川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(1)

―格納容器と原子炉建屋が水蒸気爆発で破壊されないことは実機規模で実証されているか―

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2014年7月26日 福岡核問題研究会

1. はじめに ー過酷事故への対策についての重点的検討

 原子力規制委員会は、審査を進めてきた九州電力の川内原子力発電所1・2号炉について「新規制基準を満たしている」とする審査書案を本年7月16日に了承し、ただちに科学的・技術的意見の公募を開始した[1]。そして、原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合は同委員会のホームページにおいて公開されている[2]。8月中にも正式な審査書として決定すると伝えられており、政府と九州電力は、これを受けて速やかに再稼働させるとしている。
 しかし,原子力規制委員会の審査は、過酷事故の防止と発生した場合の拡大を防止する技術的方策について、東電福島第一原発の事故の実態が不明のまま1年前に決めた新規制基準への適合性を調べただけのものである。再稼働の「条件」は幾重にも満たされていない。すなわち,これらの基準を満たしたからといって、原発再稼働にともなって必要になるその他の事項
(1) 事故が発生した場合に、影響が及ぶことが予想される範囲の住民の安全な避難計画
(2) 発生する放射性廃棄物、特に高濃度廃棄物の処理方法、
(3) 使用済核燃料の処理と管理、
(4) 廃炉後の解体処理、特に過酷事故を起こした原子炉の処理
などは、原子力規制委員会の権限外として何らの検討も行われていない[3,4]。
 また,「規制委が世界で一番厳しい基準で安全と判断すれば、再稼働していきたい」と答えた首相は、自らの責任を放棄したに等しい。自治体の首長たちは、再稼働や避難計画について国が方針を示すことを求めている。だが新規制基準は、川内原発であれば周辺の火山の噴火リスクなど、地域の特性を当事者たちが理解してこそ達成できるものだ。全責任を国に押しつけようとするのでは、福島第一原発事故以前と変わらない。新規制基準は、再稼働の是非と責任を考える「大人の対応」を求めている。しかし、電気事業者も、政府も、地方自治体も、誰も責任を取ろうとしていない[5]。
 さらに、新規制基準は世界最高水準とは決して言えない。米国の原子力規制では必要不可欠とされている避難計画の実効性の実証がないだけではなく、新規制基準の科学的、技術的内容も世界最高水準のものではない。原発の設計そのものの見直しに踏み込まず、既存の設計に安全対策を追加させただけである。対症療法にすぎず、最新技術を設計段階から組み込んだ海外のそれとは違う[5,6]。
 しかし、このような社会的状況の中で、科学的、技術的な見解に限定されたパブコメが7月16日から8月15日までの30日間募集されている。ことの複雑さと時間的余裕が少ないことを考慮して、賛否いずれであっても、より深く納得することを希望する人々のために、内外に公開された資料や関連文献を基に、複数の専門領域から、相対的に議論が少ない「過酷事故への対策」について独立した検討を行い、よりよい判断のための素材を提供することは意義があると考える。

2.原発の過酷事故における水蒸気爆発

 過酷事故の際に起こると思われる現象は図1のようになっている。水蒸気爆発は燃料-冷却材相互作用 ( Fuel-coolant interaction, FCI ) に関連する重要な現象の一つである。

Fig1


2.1水蒸気爆発とは何か

加熱したフライパンの油に水滴を落としたら、危険であることはよく知られている。また,海中火山の誕生の際にも爆発が起こる。また,金属工場,高温溶融炉などでも水蒸気爆発の事故例がある[8]。しかし、なぜ水が大きな爆発を起こすのだろうか。
溶けた金属などの高温液体が,水に代表される低温液体に落下すると、水蒸気爆発が起こる場合がある。水蒸気爆発の発生する過程と進行する過程[7,8,9]は以下の通りである。
(1) 粗混合過程(premixing):
(2) トリガリング(triggering):外乱または引き金的要因
(3) 急速な熱移動段階(細粒化過程)
(4) 拡大・伝播過程。
急速な熱移動が起こるためには,熱伝導の経験則などより、水との接触面積が大きくならねばならない。接触面積が大きいことは多数の粒子に細粒化することである[8]。
水蒸気爆発の重要なメカニズム[8]は以下の通りであると言われている。
(a) 蒸気膜が破壊、または崩壊する原因とメカニズム
(b) 細粒化の原因とメカニズム
(c) 現象の拡大・伝搬のメカニズム
(d) 高い衝撃圧力の発生メカニズム
(e) コヒーレントな性質(斉時性または同時性)を示す理由.
また,水蒸気爆発の起こる前提として,熱エネルギーの存在が不可欠,すなわち、2種類の液体の温度差が大きいことが必要である[8] 。

