7月例会「チャイナ・シンドローム対策の欠如」

7月例会 7/13(土)午後2〜5時

7月13日の委員会では,中西正之氏により「日本の原発のチャイナ・シンドローム対策の欠如」とのタイトルで講演いただいた.講演の概要は以下の通り.

 1970年代に日本において耐火コンクリートの爆裂事故が多く経験され,耐火物技術協会ではその原因と対策が研究されるようになってきた.しかし,この知見は原子炉設計には生かされなかった.また,耐圧容器,格納容器,原子炉建屋を構成するカーボンスチールとポルトランドセメントコンクリートは,核燃料のメルトダウンによる落下で簡単に溶けてしまい,ほとんど構造物としての抵抗が無く,土中を潜り抜けて地下水が大量に流れている部分まで落下して,地下水の放射性物質汚染を引き起こす可能性が極めて大きい.これを防止する耐熱対策は文献調査の段階であり,原発の安全性がほとんど確保されていないものと思われる.

 一般の建築に使用されるコンクリートは,ポルトランドセメントの反応を完全に行うために,多めの水が添加されている.この余分の水は何十年もコンクリートの中に閉じ込められている.そして,何らかの原因でコンクリートの表面が急激に加熱されるとこの余分の水が高圧蒸気となり,その蒸気圧がコンクリートの引張強度を超えるとコンクリートの爆発が起こる.専門用語でこれを爆裂と呼んでいる.

 したがって,高い温度で熔解される鉄や銅などの熔融金属を処理する設備では,建物の床は水分を含まない高い温度に耐える耐火物で保護することは,高温熔解設備を作るときの常識である.メルトダウン,メルトスルーが起きた福島原発事故において,このようなコンクリート爆裂が起きたのかどうかは,各種の事故調査報告にもなく,明らかでない.しかし,東電の諮問機関の第2回原子力改革監視委員会(2012.12.14)での配布資料では,福島第一原発の熔融炉心落下対策不備があったことが述べられており,今後の対策が記載されているが,その内容はきわめてずさんなものである.例えば,耐火物に接着工法を使用しては行けないのは初歩的な常識であるが,保護構造をジルコニアタイルで検討しており,明らかに接着工法を想定したものである.

 福島原発事故においてメルトダウン,メルトスルーにより格納容器の床に落下した熔融炉心が,コンクリート爆裂を起こしたかどうかは明らかでないが,しかし,はじめから,メルトダウン,メルトスルーを想定していなかった福島原発の床が高い温度に耐える耐火物で保護していたと考えるのは自然ではなく,余分の水を含んだコンクリートが爆裂を起こした可能性は高いと考えられる.

 さて,いま再稼働の安全審査がなされている玄海3・4号機の格納容器の床面は耐火構造になっているのであろうか.玄海3・4号機は「原子炉建屋はなく,そのかわりに原子炉格納容器を厚さ6.4mmの鋼板と厚さ1.3mのコンクリート壁で二重に」なっているという.格納容器の床面は,約11mの厚さの鉄筋コンクリートであるというが,この床面が連続的に起こるコンクリート爆裂により破られる心配はないのか.また,窒素封入されている沸騰水型の格納容器と異なり,加圧水型の格納容器内には空気(酸素)があるので,水素が混入することで水素爆発の危険がある.何より玄海3・4号機にはベント設備が存在しない.いまの新安全基準ではフィルター付きベントの設置は5年間の実施猶予期間が設けられるという.安全装置なしで原発の再稼働を認められることも考えられる.加圧水型の格納容器は,沸騰水型のものに比較して大きいので,時間的余裕があり,ベント設備の必要はないという安全神話を振りまく意見もあるという.これまでと変わらない,このような安全神話のもとで玄海3・4号機の再稼働を許してはならない.

 委員会終了後,「アサヒビール園」において生ビールで暑気払いを行った.
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