束ね法案は廃案にせよ〜原発復権は日本衰退の道〜

声明「束ね法案は廃案にせよ〜原発復権は日本衰退の道〜」



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束ね法案は廃案にせよ〜原発復権は日本衰退の道〜

 現在,参議院で「電気事業法等の一部を改正する束ね法案」(以下,「束ね法案」と略)が審議されている.この「束ね法案」は,原子力基本法,原子炉等規制法,電気事業法,再処理法,再エネ特措法の5つの法律を改定して,原発の最大限利用を目指したものである.これまで,日本の政府は「原発依存度を可能な限り低減する」という方針を維持してきたが,それを180度転換して国が原発復権を後押しすることになる.既設原発の活用にとどまらず,新規建設を含めて将来にわたり原発利用を固定化・永続化することになる.この道は日本を衰退の方向に導くものであり,決して進んではならない道であると,われわれは考える.以下に問題点を列挙し,「束ね法案」を廃案にすべきであると表明する.

 第一に,5つの法律を束ねて一度に改定するというのは,いかにも乱暴である.時間をかけて,一つ一つの法律を国民にも論点が明確になるように国会での議論が望まれる.とくに,原子力基本法は原子力行政の基本に係わる法律であり,今回のように他の法律との抱き合わせで改定することは馴染まないものである.

 第二に,原子力基本法に「国の責務」が「原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用すること」としていることである.国を挙げて原発を支援するというのは適切なエネルギー政策であるのか,疑問である.すでに原発の発電コストは,福島事故後高価なものになっている一方で,太陽光や風力の再エネの発電コストは大きく下がっている.核燃料サイクルはすでに破綻している.さらに,核廃棄物の最終処分については見通しが立っていない.このような原発に国の資金を投入するのは持続可能なエネルギー政策とはいえない.

 第三に,原発の運転期間を「原則40年,最長60年」に制限する規定が原子炉等規制法から削除され,推進側の経済産業省が所管する電気事業法に移されていることである.この運転期間制限の規定は,リスクを低減するために福島第一原発事故後に導入されたものであるが,「束ね法案」が成立すれば40年を超える運転は,電力安定供給等の観点から経済産業相が認可することになる.しかも,原子力規制委員会の審査などで止まっていた期間は運転期間にされないので,多くの原発が70年を超えて運転可能になる.今回のような安全性についての審査をなおざりにした,老朽原発の運転期間の延長は大変危険であるといわなければならない.

 第四に,今回の原発の最大限活用が再エネの導入を阻害するということである.日本では電源構成のうち20%が再エネの割合であるが,ドイツはすべての原発を停止して今年は50%を再エネで発電するという.また,1985年に原発の永久追放を国会で決議したデンマークでは昨年は80%,来年は100%を再エネで賄う見通しという.これらの国は1990年代には再エネの割合は日本よりも低く3〜4%であったが,再エネに移行するエネルギー政策を強化することで,大きな再エネ比率を達成している.日本でも,原発の最大限活用に投入する多額の資金を省エネ・再エネの導入促進に投入することで,気候危機にも対応できる持続可能なエネルギー政策をとることができるものとわれわれは考える.原発の最大限活用は,このために必要な資金を奪うことになる.本気の「再生可能エネルギーの主力電源化」を望む.再び原発や再処理工場などで大災害が起きれば,程度やタイミングによっては,「日本破滅」が現実となることが危惧される.

2023年5月30日
福岡核問題研究会

5月例会 GX脱炭素電源法案について

5月例会


日 時:2023年5月27日(土)10:00〜12:00
話 題:「電気事業法等の一部を改正する束ね法案」について
報告者: 中西正之氏  
発表資料

<報告>

 5月例会では,参議院で審議中の「電気事業法等の一部を改正する束ね法案」(以下,「束ね法案」と略)について中西正之氏に詳細な報告をしていただいた.岸田政権は,2023年2月に日にこの束ね法案を閣議決定した.この束ね法案は,「原発を最大限活用する」ために電気事業法や原子炉等規制法,原子力基本法など5つの法律の改正案を束ねたものであるが,一般国民にはその内容が分かりにくいように作成されているという.

