2014.3月号

読書会日時:2014年3月13日(月曜日)午後2時〜5時
読書会場所:ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)604室

<特集>原発過酷事故を倫理的・道義的に考える

中野貞彦  まえがき
牧野広義  ドイツの脱原発倫理委員会報告書から何を学ぶか
谷江武士  原発過酷事故を倫理的・道義的に考える─経営分析の面から
橋本淳司  地下水涵養と生態共生管理─持続可能な水の利用法の考察
青水 司  原発と科学者の社会的責任─科学・技術の二面性と倫理問題
島薗 進  閉ざされた科学者集団は道を踏み誤る─放射線健康影響の専門家は原発事故後に何をしたのか

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牧野広義著「ドイツの脱原発倫理委員会報告書から何を学ぶか」
 3.11原発事故後の4月4日にドイツのメルケル首相は「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」を設置した.倫理委員会は,5月30日,「ドイツのエネルギー転換—未来への共同作業」という標題の報告書を提出し,原発を段階的に廃止することを提言した.この報告書を受けて,メルケル内閣は2022年12月31日までに原発の完全廃止を決定した.報告書の提起する価値理念は「持続可能性」と未来に対する「責任」である.「持続可能性」とは,環境の保全と社会的正義,健全な経済であり,未来に対する「責任」は,ドイツ基本法(憲法のこと)に「国家は未来世代に対する責任を果たすためにも」「自然的生命基盤を保護する」と謳われている.原発の利用は,エコロジー的,経済的,社会的適合性という基準に従って,よりリスクの少ないエネルギーによって代替できる限り速やかに終結させる,としている.また,報告書は,ドイツのあらゆる政治的・経済的な組織と市民が参加する「未来のための共同事業」を提起している.特徴は,エネルギー転換による新たな企業の設立や雇用の創出などの経済的側面の重視である.日本では3.11後にも,「原発利益共同体」が原発推進勢力となっているが,日本国憲法の13条(生命,自由,幸福追求権)や25条(健康で文化的な生活の権利)は,環境権の根拠であり脱原発の理念ともなるものである.憲法を活かす運動と脱原発を結びつけて発展させ,再生可能エネルギー資源大国である日本においても,市民の取り組みや企業の活動などで再生可能エネルギー利用の飛躍的増大が重要であると結論している.                    (報告:Y.S.)

谷江武士著「原発過酷事故を倫理的・道義的に考える─経営分析の面から」
 東京電力(以下,東電)の住民や企業への賠償費用は最終的に5兆円半ばになるといわれている.また,2013年3月末の東電の財政状態は,資産合計約14.6兆円,負債合計約13.8兆円,純資産合計約8000億円である.しかし,国が「原子力損害賠償支援機構」を通じて1兆円を融資したことから,この純資産合計になっている.国はすでに東電株の50%以上を保有しており,東電は実質的には国有化されたといってよい.損害賠償費用や廃炉費用,除染費用,中韓貯蔵施設などの負担には巨額の国費などが投入されている.結論として,原発利益共同体や東電の経営責任・道義的責任が問われている,としている.しかし,東電は実質的に国有化されており,名目的に私企業体としての形が保たれているに過ぎない.したがって,責任を問うべき相手は,国・政府と東電であろう.                             (報告:K.C.)

青水 司著「原発と科学者の社会的責任─科学・技術の二面性と倫理問題」
 3.11が明らかにしたことは,この国では,資本も権力も倫理観はなく,社会的責任を取らないということであった.「原子力ムラ」を糾弾するとき,返す刀で科学技術や科学者のあり方も問われなければならないとして,本論文では,科学者の社会的責任について検討している.かつては,科学と技術は別物であったが,現代では,科学と技術というよりは科学・技術となった.「科学・技術者は,科学・技術の発達を目指す以前に人類の生命,自由,幸福のために貢献せねばならない」,「人間にやさしくない『科学』は科学でない」,「科学を世界観,倫理観や人類の幸福と調和させることが求められ,そこに科学者の社会的責任がある」,「資本や権力と対決しなくてはならない」などと筆者は,科学・技術を主観的・観念的に捉えているように思われる.心持ちは分かる面も多いが,価値中立説の立場からの問題の整理も必要ではないか.     (報告:T.Y.)

島薗 進著「閉ざされた科学者集団は道を踏み誤る─放射線健康影響の専門家は原発事故後に何をした」
 2011.3.11原発事故後,関連する専門領域の科学者は適切な行動を取ったか.放射線健康影響の専門家たちは事故後の数ヶ月間,被災者や日本社会に適切な情報を提示し得たか.日本学術会議が迅速に設けた三つの分科会の一つ「放射線の健康への影響と防護分科会」の活動の記録から得られる答えは否定的なものである.これらの分科会は6ヵ月足らずの時限であったにもかかわらず,第1回の会合が行われたのは,設置後2ヵ月半以上経った6月24日であった(他の二つの分科会は4月20日に第1回目の会合を開いた).「国民へ現時点での正しい情報を伝え、国民の不安の解消を図るとともに、国民の放射線へのリテラシーの向上を図る」目的で7月1日に講演会「放射線を正しく恐れる」が開かれた.講演会では,定説とはなっていない放射線のポジティブな影響を示唆する仮説がことさら取り上げられ,ネガティブな影響を示唆する有力な仮説が同等には扱われず,「国民の不安の解消」を試みた.この分科会では,①ほとんど討議をしていない,②放射線の健康影響を注意すべきという学者をメンバーにしようとした形跡がない,③「正しく恐れる」ための情報発信を是とする立場への異論の記録がないなど,およそ科学的な立場とは無縁な閉ざされた形の運営がなされた.
以下の記述の誤りがあった:(p.28左欄下から14行目)2014年4月→2011年4月;(p.28左欄下から12行目)放射能対策分科会→放射線の健康への影響と防護分科会.    (報告:S.K.)
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