3月例会 大津判決&玄海原発再稼働問題

3月例会


日時:2016年3月26日(土)14:00〜16:30
内容:(1)大津判決の内容について 
レジュメ 判決要旨
   報告者:伊佐智子氏(久留米大学講師)
   (2)玄海原発の再稼働を阻止するために レジュメ
   報告者:中西正志氏(元燃焼炉設計技術者)

<報告>

(1)大津判決の内容について
伊佐智子氏に,3月9日に大津地裁において出された高浜原発3, 4号機についての再稼働禁止仮処分決定の内容を報告いただいた.大津地裁は,高浜原発のある福井県の隣県の地裁である.その決定内容は,「1.債務者(関西電力)は高浜原発3, 4号機を運転してはならない.2.申立費用は,債務者の負担とする」というものである.裁判は,①主張立証責任の所在,②過酷事故対策,③耐震性能,④津波に対する安全性能,⑤テロ対策,⑥避難計画などに対して争われた.主要な点での判決内容を以下に示しておく.
①主張立証責任の所在について,決定では,最終的な主張立証責任は債権者(住民側)にあるが,原子炉施設の安全性に関する資料をすべて保持している債務者(関西電力)は,自ら依拠した根拠や資料を明らかにすべきで,その点についての主張・疎明(裁判用語,説明のこと)が十分になされないのであれば,その判断に不合理な点があると推論せざるを得ないとしている.また,原子力規制委員会の設置許可は,十分な検討をした主張・疎明にはならないとしている.
②過酷事故対策について,決定はまず,甚大な災禍をもたらした福島原発事故は原発の危険性を具現化したものであり,原因究明も進んでいないとし,明確になったのは,津波対策が不十分だったことのみで,他の対策がすべて検討されたか不明であるとしている.その上で,過酷事故発生に備え,一定の安全対策はあるが,その備えで十分とはいえない,相当の根拠・資料に基づいた疎明がなされていないとしている.
④津波に対する安全性能については,1586年の天正地震により大津波が押し寄せたとの記載があり,津波堆積物調査やボーリング調査の結果で,大規模な津波が発生したと考えられないと言っていいか,疑問なしとしないとしている.⑤テロ対策については,第三者の不法侵入などについての安全対策は必要であるが,大規模テロ攻撃への対応策は国によって対応されるべきものとしている.
本事案の今後予想される司法手続きは,関西電力が異議申し立てをすれば大津地裁で異議審となり,その判決のあと敗者が抗告すればさらに大阪高裁での抗告審での裁判ということになるということである.
今回の大津判決の意義は,決して小さいものではない.これまで私たちは再稼働させないためにどう運動するかという観点でものを考えてきたよう思うが,それがすべてではないということが明らかになったということである.運転差し止め仮処分決定で再稼働されてからでも仮処分を勝ち取ることができる可能性があるということが分かったということである.さらに言えば,玄海原発の佐賀県の隣県である福岡県民であってもそのような差し止め訴訟を福岡地裁に提訴することができるということである.もちろん,長崎県民でも熊本県民でも可能です.電力会社は,そのようなすべての裁判に全勝しなければ運転を続けることはできないということである.

(2)玄海原発の再稼働を阻止するために
次に,中西正之氏に玄海原発の再稼働を阻止するための戦略戦術についての報告をしていただいた.国際原子力機関(IAEA)の深層防護の考え方を正確に理解することが大切である.深層防護は,次の5つの層からなる.
第一層:異常運転および故障の防止
第二層:異常運転の制御および故障の検出
第三層:設計基準内の事故の制御
第四層:事故進展の防止およびシビアアクシデントの影響緩和策
第五層:放射性物質の放出による放射線影響の緩和
この5つの各層の防護は,それぞれが独立して効力を発揮することが深層防護の基本である.例えば,第三層までの防護があるからといって,第四層の防護が十分でなくてよいということにはならない.同様に,第四層までの防護があるからといって,避難計画を含む第五層の防護を考えなくてよいということにはならない.しかし,日本の原子力規制委員会が策定した新規制基準には第四層の対策が不十分にしか対策されていない.また,第五層は,はじめから考慮されていない.このような点を正確にたくさんの市民に講演会や公開討論会などで伝えていくことが大切である.さらに,関係する地方自治体の議会や首長などへの積極的な要請活動なども重要であろう.

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