2015.6月号

読書会日時:2015年6月8日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>「すべての生命の保障」を希求する沖縄県民の闘い

新崎盛暉:2014年知事選・総選挙の沖縄戦後史における位置
秋山道宏:沖縄経済の現状と島ぐるみの運動─建設業界を対象に
渡辺 豪:沖縄報道をめぐる課題─ジャーナリズムの原点を問い直す
村上有慶:辺野古への新基地建設反対運動─日本国家としての民主主義が問われている

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<読書会の記録>

新崎盛暉著「2014年知事選・総選挙の沖縄戦後史における位置」
 筆者は,2014年の一連の選挙結果を沖縄における民衆の抵抗と闘いの頂点をなすものという.2007年に文科省が沖縄戦当時の「集団自決」に関する日本軍の関与を削除するよう教科書検定意見を出した頃から,保革を越えてこれに反発する社会的雰囲気が生まれ,2010年の知事選の頃から元自民党の一部から共産党までが政府自民党と闘うという構図が見え始めていた.1月の名護市長選での稲嶺氏再選,11月の知事選での翁長氏の10万票差での圧勝,12月総選挙の小選挙区での自民候補全敗.これらは,新基地建設反対の現地闘争と選挙戦の一体化による,党派的利害関係や相互不信を克服した「オール沖縄」の共闘体制による結果であるという.ただ,「国民的関心の薄さ」が「民主的非暴力的抵抗闘争の前に立ち塞がり,現状変革を妨げている」一因とする著者の考えは,今の辺野古基金などに対する県外からの多額の支援から見て,適切なものとは言えないのではないか.

(報告:S.K.)

秋山道宏著「沖縄経済の現状と島ぐるみの運動─建設業を対象に」
 2014年の知事選と総選挙において,辺野古への新基地建設に反対する候補がすべて当選した背景には政治的立場をこえた一致点での「オール沖縄」,「島ぐるみ」と呼ばれる運動があった.特徴的だったのは,「基地は経済発展の阻害要因」という認識が地元経済界の一部に拡がったことである.沖縄県における建設業の比率は,全国平均に比べて高い.その背景には朝鮮戦争の勃発による急激な米軍基地建設ブームがある.復帰(1972年)当時,15.5%であった軍関係の受取は現在(2011年)4.9%にまで減少しており,軍関連従業員は9000人で沖縄の労働力人口の1.5%に過ぎない.一方,観光業の収入は9.5%を占めるに至っている.2001年のテロ以降,沖縄の観光業は落ち込む.外国特派員協会での翁長知事の会見では,「那覇市の新都心地区に52億円の軍用地領があって,25年前に返された時に,私が市長として区画整理をすると600億円になり,180名ぐらいしかなかった雇用も1万人以上になった.税収も6億円から97億円と15倍に増えている」として,基地に頼らない沖縄経済のあり方が模索されている.「信念を持って,基地はいらない.返してもらいたい」という経済界からの発言がある一方,沖縄の大手建設業の國場組は辺野古への新基地建設でのシュワブ岸壁工事(157億円)を受注している.2014年の知事選と総選挙は,このような経済界における対立の中での闘いであった.著者は,前者の勢力が増えると楽観的である.われわれも「オール沖縄」を支援し,そうなることを望む.

(報告:E.M.)

渡辺 豪著「沖縄報道をめぐる課題─ジャーナリズムの原点を問い直す」
 沖縄では,2014年の5つの選挙のすべてで米軍普天間飛行場の辺野古への移設についての反対派が勝利したにも関わらず,政府は移設を強行している.在京メディアは,移設作業の進捗状況は時折触れられるが,辺野古での市民の阻止行動と国の強制排除の激しさはほとんど触れない.去る2月の中旬,海上保安庁の佐藤長官は定例の在京メディアへの記者会見で辺野古沖の海上警備に関する地元紙(沖縄タイムス,琉球新報)の記事を「誤報」と指摘した.地元紙に対しては「誤報」という直接の指摘も抗議もなかったという.「誤報」であるとの自信があれば直接地元紙に対して抗議すべきである.それをしないのは,なによりも地元紙の報道が真実であることの証である.自民党政治家や政府関係者からの沖縄のメディアに対して「偏向している」という偏見は根強い.「地方メディアが『偏向』のレッテルを張られる状況は,政府迎合のメディアが中央で幅を利かせている現実と表裏一体ではないのか」と著者は鋭く在京メディアを批判する.

(報告:T.M.)

村上有慶著「辺野古への新基地建設反対運動─日本国家としての民主主義が問われている」
 本論文では,1996年に7年以内に普天間を返還する約束したSACO合意よりの沖縄の闘いをレビューしている.「祖国復帰は果たしたが,『基地も核もない,緑豊かな沖縄の返還』はみごとに裏切られ」,「基地の島沖縄は,沖縄県民が望んでできたものではない」,「今回,辺野古の新基地建設を許すことになれば,沖縄県民自らが,基地を望んで建設したことになる」など痛切な訴えがある.木村草太准教授(首都大学東京)が言っているように憲法95条【一つの地方公共団体のみに適用される特別法は,法律の定めるところにより,その地方公共団体の住民の投票においてその過半数を得なければ,国会は,これを制定することはできない】の利用を考えるべきではないか.

(報告:T.Y.)

安部真理子著「辺野古・大浦湾の生物多様性の価値」
 大浦湾・辺野古海域にはサンゴ群体や海草藻場など他の海域では見られない高い生物多様性が保持されているという.そのうえで基地建設の前段階であるボーリング調査なども「調査」という名のもとに行われる環境破壊であると指摘している.この海域は,環境省が選定した重要海域の一つであり,沖縄県が「沖縄県の自然環境の保全に関する指針」ランク1(厳正な保護を図る区域)として指定した区域である.海の埋立は不可逆的であり,埋め立て工事が進めば,未知の部分が多いサンゴ礁生態系が永久に失われると警告する.注意:「群集」とは,一般に,ある地域に生息する異種生物の集まりをいい,本論文で使っている「サンゴ群集」は「群生するサンゴ類の集団」(本論文の意)の意味だけでなく,「造礁サンゴをめぐる生物群集」(=サンゴ礁群集)という意味で使われることがある.前者の意味で使う場合には,サンゴ群集という用語は曖昧で適切でなく,群体(colony)という用語を用いるのが適切であろう.                                   

(報告:Y.M.)

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