 まず原子炉等規制法から現行の「運転の期間」の項目が削除されており,その代わりに電気事業法に「発電用原子炉の運転期間」の項目が入ってきている.これは,原発の運転期間を原子力規制庁や原子力規制委員会による規制の対象から,原発推進側の経済産業省の管轄に移すということである.40年を超えての運転については,規制委員会の安全審査はないと言うことになり,電力安定供給等の観点から経済産業相が認可することになる.また現在,沸騰水型は福島原発事故以来,運転停止中であるが,この運転停止期間は40年を超えての延長には含まれないという.

 再処理法の改定では,「使用済燃料再処理機構」が今後は「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」と機能拡張され,機能強化されることが規定されている.これから原発の大量廃炉時代に入り,原発の廃炉も単独の電気会社には大きな荷重になり,国の機構が援助することで原発推進を容易にすることがもくていであるという.

 原子力基本法では,福島原発事故の反省から原発依存度を可能な限り低減するという方針を180度転換して原発の利用を拡大していくことを明記している.「国の責務」が「原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用すること」と明記しているのである.そして,原発関連の人材の育成や原発に関する研究・開発に取り組む事業者などへの援助など5件の施策が新設されている.

 この束ね法案に対する研究会としての態度表明を,意見の一致する範囲で出したほうが良いのではということで,メールを通して意見をまとめ,
声明「『束ね法案』は廃案にせよ〜原発復権は日本衰退の道〜」を5月30日の日付で発出した.

4月例会 今の多重危機の時代に原発を活用すべきか

4月例会


日 時:2023年4月22日(土)10:00〜12:00
話 題:気候・生態系・エネルギー・国際安全保障の多重危機の時代に原発を
    活用すべきか
報告者: 岡本良治氏  
発表資料

<報告>

 4月例会では,岡本良治氏が今の多重危機の時代に原発を活用すべきなのかということをテーマに講演をされた.現在の危機は,気候,生態系,エネルギー,さらには国際安全保障の分野で深刻化している.気候危機は,人類にとってだけでなく,生態系にとっても危機であり,これらの危機に同時に対処するには「自然を活用した解決策」(NbS, Nature-based Solutions)が重要であるという.ただし,人類によるCO2排出の大幅削減なしに,NbSに依拠するだけでは,気候変動の進行を止めることはできないという.
 欧州会議は,昨年7月に天然ガス発電や原子力発電を気候変動の抑制に寄与する投資対象とする欧州連合(EU)の規則案を拒否する動議を反対多数で否決した.天然ガスは「グリーン」とは程遠く,原子力も持続可能とはいえないとの諮問機関の見解があるなかで,原発への依存度が高いフランスや石炭の使用料が多いポーランドが規則案を支持したという.また,「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第6次評価報告書の第3次WG報告には原発活用を示唆する多くの記述がある.
 日本では昨年12月に,岸田政権は脱炭素を議論するGX実行委員会で「原発を最大限活用する」との基本方針を決めた(核問題研究会は即刻これに対して批判する声明を発表した).
 岡本氏は,「脱炭素電源として再エネとともに原発も使うべきか」との問に対して,以下の理由(①〜)から原発は使うべきでないと結論された.①原発を大規模に導入した国はCO2排出が削減されなかった.②再エネによる発電量が増えるとCO2排出量が減る.③原発と再エネの普及には負の相関がある.④原発は,ライフサイクルで見た場合にはCO2排出はゼロではない.⑤有限のエネルギー関連予算の中で原発と再エネは競合する.
 原発なしで気候危機にどう対処すべきかという問に対して,エネルギー源の脱炭素化とともに,大切なのは省エネであり,これにはエネルギー需要の削減とエネルギー効率の2つの点で取り組むことが大事であるとされた.

