川内原発の再稼働は許されない

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2014年8月25日 福岡核問題研究会

 原子力規制委員会(規制委)は,7月16日,審査を進めてきた九州電力の川内原発1・2号基について「新規制基準を満たしている」とする審査書案を了承した.規制委は,この審査書案についての科学的・技術的問題に限定してのパブリックコメントを募集したが,それは7月17日から8月15日間での30日間という短期間であった.これに対して,当研究会は審査書案の科学的・技術的問題に関連して研究論文を発表するとともに,研究会会員によるパブリックコメントを多数提出し公開してきた.

 電力自由化後には,原発は公的支援をしない限り成り立たないことが明確になってきているのが最近の議論である.それにもかかわらず,安倍政権は,電力自由化後の原発支援の方針を年内にも打ち出そうとしている.原発の運転は,経済性の点からも大いに問題がある.さらに,福島原発事故は未だに収束しておらず,メルトダウンを起こした原子炉がどのような状態になっているかも現時点で明らかでない.福島原発事故の真相究明がなされていない現状では,原発の再稼働が許されないのは当然である.ここでは,川内原発の再稼働をめぐる問題点を数点にわたって指摘しておきたい.

 第一の問題点は,世代間倫理の問題である.私たちは,私たちの子どもたちや孫たちが幸せに生活する地球を思い描き希望する.それと同様に,数十世代あとの子孫たちの幸せな生活を思い描くことができる.原発の再稼働は,私たちの子孫に高レベル放射性廃棄物の処理を押しつけるものである.世代間倫理には「この大地は私たちの子孫からの借りもの」であるという考えが大切であり,環境の保全を心掛けることが肝要である.豊かな地球を将来世代の地球人に渡すためにも,これまで以上に高レベル放射性廃棄物を作り続ける原発の再稼働は許されない.

 第二の問題点は,今回の新規制基準を安倍政権は,「世界最高水準の安全基準」であると,何の根拠もあげることなくお題目のように唱えていることである.今回の新規制基準は,既存の設計に安全対策を追加させただけの対症療法にすぎず,最新技術を設計段階から組み込んだ欧米のものとは大きく異なる.例えば,欧州加圧水型炉(EPR)では装備されているコアキャッチャーや飛行機の衝突対策さえも含まれていない.コアキャッチャーの義務づけがないということは,一度,冷却に失敗すれば,メルトダウンからメルトスルーに至り,空気の入っている格納容器内で水素爆発や一酸化炭素爆発さらには水蒸気爆発の危険が高まるということである(溶融した炉心を貯めた水で受け取るということだから,水蒸気爆発の危険がある).「世界最高水準の安全基準」というお題目は,まったく根拠のないでたらめである.

 第三の問題点は,規制委が「新規制基準を満たしている」とする審査書を提出することで原発再稼働のお先棒を担ごうとしていることである.もともと,規制委は,「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全」などに資することを目的とし,「専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する」委員会として設置されている.つまり,規制委は国民の生命を守るため独立した権限を与えられている.しかし,審査書案で述べていることは,想定した新規制基準に適合しているということだけである.しかもその適合判断の基準が大変甘い.その一つの現れはクロスチェックの問題である.審査書案をみる限り,九州電力が提出したMAAPなどによる数値シミュレーションの結果などに対して,規制委は独立したソフトウェアを使ったクロスチェックを行っていない.このようなクロスチェックなしでは十分な審査と言えないのは当然である.田中委員長は,新規制基準に適合しているとしつつ,「安全だとは言わない」と述べている.つまり,新規制基準に適合していても安全性は保障しないということである.

 第四の問題点は,安倍政権が「安全が確認された原発は再稼働する」としていることである.菅官房長官は,規制委が川内原発についての審査書案を提示した7月16日,安全性を確認した原発を再稼働させる従来の政府方針に変わりはないと改めて示した.つまり,安倍政権は,安全性の判断は規制委に責任があるという立場で動いている.規制委の田中委員長が「安全だとは言わない」とする新規制基準適合をもって「安全が確認された」と言い換える.ある意味で「詐欺行為」といってよいものである.安全性についての責任が曖昧のまま,誰も責任を取らない体制の中で,川内原発の再稼働が行われようとしている.無責任極まりないことである.

 第五の問題点は,九州電力にみられる再稼働に前のめりの態度である.9月末に最終的な審査合格に必要な工事計画の補正申請を行うとしている.再稼働に前のめりになっているのは明らかである.東京電力や関西電力が,3・11以降ガスコンバインドサイクルなどによる火力発電施設の高効率化を急ピッチで進めているのに比較するとき,運転開始から30年を超える「老朽火力」に出力全体の50%近くを頼っている九州電力の取り組みは明らかにバランス感覚に欠けている.また,九州電力は,新規制基準は安全性についての最低限の要求事項に過ぎないことを自覚すべきである.新規制基準で猶予されているからといって,フィルター付きベント装置や免震重要棟のない状態で再稼働を行うのは無謀である.九州電力は,もっと慎重な態度を取るべきである.

 第六の問題点は,規制委が安全な避難計画などを権限外のこととして何らの検討を行っていないことである.米国では,原子力規制委員会(NRC)が避難計画についての評価を行うことになっており,避難計画の策定が原発運転の条件となっている.1988年,新設されたショアハム原発は有効な避難計画を立てることができない中で粘り強い住民運動もあり運転停止・解体された話は有名である.川内原発では30km以内の自治体の有効な避難計画が立てられない状況である.有効な避難計画が存在しないこのような状況の下で再稼働を行うことは,住民無視・人命軽視であり許されない.

 最後に,指摘しておきたいことは,多くの国民の納得が得られない再稼働は民主主義の問題として許されないということである.7月26,27日の朝日新聞の世論調査によると,再稼働反対の割合は59%で,再稼働賛成23%を大きく上回ったという.他の世論調査でもほぼ同様な結果である.このような世論の下で,しかも,安全性についての無責任体制の下で,川内原発の再稼働が強行されるようであれば,日本の民主主義は,国際的に笑い物となるに違いない.

以上

川内原発の審査書案へのパブリックコメント

当研究会のメンバーが川内原発の審査書案へのパブリックコメントを提出しました.参考のためその内容をここに発表しておきます.
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川内原発の審査書案についてのパブリックコメント
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中西正之(1)

溶融炉芯・コンクリート相互作用 201ページ1.申請内容
(1)『本格納容器破損モードの特徴 原子炉圧力容器から溶融炉心が原子炉格納容器内の床上に流出し、溶融炉心と接触した床のコンクリートが熱分解により浸食され、原子炉格納容器の構造部材の支持機能が喪失し、原子炉格納容器の破損に至る。』と九州電力は説明している。この見解は、高温領域における耐火物技術から専門的にみると、著しい認識の不足である。福島第一原発で過酷事故が発生した時、落下した溶融核燃料がペデスタルのコンクリートを溶かし、どこにあるのかさえ分からない惨状が発生したため、その対策の検討が必要になった。もともと、人類が鉄の近代製錬を行うことができるようになったのは、銑鉄(カーボンの含有量が多く融点が1200℃と低い)を溶かすとき、短時間では溶けない耐火煉瓦の開発に成功できたからである。このことから分かるように、一般に自然に存在する多くの素材は1200℃の溶融金属と接触すると低融物をつくり溶けてしまう。まして、コンクリートは火山岩や石灰岩をポルトランドセメントで固めたものであり、溶融核燃料と反応すると、1200℃以下で簡単に溶ける。また、コンクリート中のポルトランドセメントは水の水和反応で結合されているので、一定量の水分を含んでおり、溶融金属と接触すると、内部水分の蒸気爆発が起こり、爆発したコンクリート塊が周りの機器を破壊する。1200℃以下で簡単に溶けるコンクリートを2600℃の溶融核燃料を受けるペデスタルに使用したことは、原子炉の基本設計の世界的な重大設計ミスであった。そして、1986年にチェルノブイリの4号機で実際に重大事故(過酷事故)が発生し、落下した溶融核燃料がペデスタルのコンクリートを溶かし、コンクリート中に沈下する事故が発生したので、とりあえずの緊急対策として、原子炉の真下にトンネルを掘り、溶融核燃料が地下水まで沈下することは防止できた。そして、ペデスタルをポルトランドセメントコンクリートで築造した大設計ミスに気が付いて、ロシアやヨーロッパでは、コアキヤッチャーへと基本設計が変更されるようになった。しかし、日本では重大事故対策は規制基準外だったので、大設計ミスは問題にならずに、とうとう福島第一原発の重大事故の発生時、溶融核燃料をコンクリート中に沈下させてしまった。福島第一原発の重大事故の発生後、事故調査を行って、新規性基準を策定し、川内原発の新規制基準に係わる適合性審査が行われてきたが、大設計ミスの事は全く検討されず、九州電力は水で溶融核燃料を冷却し、溶融核燃料・コンクリート反応を防止するとしている。新規制基準の適合性に係わる審査には、この基本的な重大設計ミスの検討が行われていない。
202ページ(2)『対策の考え方 溶融炉心を冷却し、溶融炉心によるコンクリート浸食を抑制するために、原炉下部キャビティへ注水する。』と九州電力は説明している。この見解は、金属製錬炉における長年の経験から専門的にみると、著しい認識の不足である。高温度で操業される溶融炉では、内張りの耐火物が溶融物で溶かされて、長期耐用が得らなく、水冷ジャケットを耐火物の裏に設置し、貫流熱を増大して、耐火煉瓦の表面にセルフコーティングを生成させて、内張り耐火物の耐用の延長を図るものが多い。しかし、水冷ジャケットが水漏れし、炉内の溶融物の上に水が大量にたまる場合が有る。金属製錬炉では、比重の重い溶融金属が下部に溜まり、その上部を厚みのあるスラグ層が覆っている。炉内ガスゾーンから水が漏洩する場合、スラグ層の上部に溜まる。スラグの熱伝導率は溶融金属に比べ、著しく小さいので、スラグが固化し、溶融金属から水への大量の伝熱はおこらない。しかし、何らかの原因のトリガリングで固化スラグ層が破けると、溶融金属から水への大量の伝熱が起こり、多くの場合には水蒸気爆発が起きる。第58回適合性に係わる審査の資料2-2-7は「溶融炉心とコンクリートの相互作用について」の報告である。この報告書に、国内外の溶融炉心とコンクリートの相互作用についての実験が記載されている。ここで報告された実験の多くで、コンクリート上に溶融炉心が落下し、溶融炉心とコンクリートの相互作用が起きた時、溶融核燃料が作る溶融プールの周りに軽石状のクレストが覆いかぶさり、クレストは低熱伝導率なので溶融プールから水への大量の伝熱を阻害し、水では溶融核燃料を冷却できないと報告されている。この状態は、金属精錬溶融炉内への水の漏洩と同じである。そして、何らかの原因のトリガリングでクレストが破けると、溶融金属から水への大量の伝熱が起こり、多くの場合には水蒸気爆発が起きると予測される。新規制基準の適合性に係わる審査には、この基本的な検討が行われていない。以上の2点の検討を提言いたします。
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中西正之(2)

