「岸田政権の原発最大限活用方針に反対する」声明文

「岸田政権の原発最大限活用方針に反対する」声明文



声明文のpdfファイルは
ここにあります

岸田政権の「原発最大限活用」方針に反対する
——今も続く福島第一原発の大惨事を忘れたのか——

 岸田首相は12月8日,原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとする原発政策を発表した.それによると,政府は原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとしている.これは本年8月24日の第2回GX実行会議(GXはグリーン・トランスフォーメーション)での首相指示を受けて検討が進められ,総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の11月28日の原案に沿うものとされる.12月開催予定のGX実行会議を経て,この方向が今後10年間のロードマップの一環となるものと見込まれる.
 気候危機とロシアによるウクライナ侵攻などによるエネルギー危機と脱炭素化という長期の達成目標へあらゆる方法を動員すべきとの口実で,原発推進へ政策転換を図るものである.しかしこの転換には,次のように幾つもの重大な問題や矛盾がある.

1 拙速で民主主義に反する
 2011年の福島第一原発事故以後,政府は原発依存の低減化を目指すとしていた.国民の大半が脱原発を指向しているなか,先の参議院選挙の公約にも掲げず,短期間に原発最大限活用方針に政策転換を図ろうというのは,拙速で民主主義に反する.

2 再稼働は事故発生のリスクを高める
 40年以上前の設計に基づいて建設され,10年以上運転休止していた既設原子炉の再稼働は事故発生のリスクがより高くなることは否定できない.既設原子炉の40年以上の運転期間延長は,個別の原子炉により事情は異なる可能性があるにしても,ほとんどの技術システムはその老朽化の進行により事故発生確率が高くなることは明らかである.例えば,核燃料という膨大な放射能を閉じ込める圧力容器の,いわゆる脆性破壊の危険は,主にその危惧から廃炉とされた玄海1,2号基を全国にいくつも生き延びさせることになろう.また,日本の原発メーカは2009年には,海外向けには改良された次世代型軽水炉の売り込みを行いながら,今日まで日本国内の規制基準にはそれらを取り入れず,原発の古い設計基準を継続し続けてきたことは,悪質なダブルスタンダードと言わざるをえない.

3 原発の推進は再生可能エネルギーの導入を妨害する
 気候危機に対応できるための時間は多くを残されていないが,次世代革新炉の開発・建設には長時間を要し,2030年まで間に合わないであろう.また有意な発電量を確保するには莫大な費用と技術者の動員を要する.さらに,ウランの資源量は天然ガスの6割ほどでしかないにも関わらず,使用済み燃料の保管・管理には数万年以上を要する.温暖化対策にあらゆる可能な対策を急いで取らなければならない時に,余計な問題に関わっている余裕はないはずだ.

4 「敵基地攻撃能力」など大規模な軍拡は原発のリスクを格段に高める
 岸田政権が11月22日に発表した,「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」による「報告書」は,国産ミサイルの長射程化など敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えて公然と書き込むなど,質的にも規模的にも軍事力の拡大を打ち出した.しかしすでに日本列島を構成する4島全域には,極めて脆弱で危険性の高い福島の被災原発や青森の再処理工場等がある.
 昨今のウクライナ情勢は,原発がドローンなどによる戦略的に極めて重要な攻撃目標であることを露呈している.したがって,敵基地攻撃能力を保有し,核燃料サイクル開発を維持しつつ原発増設を進めるという政策は,ひとたび戦争ともなれば,破壊されると壊滅的な被害を容易に生じうる施設を維持しかつ増やすことになる.それは,上記軍拡と併せて,国土と国民の安全・生命・財産を損なう恐れを危機的に高める,愚かな国家規模の自滅的行為であり,許されるものではない.

 以上,政策決定プロセス,安全工学的側面,気候危機対策,また国土の危機管理等のあらゆる面で,今回の政府の決定は不当であり,私たちはこれに強く反対する.


2022年12月19日
日本科学者会議・福岡核問題研究会

12月例会 「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」の検討

12月例会


日 時:2022年12月17日(土)10:00〜12:00
話 題:「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」の検討
原案提起:岡本良治氏

<報告>

「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」を発出することを討論した.はじめに,岡本良治氏に声明文の原案を提起してもらい,それを基にさらに追加すべき論点などを出し合い,大枠が決まった段階で例会が終了した.あとはメールで細かい点を修正して12月19日付で以下の声明文を発出し,福岡県庁の記者クラブにリリースした.

