7月例会 ドイツの「国家水素戦略」

7月例会


日時:2020年7月18日(土)10:00〜12:00
話題:ドイツの「国家水素戦略」
   (話題提供:中西正之氏)  
発表資料a  発表資料b

<報告>

 中西氏は,2020年6月に発表されたドイツの「国家水素戦略」(Nationale Wasserstoffstrategie)(ドイツ語で29ページの文書)の概略について報告された.ドイツの連邦経済エネルギー省のアルトマイヤー大臣は「水素戦略により,ドイツが水素技術で世界一になるための道筋が示された.水素はエネルギー転換を成功させるための重要な原料であり,未来のエネルギー源として,世界中の気候目標の達成に重要な貢献をする.ドイツはこの分野で先駆的な役割を果たすことになる」と語ったという.ドイツは経済の非炭素化を進めるために,水素エネルギー関連技術の先進国になるという目標を打ち出したことになる.CO2を大量に発生する石炭火力発電を太陽光発電や風力発電で置き換えるのは比較的容易であるが,電力生産以外のプロセスから発生するCO2を大幅に削減することはそれほど簡単ではない.水素H2は様々な化学プロセスや工業プロセスに不可欠で,例えばアンモニアの製造に必要であるが,その水素はほとんどが化石燃料から製造され,その時に大幅のCO2を大気中に放出することになる(この製法による水素を「グレイ水素」という).ドイツは,再生可能エネルギーの余剰電力を利用して水の電気分解により,CO2を放出することなしに水素を作ることを考えている.このような水素を「グリーン水素」と呼ぶ.この「グリーン水素」をアンモニア製造だけでなく,製鉄所などにも使い,また,トラック,船舶,飛行機などのエネルギー源として使用することを計画している.「グリーン水素」を余剰CO2と反応させ液体燃料(合成石油)を作る計画も進んでいるという.余剰CO2は空気中から供給できるので,この合成石油はバイオマスと同様にカーボンニュートラルということができる.
 ドイツの「国家水素戦略」は2050年までのパリ協定の目標を達成するための1つの意欲的なプランであるように思うが,エネルギー効率や経済性,また「グリーン水素」の製造がドイツ国内だけでは足りず輸入に頼ることを想定するなど不透明な部分もあり,はっきりしない面もある.しかし,超々臨界圧発電方式の石炭火力の増設をも考えている日本とは大きな差がある.日本が2050年のパリ協定の目標を実現するための政策を考える上でも「国家水素戦略」は重要な資料であるかもしれない.

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