異議申立「川内原発工事の認可取り消しを」

研究会メンバーの一人が中心となって原子力規制委員会に「川内原発工事の認可取り消しを」 という異議申し立てを行いました(2015.5.15)

この件について,西日本新聞経済電子版では以下のように報道しています.
◆◆◆◆◆(ここから引用)
九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に反対する九州や首都圏の市民24人が15日、原子力規制委員会に対し、行政不服審査法に基づき川内1号機の工事計画認可の取り消しを求める異議申し立てをした。
申立書では「基準地震動を270ガルで設計した川内1号機が(新規制基準に対応した)620ガルを達成することは非常に困難」,「規制委は工事計画認可に関する全資料の公開を拒否している」などと審査の不備を指摘している。市民らは昨年11月、川内原発の原子炉設置変更許可についても異議申し立てを行った。
◆◆◆◆◆(ここまで引用)
http://qbiz.jp/article/62312/1/


異議申立書は以下の通り.
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       異 議 申 立 書


2015年(平成27年)5月15日


原子力規制委員会 御中

異議申立人 総代
北 岡 逸 人
木 村 雅 英
鳥 原 良 子


行政不服審査法第6条の規定に基づき、次のとおり異議申立てを行う。

1 異議申立人の氏名及び年齢並びに住所
別紙参照

2 異議申立てに係る処分
川内原子力発電所第1号機の工事の計画の認可処分(平成27年3月18日。原規規発第1503181号)

3 異議申立てに係る処分があったことを知った年月日
2015年(平成27年)3月18日

4 異議申立ての趣旨
 「2記載の処分を取り消す。」との決定を求める。

5 異議申立ての理由

一 行政不服審査法に関する違法性

本件処分は「川内原子力発電所の発電用原子炉の設置変更(1号及び2号発電用原子炉施設の変更)の許可処分(平成26年9月10日。原規規発第 1409102 号)」を前提になされたものである。しかし、この川内原発の設置変更許可処分は違法で不当な取消が求められる処分なので、当然に本件工事計画の処分は無効である。
実際、昨年11月7日に全国1,500名の異議申立人により前記設置変更許可処分の取消と執行停止が求められている(この時の異議申立書は昨年11月12日開催の第38回原子力規制委員会の配布資料で公開されている)。そして本年1月21日には、原子力規制庁の会議室にて口頭意見陳述会が開催され、全国15名の市民や専門家による意見陳述が約3時間行われた(この意見陳述会は異議申立人の意に反して非公開とされたが、右記サイトに当日の資料と意見陳述の録音などが公開されている http://sayonaragenpatu.jimdo.com/ )。
これら川内原発の設置変更許可の取消を求めた異議申立人による問題指摘の多くは、明確な法律違反を含む具体的かつ重大な内容である。かたや、原子力規制委員会は川内原発の審査を進めていながら、これら異議申立てにいまだに返答(決定書の作成と送付)をしていない。加えて、川内原発に関する審査手続きの執行停止は昨年12月18日に申立てられたが、既にそれからおよそ5か月が経過している。
この「執行停止」の申立ては行政不服審査法(第34条)の規定に基づいており、本法律は「執行停止の申立てがあつたときは、審査庁(原子力規制委員会)は、すみやかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない。」とある。そのため原子力規制委員会が5か月間も決定しないで放置していることは、本法律の「行政の適正な運営を確保することを目的とする」との趣旨に反しており違法である。

二 原子力規制委員会設置法と国会決議に関する違法性

加えて、原子力規制委員会設置法(以下「設置法」とする)は「原子力規制委員会は、国民の知る権利の保障に資するため、その保有する情報の公開を徹底することにより、その運営の透明性を確保しなければならない」と規定している。しかし、原子力規制委員会は本件処分に係る非常に多くの重要資料を非公開としており違法である。
この設置法に関する国会決議は「原子力規制行政は、推進側の論理に影響されることなく、国民の安全の確保を第一として行うこと」を求めている。実態は、「メーカーの総合的エンジニアリング業務の成果だから」といった理由で、九電からの提出資料の多くの重要な箇所に「黒枠白抜き」マスキングをして非公開にしており、法律と同様の重みがある国会決議を無視している。
また、30年以上前に基準地震動270ガルで設計した川内原発1号機が新規制基準で設定された基準地震動620ガルを達成することは非常に困難なはずである。根本的な耐震補強工事をすることなく、強度計算も耐震計算も十分にせずに、基準地震動620ガルを達成したとは信じられない。このことについての説明責任を全く果たしていないばかりか、後述するように多くの問題点が明らかになった。これでは、設置法が目的とする「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を達成することができない。
本来、本件処分の前に工事計画の認可に関する全資料を公開した上で、パブリックコメントを実施、公聴会を開催し、川内原発の再稼働に批判的な方を含む専門家による充分な審議等が必要であった。