2.2 溶融炉心と冷却水との相互作用の概要

新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料[? ]によれば、溶融炉心と冷却水との相互作用の概要は以下の通りである。
「溶融炉心と冷却水が接触することによる急激な水蒸気の生成において、溶融炉心の熱エネルギーが機械的エネルギーに変換されて格納容器破損に至る可能性がある。このような現象、すなわち、溶融炉心と冷却水との接触及びそれに伴って引き起こされる現象のことを”溶融炉心と冷却水の相互作用(FCI)”と呼ぶ。また、FCI のうち衝撃波を伴うものを”水蒸気爆発”と呼び、水蒸気爆発に至らない圧力変化を”圧力スパイク”と呼ぶ。
さらに、溶融炉心と冷却水の接触は、原子炉容器の下部と原子炉キャビティで発生する可能性があり、雰囲気圧力や冷却水の状態が異なることから両者を区別して取扱い、前者を原子炉容器内FCI、後者を原子炉容器外FCI とする。
炉心あるいは原子炉容器から落下する溶融炉心(デブリジェット)が、水プールに接触する際の液-液混合に伴って、溶融炉心が細粒化して水中に分散する(エントレイン)。細粒化した溶融炉心(以下、「デブリ粒子」と称す。)は、膜沸騰及び輻射熱伝達により水と伝熱しており、デブリ粒子は蒸気膜に覆われた状態である。
 ここで、蒸気膜へ何らかの外乱(トリガリング)が加わり蒸気膜が崩壊すると、デブリ粒子が冷却水と直接接触することで急激な水蒸気発生が起こり、これが近傍のデブリ粒子に対する新たなトリガリングとなり蒸気膜を崩壊させ、この現象が瞬時に伝播・拡大することで、衝撃波を伴った水蒸気爆発に至ると考えられている。また、水蒸気爆発に至らない場合でも、発生した水蒸気により急激な圧力上昇(圧力スパイク)が発生する。」
以下、用語の英語名について補足する。FCIはfuel-coolant interaction、圧力スパイクはpressure spike、デブリジェットはdebri jet、エントレインはentrain、トリガリングはtriggeringである。
FCIに伴い、核燃料などのエアロゾルも発生する可能性はないだろうか。

2.3原子炉の過酷事故における水蒸気爆発

 原子炉における水蒸気爆発は米国の1954年のBORAX-1(Boiling Water Reactor No.1 ),1961年のSL1事故(定常型低出力動力炉:Stationary Low Power Reactor-1),1986年のチェルノブイリ原発事故で起こったと言われている。図2に,燃料ー冷却材間相互作用(FCI=fuel-coolant interactions)の種々のシナリオを示す。

Fig2

図2.燃料ー冷却材間相互作用(FCI=fuel-coolant interactions)の種々のシナリオ
in-vessel : poured (圧力容器内:混入)  in-vessel : stratified ( 圧力容器内:階層化) ex-vessel : poured (圧力容器外:混入)  ex-vessel : stratified ( 圧力容器外:階層化), melt=溶融炉心, cavity=キャビティまたは格納容器の窪み部,water=水(冷却材).出典[7]

 圧力容器は相対的に高い圧力に耐えられるように設計されているとすれば、圧力容器外:混入の場合、すなわち、溶融燃料が圧力容器外、すなわち格納容器内に存在する可能性のある水(冷却材)に混入するシナリオが相対的に重要になってくると考えられる。

3.過酷事故モデル実験の結果とその吟味

 新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料[10 ]によれば
「蒸気爆発に関しては、水蒸気爆発専門家グループ(SERG: Steam Explosion Review Group)によるレビュー評価として纏められ、「圧力容器内水蒸気爆発はリスクの観点から無視できる」と結論付けられている。この結論は 1997 年の FCI に関する専門家会議においても、SERG の結論の変更は不要であることが確認されている。
 また、米国原子力規制委員会 NRC は、原子炉容器内 FCI から水蒸気爆発に至り格納容器が破損する事象(いわゆるαモード破損)については、これまでの専門家による検討結果では、発生する可能性は非常に低く、問題は解決済みと結論付けられている1。また、原子炉容器内 FCI から圧力スパイクに至る事象については、1次系圧力を上昇させることはあるが、格納容器への直接的な脅威にはならない。
 一方、緩和策により注水された原子炉キャビティに溶融炉心が落下する場合の FCI(原子炉容器外 FCI)は、原子炉容器内 FCI が高圧かつ高温(低サブクール度)の条件下であることに対し、低圧かつ低温(高サブクール度)であり、定性的には水蒸気爆発が発生し易いと言われている。また、圧力スパイクの観点でも、水プールの容量が原子炉容器内よりも大きく、水蒸気の発生量自体も大きくなる可能性がある。」

