2012.9月号

読書会日時:9月10日(月)午後2時〜5時

<特集>新しい社会運動の胎動

原民樹論文「反原発運動のエートスーエジプト革命から受け継いだもの」
島野照・本田潤一論文「オキュパイ・ウォールストリートの実像」
木原隆論文「2012年京都市長選挙とダンス規制反対運動」
梶原渉論文「3.11以降の原水爆禁止運動ー新しい社会運動との関わりと今後の課題」

特集以外

牟田おりえ論文「Independent WHO主催ジュネーブ・フォーラムの報告」
乾風ほか論文「煙樹ヶ浜松林の松枯れ実態調査」
jjs2012.9


<読書会の記録>

原民樹論文「反原発運動のエートスーエジプト革命から受け継いだもの」
福島原発事故を契機とした日本における一連の反原発運動は,とりわけ2011年のエジプト革命の影響を受け発展している.その点に注目して,いまの反原発運動の特徴を論じている.タハリール広場で発揮されたエジプト革命の精神は,①高い道徳性,②参加者階層の多様性の尊重,③指導者のない脱中心的組織運営,④ITによる情報伝達と主体性重視,であるという.そのなかで,望む社会を小規模でも具現化する意味での「予示的政治」pre-figurative politicsが示され,この精神はスペインのマドリード・ソル広場や米国の“Occupy Wall Street”運動,また日本の反原発運動にも継承されているとする.この根幹には,政治的主張や思想・論理ではなく,生きる喜びや理想への想像力という素朴な感性への信頼があるという.この論文の主張には,みずみずしい感性があるように思われる.(報告:Y.S.)

島野照・本田潤一論文「オキュパイ・ウォールストリートの実像」
昨年9月からの“Occupy Wall Street”(OWS)運動に実際に参加した筆者らによるルポルタージュである.ノーム・チョムスキーやナオミ・クラインらが支持するOWS運動は,特定のリーダーを作らず,個別要求の実現を運動のゴールにするのではなく,望む社会のミニチュア版を予示的に(pre-figuratively)つくるような構想からスタートした.「その発言いいね」という指をひらひらさせるハンドシグナル,年齢や職業,人種など多様な人々が対等に議論している光景などの報告がある.OWSの若者は,既存の労働組合や市民団体とも垣根を越えた連帯づくりに懸命で,本当の「99%」のたたかいを生み出そうと努力しているという.2008年の大統領選挙にオバマに託した期待が裏切られた彼らが選択したものが今回の「非暴力直接行動」であり,このような直接民主主義的な運動は今後も続くであろうと結論している.(報告:M.K.)

木原隆論文「2012年京都市長選挙とダンス規制反対運動」
2012年2月に行われた京都市長選において自民・公明・民主・みんな・社民党推薦の現職門川氏に対して,共産党推薦・新社会党支持で「京都市刷新の会」の中村氏が善戦した.無党派の中村氏への支持は5割台に達し,若年層からの支持も対立候補を上回った.その背景には,選挙戦と並行して高揚した「中村和男さんを市長にしよう!勝手連」の動き,それに合流した脱原発・反原発運動,「子ども・子育て新システム」反対運動,クラブユーザ・オーナーなどのダンス規制撤廃運動などがあったという.本論文では,広範な人々を引きよせ「下から」の連帯を作り出していった大衆運動(popular movement)としてダンス規制撤廃運動を詳しく報告しており,このような大衆運動が橋本的な権威主義的ポピュリズムに対抗していく道ではないかと問いかけている.残念であったのは,ダンス規制問題で風俗営業法のどの条項が問題であるのかという点での説明が論文になかったことである.(報告:Y.M.)

梶原渉論文「3.11以降の原水爆禁止運動ー新しい社会運動との関わりと今後の課題」
筆者は,原水爆禁止運動に携わる若手であり,最近の脱原発デモにも参加.既存の運動と新しい運動がどのような関係にあるかを論じている.3.11原発事故を受けて核問題への関心が高まり,核兵器廃絶の課題への関心を呼んでいる.若い担い手が平和行進の新たなスタイルを探究し,それが成功しつつあるという.新自由主義的な国際秩序を維持するため核兵器を中心とする軍事力が維持・強化されている中で,核兵器廃絶の運動は,反グローバリズム運動との合流・連携していく可能性が増している.そのような意味で,3.11以降,原水爆禁止運動が連帯すべき課題がかってなく広がり,果たすべき責任はかってなく高まっていると論究している.(報告:T.Y.)

牟田おりえ論文「Independent WHO主催ジュネーブ・フォーラムの報告」
WHOは,2年前に「放射線と健康」部門を廃止している.その背景には1959年に,WHOはIAEAの許可なく,原発事故で影響を受けた市民の救済や情報提供,研究を行えない協定をIAEAとの間に締結したことがあるという.このようなWHOをIAEAなどの原子力ロビーからの完全に独立させることを目的にした団体がIndependent WHOである.その団体が主催するフォーラムが2012年5月にジュネーブで開催された.その報告である.チェルノブイリ事故の被害の報告など注目すべき内容が多く報告されている.(報告:E.M.)

乾風ほか論文「煙樹ヶ浜松林の松枯れ実態調査」
本論文では,彼らの調査結果から,マツ枯れの原因はマツノザイセンチュウではないとしている.しかし,マツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウの共生を通してマツ枯れが起きることは確定された定説であり,そのことを否定するにはもっと科学的に検討するべきことがあると思われる.調査方法が十分であったのか,観測されているマツ枯れの本数の変動の原因は何であるのかなどについての検討が必要であろう.著者らは非専門家のようであるが,この分野の専門家にレビューしてもらった上で,掲載すべきであったのではないかと悔やまれる.(報告:Y.M.)
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