公開質問書に対する九電からの回答について

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2019年5月9日

公開質問書に対する九電からの回答について


福岡核問題研究会


<Q1> 原発の審査基準について(
公開質問Q1と九電の回答

 過酷事故対策について,「(事故の可能性が小さければ)実質的に不要」であるという原子力規制委員会の「新規制基準の考え方」は楽観的にすぎるのではないかという点について九州電力の考えを聞いたものであったが,「当社の原子力発電所は原子力規制委員会より,新規制規準に適合しているとの判断を受けている」としか答えていない.原子力規制委員会の姿勢は,原発の安全性を確保するという点から問題があるのではという質問には直接何も答えることなく,見当違いの回答をしている.このような話法を「信号無視話法」というが,今回の公開質問書に対する回答は,この話法ですべて押し通している.
 国際原子力委員会(IAEA)の深層防護の第4層の過酷事故対策に関する回答の中で,「防止」という表現のみに止まり,影響拡大の「緩和」あるいは「軽減」という表現について触れていないのは,九州電力のこれらの対策に対する認識の不十分さを示してものと考えられる.あってはならない過酷事故が起きた(つまり「防止」に失敗した)時に,その影響拡大を如何に「緩和」,「軽減」するかということが第4層の重要な要素の一つである.
 深層防護の第4層が設定された理由は,「低頻度・高影響」の事象であっても,その対策が必要であるとの考えからであるはずだ.「(事故の可能性が小さければ)実質的に不要」との考えで過酷事故対策が十分に取られず,再稼働された原発が過酷事故を起こすと周辺住民は堪まったものではない.

<Q2> 過酷事故時の住民避難等の対策について(
公開質問Q2と九電の回答

 過酷事故時の住民避難等の対策が,原発周辺自治体に「丸投げ」された状態であるだけでなく,国際的には原発の稼働にとって不可欠の条件であるはずの住民避難等を含む原子力施設周辺における放射線影響緩和の対策が,再稼働の審査に含まれていない今の日本の制度的な不合理性を問うたものである.
 回答では,過酷事故時の住民避難等の対策が自治体主導となっていることは認めているが,それらの対策が再稼働の審査に含まれていない今の日本の制度的な不合理性についてはだんまりを決め込んでいる.九州電力という企業は,自らの利益になるのであれば,世の中の不合理な制度に目を閉じる企業なのであろうか.
 一般的に言って,「現代において絶対的に安全な技術というものはない」という文言は,原発を含めてすべての技術について言えることである.しかし,その周辺住民の避難を強要する技術は原発以外にないということは,われわれはいつも意識しておかなければならないことであろう.

<Q3> 過酷事故時の水蒸気爆発リスク対策について(
公開質問Q3と九電の回答

 原子炉圧力容器外の溶融燃料-冷却材相互作用(FCI)を伴うメルトダウンの実際の場面(「実機条件」)では,最新の科学的知見では「水蒸気爆発は必ず起きると考えよう」が国際的な合意であるが,この合意を九州電力はなぜ無視するのか.また,水で張った格納容器に溶融炉心を受けるという水蒸気爆発を誘発する事故対策を敢えて実施する理由を尋ねる質問に対して,九州電力の回答は「水蒸気爆発の発生の可能性は極めて低いので対策する必要はない」ということである.水で張った格納容器に溶融炉心を受ける事故対策の問題点については一切触れていない.
 「溶けた燃料を覆う蒸気膜は安定した状態にあることから,水蒸気爆発に至ることはない」とも「蒸気膜を壊すような外乱となりうる要因」が考えにくいとして,その根拠としてCOTELS,FARO,KROTOSなどの「大規模実験」を挙げている.しかし,回答ではその「大規模実験」が,実機の巨大さ・複雑さに比べれば桁違いに小規模のものであるかということについての気付き(認識)が全くうかがえない.巨大で複雑な実機のFCIでは,そのような実験室の中で行える「大規模実験」では考えられないような,水蒸気爆発を誘引するような様々な外乱があり得ることを全く考慮していない.
 水で張った格納容器に溶融炉心を受ける事故対策を要因とする水蒸気爆発により,過酷事故がさらに酷くなれば周辺住民に及ぶ悪影響は想像を絶することになろうが,その事故対策をした九州電力とそれを許可した原子力規制委員会は,世界から蔑みの対象とならざるを得ないだろう.世界では水蒸気爆発を避けるために耐火レンガで覆われたコアキャッチャーで溶融炉心を水とは分離して受け取る装置が作られているのだからである.

