2014.10月号

読書会日時:2014年11月10日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

(※)10月13日(月)に予定していた読書会は台風の影響のため中止し,11月10日(月)に延期しました.

<特集>超伝導磁気浮上式「リニア新幹線」の徹底解剖─文明論,基礎技術,環境保全,経済などの視点から

小濱 泰昭:リニア新幹線をめぐる諸問題──燃費はリニアの皮を被った蒸気機関車並み
松島 信幸:南アルプスをリニア新幹線が貫くと   
糸魚川淳二:環境保全から見た「リニア新幹線」──岐阜県東濃地方の事例を中心に   
橋山禮治郎:経済学的側面などから見た「リニア新幹線」──必要性と採算性を事前評価する


<読書会の記録>

小濱泰昭著「リニア新幹線をめぐる諸問題─燃費はリニアの皮を被った蒸気機関車並み」
 筆者は,リニアモーターカーに代わるエネルギー効率のよいエアロトレインを研究している工学者である.著者によると,リニアモーターカーは,磁石間距離が10cmと広いためエネルギー効率が格段に悪く,空気抵抗が大きく燃費効率は蒸気機関車なみとのことである.さらに,開放構造であるリニアモーターは劣化しやすく,強い電磁波が漏れる危険もあり,高速走行による騒音や低周波振動で住民を苦しめ,次世代にも禍根を残す乗物であるという.著者の概算では,500km/h走行時の消費電力は,リニア100に対して,新幹線35,著者のエアロトレイン10である.このような技術的な問題点の検討をしないままでのリニア新幹線の推進は,原発推進の失敗と同じ過ちを踏むことになりはしないか.

(報告:T.Y.)

松島信幸著「南アルプスをリニア新幹線が貫くと」
 著者は,小中学校で理科教育を勤められる傍ら,伊那谷の段丘に関する研究をされ,従来,伊那谷の段丘は天竜川が作った河岸段丘と信じられてきた地形が,活断層による変動地形であることを明らかにした.その論文で九州大学から理学博士の学位を授与された.その著者が,南アルプス(赤石山脈)を貫き,富士川からトンネルに入り大井川を潜り天龍川に至る50kmにおよぶ長大なトンネルに関連して,地震,活断層,水の枯渇,残土の問題などさまざまな問題について,リニア新幹線に対する危惧・危険性を指摘している.最後に著者は.「自然の摂理を無視して営利と利便性を求めてはならない」と指摘する.

(報告:S.K.)



糸魚川淳二著「環境保全から見た「リニア新幹線」─岐阜県東濃地方の事例を中心に」
 本論文では,岐阜県の東濃地方の事例を中心にリニア新幹線を論じている.この地方には,ほぼ直交する2つの活断層群がある.(阿寺断層,赤河断層,権現山断層,華立断層)と(屏風山断層,恵那山断層)がある.阿寺断層は,日本有数の活断層であり過去にM8クラスの地震を起こしている.リニア新幹線の災害・湿地・植生・環境・景観への影響をもとにして,著者は,戦後走ってきた道を立ち止まって未来を見直す必要があるのではないかと述べている.

(報告:F.Y.)



橋山禮治郎著「経済学的側面などから見た「リニア新幹線」─必要性と採算性を事前評価する」
 経済学的側面からリニア新幹線を検討している.インフラ施設の成否は,その目的の妥当性・必要性とともに,その採算性,技術的信頼性および環境適応性という.ある世論調査では,東京—大阪間2〜3時間が理想的:78%に対して1時間程度:16%という結果をみれば,リニア新幹線はその目的の妥当性・必要性については大きな疑問符がつく.著者はリニア新幹線の採算性を疑問視しているが,その理由は需要予想が極めて安易であること,建設工事費が膨大であること,およびリニアという技術選択の誤りを上げている.リニア計画は,失敗すれば巨額の失敗コストが国民の負担になる.初めから成功が見込めない計画は,着工以前に断念すべきであると著者は警告している.

(報告:Y.M.)


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