2015.11月号

読書会日時:2015年11月9日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>「隣国ロシアにどう向き合うべきか」
堀江則雄 著「ウクライナ危機をどう見るか ― プーチン戦略を踏まえて」
黒岩幸子 著「「北方領土」問題の現状と展望」
蓮見 雄 著「EU・ロシアのエネルギー関係の変化と日本への示唆」
安木新一郎 著「日ロ経済関係の新局面」

<特別企画>
河村 豊 著「軍事研究を拡大させる「軍学共同」の新たな動きー最近15年間の動向から考える」

以下は11月9日(月)の読書会において報告されたレジュメをもとに『日本の科学者』読書会の様子を編集したものです.

堀江則雄 著「ウクライナ危機をどう見るか ― プーチン戦略を踏まえて」
ウクライナ危機を生み出した要因には,ウクライナ「国民」が形成されていない(国民の一体化・統合が出来ていない)ことがあると著者はいう.ウクライナは歴史的に東西に分離しており,東部は17世紀から帝政ロシアの一部であり,西部はポーランドの一部であった.言語・宗教も,東部はロシア語・ウクライナ正教,西部はウクライナ語・当方カトリック教と異なっている.ウクライナは独立以来,大統領・権力者による汚職や新興財閥(オルガリヒ)の政権癒着などを背景として異常な経済破綻に陥ったという.ウクライナ危機の底流には,米国とロシアの戦略的思惑の対立がある.NATOやEUの東方拡大が一方であり,プーチンは「ユーラシア経済連合」を打ち出している.プーチン戦略は,ロシア・中国・インドのユーラシア大国の結束を軸に,従来の国際政治経済秩序の転換を図る路線を明確にしつつあるという.ウクライナの「クライー」は「端」を意味する.ウクライナはEUの「端」でもロシアの「端」でもなく,双方の「架け橋」になる地政学的位置にある.ウクライナが危機を脱して発展する展望は,ここにしかないと著者は強調する.(報告:T.M.)

黒岩幸子 著「「北方領土」問題の現状と展望」
日本は,中国・台湾・韓国・北朝鮮・ロシアのすべての隣国と領土問題(尖閣列島,竹島,北方領土)を抱えているが,北方領土問題は①依拠すべき多数の公文書が存在し,②人が暮らしており,③両国が交渉の意思を持っている点で特徴がある.この問題に関連する条約は,日魯通商条約(1855年),樺太千島交換条約(1875年),ポーツマス条約(1905年)およびサンフランシスコ条約(1952年)である.サンフランシスコ条約2条c項で放棄した「千島列島に国後・択捉(=南千島)は含まれない」との主張で歯舞・色丹・国後・択捉の4島を「北方領土」と呼ぶようになった.1956年の日ソ共同宣言では,平和条約締結後に歯舞・色丹の引き渡しを明記している.そして,2001年のイルクーツク声明でこの共同宣言は基本的文書であることが確認されている.しかし,2002年,鈴木宗男議員の逮捕により,外務省の対ロ外交チームも解体されて以降,日ロ交渉が停滞している.著者は「2島プラスα」案を提案して,国後・択捉の帰属については期限付き協議を求めている.(南千島の返還あるいは全千島の返還を目指すかいずれにしろ,サンフランシスコ条約2条c項の廃棄は必要ではないか?)(報告:E.M.)

蓮見 雄 著「EU・ロシアのエネルギー関係の変化と日本への示唆」
これまでは,エネルギー市場は売り手市場であると暗黙の前提があったが,自由化と再生可能エネルギー(再エネ)の発展によって,エネルギー市場は急速に買い手市場に変化しつつある.EUとロシアのエネルギー関係は,この変化を示す実例である.本論文では,EU・ロシア関係を素材として日本が対ロシア関係で取るべき外交姿勢を考察している.EUは,供給源・エネルギーミックスの多角化(再エネの開発など)やエネルギー網の相互接続による消費国協力を進める中で化石燃料のロシア依存を軽減してきた.たとえば,世界のガス輸入の9.5%を占めるドイツは他のEU諸国と協力することで大口の買い手として振る舞うことが出来ている.世界のガス輸入の11.5%を占める日本は,再エネの開発などエネルギー市場の自由化とともに,韓国や台湾と協力することでEU諸国に匹敵する大口の買い手としてロシアと交渉することが必要だと強調している.(報告:T.Y.)

安木新一郎 著「日ロ経済関係の新局面」
プーチン政権下で経済成長してきたロシアは,2013年から国際原油価格の低迷,ルーブル為替相場の急落,ウクライナ危機に端を発した対ロ経済制裁などにより,GDP成長率は鈍化してきている.ロシアは,日本の北に広がるロシア200解離水域でのサケ・マス漁の2015年の割当量を前年比7割減にしたり,2016年1月からロシア水域でのサケ・マス流し網漁を禁止したり,パイプラインによる天然ガス輸出計画をアムールヒョウ保護を名目に中止したりしている.これらは自然環境保護を名目にした対ロシア経済制裁への報復であるという.他方では,プーチンはロシア極東に経済特区「先進経済発展地域」などを設置して日本企業にロシア極東への投資を呼びかけている.本来,経済面では潜在的に互恵関係にある日ロは協力しているべきであると著者はいう.(報告:Y.M.)

河村 豊 著「<特別企画>軍事研究を拡大させる「軍学共同」の新たな動きー最近15年間の動向から考える」
軍学共同に関する新たな3つの動きを告発している.1つは,2014年8月に防衛省が公表した「安全保障技術研究推進制度」である.防衛装備品の能力を飛躍的に向上させるため,大学や独立行政法人の研究機関や企業等における独創的な研究を発掘し,将来有望な芽だし研究を育成する制度とされている.2つめは,米国の国防高等研究計画局(DARPA)を参考にして総合科学技術会議が提案した「革新的研究開発推進プロジェクト(ImPACT)」である.2013年度の補正予算では,このプログラムには5年間で550億円が計上されており,防衛省を含めた省庁横断が特徴である.最後は,「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」を使い,軍事目的に応用できる技術を企業の中から発掘,資金面で支援し,技術革新を促そうという動きである.表向きは「軍事研究」の表現が使われることはないが,「両用技術」という表現で実質的には軍事技術の研究に門戸が開かれようとしている.最後に著者は,軍事研究の最終的成果は破壊技術の生産であり,日本が進むべき道は非軍事の科学技術政策を提示することだと結論している.(報告:S.K.)

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