<Q4> 再臨界の可能性について(
公開質問Q4と九電の回答

 本質問は,メルトスルーした燃料デブリを水で張った格納容器で受け取るという今回の事故対策では,水蒸気爆発が起きなかったとしても,コンクリートの中のケイ素や水の中性子減速効果により核分裂反応が促進され再臨界の可能性が高まるが,その点についてどう考えるかというものである.九州電力の回答は,「ホウ素濃度が十分確保出来ている状態では臨界に至る可能性は低いと考えている」ということである.また,「臨界に至る」こともあり得るが,その可能性は低いと,根拠を示さずに答えている.
 九州電力の「臨界に至る可能性は低い」との唯一の根拠は,十分なホウ素濃度があることが前提のようであるが,燃料デブリが格納容器のコンクリート床と接触したり,また,福島原発で問題となったような地下水の侵入などで,再臨界の危険が高まることを想定していないように思われる.九州電力の回答は,過酷事故後の再臨界の危険について具体的な検討を行っていないことを物語っている.
 過酷事故後の再臨界の問題は原発特有のものであり,福島原発事故でその重要性が明らかになったものである.しかし,この点について十分な検討がなされているとは言えない状況である.「低頻度・高影響」の事象であっても,発生すれば重大な損害を与える危険性があるのであれば,決してそれを無視してはならない.

<Q5> 通常運転時の健康被害について(
公開質問Q5と九電の回答

 玄海原発から放出されている大量のトリチウムに関連して,原発周辺住民の白血病死亡率と玄海原発からの距離が統計的に有意に相関ありとの最近の研究について聞いたものであるが,九州電力の回答は「放出されるトリチウム濃度は国が定める基準値を十分満足している」として,放出されるトリチウムは周辺住民の健康に影響を与えるレベルにないとしている.
 九州電力は,放出されるトリチウム濃度は国が定める基準値をクリアしているのだから周辺住民の健康に影響を与えないと安心しているように見える.玄海原発周辺でその稼働により住民の白血病死亡率が高くなったとの最近の報告を無視するのみならず,欧州放射線リスク委員会(ECRR)が指摘するトリチウムによる内部被曝のリスクや元素転換効果によるリスクを完全に無視している.

<Q6> 破壊行為から原発等を守る対策について(
公開質問Q6と九電の回答

 本質問は,玄海原発の安全性を高めるための3つの改善策(①使用済み核燃料の乾式貯蔵,②格納容器の窒素充填,③格納容器の2重構造化)を指摘してそれが破壊行為からの安全性確保にも繋がるということを質問したものである.①乾式貯蔵については,その技術的検討を行っているとの回答があった.その具体化として2019年1月には,玄海原発敷地内に使用済み核燃料を保管する「乾式貯蔵」施設を建て,2027年度をめどに運用を始めると発表した.この点は,少なくとも安全性を高めるという点に限れば評価できる内容である.
 ②格納容器の窒素充填については,空気充填で原子力規制委員会により承認されており,また,格納容器内ではボンベ等を用いての作業となり作業性が悪くなるので,行わないと回答している.③格納容器の2重構造化については,玄海原発は「外部からの衝撃に対しても相当の耐力を持っている」考えていると根拠も示さず答え,また,「異常を検知した場合,原子炉は直ちに自動停止するように設計されて」いるので安全だと言っているように見える.原子炉が停止したからといって崩壊熱の継続的冷却がなければ,それが安全を保証するものではないことは,福島原発事故でわれわれ日本国民が経験したことではないか.
 米国での大型旅客機衝突による影響をコンピュータ解析による結果を述べて「原子炉格納容器等の施設に多少の損傷を受けたとしても貫通することなく,放射性物質の外部へ放出する危険性は小さい」と結論していると九州電力は述べているが,この回答の含意は一体何であろうか? この回答は,玄海原発の安全性を自ら高めようとする姿勢を欠いている一つの証拠としか,われわれには思えない.