原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作業190から195ページ4-1.2.2.4
191ページ1.(1.)1 九州電力は、『本格納容器破損モードの特徴およびその対策 原子炉圧力容器外のFCIには、衝撃を伴う水蒸気爆発と、溶融炉心から冷却材への伝熱による水蒸気発生に伴う急激な圧力上昇(以下圧力スパイクという)が有るが、水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いと考えられるため、圧力スパイクについてのみ考慮する。』と説明している。
このことについては、原子力規制委員会は新規制基準に係わる適合性審査で厳しく追及している。
 九州電力は第58回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合の資料2-2-6で国内外のFCI実験結果を提出したが、これらの実験では、水蒸気爆発が起きている。
 第102回適合性審査とそれに部分的な修正が行われた第108回適合性審査で九電は水蒸気爆発が起きないと説明している。
 『国内外の多くのモデル実験では、確かに水蒸気爆発が起きているが、それらの実験で水蒸気爆発が起きたのはトリガリングを与えた場合だが、実際の炉ではトリガリングが働く可能性は少ないので、水蒸気爆発は起こらないと結論できる。』と説明がされている。
 川内原発の水素爆発防止対策では、水素による爆轟により、格納容器が吹き飛ぶ前に、水素濃度6%で水素を爆発させて、対策を行うとあるが、水素爆発を起こせば、明らかにトリガリングになる。
 また、水中で溶融燃料・コンクリート反応が起きれば、大量のCOガスが発生するのでトリガリングになる。
しかし、九電はキャビティ水は純静定であり、トリガリングとなりうる要素はない』と説明している。
 九州電力は過酷事故の発生時、トリガリングが有れば格納容器内水蒸気爆発が起きるが、トリガリングはモデル実験のためにわざわざ行われたもので、実際の実炉ではトリガリングは起きないと思われる。したがって、過酷事故の発生時、格納容器に水蒸気爆発が起きない事が証明できるとした。
 原子力規制委員会からは、実炉に於いて、どのようなトリガリングが起きるかどうかの検討もしないで、起きることはあり得ないと説明し、過酷事故の発生時、格納容器に水蒸気爆発が起きない事が証明できたとの九電の説明はおかしい。もう一度再検討するように命令を出している。
しかし、193ページの2.審査結果は『格納容器破損モード「原子炉容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」において、申請者が水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いとしていることは妥当と判断した』と報告されている。
この検討は適合性審査では少ししか行われていない。
 国内の高温溶融炉の水蒸気爆発の事故調査では、水蒸気爆発が起きるのは、溶融金属が一度に大量に水中に落下する場合、連続して落下しているが大きなトリガリングが有った場合、溶融金属の上部を覆っているスラグの黒皮がトリガリングで破けて、水と溶融金属が急激に接触する場合の3ケースである。
溶融燃料-冷却材相互作用においても、溶融燃料が一度に大量に水中に落下する場合、連続して落下しているが大きなトリガリングが有った場合、溶融燃料を覆っているクレストの黒皮がトリガリングで破けて、水と溶融燃料が急激に接触する場合の3ケースである。しかし、適合性審査では1と3のケースの検討はないし、どのようなトリガリングが予測できるかの検討が無い。
 これらの事を検討すべきである。

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中西正之(3)

「MCCIによる大量のCOの発生の検討が全く行われていない」
MCCIに伴う水素発生199ページ3.(1)
「申請者は、原子炉下部キャビティに十分な水量が確保されていれば、床コンクリートには有意な浸食は発生しないため、それに伴う有意な水素は発生しないとしていた。規制委員会は、知見が少ない溶融核燃料挙動について、不確かさにたいする検討が不足しているてんを指摘し、MCCIの感度解析の結果を踏まえた水素発生について検討することを求めた。申請者は、これに対して以下のように説明した。(1)原子炉下部キャビタィー床面での炉心デブリと原子炉下部キャビティ水の伝熱等のパラメターを組み合わせた場合、MCCIにより発生する水素は、全てジルコニウムに起因するものであり、反応割合は全炉心内のジルコニウム量の約6%である。」と報告している。
 しかし、国会事故調査委員会は、福島第一原発3号機は(ジルカロイ・水反応)による水素爆発だけでは説明できず、コリウムコンクリート反応(MCCI)が大規模に起こり、水素・CO爆発したと考えるべきと指摘していました。又、佐藤暁氏(元米国GE社原子力事業部に勤務)は新規制基準の骨子が発表されたとき、『水素ガスの発生源として、原子炉内でのジルコニウムと水反応が唯一と見倣しているような記述があるが、実際には、原子炉から落下した溶融炉心がコンクリートと化学反応を起こし、水素ガスの他に大量の一酸化炭素も発生しうる。かってはそのような知見も思慮も無かったため、コンクリートに入れる砂利の種類までは仕様として規定しておらず、定かではない。実際の石灰石の混入量によっては、爆発防止対策設備の設計条件を見直す必要もある。』と指摘していた。
コリウムコンクリート反応とは、冷却ができなく成り、2800℃の高温に成って溶けた炉心の核燃料が原子炉圧力容器の底を溶かして、下部のコンクリートの床に落下しコンクリートと反応し、コンクリートが溶ける現象です。その時大量の水素とCOが発生します。COは水素と同じように爆発しますが、カーボンが含まれるので酸素が少ない場合はローソクの炎のような色の爆発をする。
(岩波の科学2014年3月号岡本・中西・三好「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発、CO爆発の可能性」)で説明したように、国内の文献ではコリウムコンクリート反応によるCOの発生の報告は少ないが、海外の文献にはたくさんの報告例がある。
又国会事故調査委員会の調査報告書にも、海外の著名な実験報告書が紹介されている。
そして、水中でも溶融炉心はクレストに保温されて、コンクリートと反応し、MCCIは進行する。
「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発、CO爆発の可能性」に示すように、コンクリート骨材に含まれるCaCO3は高温度の炉心溶融物に接触して高温度になると、CaOとCO2に分解される。
CO2は高温度の炉心溶融物に接触して高温度になるとCOとO2に分解し、大量のCOを発生する。
川内原発の新規制基準の適合性に係わる適合性審議および審査書案では、全く審議されていない。最大事故(過酷事故)の発生時、水素濃度計で水素の濃度を計測し、爆轟前の判断でイグナイタに点火し、爆発させる時、熱伝導率が大きくことなるCOを感知せずに爆発させて、COが同時爆発して爆轟が起これば、川内原発の格納容器と原子炉建屋は崩壊し、溶融核燃料が野ざらしになり、チェルノブイリ級の放射性物質の飛散となる。
国内の論文を無視せずに、もっと審議が必要である。
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中西正之(4)

水素燃焼ページ195 4-1.2.5
申請者は、本格納容器破損モードの特徴及びその対策を
『1.(1).2 対策の考え方 水素の爆轟を防止するためには、早期に発生する水素および継続的に発生する水素を処理し原子格納容器の水素濃度を低減する必要がある。また、MCCIに伴う水素発生に対しては、原子炉下部キャビティへ注水する必要がある。
3 初期の対策 PWRプラントは原子炉格納容器自由体積が大きい事により水素濃度が高濃度にならないという特徴がある。その上で、主に炉心損傷時に発生した水素の処理を行う。このため、イグナイタを重大事故対策設備として新たに整備する。』
と説明している。
 「PWRプラントは原子炉格納容器自由体積が大きい事により水素濃度が高濃度にならないという特徴がある」と説明しているが、これは明らかな間違いである。
 197ページ(3)a.本格納容器損傷モードの有効性評価では、MAAPで得られた水素発生量を原子炉圧力容器内の全ジルコニウムの75%が反応するように補整して評価する。感度解析のパラメターを組み合わせた場合、MCCIに伴い発生する水素は、全炉心内のジルコニウムの約6%である。このことを考慮し、炉心内の全ジルコニウムが水と反応するとしても、ドライ条件に換算した原子炉格納容器内水素濃度は最大12.6%である。
 福島第一原発の3号機のような爆轟が起きるのは、13%以上だから、川内原発に爆轟が起きて格納容器と原子炉建屋が消失し、溶融核燃料がのざらしになるまでの余裕は0.4%である。従って、「PWRプラントは原子炉格納容器自由体積が大きい事により水素濃度が高濃度にならないという特徴がある」との説明は間違っており、フィルター付ベントが必要な事は明らかである。
 そして、爆轟防止対策として、イグナイタで水素燃焼を行うとしている。水素の爆発限界は4.0%から75.0%なの水素濃度が6%の時、イグナイタで着火して水素燃焼を行うとしていることは間違いである。
 この審査書案そのものが、水素燃焼として論議している事が間違いである。燃焼は純静的に酸素と水素が結合することであり、爆燃は燃焼波の前面の伝達速度が音速以下で、爆轟は燃焼波の前面の伝達速度が音速以上の場合であり、何れも超短時間の酸素と水素の結合である。
 イグナイタの水素濃度6%での着火は、爆燃を引き起こし、水蒸気爆発のトリガリングとなる危険性が大きい。
 フィルター付ベントの無い川内原発を再稼働することは、格納容器と原子炉建屋が消失する危険性が大きいので、もっと詳細な検討が必要である。
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中西正之(5)

