2013.3月号

読書会日時:2013年3月11日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>福島原発災害,2年後のいま

岡本良治
 「福島第一原発事故への地震動の影響」 
山本富士夫
 「改めて科学者の社会的責任を提起する─憲法遵守と技術者倫理の実践」
今岡良子
 「ソーシャルネットワークが伝えたフクシマ─被災社会を生きる私たちの力の源泉」
伊東達也
 「原発震災現地での活動と課題」

jjs3月号

<読書会の記録>

岡本良治著「福島第一原発事故への地震動の影響」
 本論文では,福島第一原発事故への地震動の影響を指摘する諸論考を検討し,事故の発端・津波到達前後・事態進展における地震動の主導的な役割を分析している.事故の発端は,地震動による鉄塔の倒壊(=外部電源喪失)にあると明言し,さらに長時間の地震動による建造物や機器への影響が未解明であるとしている.キセノン133の放出が始まったのは最初のベント弁開放以前であったこと(Stohlら)は,原子炉構成要素に構造的損傷があったことを示す有力な証拠という.また,波高計の記録から津波の到達時間を推定し,非常用電源の停止原因が津波以外である可能性を説得的に論じている.さらに,1号機から4号機への地震動の影響を具体的なデータに基づきながら詳細に論じている.このような分析から著者は,事故の発端・事故の進展・放射性物質の大量放出について地震動が主導的な役割を果たしたと考えている.いずれにしろ,可能な限りの直接的検証を含めたこのような分析は,今後,ますます重要になってくるものと思われる.
(報告:T.Y.)

山本富士夫著「改めて科学者の社会的責任を提起する─憲法遵守と技術者倫理の実践」
 「3.11福島原発災害」以来,国民は「原発安全神話」を信用しなくなったが,産官学連携の利益共同体「原子力ムラ」は国際原子力機関(IAEA)の「原子力安全文化」をよりどころに原発の再稼働を目論んでいる.筆者は,①原発再稼働を阻止するために,原発再稼働を阻止するために「原子力安全文化」を批判し原子力ムラを打倒し,②国民の命と暮らしを守るため憲法の前文(平和のうちに生存する権利)・第13条(個人の尊重)・第25条(国民の生存権と社会保障の義務)を国や自治体,原子力ムラに遵守させ,③原発事業者たちに技術者倫理を実践させることが必要であり,これらを行うことが科学者の社会的責任であると提起している.ただ,これらの課題は,科学者だけの責任というより全国民的課題ではないか.「原子力安全文化」が必ずしも明確ではない.また,筆者は総選挙で原発をなくす国民運動が勝利できなかったと悲観的に分析しているが,これも適切な分析であるか疑問である.原発が争点とならなかった面が大きい.憲法を重視したたたかいの重要性と,自主・自立や自由な発言・討論を勧めている技術者倫理を実践させる重要性の指摘は当を得たものである.(報告:Y.M.)

今岡良子著「ソーシャルネットワークが伝えたフクシマ─被災社会を生きる私たちの力の源泉」
 著者は,新聞を購読せず,テレビをもたず,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に依存して暮らしているという.SNSの情報はマスメディアの情報を鵜呑みにしないためにも無くてはならないとして,2011年3月から2012年12月までのtwitter, facebook, Youtube, UstreamなどのSNSが伝えたフクシマを時系列に沿って整理している.SNSはマスメディアが取り上げることのなかった市民の運動,文化人の創造,学者の信念を記録し,このようなSNSを巧みに使い,人びとは運動を継続してきた.新しい社会を創造する力の源がここにあるという.(報告:A.S.)

伊東達也著「原発震災現地での活動と課題」
 福島原発事故で避難を余儀なくされた16万人もの人びとは依然として,家族そろって住める家がない,希望がない,展望がないという過酷な避難生活を強いられている.2012年末時点での,そのような福島の状況が報告されている.避難で体調悪化や過労による死や自殺などの福島県の「原発関連死」は2012年4月には764人であったが,12月には1184人に達した.原発事故による避難は今も福島県民の奪っているということだ.川内村では緊急時避難区域が2011年9月に解除され,帰村宣言を出し,役場をもとに戻し,保育園・小中学校を再開したが,戻った村民は元の人口の1割程度にとどまっている.戻らない理由は,仕事先がない,生活基盤が整っていない,放射能汚染などである.一方,大熊町,浪江町,富岡町は「5年間は帰還しない」ことを宣言している.75%が帰還困難区域である双葉町では帰還に関する計画が出せないでいる.除染は進まず,賠償をめぐるニュースは,連日のように地元新聞には報道されている.今後必要なことは,①安全な事故収束対策,②福島原発10基の廃炉,③放射性廃棄物の保管場所についての国民的討論などであるが,とりわけ④国と東電が法的責任を認め,被害者へ謝罪し,これ以上の健康被害を防止することであるという.(報告:E.M.)
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