<Q7> 基準地震動の設定値について(
公開質問Q7と九電の回答

 質問の内容は,「未発見の断層による地震で起きる危険度は小さい」とは言いきれないのではないかということと,「九州電力や原子力規制委員会による活断層を特定した基準地震動の評価法では,過小評価になっている」という批判があるがその点についてはどうかということであった.これらの質問には直接答えることなく,一方的に,「徹底した調査により,活断層をもれなく把握しており,直下に活断層がないことも確認」しているとするとともに,「過小評価」とされる数値に基づいた原子力規制委員会での審査会合での文書の趣旨を繰り返したに過ぎない.
 「過小評価」という問題に関して一切の説明がないのは,ある意味で九州電力としては正解なのであろうが,一歩でもこの問題に立ち入れば,九州電力も原子力規制委員会とともに収拾が付かなくなるということであろう.
 それにしても,よくも「活断層をもれなく把握し」ていると言えるものだと感心してしまう.「『既知』の活断層はもれなく把握」ということであれば,文章としては正しいがほとんど意味がない.「活断層をもれなく把握し」は「『既知』の活断層も『未知』の活断層ももれなく把握し」ということであり,完全な論理的矛盾である.

<Q8> 玄海原発の「立地の適・不適」について(
公開質問Q8と九電の回答

 約9万年前の阿蘇カルデラ噴火で130km離れた伊方原発は「火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできない」として,2017年12月の広島高裁判決では,「立地は不適」とされた.この広島高裁の決定を基準にすれば,ほぼ伊方原発と同程度の距離にある玄海原発も川内原発も「立地は不適」となるのではないかとの質問に直接答えることなく,「破局的に噴火が発生する可能性は極めて低い」とのみ根拠も示さず答えている.
 「極めて低い」との点について,九州電力の口頭による回答に続く質疑応答【Q&A】の中で具体的な根拠が何もないということが明らかになっている.

<Q9> 世代間倫理に反する行為について(
公開質問Q9と九電の回答

 これ以上の高レベル放射性廃棄物を「負の遺産」として,未来の世代に残すことをどう考えるかとの問いに,「高レベル放射性廃棄物は地層処分(300メートルよりも深い地層)を行う」.この処分は「高レベル放射性廃棄物を生活環境から離れた地下深部に隔離」するもので,「将来世代に管理の負担を負わせることはないと考えて」いると回答した.
 300メートルよりも深い地層に処分といっても,その地層が数万年後にどうなるかは分からない.また,日本の中でその地層処分の場所が決まっていない.これらのことに対して,国と原子力発電環境機構(NUMO)に任せたままで,九州電力は全く気にかけていない.また,海外において地層処分で問題となっている情報についても独自に調査している姿勢は見えない.
 以上の点から考えて,九州電力は高レベル放射性廃棄物の問題を自らの問題として考えていないことは明らかであろう.このことは,池辺新社長が朝日新聞のインタビューの中で,高レベル放射性廃棄物の処分は国民全体の課題であるようなことを言ったことにも表れている.しかし,産業廃棄物は,それを発生させた事業者がその処理をする責任があることを忘れてはならないはずではなかったか.

<Q10> 原発再稼働の民主的手続きについて(
公開質問Q10と九電の回答

 多くの国民が反対している再稼働を行うことについてどう考えているかとの問いに,直接には何も答えず,「安全性向上に取り組み」「地域の皆様に安全対策等についてご理解いただき安心していただくことが重要」と答える一方で,「我々の基本的使命は電力を安定供給すること」であり「その中で原発は重要な電源で,それを運用して行くべきと思っている」として,原発の再稼働に固執している.
 ここには,周辺住民や国民に対してその意思を尊重するという姿勢はない.いくら周辺住民が再稼働に反対しようが,高レベル放射性廃棄物が益々増加しようが,「低頻度・高影響」の事故の危険があろうが,国の機関が認めた再稼働は粛々となにがなんでも行うということであろう.
日時:2018年4月27日(土)10:00〜12:30

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