201ページ溶融炉芯・コンクリート相互作用 
1.申請内容
(1)『本格納容器破損モードの特徴 原子炉圧力容器から溶融炉心が原子炉格納容器内の床上に流出し、溶融炉心と接触した床のコンクリートが熱分解により浸食され、原子炉格納容器の構造部材の支持機能が喪失し、原子炉格納容器の破損に至る。』と九州電力は説明している。
202ページ(2)『対策の考え方 溶融炉心を冷却し、溶融炉心によるコンクリート浸食を抑制するために、原炉下部キャビティへ注水する。』と九州電力は説明している。
 しかし、これは世界的な耐火物技術の専門的見解からは大きな疑問である。
 第102回新規適合性に係わる審査会合の議事録24ページに、北海道電力の長沢氏は「あと、二つ目でございますが、国内PWRでは考慮不要な現象ということで、こちらにつきましては、「溶融炉心・セラミック相互作用」ということで、コアキャッチャ、これが国内のPWRにつきましてはコアキャッチャがございませんので、そういったところとしては、現象としては挙げられないと考えているものでございます。」と説明しているが、この見解は九州電力、北海道電力、関西電力、四国電力の共通の見解である。
 チェルノブイリ原発の過酷事故を経験したロシアやヨーロッパでは、「溶融炉心・セラミック相互作用」を良く研究し、コアキャッチャ対策が最良と認定した。
 また、国内外の「MCCI(溶融炉心・コンクリート反応)試験の多くの実験設備はコンクリートの試験片をセットするためにマグネシア(MgO)煉瓦が使用されている。
 そして、ヨーロッパで建設が進んでいるコアキャッチャのロートや樋にもマグネシア(MgO)煉瓦が使用されている。マグネシア(MgO)煉瓦は低価格で有るが、「溶融炉心・セラミック相互作用」の少ない煉瓦である事は良く知られている。
 しかし、使用条件によっては、欠点もありその他の耐火物の「MCCI(溶融炉心・コンクリート反応)も良く研究されている。
 ところが、上記4電力会社は、国内のPWRにつきましてはコアキャッチャが無いので「溶融炉心・セラミック相互作用」の検討の必要はないという、極めて無責任な説明を行っている。
 ロシアやヨーロッパの原子炉はコアキャッチャ対策を取っているので、「溶融炉心・セラミック相互作用」の検討を行っているが、日本のPWR原子炉はロシアやヨーロッパ並の安全対策は取らないので、初めから「溶融炉心・セラミック相互作用」の検討の必要はないと説明している。
 川内原発の審査書案は、「溶融炉心・セラミック相互作用」の検討の必要はないとの説明を承認しているが、極めて検討不十分と考えられ、詳細な検討をする必要がある。
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R.O.(1)

意見書1 4-1.2.2.4 (p.190-195)
 森山清史らの論文「軽水炉シビアアクシデント時の炉外水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価」において、水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価がなされている。これらの確率の絶対値は必ずしも定量的な意味をもつとは限らないが、確率としては決して小さい値とは言えない。そうであれば、トリガリングが起きた場合、水蒸気爆発の可能性は低くはないことを意味する。
上述の推測が議論されたため、新規制基準適合性に係る第102回審査会合(2014年4月3日)の資料1-2-7の3.2-10において、事業者は、モデル実験結果を分析する中で、実機において、キャビティ水は準静的であり外部トリガリングとなり得る要素はなく、実機において大規模な水蒸気爆発に至る可能性は極めて小さいと考えられる、としている。
 しかし、過酷事故の際には極限的状況が起こると考えるべきで、キャビティ水は準静的であるとは限らないだろう。さらに,過酷事故が起きた場合、水素爆発などの外部トリガリングの候補はあると考える方が現実的ではないだろうか。
 日本の事業者や原子力規制委員会の見解と対照的に、セーガル編集による過酷事故の国際会議報告(2012年)には、トリガリングは外部トリガリングだけではなく、自発的トリガリングもあることを議論し、実際の状況では水蒸気爆発が起こるかどうか予測することは現実的に不可能で、溶融核燃料と冷却水の相互作用の間、トリガリング確率は1に等しく、(水蒸気)爆発が起こることを前提としている、と記されている。このような認識の下で、ヨーロッパやロシアでは過酷事故対策として、キャビティに水を緊急に張るのではなく、コア・キャッチャーを設置する方針が選択されと思われる。しかし、事業者は特異的で、危険な対応をしているにも拘わらず、原子力規制委員会がこれを最終的には認可したことは誤りであると言わざるをえない。


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R.O.(2)

意見書2 4-1.2. 2.5(pp.195-201)
 川内原発はフィルター付きベントの設備を持っていなくて、格納容器内の窒素封入もないので、過酷事故が起きると、新規制基準の水素濃度発生量は、水・ジルコニウム反応が75%起きたとした時、9.7%の水素濃度に成ると記されている。
 また、コリウム・コンクリート反応からも全炉心ジルコニウムの6%の反応の水素が出るので、水・ジルコニウム反応が100%起きたとした時、12.6%の水素濃度に成ると記されている。
 新規制基準の適合性審査で水素濃度が13%だから、まだ0.4%の余裕が有るとすることが問題と指摘されたので、念のためにイグナイタ(電気式点火装置)の追加取り付けを行うことにしたと記されている。
 事業者はあくまで、イグナイタで水素を燃焼させると主張している。
しかし水素の爆発限界は4%から75%であるから、イグナイタで点火すると、格納容器内にガス爆発が起こる。また、このガス爆発は水蒸気爆発のトリガリングになる可能性が高く、水蒸気爆発との複合爆発の可能性が大きくなる。さらに、格納容器の下部キャビティのコンクリートの骨材が石灰岩系であれば、コリウム・コンクリート反応の進行度合いによっては、CO爆発の可能性もある。
 原子力産業における水素爆発の危険性についてシェファード (米国カリフォルニア工科大学)は加圧水型および沸騰水型の原子炉の学ぶべき教訓として以下の諸点を列挙している。
1)爆燃はスケールに相対的に独立に発生する:可燃限界は構成にのみ依存する。
2)爆燃から爆轟への移行はスケールに強く依存するこ と:爆轟限界は形状、サイズ、発火源に強く依存する。
3)格納容器形状における爆燃から爆轟への移行の危険性を定量化するためには大規模実験が必要であること。
4)爆轟の開始と伝播は、小規模の場合より大規模の場合には、非常に低い濃度で起こりうる。すなわち、水蒸気濃度が10%の場合、水素濃度10.5%で水素空気の爆轟、水素濃度11%でDDTが発生する。
シェファードの見解、特に4)を裏付けるように、Dorofeevらによる大規模の実験(1997年)は水素濃度が約10%から77%までの水素-空気混合ガスに対して,爆轟が起こることを示した。
 事業者が、一般の産業技術の現場でも回避されるべき、爆発限界内のガスに平気で点火と爆発を行うとしている方針を原子力規制委員会が認可したことは誤りであると言わざるを得ない。
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R.O.(3)

意見書3 4-1.2.2.6 (pp.201-205)
 溶融核燃料と格納容器の下部キャビティのコンクリートの相互作用により、コンクリートの骨材が石灰岩系であれば、水素だけではなく、CO2、COも大量に発生することは、一般にはほとんど知られていないが、原子力研究者の間では従前より認識され、徹底的に研究されてきた。
 事業者もこの事実を知ってはいるが、コア-キャッチャーなどの新設への投入経費を惜しみ、過酷事故の際には、格納容器の下部キャビティへの注水で対処するという方針にしたと推測される。そして、審査書において、格納容器の下部キャビティへの注水開始遅れの影響などについて、MAAP解析コードにより、パラメタを保守的に設定した上でも原子炉格納容器の構造部材の支持機能に与える影響がないことを確認した、とされている。
 しかし、旧原子力安全・保安院が、福島事故後の2011年6月に、『東京電力福島第1原発事故に係る1号機、2号機、3号機の炉心の状態に関する評価のクロスチェック解析』という資料を公表している。東電はMAAPで解析して、それを保安院がJNESの支援を受けて別の解析コード(MELCOR)によるクロスチェックを行った結果、地震発生後の1号機原子炉圧力容器の破損時間はMAAPでは約15時間、MELCORでは約5時間と、3倍の差異が生じた。
 従って、事業者によるMAAP解析コードによる評価だけで, 別の解析コードによるクロスチェック無しでは、原子力規制委員会の独立性も専門性も示されておらず、MAAP解析コードによる感度評価も信頼性が高いとは言えない、と言わざるを得ない。
本年8月6日に公表された別の事業者による解析によると、福島第1原発の3号機の炉心溶融は従前の解析に比べて、5時間も早かったということは、前述の疑問を裏付けると思われる。
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R.O.(4)

意見書4  審査書に記述なし
1.重大事故=過酷事故=設計想定外事故が起こることを前提とすることは工学・技術の本質である設計の基本の誤りを論理的には意味する。従って、過酷事故対策としては、自動的に作動し、制御されるような受動的設備を常設することを優先すべきである。審査書において、過酷事故対策が極限的状況における緊急対応要員の対応に過度に依拠し、作業遂行に対して無理な時間制限を設定していることは不合理である。
 しかも、深刻な事故シナリオが欠如するだけではなく、いったん想定した事故シナリオの評価について、大雑把なさじ加減をしていることは、我田引水的で、OECD/NEO報告No.7161(2013年)が警告している自己欺瞞的な満足に陥っているように思われ、願望的思考の一例であると言わざるを得ない。

2.高レベル放射性廃棄物の管理法や場所も確定せずにその蓄積を継続することの反倫理性などを不問にして、審査書の記載事項についてのみ、かつ科学的、技術的意見に限定したことは科学的・技術的システムの社会的受容を決定するのは科学者、技術者ではなく、一般市民であるという民主主義からの逸脱である。さらに、審査書の基本思想、方法論的立場へへの意見を拒むという姿勢は自由な相互批判を認めるという科学、技術の伝統からも逸脱している。
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豊島耕一

4-1.2.2.5の「水素爆発」の項(195ページ)および4-1.2.2.6の「溶融炉心・コンクリート相互作用」の項(201ページ)について意見を述べる.

