12月例会 気候変動と民主主義

12月例会


日 時:2021年12月18日(土)10:00〜12:00
報 告:気候変動と民主主義
    報告者:伊藤久徳氏(気象学)   
発表資料

<報告>

 12月例会では,伊藤氏に「気候変動と民主主義」と題した講演をしていただいた.この講演は,去る12月11日にJSA九州沖縄シンポジウムにおいて話されたものと同じであったが,同シンポジウムの講演時間(20分)よりたっぷりと長い1時間余のお話をお願いした.

 伊藤氏は,2021年8月にIPCC第1作業部会が第6次評価報告書で「人間の影響が大気,海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」としたことは,人間が本当に気候危機をつくりだし地球全体に悪影響を及ぼしていることだ、とされた.そして,気候危機は真に「新しい問題」で,100年というスパンで地球全体を考える必要があると言われた.「新しい問題」に対処するには当然「新しい仕組み」が必要となるが,気候危機に関係してこれまで創られてきた「新しい仕組み」を説明されるとともに,地球の未来のために考えるべき民主主義の「新しい仕組み」を提案された.

 これまで創られてきた「新しい仕組み」として,IPCC,COPおよび気候市民会議が説明された.IPCCの統治しているのは政府代表の集まりであるが,実質的には科学者の関与が大きいという.理由は,その目的が気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることなので,科学者が必要とされるためである.IPCCでは定期的に評価報告書(AR)を作成し気候変動に関する最新の科学的評価を提供している.ARの内容自体は科学者でなければ書けないものであり,科学者が実質的な部分を担っている.気候変動に関する政策はARから逸脱することはできず,必然的に科学に基づいた政策となっている.

 最近,選挙型の代議制民主主義に代替するものとして抽選制が注目を集めている.抽選制は,年齢や学歴などで大きく階層を代表する形で抽選をもとに代表者を選出し,抽選された代表者が政策課題に対応する制度である.この抽選制は気候変動問題にも適応され,選出された会議は一般に気候市民会議と呼ばれている.フランスやイギリスでは国レベルで適用され,市民感覚に基づいた提言を反映した法案が作成されている.自治体レベルでは,日本でも札幌市や川崎市で実施され,気候変動問題に対して提言をしている.

 地球の未来のために考えるべき民主主義の「新しい仕組み」について,①地球の未来に対処する(「対処する」とは「考える,決める,措置する」の総称)ための構成員には,人間以外の地球の構成員や100年先の未来の人類も含めることが大切である.②「人間以外の構成員」や「未来の人類」については対処する会議などにおいて,それらの代弁・擁護者が参加することが大切である.③「弱者」を主語にすることが大切である.そのことで問題の本質が明確になりやすい.④未来も含めた地球の構成員による民主主義を実践することで,「現在人間中心主義」から脱却でき,現在の人間の問題点ができるとされた.

 最後に,気候変動問題に伴って,市民団体の国際政治交渉への関与や気候市民会議など民主主義の新しい芽が育ちつつあり,地球の未来のための新しい民主主義の仕組みをつくっていかなければならない,とまとめられた.

以上

inserted by FC2 system