員会が発表した.この地震では震源近くで震度6弱を記録した.玄海原発の付近は地震が比較的少ない地域であるが,このような未発見の断層による地震で起きる危険度は小さいとは言いきれない.玄海原発直下で鳥取県中部地震を超える規模の地震が起きる可能性は否定できない.また,九州電力や規制委員会による活断層を特定した基準地震動の評価法では,過小評価になっているとの多数の地震学者の警告がある.これらを考えれば,今回の玄海原発再稼働審査によって原子炉格納容器を含めた原発の耐震性が確かめられたとは到底言えない.

6.避難計画および移住の問題


 第五に,避難計画についての審査が今回の再稼働審査にないことも重大である.IAEAの深層防護では,第5層で「放射性物質が放出したとしても,公衆被ばくを抑制するように備える」ことを提案し,第1層から第5層までの各層はそれぞれ独立に対策を立てるべきであるということを強調している.今回の審査では,公衆被ばくを抑制するための避難計画は審査の対象から外し,原発周辺自治体まかせになっている.一私企業の利益のための原発の稼働により事故が起きたからと言って,周辺自治体がそのための避難計画作成の責任を負わされること自身,道理に合うことではないが,避難計画を審査対象から外すことは,IAEA深層防護の第5層無視といえる.
 福岡市の西隣の糸島市の避難計画は,福岡市に避難するということのようであるが,糸島市から避難しなければならない状況では,福岡市からも避難しなければならない確率が極めて高い.しかし,150万人を擁する福岡市の避難計画はない.事故時に被害を被る原発周辺住民が過酷事故を覚悟して避難計画を立て,一私企業の利益のために玄海原発3,4号機の再稼働を認めなければならない理由はない.
 福島原発事故で最も深刻な問題の一つは,故郷を喪失した人々の移住の問題であった.再稼働にあたって,この点について一言のコメントもないのは大変気になる.避難計画を法的に義務付けられ,実害を被る危険にさらされることになる原発周辺自治体と住民の同意なしに再稼働をすることは許されることではない.

7.世代間倫理に反する行為は許されない


 第六に,世代間倫理についての問題もある.原発の稼働により発生する使用済核燃料などの高レベル放射性廃棄物は,一私企業の利益のために作り出されるものであるが,10万年余の管理保管を要する.これ以上の高レベル放射性廃棄物を「負の遺産」として,未来の世代に残すことは世代間倫理に反する.この大地は私たちの「子孫からの借りもの」であり,再稼働により「負の遺産」を増やすことは子孫への犯罪的な行為で許されない.

8.原発再稼働の決定は民主主義的な手続きで


 最後に,民主主義の問題もある.朝日新聞社が2017年2月18, 19日に実施した全国世論調査では,原子力発電所の運転再開の賛否を尋ねたところ,「反対」は57%で「賛成」29%の2倍となっている.他の世論調査でもほぼ似たような結果である.このような世論のもとで,しかも,安全性についての十分な保証もない中で,多くの国民の納得が得られない玄海原発3,4号機の再稼働は,民主主義の問題としても許されない.
(*) “Nuclear Safety in Light Water Reactors: Severe Accident Phenomenology” ed. by B.R. Sehgal, (Academic Press, 2012).

以上

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