その前に,この意見募集に当たり規制委員会は「科学的・技術的な」内容に限るとしている点に関して注意を喚起したい.

まず,これから少しでも外れた記述部分は,「御意見提出上の注意」にある「科学的・技術的判断と無関係」,あるいは「思想等の宣伝」であるとして,(この段落も含め)その部分を削除して公表される懸念がある.しかしそれは極めて不当であることを先ず指摘しておきたい.

そして,規制委員会による募集意見に対するこの制約は,再稼働の判断が規制委員会の適否判断だけでは完成しないことも意味するものである.つまり,原発という規模とリスクの双方において巨大な事業の可否が「科学的・技術的な」点だけで判断できるものであるはずはなく,倫理問題や経済性など,さまざまの価値観の尺度に照らされなければならないことは自明だからである.

では本論に入る.

1.「水素爆発」の項(195ページから)について
(1)爆轟条件の検討が不十分である
水素濃度の空間的不均一性についての検討が十分に行われているかどうか不明である.不均一性については,わずかに「頂部に成層化する可能性」(199ページ)を述べているのみである.もし,センサ部分の濃度が爆轟条件を下回っているがイグナイタ部分またはそれに近接する部分がこの条件を超えているような場合には,イグナイタは文字通り爆轟の点火装置になってしまう.
また,下記の(3)で述べるようにコンクリートの浸食厚評価に問題があるため,当然MCCI(溶融炉心・コンクリート相互作用)で発生する水素の量についても疑問が生じる.

(2)水蒸気爆発について触れていない
前節「原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用」で水蒸気爆発の問題を議論しているが(この内容にも問題がある),しかしその「冷却剤」が本節で述べられた「原子炉下部キャビティへ注水」された水とサブクール度などの条件が同等かについて述べられていない.このため前節の議論がここでも有効かどうか不明である.

2.「溶融炉心・コンクリート相互作用」の項(201ページから)について
(3)非科学的,曖昧な表現とコンクリートの浸食厚
203ページ3行に「溶融炉心の崩壊熱は除去される」とあるが,単なる高温物体ではなく継続的に発熱を続ける物体について,時間スケールも示さずにこのように述べても意味をなさない.すなわち,少なくとも「x分でT度以下になり,y時間まではこの温度を超えない」というような記述が最低限必要であるが,それが見当たらない.したがって続くコンクリートの浸食厚についても何らの根拠を与えない.数値シミュレーションにおいては溶融炉心の発熱は当然考慮されているであろうが,それが文書に反映しないのでは評価に値しない.崩壊熱が十分に小さくなる時間まで熱の「除去」が維持されるのかも当然不明である.
以上のような申請者の記述に対して,規制委員会の何らの批判やコメントが見当たらない.
関連して,同ページ下から10行目に「炉心崩壊熱の変動」という言葉があるが,この「変動」は不確かさを意味すると思われるが,むしろ時間的変動と誤解(?)しやすい.

(4)MCCIによる一酸化炭素発生の無視
コンクリートには石灰石に由来する炭素が含まれるため,MCCIでは水素だけではなく大量の一酸化炭素発生(CO)が予想される.しかし本審査書では全くこれについて触れていない(一酸化炭素発生,COのどの語も一度も使われていない).発生量の評価以前の段階であり,本審査書案の重大な欠陥である.

3.上記二項に共通する問題
規制委員会の重要な判断根拠に対するリファレンスがほとんど示されていない.仮に会議録やその提出資料にあるとしても,その指示なしには検索不能である.不親切さとしては許容範囲を超えており,「ない」ものと見なさざるを得ない.そのなかでも特に目立つのは,これらの事象の解析に申請者は計算コードMAAPを使ったとのことであるが,規制委員会自身による再計算,あるいは独立した計算コードによるチェックなどが行われたかどうかが記述がなく不明なことである.記述がないということは行われていないと判断するほかはない.
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北岡逸人(1)

「原子力発電所の火山影響評価ガイド(火山ガイド)」について
該当箇所 1はじめに 2.判断基準及び審査方針(2頁)
意見:
原子力発電所の火山影響を評価するにあたって、規制委員会は「火山ガイド」を参照したとのことですが、それは必要十分な評価方法ではないと思われます。よって、九州電力の火山影響に関する対処方針の妥当性は、本審査書において確認されていないと考えます。
理由:
 福島原発の事故の教訓は数多く指摘されていますが、その最大のものは「めったに起きない天災への備えが不十分であったこと」とみなされているのではないかと思われます。過去に起きたことは間違いないし、将来にも起きるであろうことはまず100%確実であるが、発生時期と規模等の予測及び対処の極めて難しい自然現象があります。日本列島においては大地震、大津波もありますが、「大規模な火山活動」を忘れるわけにはいきません。
 その点、最近日本火山学会が「原子力問題対応委員会」を設立して活動されていますが、国内はもとより世界中の火山学者等の知見をもってしても、火山活動の規模や発生時期等の予測(と対処)は極めて困難な作業ではないでしょうか。
 私は川内原発に数キロと近い地点にある、火砕流の露頭現場を視察し堆積物等を観察してきましたが、川内原発における最大の自然の脅威は火山活動ではないかと思いました。
 原発に重大な影響を及ぼすほどの火山活動が近い将来に起こりうるならば、原発事故を心配する前に火山による壊滅的な被害を想定し備える方が先であるとの意見があります。確かに大規模な火山活動だけでもその破壊力はすさまじいものがあり、現状の原子力防災計画以上の備えとその計画対象地域の拡大が必要でしょう。
 しかし、ここで福島事故の教訓を再度思い起こす時、「自然災害と原子力災害の複合災害」という重大なキーワードが見つかるのではないでしょうか。自然災害、もしくは原子力災害だけでも備えることや対処することが難しく大変であるのに、それらが同時に発生した場合に、どれほどにその困難さと悲惨さを増すことになるのか、ということであります。
 例えば、勢いよく高く立ちのぼる火山の噴出物等に熱気による上昇気流に後押しされて、原発事故で放出された放射性プルーム(放射性雲)等はより高く勢いよく広範囲に送られ、火山灰等と反応したり付着等したりした原発からの放射能(放射性物質)は、「放射能の灰」として原発より相当に遠くまで拡散し堆積し、除染をより困難にする可能性があります。
 よって、311の教訓を踏まえた川内原発の審査では、これまでほとんど重視されてこなかった「原発における火山活動の影響」と、「火山による災害と原子力災害の複合災害」を想定することが、(川内原発の立地条件をふまえれば)最重要課題であると判断します。
その点、本審査で参照した火山ガイドは、「火山の活動時期が周期的であるとの前提(希望的観測)の下に、これまでの(乏しい)知見や今後のモニタリング活動等により、将来の火山活動の時期や規模を推測できる」というものです。しかし、それは国内外の多くの火山学者らの同意出来ない非科学的で楽観的過ぎる方針のようです。そもそも、川内原発の審査において複数の(国内外の)火山学者らの参加が無いことは見過ごせない過ちです。
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北岡逸人(2)

燃料デブリの再臨界リスクについて
該当箇所 不明
意見:
核燃料が溶融して原子炉を溶かして落下していった場合、核物質等の量や形状によっては再臨界の危険性があるのではないでしょうか? (本審査では再臨界のリスクは全く検討されていないようですが、再臨界のリスクが全く無いと想定しているのでしょうか?)
理由:
現在福島原発で行方不明となっている溶け落ちた核燃料について、どのようにして(再臨界を防ぎながら)安全・確実に回収できるかを、政府の関係機関で調査検討しています。 それというのも、通常の燃料の最小臨界量が数十キログラムであるのに、数十トン単位の燃料デブリ(溶けた燃料が原子炉の構造材や炉心を格納している格納容器のコンクリート等を溶かし、これらと混合することで出来た様々な組成の物質)が存在するからです。 福島原発の中でどのような状態になっているか依然不明ですが、海外の燃料デブリを模擬した実験によると、高温の溶岩に似た振る舞いをしている映像もあり、軽石の様に発泡して固化しているかもしれません。もしくは、燃料デブリが落ちた先に水があった場合は、粒子状に固まりながら多くの隙間を持つ状態で堆積するかもしれません。 燃料デブリの内部の隙間に(中性子の減速材となる)水が入り込んでいる場合、より再臨界し易い条件が満たされるかもしれません。 審査書の内容は再臨界が起きた場合には全く違う条件が生じて、考慮しなければならない事項(安全対策の前提)が変わってしまいます。そうなると、再臨界を考慮していない安全対策の妥当性は意味を失ってしまうと考えられます。 再臨界によって発熱量や放射線が桁違いに増加することはもちろん、爆発的に燃料デブリが砕け散って衝撃波が発生するかもしれません。爆発しない場合でも発生するガスなどが(核分裂反応やコンクリート等との反応促進で)増加することなど、水蒸気爆発の引き金になるような現象が起きうると思われます。 他にも再臨界が起きた場合は様々な問題が発生しうるので、事故の収拾と外部への放射能拡散を抑制するのが非常に難しくなります。福
島で実際に起きている状況において再臨界リスクを検討しているのに、川内原発の審査書で再臨界を検討していない事情が理解できません。
参考リンク:
1-15 損傷・溶融した燃料の再臨界を防ぐために
-コンクリートを含む燃料デブリの臨界特性の検討-
http://jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/mirai/2013/1_15.html
燃料デブリの特性把握 - 日本原子力研究開発機構
http://www.jaea.go.jp/04/ntokai/fukushima/fukushima_01.html
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北岡逸人(3)

太陽活動の原子力発電所への影響について
該当箇所 1はじめに 2.判断基準及び審査方針(2頁)
意見:
本審査では「太陽活動の原子力発電所への影響」は考慮されていないようですが、原子力発電所の脅威となりうる太陽活動が、発生する可能性を無視して良いのでしょうか?
理由:
 NRC(アメリカ合衆国原子力規制委員会)などは、太陽活動が原子力発電所に脅威となりうる可能性について、関係団体等と公式会合で議論しています。
 それというのも、1989年にカナダ・ケベック州で太陽フレア(太陽面爆発)の影響で大停電が起きるなど、電力関連設備などにかなりの被害が発生しているからです(311で外部電源喪失事故の脅威が明らかになったことも影響している模様)。それでも、1989年のフレアは年に数回は発生している程度(X5弱)の規模で、その数十~数百倍の規模の(X100やX1000の)スーパーフレアが起きる可能性が専門家より指摘されています。
 NRCが太陽活動の影響についても考えているのは、1989年のカナダでの大停電がアメリカの一部にも及んでいた事情が影響しているのかもしれません。しかし、太陽活動の影響は日本列島でも重大な脅威となりうる現象なので、規制委員会としても「想定内」の課題とする必要性があると考えます。

