11月例会 玄海原発再稼働の問題点整理

11月例会


日時:2016年11月26日(土)10:00〜12:30
内容:
玄海原発再稼働の問題点整理

<報告>

玄海原発再稼働の問題点を整理した.以下,それらを箇条的に述べていく.これらは,玄海原発再稼働に関連して予定している当研究会の声明の基調となるものである.
① 過酷事故対策が義務化されて安全になったか
 福島原発事故以降,新たな規制基準に過酷事故対策が義務化された.しかし,玄海原発を含めて日本に現存する原発は,事故が起きても「炉心が著しい損傷に至らず,冷却可能な形状が保たれることや周辺の公衆に対し著しい放射線被ばくのリスクを与えないこと」を前提に設計され,「過酷事故は起きない.放射能漏れ事故が起きても重大な被ばく影響は原発敷地内に収まる程度で,住民避難は(念のため計画するが)必要ない」との説明で建設されてきた.福島原発事故のように炉心が損傷して冷却が難しくなれば,設計条件を超える温度,圧力および放射線レベルになる.それは結果として,格納容器などの変形量や密封機能,電気部品,計装器システムなどに影響するので,本来なら全面的・根本的・総合的に設計を見直す必要がある.「過酷事故は起きる.大量の放射能がまき散らされる.避難も必要」と分かった以上,いま必要なことは根本的な見直しであり,原発再稼働そのものの是非である.また,使用済核燃料を安全に保管しこれ以上増やさないことも重要である.
② 基準地震動の問題
 基準地震動の問題も重大である.玄海原発は620ガルという基準地震動を設定のもとでの耐震設計により審査されている.地震は,すでに見つかっている活断層で起きる場合と,活断層が未発見の場所で起きる場合がある.これらの2つのタイプの地震に対する耐震性を考えなければならない.2016年10月21日の鳥取県中部地震(M6.6)はこれまで知られていない断層が動いたものとの見解を政府の地震調査委員会が発表した.この地震では震源近くで震度6弱を記録し,倉吉市で1494ガルの最大加速度を観測している.玄海原発の付近は地震が比較的少ない地域であるがゆえに,逆にこのような未発見の断層による地震が起きる危険度が高い.玄海原発の直下で鳥取県中部地震と同程度の地震が起きれば,620ガルという基準地震動をはるかに超える地震動を覚悟しなければならない.もう一つ別のタイプの地震,つまり,既知の活断層が震源となる場合もあり得る.この点は,10月の例会でも取り上げたように九州電力や原子力規制委員会は西日本に多い断層では過小評価になることが明らかな入倉・三宅式を使って地震の揺れの予測を行っている.これでは今回の玄海原発再稼働審査によって,原子炉格納容器を含めた原発の耐震性が確かめられたとは到底言えないのではないだろうか.
③ 杜撰な過酷事故対策
 過酷事故対策が杜撰であることも重大である.一例だけを挙げれば,溶融した炉心を水張りした格納容器に受けて冷却するという「過酷事故対策」がある.この「対策」は水蒸気爆発を誘発する恐れがある.この爆発が起きれば,福島原発事故をはるかに超える放射性物質が環境に放出されることになる.チェルノブイリ事故で大量の放射性物質が環境に放出されたのは水蒸気爆発による.過酷事故対策は,IAEAの深層防護のうち「重大事故の影響緩和を目的」とした第4層に属する対策の1つであるが,これでは「影響緩和」ではなく「影響拡大」あるいは「影響の深刻化」をめざしているとしか思えない.「過酷事故現象学」という学問分野における現時点での国際的合意は,「過酷事故のなかで溶融炉心と冷却剤(水)が接触すれば,水蒸気爆発が必ず起きる」である.溶融炉心だけを隔離するコアキャッチャーという装置のアイデアは,この認識から出発したものである.
④ 避難計画が審査の対象になっていないのはIAEA深層防護の第5層違反
 避難計画についての審査が今回の再稼働審査にないことも重大である.IAEAの深層防護では,第5層で「放射性物質が放出したとしても,公衆被ばくを抑制するように備える」ことを提案し,第1層から第5層までの各層はそれぞれ独立に対策を立てるべきであるということを強調している.今回の審査では,公衆被ばくを抑制するための避難計画は審査の対象から外し,原発周辺自治体まかせになっている.一私企業の利益のための原発の稼働により事故が起きたからと言って,周辺自治体がそのための避難計画作成の責任を負わされること自身,道理に合うことではないが,避難計画を審査対象から外すことは,IAEA深層防護の第5層違反といえる.福岡市の西隣の糸島市の避難計画は,福岡市に避難するということのようであるが,糸島市が避難しなければならい状況では,福岡市からも避難しなければならない確率が極めて高い.しかし,150万人を擁する福岡市の避難計画はない.
⑤ これ以上の「負の遺産」を未来の世代に残すことは許されない
 世代間倫理についての問題もある.原発のかどうに伴い作られる使用済み核燃料などの高レベル放射性廃棄物は,10万年余の管理保管を要する.これ以上の高レベル放射性廃棄物を「負の遺産」として,未来の世代に残すことは世代間倫理に反する.世代間倫理には「この大地は私たちの子孫からの借りもの」であるという考えが大切である.再稼働によりこれ以上の高レベル放射性廃棄物を生産することは許されない.
⑥ 「新規制基準」は大変甘い基準である
 再稼働の審査に使った「新規制基準」は,決して「世界最高水準の安全基準」ではなく,大変甘い基準である点も見逃せない.例えば,「新規制基準」では,使用済燃料の貯蔵施設に関して,「使用済燃料が冠水さえしていれば,(中略)その崩壊熱は十分除去される」,そして,「放射性物質が放出されるような事態は考えられない」ので,貯蔵施設の閉じ込め機能を要求しなくてよいとしている.これについても,福島原発事故で最も恐れられたのは燃料プールからの放射性物質 の放出であったことを考えれば,あまりにも楽観的である.より安全な空冷式の「乾式貯蔵」についての記述がまったくない.このことは,この「新規制基準」が原発の安全性よりもその再稼働を優先するためのものであることを物語っている.「新規制基準」が原発の安全を保証するものにはなっていない.
⑦ 再稼働反対は民意
 民主主義の問題もある.朝日新聞社が2016年10月15, 16日に実施した全国世論調査(電話)では,原子力発電所の運転再開の賛否を尋ねたところ,「反対」は57%で「賛成」29%の2倍となっている.他の世論調査でもほぼ似たような結果である.このような世論のもとで,しかも,安全性についての十分な保証もないなかで,多くの国民の納得が得られない玄海原発の再稼働は,民主主義の問題としても許されない.

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