7月例会 トリチウムの転移&玄海乾式貯蔵の問題点

7月例会


日 時:2021年7月31日(土)10:00〜12:00
報 告:①「トリチウム水から生体有機分子へのトリチウムの転移について」
    報告者:三好永作   
発表資料
    ②「玄海原発で計画されている乾式貯蔵の問題点」
    報告者:豊島耕一氏  
発表資料1  発表資料2

<報告>

 はじめに三好は,簡単な有機分子とトリチウム水分子(HTO)の間のH-T交換反応のメカニズムを量子化学計算により調査した以下の論文の内容を報告した.
T. Udagawa and M. Tachikawa, ”Reaction mechanism of hydrogen-tritium exchange reactions between several organic and HTO molecules”, RSC Adv. 8, 3878 (2018).

 一般に化学反応は,反応経路に沿って遷移状態を超えて進行する.遷移状態とは,反応経路に沿ったエネルギーの極大点,すなわち“峠”である(この“峠”は反応経路に沿って複数あることもある).この遷移状態は出発点(反応系)よりエネルギー的に高く,“峠”を超えて化学反応は進行する.出発点からの“峠”の高さを活性化エネルギーといい,これが高いと反応はなかなか進まないが,低ければ反応進みやすい.

 活性化エネルギーが20 kcal/mol以下であれば常温でも反応が起きると言われている.上の論文では,メタン(CH4),エタン(C2H6),エチレン(C2H4),アセトン(CH3COCH3),アセトアルデヒド(CH3CHO),エチルアルコール(C2H5OH),酢酸(CH3COOH)などの簡単な有機分子とトリチウム水分子(HTO)の以下のような化学反応の活性化エネルギーを調べた.

 R-H + HTO → R-T + H2O あるいは R-H + 2HTO → R-T + HTO + H2O

計算された活性化エネルギーは,メタン,エタン,エチレンで51,52,46 kcal/mol,アセトン,アセトアルデヒドで33,33 kcal/mol,エチルアルコールで5 kcal/mol,酢酸で1 kcal/molとなり,メタン,エタン,エチレン,アセトン,アセトアルデヒドは常温ではH-T交換反応が起きることはないが,アルコール性のOH基やカルボキシル基COOHは常温でOTやCOOTに容易に置き換わることが示された.もっとも,その逆反応も同程度に容易に起きることは当然である.

 生体内ではタンパク質のアミノ酸への分解などのように酵素による加水分解反応が頻繁に起こっている.この加水分解反応にトリチウム水分子(HTO)が関われば,本論文とは別の過程でトリチウムが生体内分子に取り込まれることになる.


 次に豊島氏は,九州電力が玄海原発で計画している使用済み燃料の乾式貯蔵についての問題点を報告された.原子力規制委員会は,去る4月28に玄海原発の使用済み燃料の乾式貯蔵施設の敷地内設置を許可し,佐賀県も近々事前了解する可能性が大きいという.

 一般に,乾式貯蔵はプール貯蔵よりも安全とされるが,次のような問題点があるという.① キャスクと呼ばれる保管容器の性能,寿命,安全性などの詳細な検討が必要である.② プールに余裕ができることで野放図に使用済み燃料を増やすことにならないか.③ いったんこの施設が完成すれば玄海原発の敷地に永久保管ということにならないか.

 乾式貯蔵の進んでいる米国では,鉄筋コンクリート製の乾式キャスク(外径3.6 m,高さ5.5 m,重さ180トン)の露天管理が主流となっている.日本では,原子力施設が沿岸立地であるため露天管理は不可能であり,その結果,屋内管理となる.さらに,貯蔵・輸送兼用の金属キャスク(外径2.6 m,重さ120トン)の採用が予定されている(遮蔽材としてエポキシ樹脂が使用されるが,この材料は中性子照射で劣化する).キャスクの価格は米国などに比較して5〜10倍で,寿命は半分程度になるという.これらの計画は全体として「核燃料サイクル」を建前としており,稼働の見通しの立たない六ヶ所村再処理工場への輸送ができないまま,遮蔽能力の欠如したキャスクを抱えて右往左往することになりはしないか.

 なお当初,申請者(九州電力)は「断層は存在しない」としていたが,原子力規制委員会は,「兼用キャスクを設置する地盤に確認される断層は『将来活動する可能性のある断層等』に該当しない」ことを確認したとしている(地層図には使用済燃料乾式貯蔵建屋の直下に断層と思われるものが示されている).しかし,その確認についての明快な説明はない.

6月例会 自民党政府のCOVID-19対策の問題点

6月例会


日 時:2021年7月3日(土)10:00〜12:00
報 告:「自民党政府のCOVID-19(新型コロナ感染症)対策の問題点」
    報告者:森永 徹 氏   
発表資料

<報告>

 森永氏は本題に入る前に,ワクチン摂取後の副反応などのデータの詳細を述べた上で,ワクチン摂取により様々な副反応はあるが,「高齢者や基礎疾患のある人はワクチン接種を受けるべきであろう」と述べられた.その上で,自民党政府のCOVID-19対策の問題点として,①PCR検査の不拡充,②ワクチン調達の遅れ,③水際対策の不備,④危機管理能力の欠如,の4点をあげそれらについて説明された.

 ①については,検査体制の拡充で感染者を早期発見し感染を防ぐことが大切であるが,「PCR検査が受けられない」との訴えがマスコミで報道され感染が拡大していた5月に,厚生労働省はPCR検査拡大に否定的な内部資料を作成し政府中枢に説明していたという(毎日新聞2020.10.11).その背景には,歴代政権下で国立感染症研究所の人員や研究費の減少傾向が,外部有識者が10年前から今回のような感染症流行時に支障を来すとして増員・増額を要望していたにも関わらず,続いていたことと,全国の保健所が半減されたことがあるという.1992年に852カ所あった保健所は2020年4月には469カ所まで減らされた.

 ②については,2020年12月8日に世界で初めてイギリスでファイザーのワクチン摂取が始まり,米国でも同14日に摂取が始まった.日本では欧米に比べて2カ月遅れのスタートとなった.2021年6月29現在で,ワクチン摂取完了状況はイギリス48%,米国46%に比べて日本は10%となっている.③については,現在,成田羽田関西などの国際空港で行われているのは短時間で結果が出る抗原検査だけである.この検査には偽陰性の問題があり,イギリスから帰国した50代の女性が検疫をすり抜けた後に陽性が判明した.日本の「水際対策」の限界が明らかになっている(時事通信2020.12.28).

 ④の危機管理の基本は,起こりうる可能性のあるあらゆる危機に対し,最悪の事態を想定してその対策を構築していくことである.しかし残念ながら,日本では楽観論が支配的であり,この基本が守られていない.いま,日本では感染者数,重傷者数,死亡者数ともにかつてない領域に達しようとしている.政府には,最悪の事態を想定した対応が求められる.


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