NRC等による会合の記録(06/15/2012開催のJoint Meeting )
http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/commission/tr/2012/
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北岡逸人(4)

水素・水蒸気・CO(一酸化炭素)の爆発(爆轟)と、それらの複合爆発について
該当箇所 4-1.2.2 格納容器破損防止対策(170頁)など
意見:
水素爆発の対策が不十分ではないでしょうか。水素爆発以外の爆発現象についての検討や対策が足りないのではないでしょうか(複合爆発の危険性も考慮しているのでしょうか)。
理由:
・水素濃度を測定するとありますが、どこでどの様に(合計何か所で)測定するのかを、審査で確認しているのか不明です。水素濃度は軽い水素の性質と格納容器内の熱や気流等の偏在により、(均一ではなく)非常に複雑な濃度差が生じる可能性があると予想されます。
・水素の発生源は審査書に記載されているもの以外に、原子炉等の鉄が高温下で水蒸気と接触しても発生すると予測されていますが、発生量などを検討して確認したのか不明です。
・COなどの爆発性ガスの発生も予測されますが、濃度測定をすることが記載されていません。福島原発でも国内外の専門家などはCO爆発も起きたと考えられることを、状況証拠的に推測して指摘しています(爆発のタイミングや場所に破壊力や炎の色等の違いによる)。
・水蒸気爆発が発生する可能性は極めて低いので、考慮しなくて良いとしたようですが、そもそも原発事故は大地震で発生する可能性が高いと考えられます。しかし、余震(地震動)が水蒸気爆発の引き金(トリガリング)になる恐れがないことが確認されていません。
・複雑な現象が同時並行で起きる原発事故時の格納容器内は、種類の違う爆発性の気体が発生し水蒸気爆発の危険性もあります(核物質の再臨界リスクもあります)。何らかのトリガリングが爆発を引き起こした場合、他の爆発現象を誘発したり燃焼速度を加速して爆轟に至らせる恐れもあります。福島原発事故でそうした複合爆発が発生した可能性が指摘されています。しかし、本審査では複合爆発の可能性について検討していないようです。
・格納容器に窒素を充填しておく爆発対策もありえますが、検討していないようです(窒素については、液体窒素を気化させて原子炉の冷却に使う方法を検討しても良いはずです)。
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三好永作

以下のように川内原発の再稼働審査の適合判断には大きな疑問を感じます.
(1)有効な避難計画について
 まずはじめに,今回の審査に過酷事故時における有効な避難計画についての項目がないことは重大問題である.現に川内原発30km圏内の市町村において有効な避難計画が立てられていないことを勘案すれば,実際問題として,川内原発の再稼働は当面認められないことは言うまでもないと考える.しかし,ことではこの問題はこれ以上触れないで,以下に2,3の科学的・技術的問題について論ずる.
(2)基準地震動について
 科学的・技術的問題点の第一は,想定された規制基準が余りにも低すぎることである.川内原発は,当初,想定地震動を540ガルとしていたが,それを620ガルに引き上げた(p.20).この620ガルという基準地震動は,2008年の岩手・宮城内陸地震で観測した最大地震動4022ガルや2011年の東日本大震災での2933ガル,さらに,2007年の中越沖地震の2058ガルなどに比較して余りにも低すぎる.日本は地震大国であり,どこでも直下型の地震があり得ることは,現代の地震学の常識である.620ガルの基準地震動で十分であると根拠はどこにも存在しないと考える.620ガル以上の地震は起きない(考えない)というのは新たな「安全神話」である.
(3)水素爆発について
 水素爆発に関連して,ジルコニウム全量が水(水蒸気)と反応したとしても格納容器内の水素濃度は約12.6 vol%となり,格納容器破損防止対策の評価項目(f)「原子炉格納容器が破損する可能性のある水素の爆轟を防止すること(水素濃度がドライ条件に換算して13vol%以下又は酸素濃度が5vol%以下であること)」を満足している(p.197)としている.この想定は,2重3重に楽観的であると言わざるを得ない.まず,溶融した炉心の中で高温の水蒸気と反応する金属をジルコニウムとのみとしているが,溶融した炉心の中には圧力容器内で溶融させられた鉄を含み,鉄も高温の水蒸気と反応して水素を発生することが知られている.また,MCCIにより発生する水素や一酸化炭素についての見積もりが不十分である.さらに,水素の爆轟の下限を13%としているが,条件によっては水素濃度が10vol%(ドライ条件)でも爆轟が起きることが報告されており,評価項目(f)自身が確定したものではなく不確かであるということである.最後に,ここでの水素濃度は格納容器内で均一であると仮定されたものである.しかし,これらの化学反応が短時間で起きることと,水素ガスが空気などに比較して極めて軽いものであることを考えれば,格納容器内の水素濃度が均一であるということを想定することは余りにも乱暴なことであると言わざるを得ない.
(4)クロスチェックについて
 前項の水素濃度の九州電力のモデル計算にはMAAPが使われている.しかし,このMAAPという計算コードはさまざまな欠点が指摘されている計算ソフトである.このMAAPによる計算結果は他の計算ソフトによる計算などによる異なる角度からの検討が必要である.このような異なる角度からの検討(クロスチェック)が行われた形跡が審査書の中には読み取れない.このようなクロスチェックがない審査は,信頼性に欠けると断言せざるをえない.
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森永 徹

61ページ 3-4.2.2 火山の影響に対する設計方針に関する意見

 九電は川内原発に甚大な被害をもたらす姶良カルデラ等の破局的噴火の平均発生間隔を9万年とし、原発運用期間中の破局的噴火の可能性は十分低い、また噴火可能性のモニタリングで予知可能であり、危険性がある場合には原子炉の停止、燃料体の搬出を行なうとしており(p.63~64)、規制委もこれを妥当とした。以下、これらの問題点を指摘したい。
 まず破局的噴火の平均発生間隔であるが、姶良カルデラは80~100万年前に活動期に入り、10万年前以降は爆発的噴火が頻発する活発な活動期に入っているとされる(長岡・他,地質学雑誌.2001)。九電のいう平均発生間隔9万年は10万年前以前も含めた平均であり、活発な活動期に入った現在にそれを適用するのは危険である。
 また、姶良火砕物の調査から、10万年前以降の姶良カルデラの噴火は、8.6~9万年前、6万年前、3.3~3.9万年前、3.1万年前、2.9万年前にあったとされる (Sekiguchi, et al.,American Geophysical Union, Fall Meeting.2007)。さらに、1.9万年前 (奥野,第四紀研究.2002)、 1.6万年前 (亀山,他,第四紀研究.2005) の噴火の指摘もみられる。少なくとも10万年間に7回は噴火している。つまり、噴火自体は9万年より、相当短い間隔で発生しているわけである。これらすべてが破局的噴火ではないが、活発な活動期に入ったことを考慮すると、次の噴火が破局的噴火ではないと言い切ることはできない。
次に、噴火のモニタリングが可能かどうかという点である。九電は既存の気象庁や国土地理院等の観測網、桜島3ヶ所を含む5ヶ所の地殻変動観測点、桜島2ヶ所を含む4ヶ所の地震観測点の観測データから、モニタリングが可能としている (九州電力株式会社:川内原子力発電所・火山影響評価について〈コメント回答〉.平成26年3月19日,p.38)。
 確かに、十分な観測体制がある陸上の火山であれば、かなりの確率で噴火の予知が可能であるとされる。実際、姶良カルデラの後カルデラ火山である桜島ではそうであるとされるが、一方で大正噴火のような大噴火の予知は別問題だとされる (井田,日本物理學會誌.1989)。つまり、小噴火より、大噴火の予知の方が困難であるということである。
 また、姶良カルデラでは顕著な前兆現象はないとされる (小林,他.京都大学防災研究所年報.2010)。したがって、予測のためには精密な観測体制が必要となる。しかし、九電は既存の観測体制を利用するのみである。陸上の火山では山体の傾斜計、体積歪計、伸縮計、電磁気的観測、火山ガス分析等により、はじめて噴火の予知が可能となる (井田,前掲)。姶良カルデラは海底カルデラであるにもかかわらず、海底にこれらの観測装置を設置するという計画は言及されていない。さらに、桜島は姶良カルデラの後カルデラ火山であるが、桜島火山と姶良カルデラのマグマ溜まりは別である可能性も指摘されている (小林,他.前掲)。そうだとすれば、姶良カルデラの地殻変動観測点、地震観測点ともに2ヶ所しかないということになる。海底には観測点はない、地上も2ヶ所しかないという状態でも予知は可能というのであろうか。
 さらに、九電は危険性があれば燃料体の搬出を行なうとしているが、その搬出先を確保しているという記述は見られない。危険性が迫ってから、搬出先を探すというのでは時間的に間に合わない。机上の空論である。
 福島原発事故の教訓は、「最大想定事故(Maximum Credible Accident)」(Lubarsky & Connolley, National Advisory Committee for Aeronautics・Research Memoramdum for The U.S. Atomic Energy Commission.1957) を考慮すべきということではなかったのだろうか。貞観津波(869年)は、仙台平野南部で3~4km、南相馬市で少なくとも1.5kmの遡上距離を持っていたとされ(澤井,他.地質ニュース.2006.および 宍倉,他.AFERC NEWS.2010)、明治三陸津波(1892年)の浸水標高は大船渡市大久保で38.2m、根岬先端付近で32.6mであったとされ(都司,歴史地震.2007)、福島原発でも当然想定されるべきであった。
 全国危険物安全協会の1990年の危険物安全週間の標語に「“まさか”より “もしも”で守ろう 危険物」というのがある。これは最大想定事故を考慮して、事故防止を図ろうというものである。原子力規制委員会におかれてもこうした精神で厳密な審査をして頂きたい。