3.1水蒸気爆発が起こるとされる国内外の実験

 新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料[10]によれば,
 FCI実験は、主として溶融物を水プールに落下させ、水プールとの混合の際に発生する諸現象について解明することを目的としたものであり、国内外の研究機関において、種々の実験研究が行われている。その中で、比較的大規模な実験として、欧州 JRC (Joint Research Center)のイスプラ研究所の FARO 実験、同じくイスプラ研究所のKROTOS 実験、旧原子力研究所 JAERI の ALPHA 実験、カザフスタン国立原子力センター(NNC:National Nuclear Center)の施設を用いた COTELS 実験が行われている。付録に引用するように、かなりな数の水蒸気爆発が起きていることは事実である。
 同時に、同資料においては「FCI実験のうち、UO2を用いたFARO実験、KROTOS 実験およびCOTELS 実験のうち、水蒸気爆発が観測されたのはKROTOS実験のみ」と、あたかも極めて限定されるかのような分析を強調している。
 しかし、これは、原発を何としても再稼働させたいという願望的思考に囚われていて、原発の安全性または危険性を独立な立場で検証する態度とは言えないであろう。


3.2水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価と種々のトリガリングの可能性

 森山清史らにより水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価がなされている[11]。この論文の研究は確率論的リスク評価(略称PRA)という手法でなされ、水蒸気爆発解析コードJASMINEを物理モデルとして格納容器破損確率について,系統的な検討が行われている。この論文のまとめの中で、得られた破損の確率分布を特徴づける代表的な数値として,次表が示されている。

Tab0

これらの確率の絶対値は必ずしも定量的な意味をもつとは限らないが、確率としては決して小さい値とは言えない。そうであれば、トリガリングが起きた場合、水蒸気爆発の可能性は低くはないことを意味する。
 さらに、著者らは「3.5本解析結果参照にあたっての注意点」に、「検証に用いた実験規模に対し実機現象は融体質量で約100倍の外挿となっていることから、規模の拡大による予期しない影響存在がする可能性は否定できない」と自己分析的で、説得力のあるコメントも行っている。
 上述の推測が議論されたため、審査書[1]のpp.194-195および新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料1-2-7[2]の3.2-10において、事業者は、モデル実験結果を分析する中で、実機においてはキャビティ水は準静的であり外部トリガリングとなり得る要素はなく、実機において大規模な水蒸気爆発に至る可能性は極めて小さいと考えられる、としている。
 しかし、過酷事故の際に、キャビティ水は準静的であるとは限らないだろう。さらに,過酷事故が起きた場合、水素爆発などの外部トリガリングの候補はあると考える方が現実的ではないだろうか。
 日本の事業者や原子力規制委員会の見解と対照的に、過酷事故の国際会議報告[9] のpp.261-264には、トリガリングは外部トリガリング (external triggering)だけではなく、自発的トリガリング (spontaneous triggering)もあることを議論し、実際の状況では水蒸気爆発が起こるかどうか予測することは現実的に不可能で、FCIの間はトリガリング確率は1に等しく、(水蒸気)爆発が起こることを前提としている、と記されている。これがヨーロッパでは過酷事故対策として、キャビティに水を緊急に張るのではなく、コア・キャッチャー装置を設置する方針が選択された背景認識であろう[12]。

3.3 燃料ー冷却材間相互作用と水蒸気爆発の理解は不十分

 水蒸気爆発は強い非平衡性と急速な体積変化を伴う非定常な流れを伴う。そして、爆発の発生は確率現象のような振る舞いをする。温度や高温液体などの実験条件を同じにしても,爆発が起こったり、起こらなかったりする[8]。すなわち,再現性に乏しいという複雑系の一般的な特徴に類似している。
 過酷事故の国際会議報告[9]のp.276には, 水蒸気爆発実験へのアプローチが多岐にわたっていることは、燃料ー冷却材間相互作用と水蒸気爆発現象のいくつかの基本的な理解が欠けていることを表していると述べている。この理由は、現象自身のモデル化が困難であるという複雑さだけではなく、実験が遂行される極端な条件下で直接的な観測が難しいことにもよっている、という。

