10月例会 島崎氏による基準地震動の過小評価指摘問題

10月例会


日時:2016年10月22日(土)14:00〜16:30
内容:
島崎氏(元規制委委員長代理)による基準地震動の過小評価指摘問題
   報告:中西正之氏

<報告>

 島崎・元規制委委員長代理により提起された,入倉・三宅式による地震動の過小評価の問題を中西正之氏が報告された.原発サイトにおける地震による最大の地震動を予測するには,2つの課題がある.一つは,①震源の大きさ,すなわち,地震モーメントを動いた断層の面積あるいは長さと関連させてどう予測するかという課題と,もう一つは,②その震源からどのようなシナリオで原発サイトまで地震動が伝播していくか(それをレシピと呼んでいる)という課題である.この第2の課題はかなり複雑である.原発の耐震性に関係するのは,0.02〜1秒の短周期の振動である.そのシナリオにより最大の地震動がおおよそ地震モーメントの何乗に比例するかが決定されることになる.
 ①の課題には,さまざまな経験式が提出されているが,②の課題については,まだ十分に研究がなされているとはいえないのが現状であるようだ.①の課題に関して,地震モーメントと断層の面積あるいは断層の長さとの間には,入倉・三宅式の他にも武村式などさまざまな経験式がある.入倉・三宅式は世界の地震データによる経験式であり,その他の武村式などは日本の地震データによる経験式であるという.
 島崎氏は,西日本に多い垂直断層あるいは垂直に近い断層の場合,入倉・三宅式は,武村式など他の式に比較して地震モーメントが3.4分の1程度小さくなるという.この点は,原子力規制庁も「入倉・三宅式が他の関係式に比べて,同じ断層長さに対する地震モーメントを小さく算出する可能性を有している」ことを認めている.
 島崎氏は,2016年4月の熊本地震においても,国土地理院による断層面の暫定的推定を基にして,入倉・三宅式による地震モーメントが過小評価になっていることを指摘している.入倉氏(京都大学名誉教授)は,それに対して学問的に反論しているが,「地震の揺れの予測に使う場合には,(西日本に多い)断層面が垂直に近いと地震規模が小さくなる可能性はある.行政判断として,過小評価にならないよう注意しながら使うべきだ」として自分の式が過小評価になることは認めている.入倉氏は,入倉・三宅式を防災目的に使用すること事態が間違いであるとも主張している.
 ②の課題に関しては,地震動は地震モーメントの1/3乗に比例するという関係式が壇らにより提案されているが,1/2乗に近いというシナリオもあるようだ.
 島崎氏は原子力規制委員会に,過小評価の恐れのある入倉・三宅式とは別の式を使って計算することを求めた.原子力規制委員会は原子力規制庁の職員(おそらく地震学の専門的知識を有しない)に武村式を使って計算させたが,常識的な数値とは異なる結果が出たという.そして,島崎氏の提起した入倉・三宅式の過小評価問題に対して,専門家の間でも決着がついていないという理由を挙げて,今後とも,過小評価があることを承知のうえで入倉・三宅式を使って地震モーメントを予測し地震動の計算を行うということにしたという(7月27日,第23回会議).
 ここに原子力規制委員会の無責任な特質が現れている.まず,武村式を使っての計算で異常な数値が出てきたのであれば,少なくとも,この分野の専門家に計算についての検証を依頼すべきであるが,それをしていない.原子力規制委員会の中には地震学の専門家はいないのである.また,西日本に多い断層では過小評価になることが明らかな入倉・三宅式を使って地震の揺れの予測を行うということは,原子力規制委員会がより安全の側に立って地震の揺れを予測しようという考えがないということである.玄海原発では620ガルという低い基準地震動のもとで,ともかく再稼働を進めようという姿勢としか思えない.

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