2月例会 革新炉ワーキンググループについて

2月例会


日 時:2023年2月18日(土)10:00〜12:00
話 題:「革新炉ワーキンググループについて」
報告者: 中西正之氏  
発表資料

<報告>

 政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,原子力を含めたあらゆる選択肢を追究するとして,原子力小委員会の下に「革新炉ワーキンググループ」を設置し,原子力発電の新たな社会的価値を再定義して炉型開発に係わる道筋を示そうとしている.2月例会では,「革新炉ワーキンググループ」(以下WG)でどのような議論がなされているかを中西正之氏に報告していただいた.

 2022年4月に行われた第1回WGでは,日本原子力研究開発機構(JAEA)から高温ガス炉と高速炉の説明がなされたという.高温ガス炉(冷却材にヘリウムガスを用いた原子炉)はまだ開発途上の新技術であり,高速炉は暗礁に乗り上げている「もんじゅ」である.革新炉といってもすぐに実用化できるような炉ではないようだ.その後,軽水炉原発の製造・保守を担ってきた3大メーカー(三菱重工,日立,東芝)が「次世代軽水炉」や「小型軽水炉」の説明を行った.岸田首相が原発の新増設も視野に入れていることから,これらの革新炉に力を入れ始めたという.

 5月に行われた第2回WGでは,JAEAと高速炉についての技術提携した米国のテラパワー社のナトリウム冷却高速炉「Natrium」についての説明があった.このNatrium炉は,1次冷却にはナトリウムを使い2次冷却には溶融塩を使うので,ナトリウムと水の直接の熱交換がないぶん「もんじゅ」などより安全性は高いのかも知れないが,この熱交換機は開発中で完成された技術とはなっていないという.また,NuScale社の小型モジュール炉の説明があった.

 7月に行われた第3回WGでは,日本原子力産業協会から国内の原子力サプライチェーンの動向が報告された.福島原発事故以降,原発の長期停止が継続しているが,2020年度の関係売上高は1.9兆円と原子力産業界全体では2010年度の売上高を維持しているという.しかし,海外向けの原子力関係売上高については,2020年度の売上高は2010年度の6分の1と急激に減少しており,今後,革新炉の新増設によるサプライチェーンの補強が必要としている.

 10月に行われた第5回WGでは,三菱重工から同社が開発した革新軽水炉“SRZ-1200”についての説明がなされた.S, R, ZはそれぞれSupreme Safety, Sustainability, Resilient light water Reactor, Zero carbonの意味を込め,1200は電気出力1200 MWを意味という.福島原発事故以後,日本国内の原発新増設が凍結されたので,海外向けの受注活動を続けていたが,それにも失敗した三菱重工は,政府の原発新増設への大転換で“SRZ-1200”の国内での強力な売り込みを始めているという.

 11月に行われた第6回WGでは,原子力に関連した人材の育成が議論になったようである.

 福島原発事故以後,日本国内では原発の新増設は行わないとの基本方針が進められてきたが,海外への原発の輸出がことごとく失敗したあとで,国内の原発の新増設の新しい政策なしでは日本の原子力産業界は衰退へ向かうことが明らかになってきた中で,岸田内閣は国内での原発の新増設への大転換を決断して「革新炉ワーキンググループ」(WG)でその具体的検討を始めたように思われる.

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