4.過酷事故解析コードで格納容器破壊確率が低いことは起こらない証明ではない

 日本大震災の地域で巨大地震が発生する「確率」が地震専門家によって提案されていたが、その値は非常に低かった。しかし、巨大地震は起こった。
 2006年、津波などによる全電源喪失(station blackout)の可能性を国会で野党議員から質問されて、当時の首相は極めてまれにしか起こらないと考えられるので対策の必要はないと答弁していた[14]。しかし、この当時の首相は今自己反省しているだろうか? 再度の登場で、原子力規制委員会委員長も新規制は安全を担保するものではないと明言しているにもかかわらず、世界最高水準の安全性が保証された原発は再稼働させると明言している[5]。
 「はじめに」で説明したように、新規制基準は世界最高水準とは決して言えない。同様に,過酷事故解析コードで格納容器破壊確率が低いと評価されたとしても、格納容器破壊が起こらない証明ではない。
 関連して、原発の試運転業務や炉心設計監管理業務に従事していた、元東電社員の木村俊雄氏が,種々の解析コードに接した経験を紹介する[15]。
(1) 解析は解析でしかない。
(2) いつも解析と実機が一致するようにチューニング(調節)に苦労している。
(3) チューニングしても必ず大なり小なり誤差が生じる。

5. チェルノブイリ原発の過酷事故対策の教訓の無視

 2014年6月9日の毎日新聞大阪版夕刊の記事[16]: 
 「ウクライナ・キエフのチェルノブイリ博物館には、大きなトロッコが飾られている。1986年4月の原発事故直後、旧ソ連政府は爆発した4号機の地下にトンネルを掘り、鉄板を敷いた。溶け落ちた炉心が地下水に触れると、大爆発を起こしてしまう。何としても炉心の落下を防がねばならない。一刻の猶予もなかった。旧ソ連の炭鉱労働者、囚人たちが集められた。白黒の記録映像が残っている。スコップを担いだ労働者たちが、トンネル掘削現場をめざしてトロッコに乗り込んでいく。暑い夏の重労働。「マスクをするように」という注意はほとんど守られず、労働者は裸同然での作業を余儀なくされた。トロッコの横に当時の新聞が飾られている。事故は小さなベタ記事、テレビは報道しなかった。ソ連紙との比較で、同日のニューヨーク・タイムズが並んでいる。こちらは1面トップ、原発の図面や放射能の拡散予想図入りで報じている。6日後、約130キロ離れたキエフではメーデー祭が開催された。事故のことを知らない市民はパレードに繰り出し、大量に被ばくしてしまった。
 福島第1原発事故直後、日本政府はSPEEDIの放射能拡散予測データを公開せず、人々は風下に逃げた。「ただちに健康には……」と官房長官が繰り返していたことを思い出す。国にとって都合の悪いことは、まずは隠されてしまうのだ。旧ソ連も日本も、よー似てるなー。<フリージャーナリスト・西谷文和>」
 チェルノブイリでは、4号炉の過酷事故の発生時、高温度になった溶融核燃料が大量の水と接触し、水蒸気爆発が起きる事を一番恐れて、多くの人たちが命がけで水蒸気爆発爆発防止対策を行った。
 しかし、九州電力はチェルノブイリの過酷事故対策の教訓は全く無視し、わざわざ格納容器に大量の水を貯めて、川内原発1・2号炉の格納容器と原子炉建屋が爆発し、溶融核燃料が野ざらしになるような危険な手段を提案した[10]。そして、審議の結果、[1] のpp.190-195に記されているように、 規制委員会も最終的に了承した。