声明文は以下の通り.(PDFファイルは
ここ

岸田政権の「原発最大限活用」方針に反対する

—今も続く福島第一原発の大惨事を忘れたのか—


 岸田首相は12月8日,原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとする原発政策を発表した.それによると,政府は原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとしている.これは本年8月24日の第2回GX実行会議(GXはグリーン・トランスフォーメーション)での首相指示を受けて検討が進められ,総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の11月28日の原案に沿うものとされる.12月開催予定のGX実行会議を経て,この方向が今後10年間のロードマップの一環となるものと見込まれる.
 気候危機とロシアによるウクライナ侵攻などによるエネルギー危機と脱炭素化という長期の達成目標へあらゆる方法を動員すべきとの口実で,原発推進へ政策転換を図るものである.しかしこの転換には,次のように幾つもの重大な問題や矛盾がある.

1 拙速で民主主義に反する
 2011年の福島第一原発事故以後,政府は原発依存の低減化を目指すとしていた.国民の大半が脱原発を指向しているなか,先の参議院選挙の公約にも掲げず,短期間に原発最大限活用方針に政策転換を図ろうというのは,拙速で民主主義に反する.

2 再稼働は事故発生のリスクを高める
 40年以上前の設計に基づいて建設され,10年以上運転休止していた既設原子炉の再稼働は事故発生のリスクがより高くなることは否定できない.既設原子炉の40年以上の運転期間延長は,個別の原子炉により事情は異なる可能性があるにしても,ほとんどの技術システムはその老朽化の進行により事故発生確率が高くなることは明らかである.例えば,核燃料という膨大な放射能を閉じ込める圧力容器の,いわゆる脆性破壊の危険は,主にその危惧から廃炉とされた玄海1,2号基を全国にいくつも生き延びさせることになろう.また,日本の原発メーカは2009年には,海外向けには改良された次世代型軽水炉の売り込みを行いながら,今日まで日本国内の規制基準にはそれらを取り入れず,原発の古い設計基準を継続し続けてきたことは,悪質なダブルスタンダードと言わざるをえない.

3 原発の推進は再生可能エネルギーの導入を妨害する
 気候危機に対応できるための時間は多くを残されていないが,次世代革新炉の開発・建設には長時間を要し,2030年まで間に合わないであろう.また有意な発電量を確保するには莫大な費用と技術者の動員を要する.さらに,ウランの資源量は天然ガスの6割ほどでしかないにも関わらず,使用済み燃料の保管・管理には数万年以上を要する.温暖化対策にあらゆる可能な対策を急いで取らなければならない時に,余計な問題に関わっている余裕はないはずだ.

4 「敵基地攻撃能力」など大規模な軍拡は原発のリスクを格段に高める
 岸田政権が11月22日に発表した,「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」による「報告書」は,国産ミサイルの長射程化など敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えて公然と書き込むなど,質的にも規模的にも軍事力の拡大を打ち出した.しかしすでに日本列島を構成する4島全域には,極めて脆弱で危険性の高い福島の被災原発や青森の再処理工場等がある.
 昨今のウクライナ情勢は,原発がドローンなどによる戦略的に極めて重要な攻撃目標であることを露呈している.したがって,敵基地攻撃能力を保有し,核燃料サイクル開発を維持しつつ原発増設を進めるという政策は,ひとたび戦争ともなれば,破壊されると壊滅的な被害を容易に生じうる施設を維持しかつ増やすことになる.それは,上記軍拡と併せて,国土と国民の安全・生命・財産を損なう恐れを危機的に高める,愚かな国家規模の自滅的行為であり,許されるものではない.

 以上,政策決定プロセス,安全工学的側面,気候危機対策,また国土の危機管理等のあらゆる面で,今回の政府の決定は不当であり,私たちはこれに強く反対する.

