11月例会 不妊治療問題&トリチウム汚染水問題

11月例会


日時:2020年11月28日(土)10:00〜12:00
話題:(1)「不妊治療の保険適用が抱える課題について」 
      話題提供:伊佐智子 氏   
発表資料
   (2)「トリチウム汚染水放出問題について」
      話題提供:豊島耕一 氏   
発表資料

<報告>

 11月例会では,はじめに核問題研究会としては大変珍しい,不妊治療に関わる話題を伊佐智子氏に報告いただいた.日本における現在の少子化は,男女ともに未婚率の増加や晩婚化とともに婚姻件数の減少,第一子出産年齢の上昇,夫婦の持つ子ども数の減少などに付随して生じている.2015年には夫婦の持つ子ども数は平均2人を下回り,1.94人となっている.夫婦が望む子ども数
を持たない理由として,「子育てや教育にお金がかかりすぎる」(60%),「高年齢で産むのは嫌だから」(35%)などとともに「欲しいけれどもできないから」(19%)などがあげられており,不妊問題は少子化問題の一つの要因となっているという.
 不妊治療では排卵誘発剤が使われるが,不妊の原因によっては体外受精や顕微授精が行われることになる.これらを特定不妊治療と呼び,高額な治療費となるため特定不妊治療助成事業がある.2018年に体外受精や顕微授精で出生した数は約5万7千人と約4千人であったが,高年女性の不妊治療の増加によりハイリスク妊娠・出産が増えているという.
 また不妊治療では,患者側に情報提供も十分でなく,治療によって死亡した女性の実態も不明であるという.不妊治療で有名な,北九州市のある産婦人科医院において,卵管に空気を送り込む「通気検査」受けている間に容体が急変し死亡したという.2020年4月に福岡県警が院長ら3人を書類送検するまで公表されていなかった.略式起訴され簡易裁判所において業務上過失で有罪になり罰金刑が課せられたという.

 次に,核問題研究会の通常の話題である,東電の福島第一原発に関連したトリチウム汚染水の放出問題を豊島耕一氏に報告いただいた.福島第一原発では汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む水が増え続け,敷地内のタンクにはおよそ123万トンがたまり,その扱いが課題となっている.これについて専門家でつくる小委員会では基準を下回る濃度に薄めて海か大気中に放出するのが現実的であるとする報告書をまとめている.これに対する書面による意見募集が行われたが,安全性への懸念や合意プロセスへの懸念が多数出されているという.
 豊島氏は,トリチウム汚染水を海や大気中に放出するべきでないと以下の理由を挙げて述べられた.第一には,トリチウムの生体への影響が十分に解明されているとはいえない.トリチウムは化学的には水素原子と同じ性質をもち,それが生体内の重要分子に取り込まれた場合,放出されるベータ線が低エネルギーであるため,その分子の近傍の狭い範囲に多量のイオン対を生成させる.同時に核転移効果が起きて「2ヒット効果」(注1)による被害の可能性がある.トリチウムの放出する放射線はエネルギーが低いので軽視されているがそうとも言えないことがあるのだという.第二に,放出しないですむ合理的方法があるので,国際放射線防護委員会(ICRP)のALARAの原則(注2)に違反するということである.第三に,法規制の基準値は,これほど大量の放射性物質の放出を想定して作られたものではないという.第四に,トリチウムを大量に放出している原発のサイトで,白血病などの健康被害が疑われる事例が日本を含め世界中であるという.

(注1)この場合,放射線被害のある場所で同時にトリチウムがヘリウムに変化することで化学結合の変化が起きることをさす.
(注2)放射線の被ばく被害は,「合理的に達成可能な限り低く」を意味する英語(As Low As Reasonably Achievable)の頭文字で放射線防護の原則である.

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