8月例会 吉岡斉氏が残したもの

8月例会


日時:2018年8月25日(土)10:00〜12:30
話題:「吉岡斉氏が残したもの」
   (話題提供:三好永作) 
報告資料

<報告>

 まず,7月1日にKKR ホテル博多で行われた「吉岡斉先生を偲ぶ会」において使ったパワーポイント・ファイルで吉岡氏の足跡を紹介した.吉岡氏は1953年に富山市で生まれ,1976年に東京大学物理学科を卒業されている.同大学大学院に進学されたが,和歌山大学を経て1988年10月に九州大学教養部に赴任された.その後,同大学では総長補佐や副学長などの要職に就かれ活躍されたが,2018年1月に逝去された.大学における要職だけでなく,原子力市民委員会の座長を長い間務められた.

 彼の本来の専門は,科学技術論である.この関連には,『科学文明の暴走過程』,『通史日本の科学技術 1945-1995』などの著書があり,後者は1995年の第49回毎日出版文化賞特別賞を受賞している.時間の経過とともに,原子力政策や原発問題に関する論文や著書が増えていく.特に,福島原発事故を境に論文数が激増する.2009年3報,2010年4報であった論文が2011年には21報になっている(続いて2012年9報,2013年12報).

 吉岡氏の最後の単著による著書は『脱原子力国家への道』(岩波書店,2012年)であり,また,最後の単著論文は,「日本の包括的軍縮へ向けて」(『学術の動向』22巻7号, p.25-31)である.例会では,これらの文献の内容を「吉岡斉氏が残したもの」として紹介した.ここでは,後者の論文の内容を紹介する.

 まず,吉岡氏は標準的な軍学共同反対論として池内了氏の論点を4点にまとめ(①日本は国際紛争を非軍事手段で解決すべき,②軍事研究は人道に反し,③科学の発展に悪影響をもたらす.④軍事研究への非協力を表明した日本学術会議の知恵に学ぶべき),ここには,現実的な安全保障政策論への関与がなく,アカデミア関係者のみに訴える内向きのメッセージとなっていると批判している.

 日本の現実の安全保障状況を分析した上で,具体的・現実的な安全保障政策を論ずる必要がある.また,軍縮競争のスパイラルを断ち切る有力な方法は,軍事的優位にある側からの軍縮交渉提案である.「米軍プラス自衛隊」という観点から見て,現在の日本の軍事力は明らかに過大であるとして,軍縮の方向へ舵をとるのが理にかなっているとする.したがって,日本は科学,技術,装備,運用のすべての点において「包括的軍縮」を進めることが必要である.

 日本の現在の軍事力の中核は米軍であり,その軍縮を進めるのが重要で,それなしでアジア・太平洋地域の軍事的緊張の緩和は期待できないとも断言している.一方,防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度の目的は,日本の「安全保障に関わる技術の優位性を維持・向上していくこと」であり,明確な技術軍拡路線であるので,「包括的軍縮」を進めるという観点からみても,この制度は廃止すべきである.

 この廃止を目指さないで,相当数の大学の申請の自粛や規制だけでは,軍学共同反対の効果は限定的なものになり,また,日本の包括的軍縮にもほとんど役立たないと警告している.

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