11月例会 原子力エネルギー協議会&原子力規制の新たな課題

11月例会


日 時:2022年11月19日(土)10:00〜12:00
話 題:(1)原子力エネルギー協議会(ATENA)と米国原子力エネルギー協会(NEI)
       中西正之氏   
発表資料
    (2)原子力規制,深層防護の第4,5層,それらの新たな課題
       岡本良治氏   
発表資料


<報 告>

前半には,中西正之氏が米国の原子力エネルギー協会(NEI: Nuclear Energy Institute)をモデルにした日本の原子力エネルギー協議会(ATENA: ATomic ENergy Association)設立と2つの組織の関連について説明を行った.
 1994年に設立されたNEIは,米国の原子力規制委員会(NRC: Nuclear Regulatory Commission)よりも先行して過酷事故検討することで,NRCの厳しい規制強化による原発の安全対策費の暴騰をなんとか阻止してきた.そしてスリーマイル島原発のメルトダウン事故後約30年が過ぎ,米国内にも原発の新増設の気運が高まり,新増設計画が急激に進んでいた2011年3月に福島原発にメルトダウン事故が発生し,その結果振り出しに戻ったという.
 ATENAは,2018年7月に「原子力産業界の知見を活用し,規制当局等とも対話を行いながら安全対策を立案し,原子力産業界による,規制の枠に留まらない自律的かつ継続的な安全性向上の取り組みを定着させる」ことを目的に設立された.原子力産業界として原子力の安全に関連して取り組むべき課題の特定や安全対策等の決定,原子力事業者の安全対策の実施状況の評価・公開などが主な事業内容という.
 ATENAは,2020年3, 4月に2回にわたって原子力規制庁の間で原発の経年劣化管理に係わる実務レベルの技術的意見交換会を行い,日本国内の原発再稼働や運転期間延長について強力な働きかけを行ってきた.このことは,運転期間延長が原発推進側の最重要課題であることを伺わせる.
 ATENAはその設立以来4年を過ぎてきているが,その積極的な行動により,日本国内では原発回帰のへの動きが急速に進み始めたようで,原発稼働を憂慮する我々としては注目しなければならないことであるとされた.

 後半には,岡本良治氏が原子力規制における深層防護(defense in depth)の4層,5層の今日的な意味についての問題提起があった.深層防護4層とは,設計想定外の要因によるシビアアクシデント(過酷事故)の影響緩和を含む過酷な状態の制御対策であり,深層防護5層とは,放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和対策である.深層防護の1層〜3層を含めて各層は独立して機能することが肝要であるという.
 「深層防護を議論することは原発の再稼働を容認することを意味する」と主張する論者もいるが,科学的・技術的な安全論争は主として深層防護の1層〜3層の議論であり,4,5層は含まれない.当該設備の安全性が十分に高いことを論証することも困難である.また,危険性が何時どの程度に顕在化するかを具体的に明示することも困難である.一方,「原発は確率的安全に頼った設計であり,多重防護や深層防護をどんなに強化しても大規模な事故の発生可能性は残ることになる」(原子力市民委員会編,特別レポート5『原発の安全基準は以下にあるべきか』p.140)との深層防護無益論もあるが,これは恐らく深層防護の考えを思い違いしているのであろう.確かに深層防護の1〜3層をどんなに強化しても過酷事故の発生の可能性をゼロにできない.だからこそ過酷事故が発生した場合,4層の影響緩和や5層の放射性物質の施設外への拡散から住民避難が必要になるのである.
 原発は,原子炉,格納容器,タービン建屋,使用済核燃料プール,各種の安全装置などの主要設備以外にも多数の配管,バルブ,モーター,外部電源,非常用電源など多数の施設と部品から構成されている複雑技術システムであり,そのようなシステムには構成要素間の無数の相互作用があり,事故前には顕在化していなくても,事故の際に強い相互作用が顕在化することがありうる.原発の過酷事故は,めったに起きない出来事であり,その発生時期と影響の規模についての科学的な予測はほぼ不可能である.
 原子力規制委員会は2016年6月に「実用発電用原子炉に係わる新規制基準の考え方について」(原発裁判における裁判官への指南文書か?!)を策定し改訂を重ねたが,そこでは国際的な標準用語severe accidentに対して重大事故またはシビアアクシデントという言葉を使い,過酷事故という表現はしていない.日本の新規制基準には水蒸気爆発対策がないことが特記される.
 現在の世界情勢の中で,深層防護の4層に関連して次の深層防護が必要ではないかとの提起があった.①フランスの原発過酷事故に対する「突撃部隊」に相当する措置の必要性,②サイバー攻撃に対する深層防護,③保険による補償という深層防護,④戦時における正規軍による攻撃に対する深層防護.

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