川内原発の再稼働は許されない

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2014年8月25日 福岡核問題研究会

 原子力規制委員会(規制委)は,7月16日,審査を進めてきた九州電力の川内原発1・2号基について「新規制基準を満たしている」とする審査書案を了承した.規制委は,この審査書案についての科学的・技術的問題に限定してのパブリックコメントを募集したが,それは7月17日から8月15日間での30日間という短期間であった.これに対して,当研究会は審査書案の科学的・技術的問題に関連して研究論文を発表するとともに,研究会会員によるパブリックコメントを多数提出し公開してきた.

 電力自由化後には,原発は公的支援をしない限り成り立たないことが明確になってきているのが最近の議論である.それにもかかわらず,安倍政権は,電力自由化後の原発支援の方針を年内にも打ち出そうとしている.原発の運転は,経済性の点からも大いに問題がある.さらに,福島原発事故は未だに収束しておらず,メルトダウンを起こした原子炉がどのような状態になっているかも現時点で明らかでない.福島原発事故の真相究明がなされていない現状では,原発の再稼働が許されないのは当然である.ここでは,川内原発の再稼働をめぐる問題点を数点にわたって指摘しておきたい.

 第一の問題点は,世代間倫理の問題である.私たちは,私たちの子どもたちや孫たちが幸せに生活する地球を思い描き希望する.それと同様に,数十世代あとの子孫たちの幸せな生活を思い描くことができる.原発の再稼働は,私たちの子孫に高レベル放射性廃棄物の処理を押しつけるものである.世代間倫理には「この大地は私たちの子孫からの借りもの」であるという考えが大切であり,環境の保全を心掛けることが肝要である.豊かな地球を将来世代の地球人に渡すためにも,これまで以上に高レベル放射性廃棄物を作り続ける原発の再稼働は許されない.

 第二の問題点は,今回の新規制基準を安倍政権は,「世界最高水準の安全基準」であると,何の根拠もあげることなくお題目のように唱えていることである.今回の新規制基準は,既存の設計に安全対策を追加させただけの対症療法にすぎず,最新技術を設計段階から組み込んだ欧米のものとは大きく異なる.例えば,欧州加圧水型炉(EPR)では装備されているコアキャッチャーや飛行機の衝突対策さえも含まれていない.コアキャッチャーの義務づけがないということは,一度,冷却に失敗すれば,メルトダウンからメルトスルーに至り,空気の入っている格納容器内で水素爆発や一酸化炭素爆発さらには水蒸気爆発の危険が高まるということである(溶融した炉心を貯めた水で受け取るということだから,水蒸気爆発の危険がある).「世界最高水準の安全基準」というお題目は,まったく根拠のないでたらめである.

 第三の問題点は,規制委が「新規制基準を満たしている」とする審査書を提出することで原発再稼働のお先棒を担ごうとしていることである.もともと,規制委は,「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全」などに資することを目的とし,「専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する」委員会として設置されている.つまり,規制委は国民の生命を守るため独立した権限を与えられている.しかし,審査書案で述べていることは,想定した新規制基準に適合しているということだけである.しかもその適合判断の基準が大変甘い.その一つの現れはクロスチェックの問題である.審査書案をみる限り,九州電力が提出したMAAPなどによる数値シミュレーションの結果などに対して,規制委は独立したソフトウェアを使ったクロスチェックを行っていない.このようなクロスチェックなしでは十分な審査と言えないのは当然である.田中委員長は,新規制基準に適合しているとしつつ,「安全だとは言わない」と述べている.つまり,新規制基準に適合していても安全性は保障しないということである.

 第四の問題点は,安倍政権が「安全が確認された原発は再稼働する」としていることである.菅官房長官は,規制委が川内原発についての審査書案を提示した7月16日,安全性を確認した原発を再稼働させる従来の政府方針に変わりはないと改めて示した.つまり,安倍政権は,安全性の判断は規制委に責任があるという立場で動いている.規制委の田中委員長が「安全だとは言わない」とする新規制基準適合をもって「安全が確認された」と言い換える.ある意味で「詐欺行為」といってよいものである.安全性についての責任が曖昧のまま,誰も責任を取らない体制の中で,川内原発の再稼働が行われようとしている.無責任極まりないことである.

 第五の問題点は,九州電力にみられる再稼働に前のめりの態度である.9月末に最終的な審査合格に必要な工事計画の補正申請を行うとしている.再稼働に前のめりになっているのは明らかである.東京電力や関西電力が,3・11以降ガスコンバインドサイクルなどによる火力発電施設の高効率化を急ピッチで進めているのに比較するとき,運転開始から30年を超える「老朽火力」に出力全体の50%近くを頼っている九州電力の取り組みは明らかにバランス感覚に欠けている.また,九州電力は,新規制基準は安全性についての最低限の要求事項に過ぎないことを自覚すべきである.新規制基準で猶予されているからといって,フィルター付きベント装置や免震重要棟のない状態で再稼働を行うのは無謀である.九州電力は,もっと慎重な態度を取るべきである.

 第六の問題点は,規制委が安全な避難計画などを権限外のこととして何らの検討を行っていないことである.米国では,原子力規制委員会(NRC)が避難計画についての評価を行うことになっており,避難計画の策定が原発運転の条件となっている.1988年,新設されたショアハム原発は有効な避難計画を立てることができない中で粘り強い住民運動もあり運転停止・解体された話は有名である.川内原発では30km以内の自治体の有効な避難計画が立てられない状況である.有効な避難計画が存在しないこのような状況の下で再稼働を行うことは,住民無視・人命軽視であり許されない.

 最後に,指摘しておきたいことは,多くの国民の納得が得られない再稼働は民主主義の問題として許されないということである.7月26,27日の朝日新聞の世論調査によると,再稼働反対の割合は59%で,再稼働賛成23%を大きく上回ったという.他の世論調査でもほぼ同様な結果である.このような世論の下で,しかも,安全性についての無責任体制の下で,川内原発の再稼働が強行されるようであれば,日本の民主主義は,国際的に笑い物となるに違いない.

以上

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