2018.7月号

『日本の科学者』読書会
読書会日時:2018年7月9日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

『日本の科学者』2018年7月号
<特集>「市民と野党の共闘」が変えたもの

<報告>

中野晃一:市民の政治参加と政党政治の変容ー「占拠」から「選挙」へ
 2015年において安保法案に反対する運動は,立憲民主主義の破壊に抗する主権者運動としての性格を有し,9月19日の安保法制強行成立とともに,国会前の「占拠」から議会内に市民の代理人を「選挙」して行こうと新たな展開を見せた.同年12月20日にSEALDsや「ママの会」,「学者の会」など5団体有志が「安保法案の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)を結成した.このような動きの中で,市民も政党と共に選挙の主体であり,市民が選挙闘争に介入し「選挙を変える」という動きが強まるとともに,市民連合は,野党統一候補擁立を目指す市民団体と連携し,2016年7月の参議院選挙で32の一人区すべてで候補者の一本化を要請し,候補者一本化が進むと各統一候補と個別の政策協定書を交わした.32の一人区のうち11選挙区で野党統一候補が勝利した.昨年秋に安倍が仕掛けた解散総選挙において,突然に民進党が希望の党へ合流するという状況の中で,それまで全国各地で築いてきた共闘のネットワークがこの逆流を押し返す力を生み出した.市民の政治参加の広がりと深まりによって,政党政治は確実に変わりはじめている. (報告:Y.M.)

佐々木寛:新潟県の市民と野党の共闘についてー「市民政治」の生成と展開
 2017年の衆議院選において,新潟県では全ての選挙区で「希望の党」抜きの野党共闘が実現し,6つの選挙区のうち4選挙区で野党候補が与党候補に勝利した.その背景に新潟独自の「市民政治」のダイナミズムがあったという.2016年以降の全野党と市民をつなぐ「新潟モデル」は,共産党を除く野党のネットワークの上に高い組織力を持つ共産党を加えることで実現した.安保法制廃止を求めて設立された「市民連合@新潟」は,統一候補実現に向けてのシンポジウムを行うなど,政党間の「橋渡し役」を果たし,7月の参議院選で勝利した.柏崎刈羽原発の再稼働問題が最大の争点となった2016年10月の知事選では,「野党第一党」や「最大の労働組合」を抜きに選挙戦に望むことになったが,争点が明確で,投票率が上がれば,勝てるという自信が市民の中にあったという.現在の深刻化する権力の逸脱を止めるためには,「市民」が選挙や政党などの既存の制度民主主義の中へも積極的に「介入」し「参加」していく必要がある.最後に,①今後の選挙でも野党共闘を目指すこと,②野党共闘の政治的意義を常に明確にすること,③誕生させた新たな政治権力をどう監視するかという課題などがあると指摘している. (報告:K.K.)

森原康仁:「市民と野党の共闘」と市民の政治参加ー三重県における2度の国政選挙の価値
 三重県では,2017年10月の総選挙は2016年の参院選に引き続き「市民と野党の共闘」がキーワードの国政選挙となった.この共闘は,2015年の安保法制の攻防から育まれた多様な市民と野党の共闘の蓄積の中から生まれた.立憲民主党の成功も「市民の政治参加の成功」であると著者はいう.「市民連合みえ」は総選挙で統一候補実現に努力し4選挙区のうち2選挙区で統一候補の擁立に成功し,1選挙区で勝利した.惜敗した統一候補も激しく追い上げた.自民党県連の幹事長も「市民連合みえが橋渡しした野党共闘の脅威」を投票日翌日に語った.2016年の参院選で三重県では「市民連合みえ」は各野党とのブリッジ共闘を仲立ちし,野党共闘に後ろ向きであった候補者を統一候補として擁立し勝利していた.この勝利が候補者自身を大きく変え,「野党共闘は欠かせない」という認識を市民や各政党にも強く残した.「市民連合みえ」は,9月28日の民進党の希望の党への合流劇を「多くの市民の選挙への流れを断ち切りかねない動き」とし,安保法制を容認する希望の党の支持はできないとした.この段階では民進系候補は希望への合流を否定せず流動的であったが,10月6日に「市民連合みえ」は2選挙区で民進,共産,社民との政策協定を調印し,統一候補が実現した.著者は,市民の政治参加が実質的に進むかどうかが重要であり,そのためには誰もが納得し得る一致点を掲げることが大切という. (報告:Y.S.)

遠藤泰弘:2017年総選挙,愛媛3区における市民の闘い
 著者の専門は政治学であり,成り行き上,2017年10月の総選挙で愛媛3区に深く関わりを持つことになったという.もともとこの選挙区は2017年10月に補欠選挙が予定され,民進党の白石洋一氏がその候補者として準備をしていた.相手予定候補者は女性スキャンダルなどもあり,情勢的にも十分に勝算のある状況であったという.著者は,2012年の安倍政権誕生以来,集団的自衛権行使容認の閣議決定などに危機感を持ち,民主党愛媛県連主催の講演会などで講演し,その関連で白石氏とも親交があった.前原氏による民進党の希望の党への合流が,半年以上にわたる補選準備をあっけなくリセットしてしまい,希望の党からの出馬を余儀なくされたという.希望の党からの出馬の報に,安保法制への反対運動を行ってきた多くの市民や政党から「議席のために筋を曲げた」,「裏切り者」という非難にさらされ野党統一候補の取り組みも吹き飛んだ.著者は,これらの批判を「大局観を欠いた過剰反応」といい,「2016年参院選で野党統一候補の擁立に大きな役割を果たした市民団体は,10月6日に希望の党を非難する声明を出すなど迷走状態となった」ともいう.希望の党に対する評価が三重県の例(前論文)と随分異なっている.選挙結果は白石氏の勝利となった.「希望の党の応援はできないが,(白石)洋一さんは応援する」という声もあったという.勝利の要因として,白石氏の地道な政治活動,相手候補のスキャンダルなどをあげている. (報告:E.M.)

岡田健一郎:高知県の市民と野党の共闘について
 2017年の総選挙において,高知2区では野党統一候補の広田一氏が自民党前職の山本有二氏を破った.これは,高知の市民と野党の共闘における重要な到達点であるが,その根底には,長期にわたる多くの人々の信頼関係とネットワークがあったという.高知の労働運動や平和運動における信頼関係と人的ネットワークは,総評分裂後も政党・労組を越えた多くの人々の努力により繋がれていき,やがて脱原発などの取り組みを通して市民が参加することになった.安保法制問題を機に,各政党は市民からの野党共闘の強い後押しを受けることとなり,総選挙では市民からの継続的な統一の要望により2区の民進党広田候補が無所属出馬を決断したことで公示直前に統一候補となった(1区では民進党候補が希望の党からの出馬となり統一がならなかった).これらの背景には,高知では昔から政党を越えた人的なつながりがあり,民間企業の圧倒的影響が少ないことで,総評分裂後にも公務系労組の発言力が強いことがある.高知では4野党といえば,民進(立憲民主),共産と社民,新社会党であり,農林水産業や中小企業を基盤とする自民党と労組を基盤とする4野党が対峙している構造があるという.このような伝統を生かしつつ,組織化されていない市民の声を取り入れていく必要があり,そのためには候補者選定も透明化して市民の意見を反映していくことが大切であると著者は言う. (報告:F.Y.)
inserted by FC2 system