2013.9月号

読書会日時:2013年9月9日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>高齢社会の交通問題

浅妻 裕  まえがき
土居靖範  高齢者を取り巻く交通の現状と課題
       ー 格差が進む高齢者への総合的な支援策の提案
松原光也  高齢社会にとって望ましい交通のあり方
       ー 高岡の公共交通維持・活性化方策からの示唆
杉田 聡  移動する義務 ー 「買い物難民」層にとっての交通権問題
南 聡一郎 フランスの都市公共交通における費用負担と交通権に関する考察

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土居靖範著「高齢者を取り巻く交通の現状と課題─格差が進む高齢者への総合的な支援策の提案」
日本は,未曾有の超高齢化社会に突入した.クルマを運転できない高齢者が増加し,買い物難民や移動制約者が大量に発生している.交通はあらゆる人間活動の基盤である.徒歩や公共交通で生活が充足できるコンパクトなまちづくりが必要で,そのための公共交通整備の制度面構築が提起されている.交通権とは,「国民の交通する権利であり,日本国憲法の第22条,第25条,第13条などの『基本的人権』を実現する具体的権利である」という.この交通権の保障は,国と自治体の責務であり,「交通基本条例」を各自治体で制定する必要があるとする.その内容は,住民に交通権を保障する責務を自治体に負わせ,住民参加の下で地区交通計画を策定し,その実施を自治体に義務付ける.さらに,最寄りのバス停に徒歩5分以内でアクセスできるような「交通空白地域」の解消や交通バリアフリー化の推進など交通安全対策を強めることを内容としたものという.超高齢化社会には,そのような成熟した社会が確かに必要であろう.  (報告:T.M.)

松原光也著「高齢社会にとって望ましい交通のあり方─高岡の公共交通維持・活性化方策からの示唆」
コンパクトシティの考え方に基づく地域,社会,生活様式の観点から,高齢社会の交通のあり方を整理し,富山県高岡市における公共交通の維持・活用策を模範として,その実現方法を論じている.コンパクトシティとは,施設配置の密度を高め,住宅地,就業地,商業地,病院,学校などを駅やバス停の周辺に集約し,人通りの多い回廊に公共交通機関を整備して,住民の利便性を高め,都市全体の活力と魅力を高めるものである.高岡市では,住民参加の中で第3セクターの万葉線とコミュニティバスなどの公共交通機関の活性化の方策が練られている.公共交通の維持には,①住民や地域関係者の積極的参加,②地方自治体の公共交通の責任ある管理運営と財政支援,③交通事業者の貢献,④国の財政的・制度的支援,などが必要であるという.(なお本論文とは直接関係はないが,高岡市のお隣の富山市では「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を掲げ,日本初の本格的LRT (Light Rail Transit) 富山ライトレール導入,市内電車環状線化,自転車市民共同利用システムなどの人と地球環境に優しいまちづくりが進められている)  (報告:T.Y.)

杉田 聡著「移動する義務─『買い物難民』層にとっての交通権問題」
買い物の場合,重要なことは,作られた(長い)距離を超えるために公共交通機関を整備することではなく,(長い)距離が作られないことである.著者は,自由に交通すること(=交通権)ではなく,むしろ(長い)距離が作られない権利,徒歩圏で安心して生きる権利が保障されなければならないと主張する.高齢者の買い物難民問題を考える時,大切なことは,高齢者が公共交通に頼ることなく,日々の買い物ができるような生活環境を整えることである.その意味で,生存権のひとつとして「徒歩圏居住権」を提起している.

南 聡一郎著「フランスの都市公共交通における費用負担と交通権に関する考察」
高齢者の足を守るためには,①生活に必要な路線は採算性に関係なく維持すること,②廉価な運賃水準が必要である.交通法典に交通権を明文化しているフランスでは,勤労者世代の税負担によって質の高い都市公共交通を廉価な料金で維持し,高齢者の交通権を保障している.フランスの政策のもう一つの特徴は環境保護を最重要課題としていることである.自動車利用を削減し,徒歩・自転車・公共交通の改良・拡充の推進を義務付けている.フランスの都市公共交通は,独立採算制を放棄している.運賃収入は,都市交通財源の1/4に過ぎない.財源の2/3は地方公共団体の負担である.その約6割は交通負担金制度による.交通負担金制度は,都市自治体が域内の企業や公共機関,学校などの事業所に対して従業員の給与をベースとして徴税する税制である(日本では,通勤手当が給与に加算され支給されているが,これがそのまま現金として地方自治体に納入され,公共交通を充実させるために使われていると考えてよい).勤労者世代の満足を最大化させるような質の高い交通サービスを彼らの税負担で建設・維持し,すべての人が低廉な価格で利用できるようにしたことで,高齢者や障害者の交通権も満足させることが出来ている.さらにこの交通サービスの充実により,道路混雑が解消され,物流効率が高くなり,企業の生産性が上昇する.日本の事情に適した通勤交通税の創設により,廉価で質の高い公共交通の供給をおこなうことが,高齢者の交通権を守る最善の方法であると結論づけている.  (報告:Y.S.)
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