2017.2月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2017年2月11日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2017年2月号
<特集>熊本地震災害から学ぶものはなにか―災害研究・防災対策の現状と到達点
飯尾能久著:熊本地震はなぜ起こったのか?
多賀直恒著:市民と行政は,緊急事態に何を備えておくべきか―国家の総合リスク対策の提案
千代崎一夫・山下千佳著:熊本地震に学んで—全国の運動と具体的な活動

<報告>

本特集の「まえがき」でJSA災害問題研究委員会の委員長中山俊雄氏は,創設以来,同委員会が災害問題を総合的にとらえた災害科学の確立と被災者支援をめざし活動してきたとし,それらの視点を通して,熊本地震災害を捉え直すことを目的に本特集を企画したと書いている.そして,石原都政時代に廃止された「東京都震災予防条例」の前文にあった「地震は自然現象であるが,地震による災害の多くは人災であるといえる.したがって,人間の英知と技術と努力により,地震による災害を未然に防止し,被害を最小限にくいとめることができるはずである」との文章を紹介されている.以下は2月11日(月)の読書会において報告されたレジュメをもとに『日本の科学者』読書会の様子を編集したものである.

飯尾能久著:熊本地震はなぜ起こったのか?

地震調査委員会は,活断層や地震活動に基づいて地震長期評価を行い,九州中部地域では今後30年以内にM6.8以上の地震が発生する確立が18〜27%であることを2013年に公表していた.2016年4月の熊本地震では,マグニチュード(M) 6.5の前震の28時間後にM7.3の本震が起きた.本論文では,この地震の概要を論じ,M6.5の後にさらに大きなM7.3の地震が発生した原因として,平行した複数の断層とその深部延長が重要な役割を果たした可能性を指摘している.内陸大地震の詳細な発生過程は,まだ研究段階であり今後の重要な研究対象であるという.九州中部地域での地震発生確率がかなり高かったにもかかわらず,一般に周知されていなかった点を踏まえ,調査等で得られた知見をより分かりやすく伝える努力の重要性も指摘している. (報告:F.Y.)

多賀直恒著:市民と行政は,緊急事態に何を備えておくべきか―国家の総合リスク対策の提案

熊本地震における行政の対応は次々に想定外の事態が発生し,状況把握と統率に問題があった.事前の地域防災計画は役に立たなかった.災害管理の立場から必要なことは,自治体施設の耐震性と住民住居の耐震化である.都市の発災時対応の行動原理は,市民の自助・共助と行政による公助の実行に尽きており,日常訓練と連帯体制を備えておくべきという.特に,米国のFEMA (Federal Emergency Management Agency, 連邦緊急事態管理庁) を参考にして国家統一の防災担当庁の設置を提案している.その理由は,対象とする自然災害が多様で時間的空間的にもランダムに発生し,予知・予測が現代科学では不可能であるからという. (報告:Y.M.)

千代崎一夫・山下千佳著:熊本地震に学んで—全国の運動と具体的な活動

寺田寅彦は,「天災は忘れた頃にやってくる」と言ったが,日本の最近の状況は「災害は忘れないうちにやってくる」という災害列島になっていると著者は言う.2016年4月に起きた熊本地震での建築物,特に住宅の被害を概観し,「自然現象」を「災害」にしないための運動で防災力向上のための実践を論じている.益城町では新耐震基準導入 (1981.06) 以前の木造住宅被害率が顕著に大きく,以後では,2000年の接合部等の基準の明確化 (2000.06) 以降の住宅の被害率が小さい.明らかに住宅の耐震性向上基準の底上げは効果があった.耐震化などにより減災はできる.耐震機能・容量調整装置付スマートメーターも有効だという.被災者生活再建支援制度の拡充なども必要であると論じる. (報告:T.Y.)
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