2012.6月号

読書会日時:6月11日(月曜日)午後2時〜5時 

<特集>都市の防災

室崎益輝「都市防災の現状と課題─次の災害に備えて」
竹山清明「問題の多い都市住宅の耐震性」
関澤 愛「来たるべき大規模地震による火災リスクに備えて─市街地火災の発生を「想定」の視野に入れて」
濱田政則「地震・津波災害の軽減と安全・安心社会の構築」
鈴木浩平「コンビナートの地震被害の特徴と耐震・防災対策」
竹内康雄「川崎コンビナート地域(臨海部)の安全性向上に向けて」                  

<読書会の記録>

室崎論文「都市防災の現状と課題─次の災害に備えて」
都市防災が農村防災や漁村防災にもつながるような原因究明と基盤整備を防災の原点にという指摘や「科学や技術が倫理性や総合性を欠き,人間の命や生活を守るうえで十分に貢献しきれていないことも,災害多発の大きな原因となっている」という指摘は重要である.また,わが国の都市防災におけるさまざまな欠陥の指摘とその是正の方向性は的を射ている.筆者によれば,日本の都市防災には,実効性,体系性,科学性,戦略性,協動性の欠落があるという.実効性の欠落では,対策が的確であり,適切な処方箋が必要であるが,そのようになっていないという.例えば,地震大火を防ぐ緊急の対策は,建物すべてを耐火構造にしたり,密集市街地を解消することではなく,炎上火災を減らすことであるという.その目標の下で通電火災を5年以内に半分にすると計画を立て,感震ブレーカーの普及を図るさまざまな誘導策(地震保険を安く,業者に設置を義務付けるなど)を行うなど効果的な方途を探ることが必要という.

竹山論文「問題の多い都市住宅の耐震性」
筆者は,地震列島と呼ばれている日本の住宅の耐震性問題が多いと指摘する.最も危険な木造住宅の耐震化施策は大幅に遅れており,マンションなどの集合住宅では,危険性の高い高層・超高層のものが無計画に増加しているという.このような事態を招いた原因は,業界の利益ばかりを尊重する国土交通省の姿勢であるという.「古くても新しくても,賢い居住者は高層マンションを購入してはならない」という.ここでいう高層マンションは8〜12階建てのもので,2000年に導入された限界耐力計算法を用いて建築されたマンションは,将来予想される地震では壊れてしまうという.

関澤論文「来たるべき大規模地震による火災リスクに備えて─市街地火災の発生を「想定」の視野に入れて」
都市直下型地震による同時多発火災のリスクと,それに対する備えの課題を論じている.市街地延焼火災の局限化のためには,道路の拡幅,沿道の不燃化,木造建物密集市街地の再整備などの根本的対策とともに,耐震装置付き機器や耐震ブレーカーなどの設置による出火防止の努力や,消化器の備え,住宅の耐震化,家具転倒防止など各家庭で行えるような防災対策も必要であるという.自主防災を含めた消防力の拡充と体制作りも合わせて必要であるとしている.

濱田論文「地震・津波災害の軽減と安全・安心社会の構築」
筆者は,東日本震災の根源は地震予知と津波予知の失敗にあり,この失敗の徹底検証を行い,将来想定すべき地震・津波の予測を再度行う必要があるという.そのうえで「耐津波学」の構築を提唱している.「耐津波学」とは,津波に対して対抗できるような建物や社会基盤施設,人命損失を抑えるような町づくりなどを調査研究する分野という.そのうえで湾岸埋立地のコンビナートでの地震発生時の危険性(特に大型タンク火災と地盤液状化)について今回の震災における被害の全容を明らかにし,必要な耐震対策を着実の実行していくことを提起している.

鈴木論文「コンビナートの地震被害の特徴と耐震・防災対策」
1964年の新潟地震による石油コンビナートの10日間にわたる大火災から今回の東日本大震災によるコンビナートの大火災を振り返りつつ,わが国のコンビナートの地震被害と耐震化問題が分かりやすくまとめられている.また,今後の課題についての一連の指摘も妥当であるように思われる.しかし,今回の巨大地震・巨大津波に起因する大火災に見舞われた気仙沼の事例が取り上げられてないのは何故であろう.横浜・川崎から東京都の臨海部を経て千葉県市原・木更津に至るまでの100km以上にわたる東京湾臨海巨大コンビナートがもしも巨大地震・津波に襲われた場合には,本論文で述べられている程度のことでは済まないのではないか.コンビナートの在り方そのものから根本的に再検討される必要があるのではないか.

竹内論文「川崎コンビナート地域(臨海部)の安全性向上に向けて」
筆者は,東日本大震災を経験したことで,川崎臨海部コンビナートにおける安全性の再検討が必要だとして,同コンビナートの現状と問題点を挙げ,さまざまな改善対応策を提案している.コンビナート地域の危険性の高さにもかかわらず,行政や関連企業から法的整備の再検討や具体的再検討が聞こえてこないことを批判している.

特集以外

<討論のひろば 原発を考える> 
佐久間論文「福島原発事故と科学者」
筆者は,昨年のJSA第42全国大会において「原発に依存しない社会」を「原発のない社会」という表現に変えるよう修正案を出した提出者のひとりであり,今回の福島原発事故は「原発が人類と相容れないものである」ことを明らかにしたという.「科学の成果を人類の発展に生かすことを謳うJSAは,市民の立場に立って問題喀血にあたる必要がある」,「一歩間違えば多数の生命を危険に晒す原発は廃絶こそがふさわしい」という.ひとつひとつもっともな考えである.

セバスチャン・プフルークバイル論文「チェルノブイリードイツーフクシマ 真実を求めて」
著者は,欧州放射線リスク委員会(ECRR)の理事であり,ドイツ放射線防護協会の会長である.IAEAやWHO,UNSCEARなどの国際機関や専門家たちが,放射線被曝の健康に与える影響につて真実を伝えていないことを,チェルノブイリ後の2,3の例を示しながら明らかにしている.UNSCEARはチェルノブイリの影響について,2011年の春に出版した文書の中で「今のところ一般国民の間に,放射線に起因すると言いうる何らかの健康への影響があるとする確証はない」と書いている.しかし,カール・シュペアリングは,チェルノブイリの放射性降下物が降って9ヵ月後に,ベルリンでダウン症児の出生数が急激に上昇したことを報告している.ベラルーシでも同様に急激な上昇があったことが報告されている.ハーゲン・シェルプは,チェルノブイリの放射性降下物が降った国々では新生児の男女比が深刻に変化していると報告している.ドイツの原発周辺地域や大気圏内核実験が行われていた時代の欧米においても同じような男女比の異常があるという.また,ドイツの原発周辺に住む5歳以下の小児のガンと白血病の発生頻度は,住居が原発に近づくほど上昇するという.
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