三 耐震性に重大な欠陥

原子力規制委員会が本件処分に係る情報の多くを非公開とする本当の理由は、公開すると川内原発が耐震性に欠けることなど重大な欠陥や問題の発覚を恐れているためと疑うに足る理由がある。
たとえば、1977年に270ガルで設計された余熱除去冷却器・ホウ酸注入タンク・原子炉補機冷却水冷却器などは安全上極めて重要な機器類に当たるにもかかわらず、独自に強度計算をしない。強度計算と耐震計算とを分離して評価し、九州電力によるコンピュータ計算のみで現地確認せずに評価する。30年を経た機器の経年劣化を考慮し現在の寸法などを確認するのではなく、設計値だけで評価してしまうなどの問題点がある。さらに、制御棒クラスタ挿入時間が規定以内である根拠が不明で、弾性範囲を大きく超えた機器があるのにその弾塑性解析方法も不明だ。特に安全注入設備配管(具体的に何処を指すのかは明らかにされていない)で、評価基準値の実に2.5倍もの応力が生ずる箇所があり、基準地震動以下でも破損の恐れがある。しかも緊急炉心冷却系統においてである。
加圧水型軽水炉に特有の蒸気発生器についても、一次系の冷却を継続するため、この二次側に注水して一次系の自然循環により冷却を継続するとしているが、一次側逆U字管内部に気体が滞留した場合は自然循環は成立しないが、との問いに対し規制庁は「その場合は一次側に注水する」と回答した。そもそも一次側に注水できなかったケースで自然循環でも一次側冷却が継続できるとの判断だったのに、それが成立しない場合は一次系の注水と、当初の前提を覆す答えでは、到底承認できない。
にもかかわらず、九州電力の工事計画の妥当性を原子力規制委員会は認めた。これは前記した国会決議の懸念する、根本的な耐震補強による莫大な経費負担と工事期間の長期化などを避けたい「推進側の論理」に影響された、「国民の安全の確保を第一として行う」ことの放棄である。

四 情報公開の拒否

これら工事計画の妥当性は、申請文書を広く一般に公開し、幅広く意見を聞くべきものである。ところが規制委員会は事業者による大規模な「黒枠白抜き」などのマスキングをした工事計画書を公表している。これでは第三者検証など不可能であり、ただ疑問が重なるのみであり、規制委員会による審査の妥当性も確認のしようがない内容になっている。
原子力規制委員会は、工事計画の認可に関する全資料の公開も、パブリックコメントも、公聴会開催も、川内原発の再稼働に批判的な方を含む専門家による充分な審議も拒否した。
再三にわたり、あるいは個別具体的に情報の公開を求めてきたにもかかわらず、規制委員会はこれを全て拒否した。このことをもっても工事計画の認可は妥当性に欠ける。

五 航空機事故や破壊行為の防止対策が不十分

また、設置法に「原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならない」とあるのに、航空機などの衝突事故や原発施設の破壊行為等の防止を怠っている。国内の原発付近で起きている米軍機の墜落事故や、最近世界各地で起きている大型航空機の墜落事故ならびに航空機を使った破壊行為に対して、少なくとも安全上最重要な施設である原子炉格納容器の強度評価とそれに伴う火災対策を検討していないことは、発生した場合に対策の困難な事態に対する評価を怠っていることになり許されない。
福島第一原発事故から学んだことは、稀に起こることでも安全上重要な設備に対する対策は、自然現象、人為的事象に関わらず「想定外」として無視してはならないということである。
技術基準規則第44条(原子炉格納容器)の規定について、「本申請において原子炉格納容器貫通部を新たに設置しない設計としており、原子炉格納容器隔離弁の設置状況を変更しない設計としていることを確認したことから、第44条の規定に適合していると認める。」と構造上の変更がないから適合しているとの評価である。だが、航空機落下した場合の強度ならびに火災に対する評価を実施していないことは、欧州における基準に照らしても不十分であり、世界最高水準レベルとは程遠い緩い規制基準の適用である。事故の発生想定とその防止に最善かつ最大の努力をしていないことから設置法に反しており、第44条(原子炉格納容器)の規定に適合しているとは認められない。
また、最近はドイツ機墜落事故が操縦士による意図的行為により墜落したとの報道がなされているが、こうした内部関係者による意図的な墜落事故と思われる事故は、実は日本での「逆噴射」事故など世界中で何度も起きてきた。しかし、川内原発の審査において内部関係者等による破壊行為を想定して備えていない。

