1月例会「原発と地震・火山」

1月例会


日時:2016年1月12日(土)14:00〜16:30
講師:山崎文人氏(元名古屋大学地震火山研究センター)
講演:「原発と地震・火山 地球科学的時間スケールと日常的時間スケール」

<報告>

 1月例会において,山崎文人氏に「原発と地震・火山 地球科学的時間スケールと日常的時間スケール」というタイトルで講演頂いた.まず,山崎氏は,原発の設計・審査は地震学の新しい知見が反映されておらず,原発は地震学の古い知識で運転していると警告した.1966年11月の福島第一原発1号炉の審査では,「この地域は地震が少ない地域である」とされていた.1950年代は地震の静閑期であった.地球科学は,ウィルソンによるプレートテクトニクス(1965年)など1960年代に大きく発展したという.地震学者の率直な思いは「活発な地殻変動帯である日本になぜ原発を作るのか」ということだと言われた.
 九州の火山の噴火は予知できるのか? という問いに対して,噴火の予知に繋がるデータを持ち合わせていないのが現実だと言う.
 高レベル放射性廃棄物の「地層処分」に関して,昨年5月に国が候補地を選定することを閣議決定したが,地下300m以深に多重バリアを築くという「地層処分」は未確立の技術であり,しかも,活発な地殻変動帯である日本において長期にわたり安定な埋設場所に関する学問的根拠はないと明言した.

 講演の後,参加された人よりメールで以下のような質問があり、それに対して山崎氏は大変丁寧な回答を寄せられましたので,ここに質問者と回答者の承諾のもとに紹介します.
質問:昨日聞き忘れたことですが,群馬大学の早川由紀夫教授(火山学)という方が,震災直後からツイッターを駆使して,大衆にアプローチされています.国会質問で採用された,最初の汚染地図を公表された方です.仕事中も,ツイッターに熱心で,どうしてこういう時間がおありなのかと疑問を禁じ得ませんでした.一部の東大教授も実は同様の行動を取られておりました.多くは「原発大丈夫,再稼働しないと未来はない」という発言を繰り返しておられたように思います.当初,早川教授は,原発事故による放射能汚染,避難の必要,そして福島の食べ物を食べるべきではない,という警告をされていました.その後,福島で子どもの甲状腺が多発すると,突然のように,主張を変えられ,「甲状腺癌の原因は,原発事故由来の放射能ではない.検査の精度が上がったための,スクリーニング効果だ」という主張をされております.
http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-598.html#comment4402
http://togetter.com/li/581505
医師や医学者でない方が,「被曝影響ではない」との発言を繰り返されることに,不安を感じております.また,早川教授という方が,地震学会ではどのような位置づけであられるのか,もしご存じの先生がおられましたら,ぜひ,ご意見を賜れればありがたく存じます.

回答:土曜日のおしゃべりはあんなものでよかったのでしょうか.どのような方々が参加されておられるか,全く情報が無かったもので,戸惑っていたものでした.さて,早川由紀夫氏の件ですが,個人的には全く面識が無いもので責任を持ってお答えすることはできません.ネット上で多少フォローした範囲での感想を若干だけ記しておきます.見当違いがあるかもしれません.
①ネット論争について
ネット固有のぐちゃぐちゃなやり取りの世界がもろに出ているようで,私はそのような世界は避けて通ることにしています.ただ,研究者というのは(というか,正確には「研究者の中には」)多かれ少なかれ,こだわり屋で自分を過信するきらいがあって,自分の研究対象への科学性はしっかり貫かれていても,それと離れた日常においても実証性を忘れて自分の「科学性」が貫徹されていると思い込み,自分の判断に固執することがままあるのではないでしょうか.それが昂じると・・・・.彼は多分にそのようなきらいがあるように思います.
②「放射能拡散の図」と「甲状腺がんの原因」について
放射能がどのように拡散していったかを彼がいち早く公表したことに関しては(どのようなデータを取り扱ったか詳しくは知りませんが)彼の専門を生かした結果と思われますので,高く評価できると思います.甲状腺がんに関わる結論を彼がどの様な根拠をもとに結論づけたのか私には理解できません(←そこまでフォローできません.また,彼の専門とは直接には関係ないのではとも思います).ただ,私たちに「都合の良い」結果を出す研究者は「味方」,「不都合な」結果を出す研究者は「味方でない」と色分けするのは避けるべきでしょう.留意すべきは,それらの「結果」がどのような根拠とプロセスを経て出され,それが適切なのかどうかをしっかり見極めることだと思います.
③小児甲状腺がんの原因について
福島における20才以下の検査で甲状腺がんが多数見いだされたこと,2巡目の検査で前回異常なしとされた人からも見いだされた件について,その原因は「過剰診断」や「スクリーニング効果」であって,原発事故による被曝が原因ではないと発表されたことについて.その発表で,当事者は大変だなと思いつつ,なんで「被曝が原因ではない」と結論付けられのか,原発事故の影響がないと考えられる別の場所での同じレベルのスクリーニングをやって,その比較を行うのがイロハな常識だろうということです.スクリーニング効果で増加するのは当たり前で,それがどの程度で,全体を説明できるのか,あるいは説明できない部分が残るのかを調べて初めて結論付けることができるのであって,多少でも研究に携わったことのある人なら常識も常識です.まさかこの分野の「第一人者」というのは本当にこんなレベルなのだろうかと.
 ただし,一言.これについての論文の結論には「・・・・, our descriptive analysis suggests the possibility of overdiagnosis.」すなわち,「過剰診断の可能性を示唆している」と断定的ではない表現になっています.これが論文のスタイルだとは思いますが.この論文のタイトルは,
Quantification of the increase in thyroid cancer prevalence in Fukushima after the nuclear disaster in 2011—a potential over diagnosis?
というもので,
http://jjco.oxfordjournals.org/content/early/2016/01/10/jjco.hyv191.long
で見ることができます.
 因みに,これと全く逆の結論(原因は被曝によるもの)を出しているのが,
Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014.
という論文で,そのURLは,
http://journals.lww.com/epidem/Abstract/publishahead/Thyroid_Cancer_Detection_by_Ultrasound_Among.99115.aspx#
で,その日本語抄が,下記URLに載っています.
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1984
さらにびっくりしたのは,この原発には関係ないという結論を出すにあたって,「内部被曝」を全く考慮外としていることです.私はてっきり考慮したうえでの結論であって,むしろ一体どうやって内部被曝のデータを得られたのかなと考えました.かなりに困難だからです.そうしたら,実は,内部被曝については良く判らないから最初から考慮外としていたと「堂々と」表明したとのことで,さすがに「え゛ー,嘘でしょ!」と.そうだとすれば「原発は関係ない」との結論を出しようがないはずです.こと甲状腺がんに関しては,内部被曝こそが「最重要参考人」だと考えるのが普通だからです.だいたいヨード液を飲めというのは放射性ヨードが甲状腺に集まって内部被曝をおこすのを防ぐためで,これまたイロハの問題です.最重要参考人のことは良く判らないからと除外しておいて,「原発は関係ない」という結論を出すのは論理的にも手続的にも全くの誤りです.以上,参考になりましたら.

inserted by FC2 system