2015.10月号

読書会日時:2015年10月12日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>激化する水災害 ― 河川水害を克服するために
髙橋 裕著<巻頭言>「水災害は本質的に社会現象 ― 都市の変貌が新型水害を発生」
鬼頭昭雄著「気候変動と大雨」
宇民 正著「わが国における治水のあり方をめぐって」
小松利光・橋本彰博著「2012年の九州北部豪雨から学ぶこと」
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髙橋 裕著<巻頭言>「水災害は本質的に社会現象 ― 都市の変貌が新型水害を発生」
 河川工学の大家らしい,水災害の本質に迫るよい巻頭言である.「都市計画において,新たな都市構造もしくは構想によって発生が予想される新たな都市災害を未然に防ぐ手段を,新都市計画に織り込むこと」が重要との指摘もその通りである.しかし,「新たな都市災害未然に防ぐ手段」をすべて予想するのはそれほど簡単なことでもない.それでも,その時点で「予想される新たな都市災害」を未然に防ぐ手段を講ずるだけのでも十分であろう.

鬼頭昭雄著「気候変動と大雨」
 過去の豪雨の実態や信頼できる将来予測を,短い文章のなかでよくまとめ上げた報告になっている.これらは,減災・防災を考えるうえでの基礎データとなるものである.1880〜2012年の期間に世界の平均地上気温は0.85℃上昇している.その原因は,大気中の温室効果ガスの増加によるものである可能性が極めて高い.極端な低温の減少や極端な高温の上昇,多くの地域における大雨の強度や頻度の増加などは,その結果引き起こされている現象である.5km格子大気モデルによる,50ミリ以上の1時間降水量が発生する頻度の将来予測(2076〜2095年の1980〜1999年に対する比)は,日本のすべての地域で2倍以上となっている.温暖化が進んだ21世紀末の気候条件では,海水温が上がるため,スーパー台風の最大強度は,風速85〜90m/s,最低中心気圧860hPa程度になると予測する研究もあるという.それらを想定した防災対策が必要であるが,著者は,ある程度の被害が発生しても,いのちを守り,社会資本の壊滅的な被害を回避することを目指すべきだと警告する.(報告:T.Y.)

宇民 正著「わが国における治水のあり方をめぐって」
 「洪水は自然現象であり,水害は社会現象である」(佐藤武夫氏,1973年)などの先学の考察に依拠しながら,著者等の調査を基にして治水対策を論じている.著者は,「治水は土地利用」であることを強調している.水稲は食料としてだけでなく治水,環境保全,景観,文化の面で日本人と切り離せない.さらに,日本の国土面積の2/3を占める森林は,その治水機能はとりわけ重要である.治水と土地利用は,一体のものとして地域社会とその地勢の特性に応じて地域住民の知恵と合意に基づいてなされ,治水は,国と地域社会の民主化があってこそ実現すると論じている.また,水害危険地帯では,災害時の避難体制が問題となるが,しかし,危険地に住まないことこそが真の避難であると指摘している.(報告:Y.M.)

小松利光・橋本彰博著「2012年の九州北部豪雨から学ぶこと」
 これまでになかったような豪雨により甚大な被害をもたらした2012年7月の九州北部豪雨災害を取り上げ,今後も予想される水・土砂災害の新たな様相と防災適応策を論じている.自然環境と共生しつつコストや時間をかけず効率的に防災力を上げていく「順応的適応策」の実施が喫緊の課題となっていると指摘する.「順応的適応策」には,①周辺の自然環境と調和できる技術,②柔軟で調整可能な技術,③必要であれば後戻りできる技術,④効率的で経済的な技術,⑤積み重ねが可能で手戻りのない技術などが必要であるとする.社会学者チャールズ・クーリーの言葉「明日は何とかなると思うのは愚か者.今日さえも遅すぎるのに.賢者は昨日のうちにすませている」を防災・減災分野にも適用する必要があるとしている.(報告:T. M.)

<レビュー>長野八久著「平和学習のためのフィールドワーク ― 日雇い労働者の街,釜ヶ崎とその周辺を歩く」
 大阪大学で行われている全学共通教育科目「平和の探求」におけるフィールドワークのルポルタージュである.阪大生と一緒に釜ヶ崎「あいりん地区」などをツアーしているような気持ちを起こさせる質の高いルポルタージュといえる.「あいりん地区」のオッチャンからの「どこから来たの?」とか「がんばれよ」という言葉に戸惑う学生たちとは別に,読者は「あいりん地区」のオッチャンの優しさを感じることが出来る.「あいりん地区」では自販機の飲料も他地区のほぼ半額であり,また,野宿者が襲撃されることもなく安全であるという.ただ,フィールドワークで訪れる地域(ポイント)だけの図示でなく,経路もあわせて図示していただくと読者もその地図上でのツアーを楽しむことが出来るのではないかと思う.
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