<引用文献>
○長岡信治,他:10 万〜3 万年前の姶良力ルデラ火山のテフラ層序と噴火史.地質学雑誌.107(7), 432−450 (2001).
○Sekiguchi, Y,et al.:Precursory magma activities leading to Aira caldera-forming eruptions in southern Kyushu, Japan.American Geophysical Union, Fall Meeting 2007, abstract #V13C-1486.
○奥野 充:南九州に分布する最近約3万年間のテフラの年代学的研究.第四紀研究.41(4), 225-236 (2002).
○亀山宗彦,他:姶良カルデラ堆積物の層序と年代について-鹿児島県新島(燃島)に基づく研究-.第四紀研究。44(1), 15-29 (2005).
○小林哲夫,他:大規模カルデラ噴火の前兆現象-喜界カルデラと姶良カルデラ-.京都大学防災研究所年報.55B, 269-275 (2010).
○Lubarsky B. & Connolley D.J. (Ed.):National Advisory Committee for Aeronautics ・Research Memoramdum for The U.S. Atomic Energy Commission.“NACA Zero Power Reactor Facility Hazards Summary”.(1957).
○井田喜明:火山噴火予知の物理学.日本物理學會誌.44(11), 809-815 (1989).
○澤井祐紀,他:仙台平野の堆積物に記録され歴史時代の巨大津波 –1611年慶長津波と869年貞観津波の浸水域–.地質ニュース (産総研:地質調査総合センター), 624号, 36‐41 (2006).
○宍倉正展,他:平安の人々が見た巨大津波を再現する.AFERC NEWS (産総研:活断層・地震研究センター),No.16, 1‐10 (2010).
○都司嘉宣:大船渡市の津波対策~江戸時代までの三陸・遠地津波を考慮して~.歴史地震,第22号, 13‐18 (2007).
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佐藤敦子(2014.8.14)

4点について述べます。
1、 川内原発が建つ場所は、活断層の真上という疑い
川内原子力発電所(以下、川内原発)正面ゲート脇に池がありますが、この池のすぐ先にもう1つ池が見えます。距離的には約500m、辿っていくと更にその先に小さな池が2つあり、門前の池を合わせると合計4個の池がごく近い距離にライン状に並んでいるのが確認できます。ライン状の特徴的な形状は、過去の活断層の活動よって形成されたものと思われます。阿蘇山の過去の噴火や、活動中の桜島、新燃岳との関係と、川筋や池の形成は火山活動や地震と密接に関係しますから、4つの池や川内川(第1級河川)が形成された理由も、これら火山活動で断層が動いたためと思われます。川内川河口に立つ川内原発は活断層の真上かすぐその傍に建っている疑いが濃厚です。2014年2月、国の地震調査研究本部が川内原発がある位置の活断層の評価を見直していますが、予想される東海・東南海・南海地震が起きたとき、九州を北部から南西に縦断する仏像構造線が影響を受けると言われ、原子炉がこれらの活断層の真上か近接した位置にある場合、大事故になることは必至です。

2、温廃水による漁業被害
河口に立つ川内原発は川内港と外洋に面しており、原子炉を冷却した廃水が海水温度を上昇させたため、漁業被害は深刻です。海の生態系を壊す要因となり年々、漁獲は減少しています。魚の大量死が打ち上げられるなど異様な光景もみられました。今は2基が停止しているので生態系が戻りつつあるそうですが、反対に、もし事故が起きれば深刻な事態になります。「フクシマ」のような事故が起きた場合、海に流失した放射性物質は黒潮と対馬暖流に乗り、太平洋側と日本海側のほとんどの沿岸部が汚染される可能性があるというシュミレーション結果を、九州大学応用力学研究所が2011年7月に発表しています。このまま原発2基は稼働しないでください。

3、県民の避難計画
5月~6月にかけていちき串木野市民に対して行われた再稼働反対署名は、人口3万人の半数以上が「反対」の意思表示をしました。「九州電力」株主総会でも報告があったと思います。訪ねた方も「道路はあるが、殺到して動けなくなるだろう」とおっしゃっていました。万一の場合、短時間で大勢の避難は無理なこと、薩摩川内市民を見殺しにしかねないことを市民は直感しています。原子力規制委員会が出した「原子力災害対策の指針」は30km圏内の避難計画を求めていますが、これは原発立地自治体であるかどうかとは無関係に30km圏内の9自治体は同じ権利と義務を持っているということを言っています。各自治体と「九電」が結んだ安全協定に「同意」の項目があったとしても、それは自治体と私企業の「任意の協定」なので、法的な拘束力は「指針」には遠く及びません。薩摩川内市と「再稼働反対、廃炉の決議」を上げた姶良市(あいらし)とは権限では同じです。福井地裁が250km圏内の住民の権利を認めたことを考えると、最低30km圏内の自治体の同意は絶対に必要なので、再稼働はできません。

4、放射能被ばくについて
原爆(爆弾)と原発(電力)の違いはありますが、人に対する放射能被ばくでは2者は共通します。長崎市民を戦後長い間苦しめたのは、低線量被ばくや内部被ばくです。
医学的にはペトカウ効果と呼ばれています。これは核分裂生成物の吸入または摂取による長期にわたる低レベル放射線が、ひとの免疫機構に不可欠な白血球の細胞膜を破壊する。ごく微量でも体内に取り込まれた放射線は、ひとの生命と生殖に深刻な影響を与える、放射線には「しきい値」はないという、1970年カナダのアブラハム・ペトカウ博士が発見した医学的な知見です。2013年11月、北九州市で行われたティモシー・ムソー教授の講演「福島の生態系調査」で、「フクシマ」のツバメの小頭症が報告されました。小頭症は「長崎原爆戦災誌・第4巻学術編(1984年、長崎市編纂)」P.152に小頭症の少年の写真があり、2者が共通していることが証明されました。長崎市がプルトニウム被爆との因果関係を認めた疾病は、再生不良性貧血、鉄欠乏性貧血、肝硬変、ウィルス性を除く慢性肝炎、悪性新生物(ガン)、糖尿病、甲状腺機能低下症、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性心疾患、慢性虚血性心疾患、ネフローゼ症候群、慢性腎炎、白内障、肺気腫、慢性間質性肺炎、変形性脊椎症、変形性関節症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍です。これら疾病で今後福島が苦しまれるのではないかという心配、鹿児島県民が同じ目に合うことがないよう、川内原発再稼働の危険を冒さないよう長崎原爆被爆者の1人として願うものです。

以上   

川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(2)

―水素爆発対策は可燃性ガスへの引火を契機とする複合爆発の可能性―

pdfファイル

2014年8月7日 福岡核問題研究会

1. なぜ水素爆発対策を問題にするか

 本論考は原子力規制委員会・新規制基準にもとづく川内原発審査書案の過酷事故対策の批判的分析1(水蒸気爆発防止策)[1]に続くものである。
 1979年のスリーマイル島原発事故、1986年のチェルノブイリ原発事故、2011年の福島原発事故で水素爆発は実際に起きた。
 新規制基準において、水素爆発の可能性が払拭できていないことについて、井野・滝谷論文[2] では、次のような問題点が多数指摘されている:
溶融炉心が流れ出てくると、いわゆる水・ジルコニウム反応だけでなく、溶融炉心とコンクリートとの反応(コア・コンクリート反応)によって水素が発生し、より水素爆発の可能性が高まる。加圧水型(PWR)原子炉は格納容器が大きいから水素爆発の心配いらない、というのは非科学的である。1979年のスリーマイル島原発の炉心溶融事故の際には、水素爆発の危険性が最も懸念されていた。モデルによる解析でも、水素爆発発生までの数値に余裕がなく、コア・コンクリート反応や、格納容器内での水素濃度の偏りの可能性を考えた場合、水素爆発はリアリティを持っている。そして、沸騰水型とは違い、加圧水型(PWR)は格納容器が大きいだけに、その爆発の威力も逆に格段に大きいと見ておいた方がいいのではないか。
本年4月中旬、世界の原子力規制の動向に精通した原子力コンサルタントの佐藤暁氏が新規制基準における過酷事故対策が非常に不十分であることを詳しく議論している[3,4]。特に、[3]の21ページにおいて、再臨界、水蒸気爆発、MCCIの評価に対しては慎重さが必要としている。
7月下旬、日本の原子力規制の技術的実務の経験豊富な滝谷氏が注目すべきインタビューを行った[5]。
本論考では、井野・滝谷論文[2,5]や佐藤暁氏の論考[3,4]での論点を踏まえて、関連した補足とこれまでほとんど指摘されていないと思われる論点も提起したい。

2. 原発の過酷事故における水素の発生と燃焼、爆発

2.1 水素の燃焼と爆轟の条件
 水素ガスは最も軽い気体でそのモル質量は2.016g/molである。水素は空気雰囲気中で酸素と反応して熱を出す。これは非常に簡単な反応
 
2H2+O2→2H2O+242 kJ/mol
として表されるが、実際の反応は複雑で、12あるいは16の素反応過程が提案されている[6, 7].
 燃焼の形態としては次の3つがある。
  予混合燃焼:ガソリンエンジンの燃焼。
  拡散燃焼:ガスバーナー、ローソクの燃焼。
  表面燃焼:炭の燃焼。
・予混合火炎の伝搬速度の違い
 この反応形態は反応速度に応じて次のように分類されている。
反応速度が
遅い――燃焼 (静的荷重)
速い――爆発――爆燃 (火炎の伝播速度が亜音速。準静的荷重)
        爆轟 (火炎の伝播速度が超音速。動的荷重(衝撃圧))
 水素-空気-水蒸気の燃焼と爆轟限界について、初期には、ほとんど理論的にのみ研究されてきた。燃焼と爆轟の限界に対する古典的な三角形のダイアグラムがShapiroらにより報告された[8].