六 重大事故対策が不十分。むしろ事故を拡大することが懸念される

新規性基準の柱のひとつは、炉心溶融等が発生した後の重大事故対策である。福島第一原発事故では、水素の大量発生により格納容器から漏れた水素が、原子炉建屋内で爆発したことが事故の拡大につながった。福島第一原発は沸騰水型であり、格納容器外で水素爆発を起こしたが、運転時には格納容器内に窒素を封入し酸素がないので、格納容器内では水素爆発は極めて起こりにくい設計であった。それにも関わらず、設計上想定していなかった水素が配管または格納容器のフランジ部や電気配線貫通部等から大量に漏れて、窒素封入していない原子炉建屋内で爆発したことが事故の封じ込めを余計困難なものにした。それでも、格納容器内で水素爆発を起こさなかったことが不幸中の幸いであった。水素爆発対策は加圧水型の川内原発でも極めて重要である。
第67条(水素爆発による原子炉格納容器の破損を防止するための設備)では、水素爆発対策として触媒式水素結合装置を設置しているが、処理能力が極めて小さいため、炉心損傷事故時に発生する900kgオーダーの水素の処理にはあまりに非力である。さらに、水素燃焼装置(イグナイタ)は、機器の故障や復旧のタイミングによっては自爆装置になりかねない。したがって、福島事故の反省に立つなら、当てにならない水素対策装置に頼るのではなく、まず、格納容器内に窒素を封入し、その上で水素の漏えい経路に応じた対策を検討すべきである。
次に、第66条(原子炉格納容器下部の溶融炉心を冷却するための設備)は、冷却設備としての十分な性能を備えているとはいいがたい。格納容器内で配管破断等が起きた場合には、破断部の配管の保温材やジェットによる周囲の配管、ダクトその他機器類の損傷により様々な形状・材質の大小のゴミが流出することが考えられる。特に、格納容器スプレーから流れ落ちた水が、いくつかの細い流路を通って格納容器下部の原子炉キャビティに流れ込むとしているが、上記の保温材等のゴミが狭い流路を塞いでしまい、想定した時間内に格納容器下部に注水できるかどうかは極めて疑わしい。どのように「原子炉格納容器下部注水設備は多重性又は多様性及び独立性を有し、位置的分散を図っている」と言えるのか? 流路閉塞についての評価を実施しないと、「溶融炉心を冷却するための設備」として機能が保証されていないことになる。
また、仮に溶融炉心が落下する前に、水張りが成功すると、水プールに大量の溶融炉心が落下することになり、水蒸気爆発のリスクを著しく高める。水蒸気爆発は、過去の研究から未解明の部分が大きく、その爆発規模の大きさや影響が不確定であるから、まずその発生を避けることが重要である。水蒸気爆発の発生に関する科学的知見を捻じ曲げて、水蒸気爆発が起きにくいとか、実機では試験とは条件が違うので水蒸気爆発を起こす環境にないなどと、長年懸念されてきた水蒸気爆発の科学的知見を無視することは原子力安全の根幹をないがしろにするに等しく許されることではない。これらの問題は、工事認可の問題というだけではなく、その基となる新規制基準の抜本的な大問題である。
以上、異議申立て理由の概略を記載したが、別紙参考資料と口頭意見陳述会で詳細に説明する。

6 口頭意見陳述会の開催
行政不服審査法第48条によって準用される同法第25条第1項の規定に基づいて、口頭意見陳述を求める。
この口頭意見陳述の実施において、本来原子力規制委員会が開催すべきであった公聴会に近づけるため、異議申立人以外にも公開し取材を許可することを求める(本年1月21日に開催された口頭意見陳述会では、異議申立人の要請にもかかわらず非公開とされ、異議申立人以外の傍聴や取材が拒否された)。

7 執行停止の申立て
 本件処分は上述のとおり違法で不当な行政処分であるため、本件異議申立てとともに、行政不服審査法第48条によって準用される同法第34条第2項の規定により、本件処分の執行停止を申し立てる。

8 処分庁の教示
「○不服申立てすることができる処分であるかどうかについて
 原子力規制委員会が行った川内原子力発電所第1号機の工事の計画の認可処分(平成27年3月18日。原規規発第1503181号)について、異議申立てをすることができる。
○不服申立てをすべき行政庁
 原子力規制委員会
○不服申立てをすることができる期間
 処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内(ただし、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内であっても、処分の日の翌日から起算して1年を経過すると、処分の異議申立てをすることができなくなる。)」との教示があった。

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