声明「アルプス処理汚染水の海洋投棄を中止し,地下水流入阻止を!」

声明「アルプス処理汚染水の海洋投棄を中止し,地下水流入阻止を!」



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アルプス処理汚染水の海洋投棄を中止し,地下水流入阻止を!

2023年12月28日


(声明の骨子)

アルプス処理汚染水の海洋投棄は,福島県漁連が政府・東京電力と交わした約束に違反している.また,海洋汚染をもたらす廃棄物などの海洋投棄を規制するロンドン条約に違反すると考えられる.さらに,日本政府と東京電力が根拠としたIAEA包括報告書は,処理汚染水の海洋投棄を正当化したわけではない.様々な学術団体から提案されている海洋投棄以外の対策には冷静に考慮すべき点が含まれている.これらの対策の実施を真剣に考えると共に地下水の流入を阻止することが肝要である.

(本文)

11月2日から11月20にかけてアルプス処理汚染水の第3回目の海洋投棄が行われ,さらに第4回目も今年度中に予定されている.東京電力が提出した実施計画に係わるシミュレーションでは,この海洋投棄は2041年から2051年までの間で完了するとしている.なんとこれから20数年も続けるというのである.もっとも海洋投棄が計画通りに完了するとは限らない.いまだに汚染水は増え続けているだけでなく,デブリの取り出し計画も順調に進むとは考えにくい.

(1)海洋投棄は,福島県漁連が政府・東京電力と交わした約束「関係者の理解なしには,いかなる処分も行わず,多核種除去装置(アルプス)で処理した水は発電所敷地内に貯留いたします」(2015年8月)に違反する.政府は一定の理解を得たとして8月24日からの「処理汚染水」の海洋放出を開始したが,同漁連は「漁業者・国民の理解を得られない海洋放出に反対であることはいささかも変わるものではない」(2023年8月24日)と表明している.約束違反は明確である.

(2)処理汚染水の海洋投棄が,汚染源となる廃棄物などの海洋投棄を規制するロンドン条約(注1)に違反する疑いがある.東京電力は,同条約の対象は「投棄」に限定され,「投棄」は「海洋において廃棄物等を船舶等から故意に処分すること」などとして,「陸上からの排出」である今回の排出は条約違反ではないとしている(注2).確かに条約にはかかる記述がある(第3条1(b)).しかしこれは「通常の運用」に伴い生ずる廃棄物に関しての場合であり,2011年3月の福島第一原発事故の結果生じた汚染水の海洋投棄には,本規定は適用されないとするのが妥当であろう.
(3)IAEA包括報告書(注3)のp.19には以下の記述がある.「IAEAがレビュー(検証)を依頼されたのは日本政府が海洋放出を決めた後だったので,IAEAの検証の範囲には日本政府が行った(海洋投棄の)正当化プロセスの詳細についての評価は含まれない」.これは,海洋投棄の正当化の説明責任は日本政府にあり,IAEAはそのことに責任を負わないことを明言しているのである.したがって,包括報告書には海洋投棄以外の他の方法についての評価が含まれず,海洋投棄の利益が放出による損害を上回ることも示していない.また,地元の漁業関係者や周辺住民等の利害関係者の意見についての評価もない.IAEA包括報告書は海洋放出の被害をICRP(国際放射線防護委員会)基準で論じているにすぎない.海洋放出で問題となるのは内部被ばくであるが,ICRP基準は内部被ばくの健康被害を過小評価している点で問題がある(注4).

(4)様々な学術団体から,海洋投棄より安全な代替案が提出されている.しかし政府と東京電力は海洋投棄に固執しているようにみえる.例えば,モルタル固化という方法は,汚染水をセメントと砂を混ぜてモルタル化して半永久的に固めてしまう方法で,海への流出リスクがなく環境への影響も少ない.米国のサバンナリバーの核施設などでの汚染水処理で用いられた方法である.また,大型タンク保管という方法も提出されている.現在の1000トン級タンクの100倍の10万トン級の大型タンクを作り,123年保管すればトリチウムの放射能はほぼ1/1000に減衰するので,いまのように海洋投棄を急がずにすむ.この大型タンクは石油備蓄などにも使われており多くの実績がある.政府と東京電力は,これらの方法をオープンな場で真剣に検討すべきであろう.

(5)鳴り物入りで導入された凍土壁は機能していない.事故炉内部の核燃料デブリのサイトへ侵入する地下水の流れは阻止されていないので,結果として放射性物質を含む汚染水は日々増加している.地学団体研究会から,凍土壁より広くて深い広域遮水壁を設置して山側からの地下水流入を防ぐ対策が提案されている(注5).費用は凍土壁の半分以下で済むという.新たな汚染水を出さないこのような対策を実施した上で,海洋投棄をしないで済む対策を考えるべきである.