Fig3
水素-空気-水蒸気混合の燃焼および爆轟の限界:図の出典[ 9,p.33]


 Shapiroらは爆轟限界を混合率の関数としてのみ調べた。しかし、近年の研究によれば、爆轟限界は幾何学的なスケール、初期の圧力や温度の関数でもあることが明らかになっている[9, p.33]。歴史的には爆轟は水素濃度が18%から59%に対して起こると考えられてきた。
 原子力産業における水素爆発の危険性についてShepherd (米国カリフォルニア工科大学)はPWRまたはBWRの学ぶべき教訓として以下の諸点を列挙している[10]:
1)爆燃はスケールに相対的に独立に発生する:可燃限界(flammability limits)は構成に
  のみ依存する。
2)爆燃から爆轟への移行(DDTと略)はスケールに強く依存すること:爆轟限界
  (detonation limits)は形状、サイズ、発火源に強く依存する。
3)格納容器形状におけるDDTの危険性を定量化するためには大規模実験が必要
  であること。
4)爆轟の開始と伝播は、小規模の場合より大規模の場合には、非常に低い濃度
  で起こりうる。すなわち、水蒸気濃度が10%の場合、水素濃度10.5%で水素
  空気の爆轟、水素濃度11%でDDTが発生する。
 Shepherdの見解、特に4)を裏付けるように、Dorofeevらによる大規模の実験は水素濃度が約10%から77%までの水素-空気混合ガスに対して,爆轟が起こることを示した[9, p.34], [11]。

2.2 過酷事故の間における水素ガスの生成
 過酷事故の際、水素ガスは、ジリコニウム-水蒸気反応(ジルカロイの酸化)、ボロン・カーバイド-蒸気反応、ウラン-水蒸気反応、金属-水蒸気反応、溶融核燃料-コンクリート相互作用(MCCI)、水の放射線分解など種々の過程で生成される[12]。

1)ジリコニウム-水蒸気反応(ジルカロイの酸化)

 これらの過程の中で、最も寄与が大きいにはジリコニウム-水蒸気反応である [12]。その理由は何か。ジルコニウムはイオン化傾向が比較的大きいので、ジコニウム・水反応が高温では激しく起こる。ただ、ジルコニウムはイオン化傾向が大きいのに空気中で1700℃近くになるまで酸化されない。アルミニウムが非常に酸化されやすいのにAl2O3の被膜を作り、酸化されにくいのと同じように、ジルコニウムも空気中ZrO2の被膜を作り酸化されにくいためと思われる。
この化学反応は発熱反応である。
 
Zr+2H2O→ZrO2+2H2+586 kJ/mol
 この化学反応が起こると、発熱するため燃料被覆材の温度がさらに上昇し、反応が進むという悪循環(正のフィードバック)を繰り返す。また、後述のように、この化学反応により生じる水素が酸素と一定の比率で混ざると爆発的に反応する可能性がある。
 典型的なPWR原子炉の場合、事故の最初の2-3時間で150-200キロの水素が生成されるかもしれない。より大きいBWR原子炉の場合、その2-5倍くらいになるかもしれない[12]。
 反応速度の経験則(Baker-Justの式)が単位面積あたりの酸化量の時間、温度依存性という形で得られている。
Baker-Justの式:
 ω^
2 = 33.3×10^6 t exp(-45,500/RT)
 ω:単位面積あたりの酸化量(mg/cm^
2),t:反応時間(s)
 
R:気体定数(cal/mol・K),T:絶対温度(K)

2)鉄―水蒸気反応
 しかし、鉄(Fe)も水素よりイオン傾向が大きく、やはり一定の鉄・水反応で水素が発生する事は間違いない[2]。Feは、冷水や温水とは反応しないが、高温の水蒸気とならば反応する。化学反応式のひとつは
3Fe +4H2O Fe3O4 +4H2 である。Feと高温の水蒸気の場合は可逆反応であることがZr-水蒸気反応とは基本的に異なるが,溶融した炉心が圧力容器の底に溜まり,鉄を主成分とする圧力容器を溶かす場合には,Feと高温の水蒸気によって発生する水素についても考慮しなければならない。

3)水の放射線分解
 放射線によって水が分解されると、水素だけではなく、酸素も発生する。商業用原子炉では、この酸素と水素を、触媒を使って化学反応させて水に戻す、排ガス再結合器が組み込まれている[13]。放射線によって発生する水素は量もそれほど多くなく、速やかに水に戻るため、水素爆発の原因になる可能性は低い。福島原発事故では、水蒸気がジルコニウム合金との化学反応により酸素を奪われた事によって水素が発生したため、原子炉内部には、水素と再結合させるための酸素が存在しなかったため、排ガス再結合器も役には立たなかったと考えられる。

4)溶融燃料とコンクリート相互作用(molten corium-concrete interaction, MCCI)[12], [14]
 国際的な原子力研究者の間でも、過酷事故の際、溶融核燃料等の冷却を促進する格納容器の窪み部分を予め水で満たすことは、水蒸気爆発の引き金というリスクもあり、依然として見解が分かれている[12]。しかし、水で冷却できなければ、溶融核燃料等は窪み部のコンクリートと接触し、コンクリートの破損が進む。これが溶融燃料とコンクリート相互作用である[14]。文献[14]とその中の引用文献によれば、コンクリートの骨材が石灰岩系であれば、大量の水素とともに、大量の
COCO2が発生する。

2.3 格納容器内における水素ガスの分布
 スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故, 福島原発事故は,原発の過酷事故において水素燃焼が起こることを実証した[12]。スリーマイル島原発事故では、水素燃焼は約12秒間燃焼したが、爆轟は起きなかった。格納容器雰囲気における物理的な仕組みにより、水素は通常不均一に分布する。その結果、燃焼が起こりやすい条件をつくるように、局所的に高い水素濃度が起こるかもしれない。
 水素ガスの分布を決める仕組みとしては、ガスの流れ、分子拡散、格納容器内の種々の構造物と格納容器雰囲気の間の熱伝達、水蒸気凝縮のような質量輸送が考えられる[12]。

2.4 格納容器における水素ガス燃焼
 水素の持続的な燃焼が起こる条件[12]は次のように表される。
1) 水素を含むガス混合物が,混合物の中での水素の濃度、圧力、温度など十分な物理的条件が満たされること
2) 水素を含むガス混合が発火すること
 重要なことは、いったん点火されると、水素の燃焼はすべての可燃性の水素混合物がつきるまで制御不可能である[12]。偶然の発火はランダムな事象であるが、産業事故における過去の経験は、リスク分析や安全性評価を行う場合、発火源の存在を保守的に想定するべきことを示してきた[12, pp.212-213]。原発の過酷事故において、例えば、電気系統、爆発する配管、あるいは高温の溶融燃料の粒子など、多数の潜在的な発火源が考えられる[12, p.213]。

2.5水素ガス燃焼の危険性の緩和方策
 [12]のpp.224-227

  • 格納容器雰囲気の不活性化
  • 格納容器雰囲気の混合
  • (人為的)水素燃焼による局所的高濃度の発生防止
  • 静的触媒式水素再結合装置(Passive Autocatalytic Recombiner, 略称PAR)は、外的エネルギー不要ではあるが、自然循環の速度に依存するので、大量の水素発生に対してはおそらく不十分である[12, p.227]。
  • 水素イグナイタ(Hydrogen igniter)の仕組み

3. 水素爆発とその防止法についての適合性審査の経過と審査書案の内容

3.1 適合性審査の経過について
 滝谷氏はごく最近のインタビュー[5]において以下引用のような注目すべきことを指摘した:
 「旧原子力安全・保安院が、福島事故後の2011年6月に、『東京電力福島第1原発事故に係る1号機、2号機、3号機の炉心の状態に関する評価のクロスチェック解析』という資料を公表している。東電はMAAPで解析して、それを保安院がJNESの支援を受けてMELCORによるクロスチェックを行った結果、地震発生後の1号機原子炉圧力容器の破損時間はMAAPでは約15時間、MELCORでは約5時間と、3倍の差異が生じた」[16]
 「川内原発での事故シーケンス(進展)におけるMAAP解析では原子炉圧力容器の破損時間は、事故発生から約1.5時間。問題となるのが、『溶融炉心・コンクリート相互作用』という、(超高温の)溶融炉心が格納容器下部に落下し、コンクリートを溶かして破損させる現象だが、九州電力の対策では(原子炉格納容器上部の)格納容器スプレーで注水して、溶融燃料が落ちてきた時点で、格納容器下部に水を張るから、溶融燃料は水の中に沈積されて、コンクリートと燃料の反応は軽微に止まるとしている」[5]
 「しかし、MELCORで解析すれば、原子炉圧力容器破損に至る時間がもっと短い可能性がある。仮に(福島事故でみられた両コードの解析の差異と)同じような特性があるとすれば、川内原発におけるMAAP値での圧力容器破損が1.5時間ならば、MELCORでは30分。川内原発の場合、(事故発生から)格納容器スプレー開始まで49分で、30分で原子炉容器破損が起きたら、(格納容器下部に)水が溜まっていない」[5]
滝谷氏が指摘するこのようなことが、実際の過酷事故時に起きないという保証はどこにもない.

