1月例会 「原発=潜在的核抑止力」論の虚実

1月例会


日時:2018年1月19日(土)15:00〜17:30
話題:「『原発=潜在的核抑止力』論の虚実」(話題提供:岡本良治氏)
    報告資料
 
<報告>

 1月例会では,岡本氏による「『原発=潜在的核抑止力』論の虚実」との報告があった.氏は,はじめに,岸信介元首相の「原子力技術はそれ自体,平和利用も兵器としての使用も共に可能である.どちらに用いるかは政策であり国家意志の問題である」やオッペンハイマーの「原子力エネルギーを平和目的で開発することと,爆弾のために開発することは多くの面で互換性があり,また相互に依存する部分も大きい」などの発言を挙げ,これらは日本の与党政治家や一部商業紙による「原発=潜在的核抑止力」論あるいは反核兵器・脱原発の立場の少なくない人々による原発と核兵器の同一視にも繋がるものであるが,原発を保持することが潜在的核抑止力を持つことにつながることになるのかという問いを発して,以下のような話をされた.
 原子力発電技術とは,90%以上がプラント技術であり,原子炉工学とは無関係でむしろ火力発電所などとも共通する様々な要素技術によって構成される.残りの10%弱についても人間工学などを含む安全工学がほとんどで,核兵器の開発技術とはかなり縁遠い内容のものである.従って,電力会社や原子炉プラントメーカーのノウハウを駆使して,業界に在籍する最も優秀な現役の技術者を1,000人集めても核兵器をつくることは不可能である.確かに,原理的には核燃料を作る段階でのウラン濃縮技術によって,核兵器用の高濃縮ウランを作ることはできるし,原子炉を運転すれば,黙っていてもプルトニウムが生産されその化学処理でプルトニウムを抽出できるが,そのようなウラン濃縮や化学処理は原子力発電技術の領域に属するものではなく,原子力発電技術の技術者たちが行える技術ではない.
 また,ウラン濃縮ができたとしても,プルトニウムやトリチウムを抽出できたとしても,そこから原爆や水爆を完成させるまでの工程は決して簡単なものではない.インド,パキスタン,北朝鮮でも作ることが出来たのだから,日本で出来ないはずはないと思われるかもしれないが,これらの国々は独力で開発したわけではなく,中国や旧ソ連でさえも,命がけのスパイ活動や,裏での政治的取引にもとづく極秘の技術支援によって出来たものである.
 「原発=潜在的核抑止力」論は,技術的,政治的,社会的側面のいずれから考えても根拠薄弱で,説得力があるとは言えない.原発と核兵器を同一視することは過度の単純化であろう.
 なお,例会後,有志で近くの料亭で新年会を行い盛り上がった.

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