以上        福岡核問題研究会

(注1)「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(通称:ロンドン条約)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/page23_002532.html
(注2)東京電力 処理水ポータルサイト Q&A
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/faq/
(注3)”IAEA Comprehensive Report on the Safety Review of the ALPS-Treated Water at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station”,
https://www.iaea.org/sites/default/files/iaea_comprehensive_alps_report.pdf
(注4)ICRP国内メンバー(丹羽太貫他7名)「放射性物質による内部被ばくについて」
https://www.jrias.or.jp/disaster/pdf/20110909-103902.pdf
(注5)地団研ブックレットシリーズ16『福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか―地質・地下水からみた汚染水の発生と削減対策―』(2022年7月).

12月例会 処理汚染水海洋投棄についての声明文

12月例会


日 時:2023年12月23日(土)13:00〜15:00
話 題:(1)処理汚染水海洋投棄についての声明文の検討
    (2)今後の研究会の定例化について

<声明案のたたき台>

声明「アルプス処理汚染水の海洋放出を止めよう(案)」

2023年12月24日

アルプス処理汚染水の第3回目の海洋放出が11月2日から11月20にかけて行われ,さらに第4回目の海洋放出も今年度中に予定されている.東京電力が提出した実施計画に係わるシミュレーションでは,この海洋放出は2041年から2051年までの間で完了するとしている.なんとこれから海洋放出は20数年も続けるというのである.

海洋放出の第1の問題点は,福島県漁連が政府・東京電力と交わした約束「関係者の理解なしには,いかなる処分も行わず,多核種除去装置(アルプス)で処理した水は発電所敷地内に貯留いたします」(2015年8月)に違反する点である.政府は一定の理解を得たとして8月24日からの「処理汚染水」の海洋放出を開始したが,福島県漁連はこの決定に「漁業者・国民の理解を得られない海洋放出に反対であることはいささかも変わるものではない」(2023年8月24日)と表明している.約束違反は明確である.

第2の問題点は,処理汚染水の海洋放出が,海洋汚染をもたらす廃棄物などの海洋投棄を規制するロンドン条約違反であることである.東京電力は,ロンドン条約の対象は「投棄」に限定し,「投棄」は「海洋において廃棄物等を船舶等から故意に処分すること」などとして,「陸上からの排出」である今回の排出はロンドン条約違反ではないと強弁している.「海洋からの投棄」と「陸上からの排出」とで海洋汚染という点からみて,どのような差異があるのかということの説明が出来ない点がいかにも無様である.

第3の問題点は,IAEA包括報告書の内容である.この報告書のp.19には以下のような記述がある.「IAEAがレビュー(検証)を依頼されたのは日本政府が海洋放出を決めた後だったので,IAEAの検証の範囲には日本政府が行った(海洋放出の)正当化プロセスの詳細についての評価は含まれない」.これは,海洋放出の正当化の説明責任は日本政府にあるということであり,IAEAはそのことに責任を持たないということを明言しているのである.したがって,包括報告書には海洋放出以外の他の方法について評価が含まれておらず,海洋放出の利益が放出による損害を上回ることも示していない.また,元の漁業関係者や周辺住民等の利害関係者の意見についての評価もない.IAEA包括報告書は海洋放出の被害をICRP基準で論じているだけである.海洋放出で問題となるのは内部被ばくであるが,ICRPは内部被ばくの健康被害を過小評価している点で問題がある.

第4の問題点は,様々な学術団体から,より安全な代替案が提出されているにも係わらず,海洋放出にのみ固執していることである.例えば,モルタル固化という方法は,汚染水をセメントと砂を混ぜてモルタル化して半永久的に固めてしまう方法で,海への流出リスクがなく環境への影響も少なく,米国などでの実績をもつ.また,大型タンク保管という方法も提出されている.現在の1000トン級タンクの100倍の10万トン級の大型タンクを作り,123年保管すればトリチウムの放射能はほぼ1/1000に減衰するので,いまのように海洋放出を急いでしないですむ.

事故炉の核燃料デブリのサイトへ侵入する地下水の流れは止められていない.地学団体研究会から,凍土壁より広くて深い広域遮水壁を設置して山側からの地下水の流入を防ぐ対策が提案されている.費用は凍土壁の半分以下で済むという.新たな汚染水を出さないこの対策をした上で,海洋放出をしないで済む対策を考えるべきである.

福岡核問題研究会

<報告>
(1)声明案については
様々な意見がだされ,メールで議論されることとなり,その結果,最終的には
2023年12月28日付けの声明文となった.

(2)研究会の定例化には
基本的に毎月第3土曜日の午前10時から12時ではという意見が出され,それに関してとくに異議は出されなかった.


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