6. 格納容器に大量の水を貯めれば安心か

 原子力規制委員会の田中委員長は国会で、ヨーロッパでは格納容器と原子炉建屋が水素爆発や水蒸気爆発で破壊される防止対策はコアキャッチャーの採用に成っているのに、川内原発1・2号炉ではコアキャッチャー対策をしない事を追及されると、それは不可能と繰り返し答弁した。しかし、テレビ朝日が「原発の水素爆発防ぐ新たな装置開発」 を次のように伝えている[13]。
 『原子炉でメルトダウンが起きた場合に備え、資源エネルギー庁などが水素爆発を防ぐ新たな装置の開発を進めていることが分かりました。資源エネルギー庁は、「薄型コアキャッチャー」と呼ばれる装置について、国内すべての原発への設置を目指してメーカーに依頼し、開発を進めてきました。核燃料がメルトダウンし、建屋の底のコンクリートが溶けて水素爆発が起きることを防ぐのが目的で、直径は約6mで、内側は熱を逃がしやすい銅でできています。
 東芝原子力システム設計部・薄井秀和部長:「必ずしもこれが必要だ、これがなきゃだめとは思わないが、(安全対策の)手段の一つとして開発し、実際に使えるものにする」
しかし、国内の原発への設置について、原子力規制委員会は「追加の工事が現実的に不可能」として、資源エネルギー庁と意見が対立しています。』(引用終わり)
 ここで、東芝社は「薄型コアキャッチャー」には銅をしようしていると説明している。東芝社の「薄型コアキャッチャー」が一番良い方法とは思われないが、資源エネルギー庁の担当官や東芝社はその道の専門家であろう。
 しかし、原子力規制庁の担当官や九州電力の技術者は、ほとんど知識が無いと思われるのに、「コアキャッチャーの取り付けは不可能、格納容器に大量の水を貯めれば安心」など、実機規模における実証的裏付けのない願望的コメントを出している。

7. まとめ

 原子力規制委員会の審査には重大な不備(欠陥)がある。それは原発事故における「水蒸気爆発(爆轟)」の防止対策である。原発での水蒸気爆発は実際の原発で起きた「想定内」の問題で、多くの研究やモデル実験がなされている。コンピューターのシュミレーション結果(川内原発で水蒸気爆発は起こりえない。圧力の急激な上昇は起こるかもしれないが耐えられるとの想定)の信頼性は低く、九州電力による想定(希望的観測)は当てにならない。
 しかし、原子力規制委員会は独自シュミレーションを実施することなく九州電力の見解を結局は追認してしまった。(旧)原子力安全保安院時代にはこうしたダブルチェックが実施された。九州電力の過酷(重大)事故対策はチェルノブイリ原発事故の教訓を無視しており、溶融炉心を大量に水を張って受け止める対策だが,無謀で危険な賭けである。すなわち、水素爆発・ガス発生・余震などを契機に水蒸気爆発が起こる可能性は否定できない。溶融炉心を耐熱構造で受け止める「コアキャッチャー」は外国の一部の実際の原発では、既に採用されている過酷事故対策だが、川内原発での有効性や採用の是非に関する検討はなされていない。
 したがって、このまま川内原発の再稼働を許した場合、「格納容器が水蒸気爆発で破壊され溶融炉心が環境中にむき出しに曝される」という、福島原発事故以上に酷い原子力災害が発生する恐れがあり、絶対に再稼働を認めることはできない。

付録:新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料1-2-7[10]における実験条件および結果一覧
Tab1-1

