2018.9月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2018年9月10日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2018年9月号
<特集>平和への権利と日本国憲法

<報告>

前田 朗:国連平和への権利宣言とは何かー状態としての平和から権利としての平和へ
 2016 年12 月,国連総会で平和への権利宣言が採択された.この宣言の採択を求めるキャンペーンを中心的に発展させたのは,NGO のスペイン国際人権法協会である.同協会の会長カルロス・ビアン・デュランは世界各地での大規模な反戦運動にもかかわらず,ブッシュ政権によるイラク戦争を止められなかったことに怒りと失望を感じ,2006年10月に平和への人権に関するルアカル宣言(スペイン)を採択し,世界キャンペーンを開始した.日本は,戦争放棄の憲法9条と平和的生存権規定を有している.筆者を含む日本のNGOもこの世界キャンペーンに加わることになったという.1000を超える世界のNGO が連携してサンティアゴ宣言(スペイン)をまとめ上げた.国連で採択された宣言は前文で,国連憲章,世界人権宣言などを列挙し,武力による威嚇と武力の行使の禁止,人民自決の原則などを確認し,また「テロ対策措置と人権の保護」の重要性を指摘している.宣言は,前文に続いて5カ条の条文から成っている.国連で採択された宣言は,サンティアゴ宣言に比べれば,平和教育,人間の安全保障,持続可能な環境権,不服従および良心的兵役拒否の権利,抵抗権などの多くの条項が技術的理由から削除された.国連総会での採択では,賛成131,反対34,棄権19 であったが,反対は米国,主要EU 諸国,日本である.宣言採択を契機として,平和を求める世界の運動を飛躍的に発展させることが今後の課題であると著者は言う. (報告:Y.M.)

清水雅彦:平和への権利宣言と日本国憲法
 著者の専門は憲法学である.2016 年12 月に国連総会で採択された平和への権利宣言と日本国憲法の平和的生存権を比較し,今後の課題を論じている.憲法9 条1 項(戦争放棄)の解釈には,侵略戦争を放棄したとする考え方(限定放棄説,A 説)と自衛戦争を含む一切の戦争を放棄したとする考え方(全面放棄説,B 説)があり,憲法9 条2 項(戦力不保持)については,自衛のための戦力の保持は許されるとする解釈(甲説)と自衛のための戦力の保持も許されないと考える解釈(乙説)がある.日本国憲法の平和主義は世界の流れから導き出されたという.第一次世界大戦の経験から世界は,不戦条約(1928 年)により侵略戦争を放棄し,第二次世界大戦後の国連憲章第51 条は自衛権行使も制限する.日本国憲法が自衛戦争を放棄した(B 説)と考えれば,日本国憲法の平和主義は「正戦論
侵略戦争の制限侵略戦争の放棄自衛戦争の制限自衛戦争の放棄」という流れの最先端に位置する.前文2 段には,星野安三郎氏によって提起された「平和的生存権」がある.平和的生存権の権利の解釈では,「恐怖から免れる権利」を自由権,「欠乏から免れる権利」を社会権と考える.平和の問題を「権利」としたことで,少数派の「平和のうちに生存する権利」が安易には奪えなくなる.採択された平和への権利宣言には,すべての人は平和を享受する権利を有する(第1 条),国家は恐怖と欠乏からの自由を保障すべき(第2 条)などの5カ条の条文があり,平和を「権利としての平和」,「構造としての平和」と捉えている点で共通しているという.日本の市民が,国連「平和への権利宣言」の具体化の先頭に立てるように憲法改悪を阻止し,憲法の平和主義理念の実現に向けて運動すべきという. (報告:T.M.)

浦田一郎:自衛隊加憲論と日本国憲法ー防衛と行政の関係を中心に
 現在,安倍政権が狙っている憲法9 条の改憲は,「9 条1 項,2 項を残しつつ,自衛隊を明文で書き込む」というものである.本論文では,その自衛隊加憲論が,憲法における防衛の位置付けにもたらす効果を,防衛と行政に焦点を当てて議論している.安倍は「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ」ると説明している.「自衛隊の存在」を根拠づける政府の憲法解釈は,自衛力論と呼ばれ,「自衛のための必要最小限の実力」であれば憲法9 条の「戦力」に当たらないと言うものである.自衛隊加憲が行われれば,憲法上に軍事力の根拠規定が置かれることになる.その結果,軍事力制約的な要素が弱められ,拡大的な要素が強められることになる.現在明らかに成っている加憲部分の自民党案は,「法律の定めるところにより,内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」であるという.一般の行政では内閣総理大臣は「内閣を代表して」行政を行うので,閣議決定を経ることが必要であるが,「内閣の首長たる」内閣総理大臣には,閣議決定の要否や内閣との関係が論じられていない.閣議によらない行使の可能性が生ずるのであろうか? と著者は疑問を呈する.2012 年の自民党改憲案では,軍の統括について「内閣総理大臣は,最高指揮官として,国防軍を統括する」(案72 条3 項)として,内閣に属しない専権事項として閣議決定の必要性を除外している. (報告:H.M.)
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