2013.1月号

読書会日時:1月14日(月曜日)午後2時〜5時

<特集>国際原子力ムラ その虚像と実像
髙橋博子著「冷戦下における放射線人体影響の研究 ー マンハッタン計画・米原子力委員会・ABCC」
Y.ルノワール著「国際原子力ムラ ー その成立の歴史と放射線防護の実態」
W.チェルトコフ著「チェルノブイリの犯罪 ー フクシマにとっての一つのモデル」
A.R.カッツ著「チェルノブイリの健康被害 ー 国際原子力ムラの似非科学vs独立系科学」
松崎道幸著「ガンリスクは10ミリシーベルトでも有意に増加 ー 日本の原発労働者の疫学調査がICRPのリスク評価の見直しを迫る」
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髙橋博子著「冷戦下における放射線人体影響の研究 ー マンハッタン計画・米原子力委員会・ABCC」
 1958年の国連科学委員会(UNSCEAR)の報告では,ストロンチウム90の人体への集積を通して,その影響が5歳以下の子どもや胎児に対して特に大きいことが指摘されていた.しかし,このような指摘は現在の国際原子力ムラの「国際的科学的知見」には反映されていない.米原子力委員会や国際原子力機関(IAEA),UNSCEAR,国際放射線防護委員会(ICRP)などが互いに協力して形成されてきた国際原子力ムラは,核開発や原子力発電の推進という立場の利害を守るため,放射線の影響を過小評価する「国際的科学的知見」を徹底して浸透させた.福島第1原発事故を経験し,核を守るための科学から脱却し,とりわけ弱い存在である胎児や子どもたちへの放射線の人体影響を,人間を守るための研究に根本から作り直す必要がある.筆者は,その点で自らも参加する「市民と科学者の内部被曝問題研究会」に期待を寄せている.(報告:T.Y.)

Y.ルノワール著「国際原子力ムラ ー その成立の歴史と放射線防護の実態」
 福島第一原発の過酷事故において,チェルノブイリ事故の教訓は,住民の防護のために生かされるどころか,放射線の被害をより徹底して否定するために利用されている.国際放射線防護委員会(ICRP)などの国際機関は,原子力産業の発展を維持するために支援をしている:広島と長崎の惨事に対して,内部被ばくについての考慮が無視された.チェルノブイリでは,事実を隠蔽する役割を果たした.チェルノブイリ事故の被害を認めなかった張本人たちが,いま福島で跋扈している.チェルノブイリ事故から何年も後になって,旧ソ連の医療組織が行った数々の科学的研究結果が取りまとめられ,”Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment”(2006)としてロシアのナウカ出版から出されたが,この本に引用された論文は原子力マフィアから排斥されたばかりか,これらの論文の著者の多くは厳しい弾圧(降格,投獄,あるいはテロ)にあったという.いま,福島で活躍しているミハイル・バロノフや山下俊一氏は紛れもない原子力マフィアの古株であると著者は指摘する.
(報告:K.C.)

W.チェルトコフ著「チェルノブイリの犯罪 ー フクシマにとっての一つのモデル」
 著者は,1990年から2010年までの間にチェルノブイリを8回現地取材した元スイス国営放送のジャーナリストである.ヨーロッパの原子力ロビーと公的医学界は,チェルノブイリ事故によって汚染された広大な大地という実験場で数百万人の人間をモルモットにして,新たな疾患の実験を進めることを四半世紀にわたって意図的に強いているという.ここでは,特に,ベラルーシで実施された「エートス・プロジェクト」の犯罪性を告発している.このプロジェクトは,フランスで原子力過酷事故が起きたとき,事故後の管理に役立つデータを収集することを目的で行われた.安定した科学情報を得るために,体内の放射性セシウムの吸着剤の投与を拒否したために,子どもたちの体内に蓄積された放射性セシウムの量は変わらなかったという.このプロジェクトに関与したフランス人教授は,「私の研究室ではこのような実験には従事できなかっただろう.それをいま,こうして観察できているのだ」と言ったという.著者は,同じことが福島で行われようとしていると警告している.
(報告:M.K.)

A.R.カッツ著「チェルノブイリの健康被害 ー 国際原子力ムラの似非科学vs独立系科学」
 ニューヨーク科学アカデミーが独立系研究者による研究報告を集めたチェルノブイリに関する本”Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment (2009)”を出版した(日本語訳が進行中であるが,英文版のpdfファイルはネット上で入手可能).この本にある報告を参考にしてみれば,国際原子力機関(IAEA)の報告(2005年最終報告者「チェルノブイリの遺産」)がチェルノブイリ事故の被害を小さく見積もり,さらに「チェルノブイリによる影響では,メンタル的な健康被害が最大の公衆衛生の問題」,「放射線被ばくの健康への危険性が大げさに感じられている」などとチェルノブイリ犠牲者に似非科学の攻撃を加えていることは明らかである.この報告集は,英文で300ページを超えるものであるが,私たちにとって必読書になるものと思われる.
(報告:Y.M.)

松崎道幸著「ガンリスクは10ミリシーベルトでも有意に増加 ー 日本の原発労働者の疫学調査がICRPのリスク評価の見直しを迫る」
 日本政府は1990年から「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係わる疫学調査」を継続しており,5年ごとに行われる調査の報告書が2010年3月に公表された.その概要は,①対象:男性203,904人(観察人年222.7万人),②平均観察機関:10.9年,③死亡数:14,224人,うちガン死亡5,711人(肺がん1208人,肝がん938),④平均累積線量:13.3mSv,⑤全ガンの標準化死亡比:1.04,肝・肺がん:1.13および1.08と一般男性に比べて有意に増加である.これまで政府は100mSv以下の放射線被ばくのリスクはないかきわめて小さいといってきた.この報告書は,10mSv程度の被ばくでも数%オーダーのがんリスクの増加があることを明確に立証している.ところが政府は,飲酒や喫煙などに原因があり,放射線被ばくとの関連を否定している.本論文では,これらの点を調べるために,肝がんと飲酒,肺がんと喫煙などの関連を詳細なデータに基づき検討している.検討の結果は,原発労働者の肝がん死亡率が一般国民より有意に高いことを飲酒習慣の違いで説明することは出来ず,また,原発労働者の肺がんと被ばく線量の関連が喫煙状態の交絡(confounding)によるという推論には困窮がない,であった.このことは,福島の子どものみならず大人についても速やかな避難や疎開の必要性を考える時がきていることを示しているのではないかと著者の松崎氏は警告している.
(報告:M.K.)
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