Tab2-1


参考文献・参考資料

[1] 原子力規制委員会, 九州電力株式会社川内原子力発電所の発電用原子炉設置変更許可申請書(1 号及び 2号発電用原子炉施設の変更)に関する審査書 (原子炉等規制法第43条の3の6第1項第2号 (技術的能力に係るもの)、第3号及び第4号関連), 平成26年7月16日.
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu140716.html
審査書案 
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu140716/gaiyou.pdf
[2] 原子力規制委員会・原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/power_plants.html
[3] 朝日新聞審査1年「再稼働へ先例 原発新基準、ポイントは川内原発『適合』」2014年7月17日。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11247541.html
[4] 世界平和アピール七人委員会「原発再稼働の条件は整っていない」2014年7月18日。 
http://worldpeace7.jp/modules/pico/index.php?content_id=135
[5] 勝田忠広[原発の再稼働 新基準を隠れみのにするな] 2014年7月12日朝日新聞。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11237500.html
[6] 大阪府市エネルギー戦略会議「大阪府市エネルギー戦略の提言」冨山房インターナショナル,2013年。特に、p.15,p.81.p.87など。 
http://www.pref.osaka.lg.jp/kannosomu/enekaigi/teigen.html
[7] Chapter 10(Open Access) Simulation of Ex-Vessel Steam Explosion by Matjaz Leskovar,
http://cdn.intechweb.org/pdfs/17974.pdf
Nuclear Power-Operation, Safety and Environment edited by Pavel Tsvetkov, (open access book)
http://www.intechopen.com/books/bookstat/nuclear-power-operation-safety-and-environment
[8] 高島武雄、飯田嘉宏「蒸気爆発の科学ー原子力安全から火山噴火までー」,
裳華房、1998年http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-8700-6.htm
[9] B. R. Sehgal, Nuclear Safety in Light Water Reactors: Severe Accident Phenomenology, Academic Press, 2012.特に,pp.255-282.
http://store.elsevier.com/Nuclear-Safety-in-Light-Water-Reactors/isbn-9780123884466/
[10] 原子力規制委員会、第102回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合、資料1-2-7「重大事故等対策の有効性評価に係るシビアアクシデント解析コードについて(第3部 MAAP) 添付2 溶融炉心と冷却水の相互作用について」
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/h26fy/data/0102_09.pdf
[11] 森山清史他, 「軽水炉シビアアクシデント時の炉外水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価」JAEA-Research-2007-072
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Research-2007-072.pdf
[12] 井野博満、滝谷紘一「不確実さに満ちた過酷事故対策ー新規制基準適合性審査はこれでよいのか」,科学、84巻3号(2014年),p.333-345.
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo201403.html
[13] 資源エネルギー庁「原発の水素爆発防ぐ新たな装置開発」2014年7月12日。
https://www.youtube.com/watch?v=LUpW_Lp4NRM
[14] 吉井英勝議員(当時)提出の質問主意書(2006 年 12 月 13 日提出,質問 256 号)に対する安倍晋三内閣総理大臣(当時)の答弁 
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a165256.htm
[15] 木村俊雄「地震動による福島第一1号機の配管漏洩を考えるー東京電力「福島原子力事故調査報告書」と新規公開データの考察から」,科学83巻11号(2013年),pp.1223-1230。
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/KaMo201311.html 
[16] 毎日新聞 2014年06月09日大阪夕刊.

福岡核問題研究会7/5

福岡核問題研究会が以下の日程・議題で開催されました.

日時:7月5日(土)午前10時より
場所:九大筑紫キャンパス 総合研究棟5階511室
議題:(1)低炭素社会に向けた石炭火力発電の最新技術について(報告:中西)
   (2)内部被ばくについての一考察(報告:三好)

それぞれの報告は,以下にpdfファイルが有りますので参考にしてください.

(1)低炭素社会に向けた石炭火力発電の最新技術についての中西報告
(2)内部被ばくについての一考察についての三好報告

(1)の議題について
 石炭火力発電の最新技術は,低炭素社会に向けて大切であるが,特に,エネルギー自給率の低い日本において,特に大切である.石炭火力発電の最新技術において大切な点は石炭のガス化であるが,石炭ガス化発電設備は,石炭を完全にガス化することと石炭灰を完全溶融してガラス化する無害化処理が必要となる.これらの問題をクリアーしたのが、テキサコ式石炭ガス化炉であった.その後,溶融灰に長期間浸食されない耐火煉瓦の開発によりテキサコ式石炭ガス化炉は実用炉となった.
 石炭ガス化発電は,高温で処理するために,これまでの石炭火力や石油火力に比較して生産電力あたりの二酸化炭素排出量が抑えられる点だけでなく,排出された二酸化炭素を回収して井戸を通して地中に封じ込める技術の実用化に向けたCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という実証試験がなされているという.もし,このような技術が実用化されれば,大気中の二酸化炭素を吸収して成長した木材によるバイオマス発電から排出される二酸化炭素に対して,CCSが実行出来れば,地球温暖化の主要な要因の一つと考えられている二酸化炭素を減少していくことも,決して夢ではない.

(2)の議題について
 内部被ばくと外部被ばくは根本的に異なった被ばく形態である.
 外部被ばくで問題となるのは,主にγ線であり,α線やβ線はあまり問題にならない.γ線は一定の割合で人体と相互作用して,人体に一定のエネルギーを付与して,元のエネルギーのほとんどを持ったまま体外に出て行く.
 一方,内部被ばくで問題となるのは、α線やβ線であり、γ線はほとんど問題にならない.このα線やβ線の内部被ばくでは,これらの放射線のエネルギーのほとんどは,体内の細胞に付与されることになる.この意味で,α線やβ線の内部被ばくは,γ線の外部被ばくとは,根本的に異なった被ばく形態である.これらの内部被ばくによる被ばく線量がどの程度になるかを考えた.

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