3月例会 NHK番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」

3月例会


日 時:2023年3月18日(土)10:00〜12:00
話 題:NHK番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」の鑑賞と意見交換

<報告>

 3月例会は,3月10日に九州・沖縄エリアで放映されたNHKの番組「ある原子力学者の遺言〜未公開資料が語る〜」(約30分)を観て,意見交換を行った.同番組は,吉岡斉氏が残したメモや記録,日記,電子メールなど10万点におよぶ未公開資料(「吉岡文書」)が九州大学の大学文書館で見つかり,それらの資料は,日本の原子力政策は合理的かを問いかけるものであり,将来を見通す有意義なものであるという.

 1995年に高速増殖炉「もんじゅ」はナトリウム漏れ事故を起こし,これを継続するかどうかが問われていた.1997年2月に内閣府の原子力委員会の下に高速増殖炉懇談会が組織され,吉岡氏はその構成員となった.懇談会では,吉岡氏等により継続することの合理的根拠が問われた.しかし,リスクや経済的な見通しもないままに1997年11月に「研究開発を続けることは必要」との報告が出されることになった.1998年2月から始まる国会での動燃改革案の審議において動燃を何らかの形で生き残らせるためには「研究開発は必要」との報告が必要であったという.

 番組の終わりの方で,鈴木達治郎氏(長崎大学)は「吉岡氏は一産業界のためとか一政府のためではなく,国民のために科学技術を使うということを強調していた」と語っていた.また,大島堅一氏(龍谷大)は「ちゃんと議論する必要がある時に,そこをすっ飛ばすことで明らかな問題を放置して,かえって傷を深めることにつながる.考えないで進むことの危険性は今も続いている」と警告した.

 番組を見終わって,吉岡氏との個人的な思い出について,岡本氏は10年程前に福岡県の「反核医師の会」の連続講演会の楽屋で,「自分の専門は原子核物理学で研究と社会的活動については『二足の草鞋を履く』ような形であるが,その点,吉岡さんは専門の研究と社会的活動が一体になっており,うらやましい」というようなことを話したことがあると発言された.また,豊島氏は,「経済産業省が2008年に四国の伊方町での原発への『プルサーマル』導入をめぐる討論会でパネリストとして同席したときに,吉岡さんのレジュメの項目の一つに「政府の約束を信用してはいけない」とあり,しかもスピーチで彼はこの項目を堂々と読み上げられ,歯に衣を着せぬもの言いに少々度肝を抜かれたのを記憶している」と言われた.

 それらの発言のあと,この番組を作成した人たちが,どこかに飛ばされるのではないかという心配を表明した人もいた.気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年の「1.5℃特別報告」の頃から原発をCO2の低排出源の一つとして挙げている点が指摘された.また,官僚の個人が責任を取らなくてよい体制のもとで働いている日本の中で,『科学技術者の倫理』という点が大切ではないかという意見も出された.30年間,大企業で働いた研究会の新人が,大企業でも合理的論考ではなく,やっている感を出せればよいというような無責任な風潮に嫌気がさして退職した発言された.

 日本の市民運動も「非暴力」の運動を戦略・戦術に取り入れる必要があるのではないかという発言もあり,参考文献として,(100分de名著)ジーン・シャープ著『独裁体制から民主主義へ』(NHKテキスト,2023年)やエリカ・チェノウェス著『市民的抵抗:非暴力が社会を変える』(白水社,2022年)が紹介された.

2月例会 革新炉ワーキンググループについて

2月例会


日 時:2023年2月18日(土)10:00〜12:00
話 題:「革新炉ワーキンググループについて」
報告者: 中西正之氏  
発表資料

<報告>

 政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,原子力を含めたあらゆる選択肢を追究するとして,原子力小委員会の下に「革新炉ワーキンググループ」を設置し,原子力発電の新たな社会的価値を再定義して炉型開発に係わる道筋を示そうとしている.2月例会では,「革新炉ワーキンググループ」(以下WG)でどのような議論がなされているかを中西正之氏に報告していただいた.

