2016.1月号

読書会日時:2016年1月11日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>「平和学の現在—安保法成立後の世界平和の課題」
君島東彦 著<巻頭言>「ダイナミックなプロセスとしての憲法平和主義」
J. ガーソン著「パクス・アメリカーナ ―オバマ政権末期における現状,次期政権の課題」
C. シュバイツアー 著「ドイツにおける平和問題の軌跡と現在—安保法成立後の日本への示唆」
劉 成 著「中国における平和学の動向—南京大学を中心とする平和学の発展の軌跡」

以下は1月10日(月)の読書会において報告されたレジュメをもとに『日本の科学者』読書会の様子を編集したものです.

君島東彦 著<巻頭言>「ダイナミックなプロセスとしての憲法平和主義」
 日本国憲法を固定的にとらえるのではなく,「漸進的平和主義」としてダイナミックなプロセスとしてとらえ,さらに憲法9条第2項を「挙証責任・説明責任を日本政府に負わせる規定」とする君島氏の見解は,大変,現在の日本の政治状況のもとで重要なものであると思う.

J. ガーソン著「パクス・アメリカーナ ―オバマ政権末期における現状,次期政権の課題」
 本論文は,米国における平和学の現在というよりは,米国の世界戦略を解説したものになっている.著者は,米国の世界戦略の焦点はユーラシア大陸の支配にあるという.その一つは,「アジアへの旋回」と呼ばれる対中国戦略である.その中心となるのが米日韓の「地球規模の同盟」である.中国に対しては「国際的な基準や法」すなわち米国基準を押し付ける.しかし,この基準は米国の利益に役立つように立案されたものである.多くの中国人は,自らの歴史的な使命を取り戻すためには不平等な規則はかえなければならないと信じている.こうして中国は海上協力機構の創設や南シナ海における領有権の主張,新シルクロード構想,アジアインフラ投資銀行の創設などで対抗している.もう一つの米国の戦略は,対ロ戦略であるという.米国は,NATOをロシア国境にまで広げて,ロシアの孤立化をはかる.これらの問題に対して,国際的な市民社会のたたかいが求められていると著者はいう.(報告:T.Y.)

C. シュバイツアー 著「ドイツにおける平和問題の軌跡と現在—安保法成立後の日本への示唆」
 近年のドイツにおいても,世界的な危機に対応して軍事化していく側面と,平和運動の成果として非軍事的な平和構築を進める側面の両面が存在するという.1955年以降,東西ドイツの中で再軍備が進行した.ドイツへの核兵器配備反対などの運動はあったが,旧ユーゴスラビアでの内戦に際して,軍事介入について反対と賛成で平和運動は分裂した.緑の党もNATO域外での軍事行動にもほとんど支持することになる.コソボ戦争の効果として,2000年頃から,ドイツ政府は,平和的紛争解決に取り組む新しい制度をいくつも創設したという.平和・紛争プログラムをいくつかの大学(現在,8大学)に開設した.いまでは多くの学生が平和・紛争学を大学院で学ぶようになっている.最後に著者は,「政治と経済はすでにグローバル化している.平和運動と良識ある人々もグローバル化する必要がある」と主張する.(報告:E.M.)

劉 成 著「中国における平和学の動向—南京大学を中心とする平和学の発展の軌跡」
 著者は南京大学の教授であり,平和学の教育・研究を積極的に推進している.2000年に南京大学で始まった中国の平和学は,今では一つの学問分野として中国の学術界に広く知られるようになり,多くの学部学生や大学院生が卒業論文のテーマとして平和学の諸問題に注目し始めているという.中国伝統思想の中には豊かな平和思想がある.儒家思想は「和而不同」を主張し,道家の老子は「柔弱は剛強に勝つ」という平和戦略を主張する.また仏教の根本的主旨は平和であるという.2014年,ユネスコは南京大学に「ユネスコ平和学教授」のポストを置くことを提案し,南京大学はそれを受諾し,現在,平和学に関するシンクタンク設立を目指しているという.非暴力を主張する著者の平和学は,現政府の政策と相容れない面もあるように思われるが,著者の努力に敬意を表したい.著者の考えが中国政府の考え方となることを期待したい.(報告:Y.M.)
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