2022年12月19日
日本科学者会議・福岡核問題研究会

11月例会 原子力エネルギー協議会&原子力規制の新たな課題

11月例会


日 時:2022年11月19日(土)10:00〜12:00
話 題:(1)原子力エネルギー協議会(ATENA)と米国原子力エネルギー協会(NEI)
       中西正之氏   
発表資料
    (2)原子力規制,深層防護の第4,5層,それらの新たな課題
       岡本良治氏   
発表資料


<報 告>

前半には,中西正之氏が米国の原子力エネルギー協会(NEI: Nuclear Energy Institute)をモデルにした日本の原子力エネルギー協議会(ATENA: ATomic ENergy Association)設立と2つの組織の関連について説明を行った.
 1994年に設立されたNEIは,米国の原子力規制委員会(NRC: Nuclear Regulatory Commission)よりも先行して過酷事故検討することで,NRCの厳しい規制強化による原発の安全対策費の暴騰をなんとか阻止してきた.そしてスリーマイル島原発のメルトダウン事故後約30年が過ぎ,米国内にも原発の新増設の気運が高まり,新増設計画が急激に進んでいた2011年3月に福島原発にメルトダウン事故が発生し,その結果振り出しに戻ったという.
 ATENAは,2018年7月に「原子力産業界の知見を活用し,規制当局等とも対話を行いながら安全対策を立案し,原子力産業界による,規制の枠に留まらない自律的かつ継続的な安全性向上の取り組みを定着させる」ことを目的に設立された.原子力産業界として原子力の安全に関連して取り組むべき課題の特定や安全対策等の決定,原子力事業者の安全対策の実施状況の評価・公開などが主な事業内容という.
 ATENAは,2020年3, 4月に2回にわたって原子力規制庁の間で原発の経年劣化管理に係わる実務レベルの技術的意見交換会を行い,日本国内の原発再稼働や運転期間延長について強力な働きかけを行ってきた.このことは,運転期間延長が原発推進側の最重要課題であることを伺わせる.
 ATENAはその設立以来4年を過ぎてきているが,その積極的な行動により,日本国内では原発回帰のへの動きが急速に進み始めたようで,原発稼働を憂慮する我々としては注目しなければならないことであるとされた.

 後半には,岡本良治氏が原子力規制における深層防護(defense in depth)の4層,5層の今日的な意味についての問題提起があった.深層防護4層とは,設計想定外の要因によるシビアアクシデント(過酷事故)の影響緩和を含む過酷な状態の制御対策であり,深層防護5層とは,放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和対策である.深層防護の1層〜3層を含めて各層は独立して機能することが肝要であるという.
 「深層防護を議論することは原発の再稼働を容認することを意味する」と主張する論者もいるが,科学的・技術的な安全論争は主として深層防護の1層〜3層の議論であり,4,5層は含まれない.当該設備の安全性が十分に高いことを論証することも困難である.また,危険性が何時どの程度に顕在化するかを具体的に明示することも困難である.一方,「原発は確率的安全に頼った設計であり,多重防護や深層防護をどんなに強化しても大規模な事故の発生可能性は残ることになる」(原子力市民委員会編,特別レポート5『原発の安全基準は以下にあるべきか』p.140)との深層防護無益論もあるが,これは恐らく深層防護の考えを思い違いしているのであろう.確かに深層防護の1〜3層をどんなに強化しても過酷事故の発生の可能性をゼロにできない.だからこそ過酷事故が発生した場合,4層の影響緩和や5層の放射性物質の施設外への拡散から住民避難が必要になるのである.
 原発は,原子炉,格納容器,タービン建屋,使用済核燃料プール,各種の安全装置などの主要設備以外にも多数の配管,バルブ,モーター,外部電源,非常用電源など多数の施設と部品から構成されている複雑技術システムであり,そのようなシステムには構成要素間の無数の相互作用があり,事故前には顕在化していなくても,事故の際に強い相互作用が顕在化することがありうる.原発の過酷事故は,めったに起きない出来事であり,その発生時期と影響の規模についての科学的な予測はほぼ不可能である.
 原子力規制委員会は2016年6月に「実用発電用原子炉に係わる新規制基準の考え方について」(原発裁判における裁判官への指南文書か?!)を策定し改訂を重ねたが,そこでは国際的な標準用語severe accidentに対して重大事故またはシビアアクシデントという言葉を使い,過酷事故という表現はしていない.日本の新規制基準には水蒸気爆発対策がないことが特記される.
 現在の世界情勢の中で,深層防護の4層に関連して次の深層防護が必要ではないかとの提起があった.①フランスの原発過酷事故に対する「突撃部隊」に相当する措置の必要性,②サイバー攻撃に対する深層防護,③保険による補償という深層防護,④戦時における正規軍による攻撃に対する深層防護.

inserted by FC2 system