2014.8月号

読書会日時:2014年8月11日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)603室

<特集>東アジアの平和へ,問われる日本の役割

加々美光行:日・中の国家間対立の背景にあるもの──真の友好を求めて
李 俊揆:東アジア葛藤の構造と課題──韓国からの視点
島川雅史:アメリカの東アジア戦略と日米安保体制
梶原 渉:戦争国家化に対抗すべき平和構想──戦後「平和国家」の擁護と発展

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加々美光行著「日中の国家間対立の背後にあるものー真の友好を求めて」
 現状では,日中両国の民族主義は,尖閣諸島の領有をめぐって,ともに排他性の強く,民衆レベルと国家レベルとが合体した自尊的な民族主義をぶつけ合う,収拾しがたい事態を生んでいる.これらの問題は,安倍政権と習近平政権の国益優先,自尊的国家的民族主義が民衆レベルの民族主義と合体している限り,解決の糸口はないとして,筆者は,①国際から民際に,②国益から民益に,③自尊的国家的民族主義から抵抗的民衆的民族主義へ転換することが必要であると指摘する. (報告:Y.M.)

李 俊揆著「東アジア葛藤の構造と課題ー韓国からの視点」
 韓国の周辺国好感度世論調査(10点満点)で日本(2.3)は北朝鮮(2.7)より低く,安倍首相(1.1)は金正恩(1.3)より低い結果がでた.一方,日本においても中国,韓国に「親しみを感じない」割合が81%,60%弱と高くなっている.いまの東アジアの葛藤は,①日清・日露以来の日本の侵略戦争,②サンフランシスコ体制,③脱冷戦の非対称性が構造的要因であるとしている.台湾とその付属島嶼(尖閣を含む)が割譲されたのは日清戦争であり,竹島が日本に編入されたのは日露戦争がきっかけという.サンフランシスコ条約は「片面講和」であったため,日本と中国,日本と韓国,日本とロシアの間に領土紛争の火種を残した.さらに,北朝鮮の核問題の背景には,社会主義陣営の崩壊と半島内の力関係の逆転による北朝鮮の孤独と危機意識があるという.このような要因に米国の再均衡(rebalancing)政策(「アジア回帰」政策)と日本の動き,中国と韓国の対応が結合して葛藤が生まれているという.韓国の朴政権の外交安全保障政策はこの葛藤の緩和に寄与せずむしろ悪化に寄与していると評価する著者は,東アジアの葛藤を歴史的視点から理解し・共感し,国家を超えた社会勢力を不断に市民の力で構築していくことが必要ではないかと結論づけている.  (報告:Y.S.)

島川雅史著「アメリカの東アジア戦略と日米安保体制」
 オバマ政権の「アジア回帰」政策は,中国を主な対象として,アメリカの国益追求の中心を経済関係の発展におきつつ,一方では,21世紀の主要な仮想敵として軍事的包囲網を作ろうとする,相反するアプローチのバランスを取ることにより成り立っている.日本とは経済面の摩擦があり,TPPに巻き込もうとしている.軍事面では,日本は包囲網の重要な一環であるが,安倍政権がアメリカの意図を超えて中国に敵対するのは,軍事衝突を生んでアメリカの喫緊の要である経済再建の阻害要因となるとしている.このような状況を,著者は,かつて日米安保体制への革新勢力からの批判に「アメリカの戦争に巻き込まれる」ということがあったが,いまや,アメリカが安倍政権の自重を求め,「日本の戦争に巻き込まれる」ことを恐れるという事態に立ち至っていると評価している.しかし,安倍政権による集団的自衛権の行使容認の閣議決定により,ますます「アメリカの戦争に巻き込まれる」ことへの危惧が現実味をおびてきたと言えるのではないだろうか.  (報告:T.Y.)

梶原 渉著「戦争国家化に対抗すべき平和構想ー戦後平和国家の擁護と発展」
 筆者は,安倍政権が目指す解釈改憲による戦争国家化に対抗するためには,それが破壊対象としている「小国主義」を擁護すると同時にその限界を克服する必要があるとする.「小国主義」の根幹は,戦力不保持を定めた憲法9条第2項の下で自衛のための必要最小限度の実力は保有できるとした憲法解釈であり,その政策体系の中に非核三原則や武器輸出三原則があった.一方,「小国主義」は,①日米安保体制,②戦後の保守政権の継続,③サンフランシスコ体制などに規定される限界があるという.冷戦終了を画期として,日米支配層による日米安保のグローバル化が進められているが,いまは,「小国主義」の限界を克服して,アジアにおける対立構造を除去するような平和構想の実現が大切であり,そのためには特に知識人の国際連帯が必要であり,日本科学者会議はその重要な一翼を担わなければならないと強調している.  (報告:T.M.)
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