2月例会 声明文の検討

2月例会


日時:2017年2月25日(土)10:00〜12:30
内容:
(1) 佐賀県原子力専門部会への申し込みの検討
   (2) 玄海原発再稼働についての反対声明文の検討

<報告>
(1) はじめに,佐賀県原子力専門部会を数回にわたって傍聴した方から,その専門部会における討論内容が報告された.専門部会は,総じて緩いもので,県の事務局(原子力安全対策課)からの説明に対して専門部会の委員が素朴な質問をしてそれに県の職員が答えるというようなものであるとのこと.中には,鋭い質問もあり,県の職員がその場では答えられないこともあったという.福岡核問題研究会として,佐賀県の原子力安全対策課あるいは原子力安全専門部会への申込を行うことも検討したが,結果として見送ることになった.

(2) 次に海原発再稼働に反対する声明の原案について討議し,たくさんの修正意見が出され,それらの検討の結果,
声明文「玄海原発3,4号機の再稼働は許されない」の骨子が確定された.細かな字句の修正などはメーリングリストで詰めることとなった.
                            (以上,E.M.)

虚言「新規制基準は世界で最も厳しい水準」を批判

繰り返される虚言「新規制基準は世界で最も厳しい水準」ー国際原子力機関の「深層防護」からも逸脱ー


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2017年2月24日
福岡核問題研究委員会有志*


1.嘘も百回言えば本当に?


今月初めに佐賀県議会の特別委員会で配布された九電のビラや,現在佐賀県内各地で行われている「県民説明会」の資料に,「『世界で最も厳しい水準にある新規制基準』に適合」と書かれていますが,これは全く事実に反します.「最も厳しい」どころか,いくつもの重大な点で甘く,それどころかメルトダウン対策は世界では非常識とされるものです.また,同じビラには,万が一の事故でも放射性物質は福島事故の時の2,000分の1などと書かれています.しかし,これを保証する確たる根拠もなく,まさに「安全神話」の復活そのものです.
私たちは科学者として,このようなデマの横行を見過ごすことは出来ません.詳細は2年ほど前の文書「原子力規制世界最高水準という虚言の批判」[1]に書いていますが,そのポイントを短くまとめてみます.

2.国際原子力機関(IAEA)の「深層防護」の考え方と新規制基準の比較


原発推進の総本山である国際原子力機関(IAEA)は,過酷事故発生が原発推進の一番の妨げになるので過酷事故に厳しい立場を取っています.そのIAEAの「深層防護」の考え方[2,3]は,異常や事故の深刻さ,進展の度合いを5段階にわけ,そのそれぞれの段階に対して,それぞれ独立に対策を立てておく,というものです.我が国の規制基準も,これに倣っていると称していますが,実際は違います.
設計基準内の事故,つまり「想定内」の事態については,想定された発端事象ごとにそれがより悪化しないための対策が一応とられています.発端事象(「引き金」的な事象)は外部事象と内部事象に分けられます.外部事象は地震,津波,火災,テロなどであり,内部事象は機器,部品の故障などです.
他方,設計基準では想定されていない事故が過酷事故(シビアアクシデント)ですが,これに対する対策がいい加減か,または全く欠けています.次の表の第4層と第5層です.日本の新規制基準[4]をこれで評価してみます.
fig20170224
 右欄の記号の意味:○=要求あり △=要求はあるが極めて不十分 ×=要求なし

なぜ,このような評価をするか.この判断根拠は,規制委員会の「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」という文書[4]の中で,深層防護思想の第4層について説明している65ページに,「早期の放射性物質の放出又は大量の放射性物質の放出を引き起こす事故シーケンスの発生の可能性を十分に低くすることによって実質的に排除できる」として,規制委員会は第4層を不要であるという立場を表明しているからです.これはIAEAの深層防護思想からの逸脱,または恣意的な解釈と言わざるを得ません.
IAEA福島原発事故報告書[3]では,低頻度・高影響の外部事象(自然現象など)に十分備えるべきと繰り返し勧告されています.さらに,「ブラック・スワン―リスクと不確実性」について系統的に分析した文献[5]には,人間や組織も関与するシステムにおける低頻度・高影響の事象が多数分析され,事前にそれらの予兆は観察されないこと,そして,人間の認知機構は反復されるもの,規則的なものに主として注目し,低頻度のものは存在しないと見なすことも鋭く指摘されています.
また,過酷事故対策として審議されてきた格納容器下部キャビティの水張りと水素燃焼のイグナイタ(着火装置)は労働安全衛生規則に反しています[6].
周知のように,第5層の緊急時対応は規制対象ではありません.米国では規制対象であり,ニューヨーク州のショーラム原発は緊急時対応の実効性が不十分という理由で新設の原子炉が稼働することなく閉鎖されました.地方自治体が義務づけられている原発防災対策は,事故の影響と自然災害を同列視しているだけではなく,福島原発事故後,不可避になった長期間にわたる移住の措置は考慮の対象外になっています.

3.新規制基準は世界で最も厳しい水準とはとても言えない!


4層,特に過酷事故(シビアアクシデント)の影響緩和策は無いか,極めて不十分です.燃料や制御棒などの高温の溶融物に対して,チェルノブイリ事故後の緊急対応の一環として,耐熱レンガなどを用いたコアーキャッチャーが構築され,地下水への接触を防護しました.その後,ヨーロッパやロシア,中国の新型原発では徐々に装備されています.過酷事故は設計想定外の事故であり,設計をやり直すことが筋です.
5層の緊急時対応は規制対象ではありません.以上より明らかなように,新規制基準は世界で最も厳しい水準とはとてもいえません.

4.再稼働される原発の「安全性」は誰も保証していない


安倍首相は,原子力規制委員会が「再稼働の安全性を確保できているかどうかの確認審査をしている」と言い,九電も「新規制基準審査に合格したから安全性が高まった」と主張しています.しかし,原子力規制委員会の田中俊一委員長は,委員会は原発が新規制基準に適合しているかどうかを判断しているのであって,「原発の安全性を担保しているものではない」との姿勢を変えていません.つまり,安倍首相や九電は「規制基準合格」に過ぎないものを「安全性」にすり替えていると言わざるを得ません.

[引用文献]
[1]福岡核問題研究会「原子力規制世界最高水準という虚言の批判―世界一楽観的な進展シナリオに沿った、世界一奇妙な評価―」, 2014年12月1日.
  http://jsafukuoka.web.fc2.com/Nukes/kikaku/files/673c6fc5ee122b961e25fb24ffe1190b-31.html
[2] IAEA, INSAG-10「原子力安全における多重防護」1996年.
  http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1013e_web.pdf
[3]IAEA, 福島第一原子力発電所事故-事務局長報告書, 2015年8月.
  http://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/SupplementaryMaterials/P1710/Languages/Japanese.pdf
[4]原子力規制委員会「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」2015年6月29日策定,2015年8月24日改訂.
  https://www.nsr.go.jp/data/000155788.pdf
[5]N.N.タレブ 「ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質」ダイヤモンド社,2009年.
[6]滝谷紘一「労働安全衛生規則に反する過酷事故対策の原子炉下部キャビティの水張りと水素燃焼のイグナイタ」科学Vol.86, No.6 (2016), 513.
  http://toyokeizai.net/articles/print/129616

* 岡本良治(九工大名誉教授),豊島耕一(佐賀大学名誉教授),中西正之(元燃焼炉設計技術者),三好永作(九州大学名誉教授)

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