3.2 審査書案の内容について
 格納容器の健全性を脅かす上で特に注目されるのは,爆燃から爆轟への遷移,および爆轟である。規制基準では「格納容器が破損する可能性のある水素の爆轟を防止すること」を求め,その判断基準値は,「水素濃度がドライ条件に換算して13%以下又は酸素濃度が5%以下であること」としている(ドライ条件とは,水蒸気の存在は除外することを指す)。
 川内原発の審査書案に於ける川内原発1・2号炉の水素爆発の検討書は195ページから201ページまでに記載されている。審査書案では以下のように扱われている。
川内原発はフィルター付きベントの設備を持っていなくて、格納容器内の窒素封入もないので、過酷事故が起きると、新規制基準の水素濃度発生量は、水・ジルコニウム反応が75%起きたとした時、9.7%の水素濃度に成ると記されている。
 また、MCCI(コリウム・コンクリート反応)からも全炉心ジルコニウムの6%の反応の水素が出るので、水・ジルコニウム反応が100%起きたとした時、12.6%の水素濃度に成ると記されている。しかし、12.6%の水素濃度には,2.2節で述べた鉄-水蒸気反応からの水素は考慮されていない。
 新規制基準の適合性審査で水素濃度が13%だから、まだ0.4%の余裕が有るとすることが問題と指摘されたので、念のためにイグナイタ(電気式点火装置)の追加取り付けを行うことにしたと記されている[17, 18]。
 九州電力はあくまで、イグナイタで水素を燃焼させると主張している。しかし、水素の爆発限界は4%から75%であるから、イグナイタで点火すると、格納容器内にガス爆発が起こる。また、このガス爆発は水蒸気爆発のトリガリングになる可能性が高く、水蒸気爆発との複合爆発の可能性が大きくなる。さらに、MCCIの進行度合いによっては、CO爆発の可能性もある。
 九州電力は、高熱溶融炉設計者や操業者が絶対に行わない、あるいは一般の産業技術の現場でも回避されるべき、爆発限界内のガスに平気で点火と爆発を行うとしている。

3.3 原子力規制委員会の専門性、独立性は十分か、重視されているか
 国会における水素爆轟関係に関連した審議について[19]:
 去る4月15日、関西経済連合会と九州経済連合会は連名で、「原子力発電所の一刻も早い再稼働を求める」という意見書を、政府、そして原子力規制委員会、さらには国会、原子力規制委委員会に対しても宛てて出した。このことについての笠井亮衆議院議員(日本共産党)の質問に対する田中政府特別補佐人(原子力規制委員会委員長)は、「事務的には受け取っておりますけれども、原子力発電所の再稼働は原子力規制委員会の所掌ではなくて、原子力発電所の再稼働に関する要望書については、受け取ってはおりますけれども、コメントは差し控えたいと思います」と一見、独立性を保持するかのような答弁した。上述の意見書は「産業界からみると、独立性と専門性を重視しすぎるあまり、限定された専門家に負荷が集中し、効率的で責任のある意思決定が迅速に行われているとは言い難い」とも非難している。
 しかし、旧原子力安全・保安院などさえ行ってきたクロスチェック解析について、田中委員長は、「別途の解析をしていると言われながら、クロスチェックとは最後まで明言せずに、個別については答弁を差し控えたいとか、解析も含めた有効性の評価を行っている、こういうふうに言われて、やっているのかやっていないのかというと、言を左右にされるということがあったんです。」と答弁している。すなわち、独立性を保持すると言明しても、クロスチェック解析なしでは専門性も独立性も保証されるとは言えないことは明白である。さらに、ジルコニウムと水の化学反応によって発生する水素発生量の田中規制委員長による推定の桁数が違っていたこと、それにより静的触媒式水素再結合装置の性能が桁違いに低いことが明らかになった。

4.シビアアクシデントの解析コードの不確かさとその背景

 Segalによれば「(最も初歩的事実は別として)原発における水素ガスの振る舞いのほとんどの物理的側面は依然として、特に実験的には、研究途上である。これは水素ガスの振る舞いについての知識が完全からはほど遠いことを示している」[12, p.188]。
また,片岡氏は「これまでの研究、コード開発において多くの現象についての基本的な物理メカニズムの理解とモデル化は行われてきた。(中略)しかしながら、個別の炉においてシビアアクシデントがどのように進むのか、またどの現象が起きないのかを評価することは十分ではない」[7]と指摘する。片岡氏のこの現状認識は次の岩田氏の認識と整合的である。
水素ガスの燃焼・爆発は、「非平衡の複雑な系のふるまいであり、それぞれの場所、時間、化学、経路、形状、履歴によって大きく様相は異なる」[20], [21]
 失敗学流の考察[15]からも(批判派を含む)原発のリスク分析と安全対策が持つ限界(想定範囲)の狭さが示唆されている。すなわち、原発の過酷事故で起きる事象の複雑性を理解し網羅することは極めて困難で、隣接原発への波及や原発内の臨時作業なども重大な影響を及ぼすだろう。
3.11福島事故に関する錯綜する多くの事故分析や想定外の幸運と不運の事故への影響など、原発のリスク分析と対策がいかに困難かつ想定困難な要因に満ちていることか。

5.まとめ

1) 審査書案では、水素爆轟濃度の下限を13%と設定し、九電の対応では12.6%以下になるとして、認可されている。たとえ、水素爆轟濃度の下限を13%が正しいとしても、危険と紙一重のきわどい自動車の運転を許可するようなもので、極めて危険な評価と言わざるえない。
2) 水素燃焼における爆轟と爆燃爆轟遷移の条件は、大きいサイズの装置の場合、小さいサイズの装置より低い濃度で起こる可能性が2010年に米国カリフォルニア工科大学の研究者により指摘されている。この推定を裏付けるように、大きな規模の実験において、水素爆轟は水素濃度10%~77%で可能であることが1994年に報告されている。したがって、規制基準における「水素爆轟濃度の下限13%」自体が根拠薄弱で過度に楽観的な基準と言わざるを得ない
3) 一般に、水素が局所的に高濃度になる可能性は否定できない。
4) 水素イグナイタの使用自体が水素爆発の引き金になる可能性があるだけではなく、水蒸気爆発などとの複合爆発になる可能性も否定できない。
5) シビアアクシデントの解析コードには一般に不確かさがあり、複数の独立の物理モデルにもとづく解析コードによるクロスチェックを行うことが必要不可欠である。
6) 複数の解析コードで有意に異なる結果が出る場合、保守的な態度、すなわち、より厳しい方針で望むべきである。
7) 安全性を確かめ、複数の解析コードの異なる結果を評価する意味でも、数分の1モデルあるいは1/4モデルなどにより実証実験を行うべきである。

参考文献および注

[1] 福岡核問題研究会2014年7月26日
川内原発審査書の過酷事故への対策を問う(1)ー格納容器と原子炉建屋が水蒸気爆発で破壊されないことは実機規模で実証されているかー
[2] 井野博満・滝谷絋一「不確実さに満ちた過酷事故対策」『科学』84巻3号, 333 (2014).
http://www.ccnejapan.com/archive/2014/201403_CCNE_kagaku201403_ino_takitani.pdf
[3] 院内学習会:原子力規制のグローバルな状況と日本。
2014年4月18日 
http://www.cnic.jp/movies/5817
佐藤暁氏の講演資料 
http://www.cnic.jp/files/20140418mokkai_sato.pdf
[4] 佐藤暁、「不吉な安全神話の再稼働」,科学84巻8号, p.833 (2014).
[5] 滝谷紘一氏(元原子力安全委技術参与)インタビュー:原子力規制委の審査「厳正でない」2014年 07月 28日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0FX0HJ20140728
[6] N. Cohen, Flammability and Explosion Limits of H2 and H2/Co: A Literature Review, Aerospace Report No. TR-92(2534)-1, 1992.
http://dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a264896.pdf
[7] 片岡 勲、軽水炉シビアアクシデント評価技術の課題、2012年日本原子力学会春の年会(福井大学)。
http://csed.sakura.ne.jp/wp-content/uploads/2012/04/b2e976417f2f39877bc74a84eb8dd9ce.pdf
[8] Z. M. Shapiro and T. R. Moffette, 1957. Hydrogen Flammability Data and Application to PWR Loss-of-Coolant Accident, WAPD-SC-545, Bettis Plant, September.
[ 9] A. Silde, I. Lindholm, On Detonation Dynamics in Hydrogen-Air-Steam Mixtures, NKS-9, VTT- Energy, Finland
抄録は
http://www.iaea.org/inis/collection/NCLCollectionStore/_Public/31/031/31031776.pdf
論文名で検索すると論文をダウンロード可能。
[10] J. E. Shepherd ( California Institute of Technology), Thirty years of Research on Hydrogen Explosion Hazards in the Nuclear Industry,
http://nisd.ans.org/wp-content/uploads/2013/08/Panel-Overheads-Shepard-Hydrogen-ANS-2010.pdf
[11] S. Dorofeev, V. Sidorov, W. Breitung, J. Vendel, and A. Malliakos,
Recent Results of Joint FZK-IPSN-NRC-RRCKI Research Program on Large Scale H2 DDT Experiments in the RUT Facility, Presented at CSARP Meeting, Bethesda, MD, USA, May 5-8, 1997.
[12] B. R. Sehgal, Nuclear Safety in Light Water Reactors: Severe Accident Phenomenology, Academic Press, (2012).特に,pp.255-282.
http://store.elsevier.com/Nuclear-Safety-in-Light-Water-Reactors/isbn-9780123884466/
特に、 3.1. Hydrogen-behavior-and-control
[13] 原子力排ガス再結合触媒及び再結合器
http://www.google.com/patents/WO2012029090A1?cl=ja
[14] 岡本良治・中西正之・三好永作「炉心溶融物とコンクリートとの相互作用による水素爆発,CO爆発の可能性」、『科学』2014年3月号。
https://dl.dropboxusercontent.com/u/86331141/Shiryo/Kagaku_201403_Okamoto_etal.pdf
[15] 失敗学会の発行物(No.59、2011-8-9 発行)
「原子炉建屋の水素爆発が想定外だったのは何故?」
http://www.shippai.org/images/html/news559/YoshiokaMemo59.pdf
[16] 旧原子力安全・保安院「福島事故後の2011年6月東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号機及び3号機の炉心の状態に関する評価のクロスチェック解析、2011年6月。特にp.4。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/backdrop/pdf/app-chap04-2.pdf
[17] 原子力規制委員会 第58回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合、平成25年(2013年)12月17日(火)
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/20131217.html
[18] 検討会58コメント回答。
平成26年4月3日 北電、関電、四電、九電。特に、p.40, 48, 49, 51, 55, 63, 64, 68-69, 4-70, 4-71, 4-72, 4-76, 4-77, 4-78。
[19] 第186回国会 原子力問題調査特別委員会 第4号(平成26年4月24日(木曜日))
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/026518620140424004.htm
[20] 岩田修一、原子炉内で起こる化学反応、「化学」Vol.66, No.6 (2011).
特集「福島第一原発事故」,i-iii.
http://www.kagakudojin.co.jp/files/c6606_iwata_tsuika.pdf
[21] 理論的には、複雑な多体系の動的変化を規定する、抽象的な多次元エネルギー空間において、高温領域では比較的狭いエネルギー交換幅内に多数の局所的最小値と鞍部点(saddle points)が併存し、その記述や理解が極めて困難という従来からの難問と類似した事情であろう。

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