12月例会 「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」の検討

12月例会


日 時:2022年12月17日(土)10:00〜12:00
話 題:「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」の検討
原案提起:岡本良治氏

<報告>

「岸田政権の原発回帰路線を批判する声明」を発出することを討論した.はじめに,岡本良治氏に声明文の原案を提起してもらい,それを基にさらに追加すべき論点などを出し合い,大枠が決まった段階で例会が終了した.あとはメールで細かい点を修正して12月19日付で以下の声明文を発出し,福岡県庁の記者クラブにリリースした.

声明文は以下の通り.(PDFファイルは
ここ

岸田政権の「原発最大限活用」方針に反対する

—今も続く福島第一原発の大惨事を忘れたのか—


 岸田首相は12月8日,原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとする原発政策を発表した.それによると,政府は原発再稼働への総力結集,既設炉の最大限活用,次世代革新炉の開発・建設などに取り組むとしている.これは本年8月24日の第2回GX実行会議(GXはグリーン・トランスフォーメーション)での首相指示を受けて検討が進められ,総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の11月28日の原案に沿うものとされる.12月開催予定のGX実行会議を経て,この方向が今後10年間のロードマップの一環となるものと見込まれる.
 気候危機とロシアによるウクライナ侵攻などによるエネルギー危機と脱炭素化という長期の達成目標へあらゆる方法を動員すべきとの口実で,原発推進へ政策転換を図るものである.しかしこの転換には,次のように幾つもの重大な問題や矛盾がある.

1 拙速で民主主義に反する
 2011年の福島第一原発事故以後,政府は原発依存の低減化を目指すとしていた.国民の大半が脱原発を指向しているなか,先の参議院選挙の公約にも掲げず,短期間に原発最大限活用方針に政策転換を図ろうというのは,拙速で民主主義に反する.

2 再稼働は事故発生のリスクを高める
 40年以上前の設計に基づいて建設され,10年以上運転休止していた既設原子炉の再稼働は事故発生のリスクがより高くなることは否定できない.既設原子炉の40年以上の運転期間延長は,個別の原子炉により事情は異なる可能性があるにしても,ほとんどの技術システムはその老朽化の進行により事故発生確率が高くなることは明らかである.例えば,核燃料という膨大な放射能を閉じ込める圧力容器の,いわゆる脆性破壊の危険は,主にその危惧から廃炉とされた玄海1,2号基を全国にいくつも生き延びさせることになろう.また,日本の原発メーカは2009年には,海外向けには改良された次世代型軽水炉の売り込みを行いながら,今日まで日本国内の規制基準にはそれらを取り入れず,原発の古い設計基準を継続し続けてきたことは,悪質なダブルスタンダードと言わざるをえない.

3 原発の推進は再生可能エネルギーの導入を妨害する
 気候危機に対応できるための時間は多くを残されていないが,次世代革新炉の開発・建設には長時間を要し,2030年まで間に合わないであろう.また有意な発電量を確保するには莫大な費用と技術者の動員を要する.さらに,ウランの資源量は天然ガスの6割ほどでしかないにも関わらず,使用済み燃料の保管・管理には数万年以上を要する.温暖化対策にあらゆる可能な対策を急いで取らなければならない時に,余計な問題に関わっている余裕はないはずだ.

4 「敵基地攻撃能力」など大規模な軍拡は原発のリスクを格段に高める
 岸田政権が11月22日に発表した,「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」による「報告書」は,国産ミサイルの長射程化など敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えて公然と書き込むなど,質的にも規模的にも軍事力の拡大を打ち出した.しかしすでに日本列島を構成する4島全域には,極めて脆弱で危険性の高い福島の被災原発や青森の再処理工場等がある.
 昨今のウクライナ情勢は,原発がドローンなどによる戦略的に極めて重要な攻撃目標であることを露呈している.したがって,敵基地攻撃能力を保有し,核燃料サイクル開発を維持しつつ原発増設を進めるという政策は,ひとたび戦争ともなれば,破壊されると壊滅的な被害を容易に生じうる施設を維持しかつ増やすことになる.それは,上記軍拡と併せて,国土と国民の安全・生命・財産を損なう恐れを危機的に高める,愚かな国家規模の自滅的行為であり,許されるものではない.

 以上,政策決定プロセス,安全工学的側面,気候危機対策,また国土の危機管理等のあらゆる面で,今回の政府の決定は不当であり,私たちはこれに強く反対する.

2022年12月19日
日本科学者会議・福岡核問題研究会

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