 2022年4月に行われた第1回WGでは,日本原子力研究開発機構(JAEA)から高温ガス炉と高速炉の説明がなされたという.高温ガス炉(冷却材にヘリウムガスを用いた原子炉)はまだ開発途上の新技術であり,高速炉は暗礁に乗り上げている「もんじゅ」である.革新炉といってもすぐに実用化できるような炉ではないようだ.その後,軽水炉原発の製造・保守を担ってきた3大メーカー(三菱重工,日立,東芝)が「次世代軽水炉」や「小型軽水炉」の説明を行った.岸田首相が原発の新増設も視野に入れていることから,これらの革新炉に力を入れ始めたという.

 5月に行われた第2回WGでは,JAEAと高速炉についての技術提携した米国のテラパワー社のナトリウム冷却高速炉「Natrium」についての説明があった.このNatrium炉は,1次冷却にはナトリウムを使い2次冷却には溶融塩を使うので,ナトリウムと水の直接の熱交換がないぶん「もんじゅ」などより安全性は高いのかも知れないが,この熱交換機は開発中で完成された技術とはなっていないという.また,NuScale社の小型モジュール炉の説明があった.

 7月に行われた第3回WGでは,日本原子力産業協会から国内の原子力サプライチェーンの動向が報告された.福島原発事故以降,原発の長期停止が継続しているが,2020年度の関係売上高は1.9兆円と原子力産業界全体では2010年度の売上高を維持しているという.しかし,海外向けの原子力関係売上高については,2020年度の売上高は2010年度の6分の1と急激に減少しており,今後,革新炉の新増設によるサプライチェーンの補強が必要としている.

 10月に行われた第5回WGでは,三菱重工から同社が開発した革新軽水炉“SRZ-1200”についての説明がなされた.S, R, ZはそれぞれSupreme Safety, Sustainability, Resilient light water Reactor, Zero carbonの意味を込め,1200は電気出力1200 MWを意味という.福島原発事故以後,日本国内の原発新増設が凍結されたので,海外向けの受注活動を続けていたが,それにも失敗した三菱重工は,政府の原発新増設への大転換で“SRZ-1200”の国内での強力な売り込みを始めているという.

 11月に行われた第6回WGでは,原子力に関連した人材の育成が議論になったようである.

 福島原発事故以後,日本国内では原発の新増設は行わないとの基本方針が進められてきたが,海外への原発の輸出がことごとく失敗したあとで,国内の原発の新増設の新しい政策なしでは日本の原子力産業界は衰退へ向かうことが明らかになってきた中で,岸田内閣は国内での原発の新増設への大転換を決断して「革新炉ワーキンググループ」(WG)でその具体的検討を始めたように思われる.

1月例会 原発推進政策に関するパブコメについて

1月例会


日 時:2023年1月14日(土)10:00〜12:00
話 題:原発推進政策に関連するパブコメについての情報共有と意見交流

<報告>

 1月例会では,1月21日〜23日に受付締切を控えている,原子力政策に関連した4つのパブリックコメントが募集されているなかで,これらについての意見交流を行った.

・高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の概要(案)に対する科学的・技術的意見の募集
 (所管省庁:原子力規制委員会)
・「GX実現に向けた基本方針」に対する意見募集(所管省庁:経済産業省)
・今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)に対する意見公募(所管省庁:資源エネルギー庁)
・「原子力利用に関する基本的考え方」改定に向けた意見の募集(所管省庁:内閣府)

 パブリックコメントについては,7年前にも玄海原発の再稼働問題に関連して,核問題研究会で問題点を整理して,研究会のメンバーがそれに基づいたり,または独自の視点から,総計で30を超える意見を応募したことがあった.それらの大部分(28のパブリックコメント)については佐賀県の県庁記者クラブで記者会見を行ったこともあった.これらをやってきて分かったことは,パブリックコメントは「労多くして益少なし」ということであった.
 しかし,明らかに問題のある原発政策に対して黙っているのも腹立たしい.締め切りまで一週間程度しかない中で,応募するかどうかは,各自の判断で行うことにした.本研究会は昨年の12月に岸田政権の「」方針に反対する声明を発出したところであるが,いずれにしろ,現政権の原発回帰路線を批判する論考や活動は研究会の主要なテーマであり,これらの活動を続けていくことを確認した.

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