5月例会 アンジー・ゼルター&気候変動とエネルギー

5月例会


日 時:2021年5月29日(土)10:00〜12:00
話 題:①アンジー・ゼルターの新しい本“Activism for Life”の紹介
     —法と説明責任に基づく非暴力直接行動で世論を動かす 
    話題提供:豊島耕一 氏   
発表資料
    ②『世界』6月号の特集「気候変動とエネルギー」の紹介
    話題提供:三好永作 氏   
発表資料

<報告>

 はじめに豊島氏は,アンジー・ゼルター(Angie Zelter)さんの新しい本 “Activism for Life” (Luath Press, 2021)の内容紹介をされた.アンジーさんは「もう一つのノーベル賞」ともいわれるライト・ライブリフッド賞(Right Livlihood Award)[注1]を2001年に受賞している活動家である.英国生まれの彼女は,英国内だけでなくアフリカやアジアを含む世界中で反軍事・反核の平和運動を非暴力直接行動による展開した.“Activism for Life” は,それらの運動を紹介している.

 アンジーさんは大学卒業後,カメルーンでボランティア活動を行い,先進国による支配・収奪を現地で経験し問題は先進国の側にあることを知る.1980年代のロンドンの西80kmにあるグリーナム・コモン空軍基地での反核運動で多くの女性とともに最初の逮捕をされる.ノリッジの北西40kmにある米軍基地のフェンス金網の1本を切って逮捕されることを待つという「スノウボール」キャンペーンでは,50名の地元市民が法廷に溢れ,地元紙はなぜ多数の市民が牢屋に行くことになったのかと核兵器の問題を大きく取り上げた.アンジーさんは2度目の逮捕で1週間拘留された.1991には(カリマンタン島の)サラワクにおける,資本による森林破壊・木材収奪への抗議行動で3ヶ月の拘留を受けた.

 1996年にはインドネシアに輸出される直前のジェット戦闘機の非武器化,すなわち戦闘機の破壊工作を実施した.この戦闘機は東チモールの住民の虐殺に使われることが明白であった.実行の前に1年がかりで計画を練り20分の説明ビデオを作り,関係者に手紙を書き,航空機会社の株主や幹部にも訴えた.これらの準備が功を奏し,6ヶ月後に無罪評決が出された.詳細が岩波『世界』にある[注2].1996年7月の国際司法裁判所の「核兵器は一般的に違法」の決定を契機にトライデント原潜を非武器化する「トライデント・プラウシェアズ」立ち上げる.1999年6月には,アンジーを含む3名の女性がゴイル湖の原潜試験施設「メイタイム」を破壊したが,10月には無罪評決が下された.

 紹介されたのは,原著の前半部分であったが,この本の翻訳を行う予定だという.一年後には,日本語で通読できるのを楽しみに待つことにしよう.

[注1] 環境保護,人権問題,持続可能な開発,健康,平和などの分野にて活躍した人物や団体に授与されることが多いという.
[注2] アンジー・ゼルター「地球市民の責任 東チモールとプラウシェアの平和運動」,『世界』1999 年11月号,pp.120~128.
http://ad9.org/pegasus/peace/sekai9911.html

 次に三好氏は,『世界』6月号の特集「気候変動とエネルギー」の以下の4つ論文を紹介した.
・高村ゆかり「カーボンニュートラルへ日本の課題」
・伊代田昌慶「革新的技術は気候を救うか」
・山家公雄「どうして海外は再エネが普及しているのか」
・飯田哲也「すぐそこにある再エネ社会—誰がこの転換を妨げるのか?」

 高村論文では,2015年以降,世界的に再エネへのエネルギー転換が進行しており,その原因は再エネのコスト低下にあるという.再エネの導入により,エネルギーコストの低減,途上国のエネルギー需要への対応,大気汚染の改善,雇用創出,産業振興などの効果が出てきている.さらに,自治体や企業が脱炭素社会に向かう取り組みを先導している.気候変動問題は,企業にとって「社会貢献」ではなく,企業経営の本業の問題になっているという.気候変動対策の選択肢としての原発は追加的安全対策費などでコスト競争力を失っており,火力発電所の炭素回収・利用・貯蔵技術(CCUS)や,アンモニアや水素を利用した発電などは,コストの見通しはまだ明らかではなく,省エネを進め,再エネの導入を強力に促進し,いま手もとにある技術の普及によりエネルギーシステムの脱炭素化を加速するのが,日本の取るべき戦略であると結論している.

 伊代田論文は,炭素回収・貯留(CCS),炭素回収・利用(CCU),CO2直接回収(DAC),アンモニア発電などの新技術について論じている.CCSについては,今後,その開発が進んだとしても,再エネとの競争に負けて実際には活用されない可能性が高いという.国際的研究者グループ「Climate Action Tracker」のレポートでは「日本の温暖化対策をパリ協定の1.5℃目標と整合させるには、国内の温室効果ガス排出を2030年までに2013年比で60%以上削減する必要がある」としている.求められる「革新的技術」の条件は,経済合理性や環境十全性のほかに安定的運用の見通しがあること,「1.5℃未満」実現に求められるスピードに間に合うことなどがある.しかし,政府が列挙している「革新的技術」には,2030年に実用化や普及が間に合わないものが多い.2030年までの対策強化では,「革新的技術」はあてにせず,対策を着実に進めなければならない.最重要な対策は,省エネと再エネの普及であるという.

 山家論文では,EU諸国で再エネ普及に成功した理由は固定価格買取制度(FIT)の導入だけでなく,再エネに関して「優先接続」「優先給電」「送配電事業者の系統増強義務」を設定して,再エネの新規参入が容易になるようにしたことにあるという.さらに電力自由化,取引市場整備を積極的に進めたことが,再エネ普及に大きな役割を果たしたという.変動する再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy, VRE)である風力や太陽光は天候次第の出力であるため,出力調整が容易な別の電源が重要になる.現状では火力発電や揚水を含む水力発電に依存している.ドイツでは,日市場において短時間商品の投入など,変動する再生可能エネルギー(VRE)の需給調整を支援する仕組みを整えたという.ドイツの再エネ普及には,FITだけでなく系統運用や卸市場革新が大きな役割を果たしている.バイオマス発電や蓄電池を利用し調整力を提供する仮想発電事業(Virtual Power Plant, VPP)が登場している.変動性のためVRE比率の拡大には限界があるとされてきたが,急激に再エネ比率が上がるドイツでは,短時間では100%近い数字も出ている.「EUの北海道」とも呼ばれるアイルランドでは,2030年の再エネ電力比率を年間70%,リアルタイム95%超を宣言している.日本でも同様の目標を設定できるはずという.

 飯田論文では,多くの国際機関では,将来の電力も一次エネルギー源も太陽光発電と風力発電がその中心を担うと予測しはじめているが,日本はこのような流れから取り残されたという.その原因の1つは,太陽光発電などからの買取価格を,国が計画を認定した時点で決まるようなFIT制度にしたことであり(もともとFIT制度は,建設時点で投資回収が可能な固定買取価格を長期間保証し,再エネ普及を促しコストダウンを狙う制度である),もう一つは,電力会社の送電線問題である.初期のFIT法では,再エネ事業への送電線接続を優先する「優先接続」が規定されていたが,2015年の電気事業法改正時に「優先接続」を削除された.その結果,休止原発や将来の石炭火力の接続が優先され,再エネ事業者が後回しにされることになった.若者を含む国民全員が参加して日本の環境エネルギーの選択を行うべきであるとしている.

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